海軍士官学校
富永雄介。
海軍士官学校を今年卒業予定の17歳。
彼は祖父の代からの軍人一家の長男であった。
父は駆逐艦の艦長をしている。
幼少の頃からそんな父の背中を見て育った彼にとっては、士官学校への道は必然とも言える選択だった。
彼は桜坂を下りながら士官学校へと向かっていた。
今朝見かけた少女。
桜吹雪の中突然現れた少女。
制服からすると聖心女学館の生徒である事だけは分かった。
透き通るような白い肌、清楚な輝きを放つ瞳、
驚くぐらい綺麗な長い髪
力強く握り締めたら折れてしまいそうな細い身体
彼はそんな彼女に一目惚れに近い感覚を覚えていた。
「よう!どうした?難しい顔して(笑)何やら考え事か?」
江口正義
士官学校の同期である。
「別にたいした事じゃない。どっちにしろ、お前には関係無いことだ」
「つめてーなぁ、俺ら親友だろ」
そういいながら雄介の方に手を回す正義。
(別に親友なんて思った事ないんだがな…)
雄介は心の中で呟いた。
始業式当日、グランドに整列した彼等の前に、方面隊司令官が何やらつまらない話しを延々といている。
いつの時代も同じである。
グランドにいる人間の半数以上は司令官の話しなど聞いてはいない。
長い朝礼も終わり教室に戻る。
この日から各自選択授業が行われる事になっていた。
雄介と正義は共に海軍航空隊への配属を希望していた。
雄介の成績は学年トップ、正義は2位だった。
共に成績優秀な彼等は優先的に希望のカリキュラムへと進む事が出来た。
配属予定先も決まり、それぞれ荷物を持って決められた教室へと向かう。
「やったな♪これで互いに零戦乗りになれるな♪」
零式艦上戦闘機、通称ゼロ戦
飛行機乗りを目指していた彼等には憧れの乗り物だった。
「無事に卒業したらお国の為にも米軍機をガンガン落としてやる♪」
これから悲惨な訓練が待っているとも知らずハイテンションな正義。
雄介はどちらかと言うと物静かなタイプだった為、実はこの手の性格の人間は苦手であった。
所定の教室に着くと机の上に番号が書かれた紙があった。
配属指示書に書かれた番号を確認しながら所定の席に着く。
雄介は窓側の最後尾、窓からは満開の桜坂とその先に聖心女学館が見えていた。
(名前ぐらい聞けば良かったな)
雄介は心の中で呟いた。