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第六十話 黒い天界

「そんな……女神を首にされたら、私はどうなるのですか?!」


「世界と魂の管理ミス、ミスを隠すために行った複数の虚偽報告、あとは管理世界への過度の干渉ですから……まあ、全ての力を失い下界に追放当たりが妥当な処罰でしょうね」


 先輩女神マキナから、女神を首にされ今後の処遇を聞いたソロンは、絶望しきった顔になりつつも、すぐに神の威厳をかなぐり捨てて、泣きついた。


「ごめんなさいっ!! 心を入れ替えて、しっかり働きますから、どうかお慈悲を!!」


 土下座は当然として、大粒の涙を流して懸命に謝罪し何とか慈悲を賜ろうと惨めに足掻いていた。


 力を全て失い下界に追放処分なのだから、そりゃあ必死になるわな。


 まあ、散々、好き勝手やったのだから、いい気味だが。


 などと、心の中でザマァと思っていると、女神マキナは優しい声色で終わった顔をしていたソロンに語りかけてきた。


「千二百年でしたか? 確かに天使時代の貴方の上司であった酒の神バッカスは、天使泣かせと名高い神でしたが、高い離職率と引き換えに、常に最高の成績を叩き出した優秀な神でした。憎き堕天界の連中に内部情報を売り渡していたことが発覚するまでは次期最高神候補筆頭でしたのに……」


 見間違いかな。女神マキナは、一瞬だけ、鬼のような形相になるもすぐに元の穏やかな表情に戻った。


 それにしても、ソロンの奴、千二百年も社畜のようなことやっていたのか? 凄いな。


 あと、天界からブラック臭がするが、そこはスルーした。


 しかしながら、もし女神マキナの言葉が真実ならば、俺はソロンに少しだけ同情を覚えた。何せ、俺は、たかだか十年弱ほどで音を上げたのだから。


「バッカスが処罰された後、空席だった神の一席に同郷のよしみで、貴方を推薦したのは私です。本来であれば、最低でも二千年は天使として担当世界の神を支えなければならない規則を特例で捻じ曲げました。多くの同僚の天使たちが職を辞める中、あれほど過酷な労働を強いる神の下で働き抜いた貴方であれば、神の仕事を務めることができると判断したからです」


「マキナ先輩……」

  

「ですが、貴方には荷が重過ぎたようです。飛び級昇格などせず、規定通り、二千年間、天使として下働きの経験を積むべきでした。せめて、自分の仕事を補佐する天使を雇えばもう少し良い結果になったのですが……女神に昇格してすぐに、自分の犯したミスを隠すために、一度も天使を雇わず一人で仕事を抱え込んだのが、私と貴方の間違いの始まりでしたね」


 スピード出世のせいで周囲から疎まれるのが嫌だったのでしょうと女神マキナは付け加えて言っている。どうやら、失態を見せないという姿勢が、積み重なって、最悪の結果を招いたようだ。


 それにしても、ずっとソロンのことを見ていたのであれば、女神マキナも、それとなく教えてあげればよかったのに。


 そう心の中で呟くと「間違いを認めて自分の手で正さなければ一人前とは呼べない」とか女神マキナは言っている。


 正論だけど、聞きたくない言葉だ。スローライフ志望のこちらに飛び火して欲しくない。


 触らぬ神に何とやら、目の前で繰り広げられる神々の職務に首を突っ込むのは危険だと判断した俺は黙って結末を見届けることに決めた。


 しばらくの間、ソロンの失敗した原因について解説をした後、女神マキナはため息をつくも、真剣な眼差しでソロンに問い掛ける。


「どうですかソロン? これだけ言われてもまだ神をやりたいですか?」


 話を聞いていると、世界と魂を管理して、担当する世界の文明レベルを上げるという神の仕事を続けるメリットが、俺には分からない。


 凄い激務だし、失態を犯せばきつい処分もある。良いメリットが思い浮かべない。


 給料がいいのだろうか? でも天界に給料とかあるの?


