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第五十六話 魔王災臨



 北西の空から魔王すら滅ぼせる膨大な魔力の塊が帝都に向かって飛んで来ていることに、最初に気が付いたのは、三体合体を果たし、完全な状態で待機していた魔物ケルベロスだった。


 本来の三つ首の姿となったこの状態のケルベロスは、単純な戦闘力はもとより魔力探知能力も、使徒を遥かに超えるほど高まっている。


 そう世界最強の生物と呼んでも過言ではない。


 故に、ケルベロスは誰よりも早く脅威が迫っていることを知ることができた。


 方角から考えると女神が乗っていると思われるあの空飛ぶ要塞の仕業だろう。イスラの森を焼き尽くしたあの謎の大破壊兵器を使用したに違いない。


 メルクリアはあの兵器の射程は短いから、すぐに対策を講じる必要はないと言っており、ケルベロス自身も帝都が射程圏内に入るまで、まだ一日、二日、かかると予想して今は捨て置いていたが、それは大きな誤りだった。


「まさか、この距離でも撃てるのか」


 要塞の正確な現在位置は分からないが、ケルベロスは帝国領内に入った辺りの位置にいると予想していたが、まさか、それほど離れた距離から発射できるなど完全に想定外だった。


「どうする。この様子だと、あと数分で帝都に着弾する。そうなれば、帝都も連合軍も魔王軍も、そして何よりメルクリアですら、一瞬であの世行きだぞ」


 このままでは全滅だ。


 かと言っても、既に兵器は放たれてしまっている。もう誰にもどうすることもできないだろう。


 自分を除けば。


 ケルベロスには、己の命を賭せば、現在こちらに向かっている敵の攻撃を防げるという自信があったが、流石に自分の命が対価であるため、すぐには決心ができなかった。


 そんな矢先、ふと、ケルベロスの脳内に一人の少女の顔が浮ぶ。


 遥か昔に、自分を生み出したその時代の魔王だ。今となっては名前も思い出せないほど長い時が過ぎたが、彼女の最後の言葉だけは今でも覚えている。


『私にはできなかったけど、いつか勇者とあの女神を倒して……』


 当時の勇者に敗れ、都で晒し首にされた自分の創造主の願いを叶えるために、その後、ケルベロスは、多くの魔王に仕え、今に至る。


「私には、彼女の願いが成就する瞬間を見届ける義務がある。こんなところで死ぬわけにはいかない」


 王は一人ではない。


 また次の魔王が現れるのを待つべきだとケルベロスの理性が告げる。


 だが、それでも、この選択が悲願が成就するかの分岐点だと本能が叫んだ。


 気が付けば、ケルベロスは走り出していた。

 

