第六話 鉄を求めて
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異世界に来て一週間が経過した。
どんな一週間だった?と聞かれたら、とても刺激のある一週間だったと答える。
なにせ、昼は防衛陣地の改良しながら素材集め、夜はゴブリン達との戦闘だ。昼も夜も、本当に忙しい日々であった。
ぶっちゃけ、日本で社畜をやっていた時よりも、忙しい毎日を送っている気がするが、自分のペースで、誰かに気をつかわずに、自分のためだけに行動してるせいか、ストレスは感じない。
でも、日が経つにつれて、今のままでは、ダメだと自覚しつつあった。
だから名残惜しくはあるが、俺はある一大決心をする。
「この場所は放棄する!!」
さらば、我が故郷。この場所が、この世界に来て俺が最初に生活した地だということは忘れない。
こうして俺は、可能な限りの素材をアイテムボックスに仕舞い、この世界に来てからずっとお世話になっていた拠点に別れを告げて旅立った。
この地を捨てる決心をした理由は、今のままでは、どう考えてもゴブリンの攻撃を防ぐことはできないと判断したからだ。
というのも、ここ毎日、試行錯誤を繰り返し防衛陣地を改良していたのだが、全くと言っていいほど、成果が出なかった。
空堀を作っても、ゴブリンを倒したわけではないので、堀の中にゴブリンが溢れかえり、奴らは仲間を足場に代わりにして堀を越えてくる。
また、バリケード以外にも、木材で高い壁を築いてみたが、同じように大量のゴブリン達が密集し、同族を階段のように使い乗り越えてくるため、これも突破された。
結局のところ、今作れるものでは、侵攻を遅らせる程度の障害を作るのが関の山で、本気で侵入を防ぐのであれば、ゴブリンをただ防ぐのではなく、ゴブリンの出現スピードに匹敵する速さで駆除する必要がある。
幸いにもゴブリンは弱いので、俺自身が戦えば余裕で対処できるのだが、それだと一晩中、起きて戦う必要があり、夜に寝ることができなくなる。
それに、今までの拠点で、一、二時間以内に往復できる距離内の探索は粗方終わっていると判断していた。
水、枝、木、木の実、キノコ、石、蔦、花、草、土。それとゴブリンの死体からとれる物。
あの地を拠点にして、それなりの量を回収できる資源はこんなところだろう。
生活する分には何とかなるが、ゴブリンの夜襲を防ぎ、安定した食料確保のために農業を行うならば、現段階で回収できる素材と、解放されているレシピだけでは、全くもって不十分だ。
以上のことから、俺は作成できるアイテムや防衛設備の種類を増やすために、今の拠点を捨てて、新たな素材を探す旅に出たのである。
さて、一見すると行く当てもなく、ただひたすらに森の中を彷徨っているように見えるだろうが、実は違う。前の拠点で探索をしていた時に、次の活動場所の候補をすでに見つけているのだ。
距離が結構あり、往復するだけで一日が終わりそうだったため、一度も赴いていなかったその場所が、次の拠点になる場所だ。
太陽が頂点にあるくらいから歩き出し、暗い森の中を歩き、川を越えて、日が沈む直前に、その場所に辿りついた。
「ほ~う、近くで見ると大きいな」
見慣れた木々ではなく、俺の前にあるのは、標高数百メートルくらいの急な斜面の山だった。上空から見れば、森という海の中に浮かぶ孤島に見えるだろう。
ともかく目立つのだ。これは絶対何かあるに違いない。俺の直観がそう叫んでいる。
一刻も早く探索したいところだが、じきに夜になる。
逸る気持ちを抑えて、周辺に転がっているコケまみれの岩に腰かけ夕食のゴブリン肉を食べてから、いつものようにゴブリンとの夜間戦闘に臨んだ。
翌朝。
日が昇り、ゴブリン達の姿が消えたの確認した俺は、早く探索したという強い気持ちがあったせいか、眠気を吹き飛ばして、山とその周囲の探索を開始する。
まずは、山を一周してみた。どんな発見があるのだろうかとワクワクしながら、探検していたのだが、残念ながら、目で見る限り、特にこれといって物珍しいものはなかった。
新しい素材もそこら中にある岩を収納して得られた岩石くらいで、またどうやら岩石は、大きい石という扱いなのか新たなレシピは解放されなかった。
おいおい、こんなに楽しみにしていたのに、それはないぞ。
予想に反して思ったよりも成果がでなかったせいか、かなり気持ちが落ち込んできたが、それでも最後まであきらめずに足は動かす。
そして、山の一周を歩くのも、もうすぐ終わりだなと、半ば諦めかけていたその時、ついにそれを発見した。
「お! あれはもしや」
それは、切り立った断崖にぽっかり空いた横穴で、外から見ると、田舎で見かける一両しか車が通れないような古いトンネルみたいな感じだった。
流石にトンネルのように半円状でも綺麗に舗装はされていないが、ボコボコの地面や壁面を削れば、居住区として使える気がする。
これはいいものを発見したなと、俺は、少しだけ周囲を警戒しながら勇み足で洞窟内に足を踏み入れてみた。
入口から数十メートルは、外からの光が入ってくるので、灯りは必要ないが、それ以上先は暗闇が広がっていた。月や星明かりがある夜とは違い、全く光がないため一寸先は闇、こうなると火がないのが本当に痛い。
暗闇の中、手探りでの探検は落石や転倒の怖れがあり大変危険であること、そして何より、貴重な鉱石のすぐ傍を歩いていても、気付かずに素通りしてしまう可能性があったため、かなり奥行きがありそうな感じではあるが、これ以上進むのは諦めざるを得なかった。
「ちくしょう。でも折角ここまで来たのだから、何かないか」
未練がましく、何かないかとキョロキョロと目を動かしていると、あることを閃いた。
「あ、そうだ。何も落ちているものを回収ではなく、この壁面にあるのを採掘すればいいじゃん」
出入口付近とはいえ、ここは洞窟内、壁中が何かしらの鉱物なのは間違いなく、石と岩以外の鉱物資源を回収できれば、新たなレシピが解放される可能性は高い。
欲をいえば鉄が欲しい。なので、善は急げと早速試してみることにした。
まずダメ元だったが、壁に向かって収納と叫んでみたが予想通り失敗した。やはり、土の時と同じで、ある程度の大きさになるまで砕く必要があるようだ。
『棒と石を使用して、石のツルハシ×1を作成します』
そこで、今日まで出番のなかったピッケルの出番だ。
俺は木こりから炭坑夫に転職だなと思いながら、ピッケルを握りしめて、洞窟内の壁を叩くのであった。