「はい、やりたいです!! 私はスケールの大きな仕事がしたくて神の仕事を志望しましたので」


 ソロンは心の底からそれがやりたいですと言わんばかりの勢いで熱意を迸らせる。


 世界を管理して文明レベルを向上させる、確かにスケールの大きい仕事だ。


 仕事よりも休日が欲しいので、俺からすると絶対にやりたくない類の仕事だが、この手のことが好きな連中には、とてもやりがいの仕事なのだろう。


「そのために、天使時代も女神時代も、休まずに働き、全身全霊で仕事に取り組んできました。信じてください!」


「ええ、職務怠慢と見られる行動は確認されていないので、その言葉は信じます。昔も今もやる気はあるのでしょう。せめて文明レベルの向上という成果を出していれば、今回の失態程度であれば、上層部は問題にもしなかったでしょうけど。文明レベル2では厳しいですね」


 話を聞くに、どうやら天界は、きちんと成果を出していれば、他の事は見逃されるようだ。しかし、逆に言えば仕事のできない奴は……。


 天界から漂うブラック臭いがより濃くなったところで、やる気だけは感じられるソロンに根負けしたのか、女神マキナはある提案をしてきた。


「分かりました。では貴方にチャンスをあげます。特別再教育プログラムです」


「と、特別再教育プログラムですか?」


 特別再教育プログラムだと?!


 ソロンは目を輝かせているけど、俺には分かる。


 絶対に碌なものじゃないぞ。ヤバい臭いがプンプンするぞ。


 でもまあ、それを受けるのはソロンの奴だけかと思っていたら、女神マキナは何故か俺の方を向いてきた。


「確かAIごっこをでしたか? あれを百年、いや、八十年におまけしておきましょうか。もう一度、要塞の管理AIになって、彼、天田要さんの下で働き、彼が死ぬ間際に、貴方の働きぶりに満足していたら、貴方の処分を追放から天使への降格になるように取り計らってあげましょう」


 え? どちらにしろ女神首じゃん、と思ったが、女神マキナのその一言を聞き、ソロンは大粒の涙を溢す。


「ありがとうございます! ありがとうございます!! こんな私にもう一度チャンスをくださり、本当にありがとうございます」


「あの神バッカスの下で貴方以上に長く務めた天使は他にいませんからね。これが最後のチャンスですよ。いいですか。彼の下でしっかりと働き、初心を思い返すのです。私心を捨てて、上の命令に忠実に従い、天界に利益を出す。利益を出すには大変ですが、最低でも最初の二つができていれば、今の最高神様なら寛大な処分をしてくれるでしょう」


「はい、今度こそ、期待を裏切らないように精一杯頑張ります」


 これが最大の慈悲だと言わんばかりに満足した表情を見せる女神マキナ、そして、その有り難い慈悲を受け、もう一度頑張ろうと決意を固めるソロン。


 感動的な光景だが、彼女たちは、自分達がどういった環境で働いているのか考えもしていないようだ。


 どう見たって自らの意志で進んで社畜道を突き進んでいるようにしか俺には見えない。


 怖い、怖い、怖い!!


 ネットでも見るのもはばかるほど、洗脳教育は行き届いているのが伺える。


 俺なら、一日で辞めるわと叫びたいところだが、そんな悠長なことは言っていられない。


「では、天田要さん。ソロンちゃんにもう一度機会を与えるためにも、遠慮なくこき使ってあげてください」


「天田要様。これまでの御無礼、誠に申し訳ありませんでした。これからは、心を入れ替えて、貴方様に尽くしますので、どうかよろしくお願いします!! 貴方様の目指す理想のスローライフを必ずや実現して見せます!!」


 フレッシュさ溢れる良い笑顔だ。


 この金髪の女神様は、仮に俺が満足したとしても、ブラック企業で、下っ端の天使からやり直すのを理解しているのだろうか?