 ケルベロスは覚悟を決めた。


「女神の最後をこの眼で見届けることができなかったのは残念ではあるが、初めて勇者を倒したメルクリアならば、亡き創造主の願いを叶えてくれることだろう」


 今のメルクリアは、長年の夢であった帝国打倒を目の前にし、少々視野が狭まっているが、これで己の真の敵が誰であるか気が付くはずだ。


 果てしない時間を女神の打倒に費やしてきた。勿論、未練はあるがケルベロスは、今の魔王に全てを託すことにした。


 ケルベロスは、最後にテレパシーでメルクリアに別れを告げると、大地を力強く蹴り、流れ星のように帝都に接近している青い光の中に飛び込んだ。






 一色触発のまま、天幕の中で睨み合いを続ける魔王と近衛騎士達。


 そんな時、突如、メルクリアの頭の中に、テレパシーで届けられたケルベロスの声が響く。


『メルクリア!!』


『後にしろ。こっちは今、手が離せない』


 何やら、珍しくケルベロスも焦りを感じているようだが、眼前に臨戦態勢の近衛騎士団がいるため、素気無く後にしろと返事を返すメルクリア。


 だが、そんな事お構いなしに、ケルベロスは、言葉を続けた。


『後は任せる』


「ん? おい、どういうことだ!!」


 盟友から、突然、別れの言葉のようなものを告げられ、流石の魔王も困惑するが、目の前の敵に隙を見せるわけにも行かないため、その場から動くことはできなかった。


 が、その次の瞬間、突然、天幕は吹き飛び、彼らは眩い光に包まれた。





 結果的にケルベロスの行動は、帝都と包囲する連合軍と魔王軍を救った。


 だが、流石のケルベロスも女神の鉄槌の全てを相殺することはできず、一部が拡散し帝都周辺に降り注いだ。


 遠くから目撃している者がいれば無数の流れ星が降り注ぐ幻想的な光景に思えたかもしれない。しかし、落下付近にいた者達にとっては、災厄以外の何物でもなかった。






「うう。一体何が……」


 瞼を開き、レヴァンの目に飛び込んできたのは、阿鼻叫喚、まさに地獄のような景色だった。


「誰か、助けてくれ!」


「俺の足が、足が!!」


「いやああああああああ!!!」


 帝都への最終攻撃のために準備中のはずだった連合軍陣地は、まるで空爆でも受けたかのような壊滅的状況に陥っていた。


 拡散し降り注いだ魔力の塊は、空鯨艦に搭載されている爆弾以上の破壊をもたらした。


 直撃を受けたところにはクレーターだけが残り、直撃を避けられても、衝突の余波による爆風を浴び、人は勿論、柵や天幕も吹き飛んでいた。


 遠くに目をやると、帝都の眼前に布陣している連合軍地上部隊も陣形が乱れており、空を見上げると、何隻も空鯨艦が炎や煙を出しながら墜落していた。


 そして、被害は連合軍だけに留まらず帝国側にも広がっていたようで、帝都のあちこちから無数の煙が立ち昇る様と、堅牢だったはずの城壁のいくつかが崩壊しているのが確認できた。



 この惨状を呆然と眺めていたレヴァンは、兵士達の呻き声を聞きながら、記憶を振り返る。


 記憶は曖昧だが、魔王と対峙中に、突然、膨大な魔力を感じたと思ったら、すぐに天幕ごと身体が吹き飛んだことまでは辛うじて覚えている。


 一体、この地に何があったかは今の段階では正確なことまでは分からない。


 しかし、これだけは分かる。


 これはもう双方共に、戦争どころではない。




「レヴァン様!!」


 指揮官として連合軍に参加していた顔見知りのユグド王国の貴族が近づいて来るのを見て、レヴァンは普段の冷静さを失いつつも、何があったのかを問う。


「ホース子爵殿。一体何があった?!」


「分かりません。隕石でも振ってきたでしょうか? 気が付いたら、この惨状です。は!! もしや帝国の秘密兵器では?」


「それはない。帝都の方も被害甚大だ。それよりも連合軍の状況を知りたい。司令部が置かれていた本陣天幕に案内してくれ」


 レヴァンの要請に対し、ホース子爵は残念そうに首を横に振って、陣内にいくつか視認できるクレーターの一つを指差した。


「ご覧の通り、連合軍の参謀達と共に、本陣も吹き飛びました。生き残った指揮官達も、誰に指示を仰げばいいのか分からず、指揮系統は完全に崩壊しております」


「糞!!」


 レヴァンは小さく舌打ちをする。


 そうこうしていると、今度は、レヴァン達のいる場所に、部下である近衛騎士達がやって来た。


「お前達、無事だったか」


「ええ、この魔法鎧を着ていたおかげで、何とか命を拾いました。怪我人はいるものの、この地にいる近衛騎士団員は、全員無事です」


「そうか、それは良かった」


 同僚の生存が確認でき、ほっと一安心したレヴァンだったが、この場に、いつも自分を支えてくれる副騎士団長の姿がないことに疑問を呈した。


「フェルナンドはどうした?」


「副団長なら、あそこに」


 近衛騎士の指差す方に目を向けると、巨大なクレーターの前に佇む一人の老騎士の後ろ姿があった。


「あんなところで何をやっているんだ?」


 自分の元に来ないフェルナンドの行動に疑問を抱いていると、恐る恐る、部下の近衛騎士があることを告げてきた。


「地形も変わってしまったので、分からないかもしれませんが、副団長の前にあるあのクレーターがあった場所には、ガリウス陛下がおられた天幕がありました」


「なんだと!!」


 王族専用の天幕にメルクリアを誘き出し、その正体を暴いている間、本来の主であるユグド国王ガリウスには、他の天幕で待機してもらっていたことを思い出したレヴァンは、全身から力が抜け落ちたかもように、その場に崩れた。


「「団長!」」


「心配するな」


 ユグド王国は、一か月も掛からずに、また王を失ってしまった。


 王を守るはずの近衛騎士達にとっては、忸怩たる思いで一杯であるが、レヴァンは嘆くことよりも先に突然の事態のせいで、今まで忘れてしまっていたことを思い出した。


「そう言えば、メルクリアはどうした?!」


 遂に正体を暴いた今代の魔王ユーリ・メルクリア。


 地獄のようなこの状況下でも、相手は不死の魔王なので、死ぬはずがない。


 メルクリアの行方を問われると別の騎士が声を上げる。


「我々がいた天幕が吹き飛ばされ、皆と合流する前の事ですが、私は彼が一人で、馬に乗ってこの陣地から離れるところを目撃しました」


「?! それで、奴はどこへ行った?」


 近衛騎士が指し示す方に目をやると、そこは帝都西側に展開している魔王軍だった。


「くそ、逃がしたか!」


 地面に拳を叩きつけて、己の失態を悔いるレヴァン。


 そんな彼に少し申し訳ない気持ちを抱きつつ、ユグド王国の貴族の中でも軍略に明るいホース子爵は、ある進言をする。


「レヴァン殿。こうなっては仕方がない。帝国軍と魔王軍が態勢を立て直す前に、この地から全軍退却すべきだ」


 連合軍の本陣壊滅に加え、連合軍を構成する統合軍側のトップであるメルクリアは逃亡し、王国側のトップである国王ガリウスも死亡した今、王国軍の副司令官であるレヴァンが、連合軍の最高指揮官だ。


 レヴァンとしては、軍の方は、他の者に任せて、自分は近衛騎団を率いて魔王を追いたいところだが、それが許される立場ではなくなってしまったのは理解できた。


「分かった。これより連合軍はこの地から撤退する。だが、そのためにも、各部隊の指揮官と一度話し合う必要がある。悪いが、皆、可能な限り、無事な指揮官を集めてきてくれ」


「「了解」」


 レヴァンの指揮に従い、次々と行動を開始する近衛騎士団員達。その様子を眺めていると、突然、大きな地響きが帝都全域に鳴り響く。


「次から次へと、今度は何だ?!」


 想定外だらけの現状に不満を抱いていたレヴァンだが、音の正体を知り、絶句した。


「おい、嘘だろ……」





 女神の鉄槌の余波が連合軍本陣を襲った後、誰よりも早く、状況を把握したメルクリアは、近くにいた馬の背に跨り、連合軍の本陣から一人逃げ出した。


 自分の正体が魔王だと露見した今、敵地に留まる理由がなくなったこともそうだが、それ以上に彼は魔王の使命を思い出し、それを成し遂げるために行動していた。


 魔王の使命、それ即ち、歴代魔王の誰もが成しえなかった女神の打倒だ。


「すまない、ケルベロス。……私は念願だった帝国の滅亡に目が眩み、大切なことを忘れていたが、君が己の命を捨ててまでくれたチャンスを無駄にはしない」


 メルクリアは、ケルベロスの命を賭した行動で、貴重な情報と女神打倒という己の使命を思い出すことができたばかりか、自分の命まで救ってもらった。


「女神が乗り込んでいるあの要塞を甘く見ていた。確かにあの距離でも攻撃が可能だったのは予想外だったが、あの要塞がユグド王国に出現した時点で、帝国なんぞ放り投げて、連合軍の全戦力を要塞に向けていれば、こんなことにならなかったかもしれない」