 俺だったら、神という社会的身分を失って、無力な存在になり果てたとしても下界で暮らすこと方を選ぶんだが、ソロンのやつ、ブラック企業からリストラを宣告されたが、下っ端からやり直すチャンスを貰い喜々として喜んでやがる。


 俺からすればブラック企業で働いている事自体が、ざまぁなのだが、本人達はそれを望んでいるため、複雑な心境を抱く他ない。


 理解不能である。


 いや、考えるのはもう止めよう。


 俺は人間。それもスローライフ志望のちっぽけな哀れな人間だ。対して相手は、働くことが生きがいの超常の力を宿す神様達だ。きっと、精神構造からして違うのだ。


 分かり合えないことが分かったなと実感した矢先、世界が暗転する。


 気が付くと、再び黄金のキューブの前にいた。


 どうやら、空中要塞ギャラルホルンに戻ってきたようだ。周囲を見渡していると、スピーカーから聞き慣れた声が聞こえてきた。


『天田様、至急、指令室に御越しください。いや、ゴーレムを迎えに行かせるので、その場でしばらくお待ち下さい』


 何ともまあ、腰の低い声だ。管理AIに復帰した元女神ソロンからは、完全に神の威厳が失われていた。


 上司から直々に、こき使ってもいいという部下を預かったのは、スローライフを求める上では、悪い話ではあるが、スローライフを目指す人間としては大変複雑な気分だった。






 ソロンの寄越したゴーレムの背中に乗り、一歩も歩くことなく指令室に戻った俺を待っていたのは、スクリーンに映る巨大な亀の形をした怪獣だった。


 いきなり訳が分からないものを見せられたが、山よりも巨大な亀が二足歩行でこの要塞に近づいているはすぐに理解できた。


「何これ?」


『魔王メルクリアが、奥義である魔王災臨を使って、数多の魔物と融合した姿です』


「魔物と合体してパワーアップしたってこと? もしかして火を吐いたり、回転しながら飛んだりしないようね」 


 現実なのだろうが、映画を見ている気分の方が強いため、冗談のつもりで、ついついそんな発言をしてしまったが、ソロンの方は今まで聞いたことのない耳触りのよい優しい声で肯定してきた。


「流石は天田様。この怪獣は口から熱線を吐き、時間経過と共に四足歩行から二足歩行へと身体の構造を変えました。今はまだですが、いずれ空を飛んでも不思議ではないでしょう」


 メルクリア、しばらく見ない間にお前の身に一体何が起きた?と少しだけ心配になったが、どう考えてもアレの目標が、この要塞である以上、何か対策をしなければならない。


「迎撃は?」


『色々試しましたが、ほとんど効果ありません。既に第三次防衛ラインは突破されて、残り距離150で、熱線の射程範囲内に入ります』


 ああ、今思い出したが、帝都の方にミサイルをバカスカ撃っていたのは、これを倒すためか。そして、あれだけ攻撃しても効果なしか。


『残すは、女神の鉄っ……ラグナロク砲だけです。計算ではラグナロク砲を直撃できれば撃破可能です』


 おお、ミサイルが役に立たないのはお約束だが、こういう時に役に立つのは大量破壊兵器だ。


 怪獣のいる付近に街や村は確認できないので、迷う事なくただちに発射するように命じた。


「すぐに撃て」


『はい、と言いたいのですが、チャージまで後六時間掛かります』


 使えねえ。


「ならば、時間を稼ぐしかないな。ミサイルでも足止め程度にはなるんだろう? 取りあえず、撃っておけ」


『ですが、ミサイル発射口のいくつかが破壊されまして』


「うん? まさか、本体から出た大量の分裂体の攻撃を受けているとか言わないだろうな?」


 もしや、フラグを立てしまったのではないかとちょっとだけ発言したことを後悔してしまったが、幸いなことに違った。手元のモニターに要塞の外周部の景色が映し出される。


 要塞の外壁の一部が吹き飛び、無数のゴーレムの残骸が確認できた。そんでもって、ゴーレム軍団を率いる銀髪の少女と雷を発する大鎌を振り回す黒髪の少女が激闘を繰り広げていた。


「………おい」


『ひぃ! あ、あれは私関係ないです!! 彼女たちが勝手に戦っているんです!!』


 ああ、そうだったと頭を抱えるも、このままあいつらをほっといて、被害を拡大されたら、本当にヤバい。


「すぐに止めさせろ」


『それ、私が言うんですか?』


「お前以外誰が言うんだ? スピーカーで停戦を呼びかけろ。ロカはともかくエシャルはお前の言葉を聞けば戦いを止めるだろう? そして同時に要塞を後退させろ。ともかく後ろに下がって距離を取れ」


 何故か分からないが要塞はこの空域で停止していた。この要塞は移動ができるので、さっさと逃げろと命令を下した。


『そうですけど』


 だが、どちらもすぐに済むはずなのに、どうも歯切れが悪い。「ヤバい、教会の件どうしよう」などという言葉が聞こえる。が、また勝手自爆したんだろうと無視して、別のモニターを見ているとあることに気が付いた。


「ん? あの小さな緑色の光は何だ?」


 そのモニターを見て、怪獣とは反対側の方向から、無数の小さな緑色の光が、この要塞に向かって近づいて来ているのが分かる。


「ええと、あれはですね」


 ソロンが正面の大型スクリーンを切り替える。すると二本足の亀怪獣に代わって、画面を覆い尽くすほどの無数の空鯨艦が映し出された。


「え、こんなに沢山、どこの艦だよ?!」


 どう軽く見積もっても、百隻は軽く超えていた。この局面になってまだこれほどの戦力が残っていることに心底驚く。


 すると、神として或いは要塞の管理AIとしてか、ともかく俺よりも多くの事を知っているソロンが、謎の大艦隊の正体を教えてくれた。


 いや、艦種を見て、薄々正体に気がついているけど。


『共和国を空爆していた帝国軍艦隊ですね』


「セントラル・イスラを空爆した連中か? てっきり、調子に乗っていた時のお前が全て撃沈したとばかり思っていたが」


『ええ、あの時、接敵した帝国軍の艦隊は全て沈めました。逃したのは、天田様を乗せた旗艦のみです』


「じゃあ、あれは? あの時の艦隊と同数以上に見えるのだが」


『はい、ええと、どこから説明しましょうか。あれは、まだギリギリ天界から情報を収集できていた時ですね。帝国軍は帝国の僻地で大艦隊を建造しました。その数は約三百隻にも上ります。そして、全艦隊で共和国の各都市を蹂躙したのですが、途中でその中の半数がセントラル・イスラへの攻撃に参加して、ご存知のように、最終的には全滅しました』


「ってことは、あれは、セントラル・イスラへの攻撃に参加しなかった残りの半数か?」


「はい。それと推測ですが、彼らの目的は艦隊に魔力を供給するために必要なジオ・エクセ二ウムを奪取しに来たと思われます。このままでは、数日で魔力が尽きるでしょうから」


「目的云々はどうでもいい。それよりも、帝国軍は指揮系統が完全に崩壊しているのではなったのか?」


 と言い掛けて、画面に映る光景を観察して、帝国の指揮系統が復活した理由が判明して舌打ちをした。


「ちっ、やっぱり捕らえることはできなかったか」


 画面中央に他の艦よりも一際大きな一隻の空鯨艦がいる。二番艦とかでないのなら、何度も目撃した帝国艦隊総旗艦を務める超弩級艦だろう。


 あの艦は、乗員を拘束して艦ごと統合軍の管理下に入ったはずだが、世界最強のクラスの戦闘力を持つ、皇帝カリンと賢者ネオを、拘束し続けるのは彼らでは力不足だったようだ。


「前方に大怪獣、後方に大艦隊か……」


 何とか要塞を取り戻したのは良いが、状況は劣勢だ。


 要塞内では二人の少女達が要塞の各所を壊しながらドンパチやって、前方からは怪獣へと姿を変えた魔王が進撃し、後方からは、皇帝率いる大艦隊が接近しつつある。




 もうヤダ。静かに暮らしたい。



 心の底から泣きそうになる。


 どいつもこいつも穏やかに暮らしたい俺の邪魔しかしない。


 でも、だからこそ、この危機的状況を打開するために、一切の躊躇を捨てて、社畜志望のソロンを死ぬほどこき使ってやろうと決心するのであった。






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[良い点] 天界ヤヴァイ。 きっとドーム球場か何かを借り切って行われる大集会で成績上位天使が表彰されてるに違いない(確信)。
[良い点] これが社畜洗脳完了された者の姿であると 社畜的意味で感覚ヤベェ連中だと気付いたアマダ 特別再教育プログラムだと?! 絶対に碌なものじゃないぞ。 ↑ このツッコミ笑う 色々思い出して恐怖す…
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