 魔王の力に目覚めてから今日まで自分を支えてくれた友の死を嘆き悲しみたいところではあるが、メルクリアは、感情に浸り、友の犠牲を無駄にするつもりなど毛頭なかった。


 馬に鞭を打ち、帝都西側に構える魔王軍本隊へと向かう。



 これもケルベロスのおかげなのだろうか。


 女神の鉄槌は、帝都周辺に甚大な被害をもたらしたが、魔王軍の被害は、連合軍や帝国側と比べると極めて軽微だった。


「ありがとう。友よ」


 魔王軍本隊がいる帝都西側に到着したメルクリアは、心の中で亡き友に謝罪と礼をすると、この場にいるであろうナハトを始めとするカリオスのメンバーに顔を合わせることなく。


 強い覚悟を瞳に宿らせながら、一言、呟いた。



「魔王災臨」




 


 空中要塞ギャラルホルン。


 超遠視カメラで、ラグナロク砲改め女神の鉄槌が放った青い光弾を見物していたエシャルとソロン。


 もう砲身から放たれてしまった以上、目標である帝都の消滅は避けられないとエシャルはこれで後戻りできないと覚悟し、ソロンはようやく魔王がこれで滅びると胸を躍らせていた。



 しかし。



『え?!』


「え?」


 二人が驚くのも無理はない。全てを破壊するはずの青き光は、帝都の目前で何かと衝突し、眩い光を撒き散らした。


「ソロン様、これは一体?!」


『うるさい! 今、調べるから黙っていなさい』


 ソロンは、超遠視カメラを最大まで拡大し、青い光弾を防いでいる者の正体を見破った。


『こいつは!!』


 何と、三つの首を持つ一頭の大きな犬が、正面から女神の鉄槌の一撃を身体を張って食い止めていた。


 驚愕すべき出来事だが、ソロンには、この犬の正体に心当たりがあった。


『長年、散々魔王とつるんで、私の邪魔してきたあの糞犬か!!』


 ソロンですらほとんど覚えていない昔から、歴代の魔王の右腕として活躍してきた改造魔物ケルベロス。


 魔王が勇者に殺されても、生き延び、何度も何度も次の魔王に仕えてきた奴だ。


 この魔物の目的は、勇者と女神である自分の打倒だとソロンは考えていたが、勇者はまだしも天界に本体がある女神を倒すなど絶対に不可能である。


 向こうがそれを知っているのかは知らないが、叶わぬ願いのために、創造主を失っても尚、みっともなく足掻くケルベロスをこれまで完全に見下し放置していたが、今日ばかりは堪忍袋の緒が切れた。


『うっとおしい。アンタの主はとっくの昔に死んだのよ。現実を受け入れてさっさと死ね』


 その言葉の通りに、女神の鉄槌の光を浴びて三つ首の犬の身体が崩れ落ちていく。


 スクリーンに映る光景を、静かに見守っていたエシャルには、ケルベロスが最後に笑ったようにように見えたが、ソロンの方はというと、気分良く高笑いを上げていた。


『ふふふ。何をカッコつけちゃって、結局、守れていないじゃない』


 ケルベロスの命を賭した献身も空しく、受け止めきれなかった女神の鉄槌の一部が分散し、帝都一帯に降り注ぎ、ありとあらゆる陣営に壊滅的な被害をもたらした。


『ハッハハハ!! まあ、あの糞犬が壁になっていなければ、帝都周辺は根こそぎ吹き飛んでいたわ。だから、たかが、魔物の分際で女神の鉄槌を食い止めたことは褒めてあげるわ。でもね』


 ソロンはケルベロスの行動を嘲笑うかのように、事実を告げた。


『女神の鉄槌は、半日もあれば、次が撃てるの。ふふ、あなたの頑張りは無駄だったのよ』


 最強の破壊兵器である女神の鉄槌を曲がりなりにも防いだのは評価に値する。何百年以上、生き続けて膨大な魔力を貯めこんでいたからできた偉業だと褒めた称えよう。


 で、それで?


 要塞自体には一切ダメージはないし、半日ほどかかるが、ジオ・エクセ二ウム鉱石から魔力を供給中すれば、二発目が撃てる。


『無駄、無駄、無駄!! 全部無駄なのよ!』


 ケルベロスの犠牲により、魔王の命運が半日延びたが、ソロンの計算が狂ったのはそこだけだ。



 だが、その半日、或いは、あの場で魔王メルクリアを仕留めきれなかったことが、自分の最大の失敗だったと、ソロンが後悔するのは、それからすぐ後のことだった。




 最初に異変に気が付いたのは、魔王メルクリアの行方を探そうと、連合軍の陣地に超遠視カメラを向けていたソロンだ。


『なにこれ?』


 突如、帝都西側に、この要塞に使用されているオリハルコン十数個分という、とてつもなく膨大な魔力反応を感知し、正体を確かめるべく、慌てた様子で、帝都西側に超遠視カメラを向けると、そこには山と見間違えるほど巨大な生物がいた。


「何ですか? この化け物は……」


 その生物の姿を一言でいうならば、四本足で地を這う巨大な亀といったところか。


 ただし、その大きさはとてつもなく巨大で、背中の甲羅は元より、それ以外の部分も強固な鱗に覆われ、ぱっと見ただけで、とても硬そうに見えた。


 ここでスクリーンを見て、あることに気が付いたエシャルが声を上げた。


「確かこの辺りには魔王軍がいたはずです。どこに行ったのでしょうか?」


 その質問にソロンはすぐに返事を返さなかった。


 彼女は、この巨大な怪物の正体と、ここにいたはずの魔王軍の行方に見当がついていたが、信じられない気持ちで一杯だった。


 やがて、押し殺した声で、ようやく言葉を紡いだ。


『……魔王災臨よ』


「魔王災臨?! あれが、噂に聞く魔王の切り札。魔王災臨なのですか?!」


 驚きのあまり、思わず声を荒げるエシャル。ソロンは、エシャルがそのような感想を抱くのも仕方がないと思いつつ、魔王の切り札である魔王災臨とはどのようなものか記憶を掘り返す。



 魔王災臨。


 簡単に説明すれば、魔王が配下の魔物と合体して、パワーアップする奥の手だ。


 歴代の魔王達も勇者パーティとの対決の際には必ずこの力を使い、魔物と合体し自らの姿を怪物に変えて、勇者との決戦に臨んだ。


 そしてメルクリアもまた、今代の勇者を始末した際、三頭合体して完全体となったケルベロスと合体して、成長する前の勇者を倒していた。


 しかし、合体した魔物の力を取り込める上、解除も魔王の意思できるが、この力には一つだけ欠点が存在する。


 それは魔王の力量に比例して、一度に合体できる魔物の数と質が変わるということだ。



『信じられないけど、今代の魔王ユーリ・メルクリアは、あの場にいた十万体の魔物全てと合体したみたいね』


「じゅ、十万体全部とですか?」


『ええ、しかも、あの中にいたのは、ゴブリンやオークのような雑魚だけじゃないわ。オーガやサイクロプスのような上位種も多数含まれる。私の知る限り、歴代の魔王の中で最も多く合体できた魔物の数は約千体。それも低レベルのゴブリンやらコボルトが主体だったけど、それでもその時の魔王の強さは歴代魔王達の中でも五指に入る強さだったわ』


 ソロン曰く、千体の雑魚魔物と合体した古の魔王ですら、歴代魔王の中では上位の強さだったらしい。


 ということは、スクリーンに映るあの途方もない大きさの怪物は一体どれほど強いのか?


 エシャルには皆目検討もつかないので、黙ってスクリーンを眺めていると、突然、指令室内に警報音が鳴り響く。


『嘘! うそ!! ウソ!! ウソよ!!  何よ、この魔力!!! ジオ・エクセ二ウム鉱石にも匹敵するじゃない。ありえない……でも、十万体分の魔物の魔力を制御できるとしたら……』


 ソロンの言葉が言い終わるよりも先に、丸みを帯びた可愛らしい巨大亀の口が開き、次の瞬間、真っ赤な熱線が要塞のある北西方向に向けて発射された。


 熱線は、真下にある森を焼き、川の水を干上がらせ、山すら貫通して突き進んだが、残念ながら、途中までしか届かなかった。


 だが、すぐさま、熱線の威力を計算したソロンは、心の底から震え上がった。


『まずいわ。あれが、直撃したら、この空中要塞ギャラルホルンといえど、ただでは済まない……』



 それが女神が初めて、この世界にいる存在から感じた恐怖だった。





 

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