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第四十ハ話 要塞VS艦隊

 イスラ同盟国の首都に着くまで数日掛かるとのことなので、それまで俺は要塞の内部を実際にこの目で見て回ることにした。


 三人娘達も、それぞれ自分の興味のある所を重点的に見て回っている。


 魔法大好きなエシャルは、生産エリアや機関エリアに入り浸り、ロカは、実戦データを取りたいというシビラの要望に応えるためにゴーレムとの模擬戦に付き合い、アリシアは果樹園に興味津々のご様子だ。


 あの三人すっかり順応したな。とやや呆れるも、平和な日々が過ぎていく。


 そして数日後。シビラに呼び出された俺はスクリーンに映った光景を見て驚愕した。


「こ、これは一体?」


『遠視カメラを最大までズームしました。まだ肉眼では確認できないと思いますが、現在、イスラ同盟国の首都は空爆を受けています』


 画面には、真っ赤に燃える都市とその上空に漂う無数の艦船が映し出されている。


「あれほどの数の空鯨艦、一体どこのどいつが建造した?」


 下手したら、二百隻はいるかもしれない。


 あの数の空爆艦は、統合軍ですら用意できていないし、自国の首都を焼くような愚かな行為は絶対にしないはず。


 敵の正体は何だという疑問がよぎるも、統合軍勢力以外に空鯨艦を運用している国は、一つしかないので答えはすぐに判明した。


 その予想を裏付けるように、大艦隊の中に一度だけ目撃した超弩級艦を発見してしまった。


「帝国め……」


 連中、超弩級艦を建造していただけでなく、通常サイズの艦も大量に建造してやがった。


 帝国の国力にはビックリだが、この場では、恐れよりも怒りが勝った。


「ぶっ潰してやる!!」


 近くの机に拳を叩きつけると、俺はすぐにシビラに確認を取った。


「シビラ! 今すぐに攻撃は可能か?」


『現在、使用できる兵器は、ゴーレムを除けば最初から外壁に設置されている防衛用の雷弓インドラのみですが、まだ艦隊とは距離がございます。インドラの有効射程範囲内に入るまでお待ちください。それとも、今から戦力増強を行いますか?』


 あなたが制限を掛けなければ、もっと色々な物を用意できたのにと恨み節のように聞こえる。


 あの時の判断は間違いだったと思いたくはないが、今となっては少し後悔している。


「ちなみに、今から戦力増強を図ったとして、どれだけ早く攻撃が可能になる?」


『艦隊が今の場所から動かないと仮定して、こちらのインドラの有効射程内に到達するのは、凡そ一時間後になります。ですが全ての制限を取り払い、生産エリアをフル稼働する許可を頂けるのでしたら、二十分以内に攻撃が可能です』


 二十分か……。


 驚くほど早く攻撃できるな。それに、あの数の敵艦隊を殲滅するのであれば、ゴーレムとインドラだけでは少々心許ない。


「分かった。許可する」


『了解です、マスター』







 前にも言ったが俺の仕事は、管理AIシビラに命令するだけで、命令さえすれば後は暇である。他にできる事と言えば、指令室のスクリーンから要塞内の様子を眺めるだけだ。


 生産エリアが全力稼働し、よく分からない兵器らしきものが次々に出来上がる。その後、完成した物は、ここ数日で大量生産したゴーレム達が何処かに持っていく。


 意外にも、見ているだけでも面白い光景だった。


 そんな感想を抱いていると、何やら慌てた様子で、三人娘たちが指令室に飛び込んできた。


「ちょっと、どういうこと?」


「天田様、どんどんやって来るゴーレム達に生産エリアを追い出されてしまったのですが」


「ゴーレムさん達に、採取した果物を運んで欲しいので、シビラさんに戻ってくるように言ってください」


 事情を知らないとはいえ、能天気にクレームを入れてきた三人娘達に現状を伝えるようにシビラに命じた。


「そんな……」


「お父様、無事なのでしょうか?」


 首都が攻撃を受けていると聞き、王国出身のアリシアはともかく、ロカとエシャルは、酷く動揺してしまった。


 家族の身を案じている二人を「あの二人がそんなに簡単にやられるか」と宥める。しばらくして、二人が落ち着きを取り戻した頃、待ちに待った言葉がシビラから告げられる。


『攻撃準備が整いました』


 窓のない指令室からでは分からないが、どうやら肉眼で艦隊を視認できる位置まで近づいていたらしい。それでも、思いっ切りインドラの射程範囲外ではあるが。


「どうやって攻撃するのですか?」


 俺は既に説明を聞いていたが、彼女達はまだ聞いていない。エシャルの問いに答えるために、シビラはスクリーンの映像を交えて説明する。


 スクリーンには要塞の外壁にいくつか設けられた迎撃区画で、複数のゴーレム達が作業している様子が映し出されていた。中でも一番目立つのは、十体ものゴーレムが担いで運んでいた細長い物体だった。


 一見すると、インドラで撃ち出す大型の矢に見えるが、尾翼のようなものがついているし、何よりサイズも大きい。


『魔弾テンペスト。ミサイルと言えばマスターには伝わるでしょうが、あなた達は実際に使うところをみないと分からないでしょう』


 シビラの言うように、まだこの世界にミサイルはないので、三人娘は首を曲げていた。


「まあ、一発撃ってみれば分かるよ。シビラやってくれ」


『その前に、目標はどこに設定しますか? 彼女達が来る前にお伝えしましたが、敵の旗艦と思われる巨大艦を狙うのは賛成できません』


 シビラ曰く、ジオ・エクセ二ウム鉱石は、王国で一度見かけた一際デカいあの巨大旗艦にあるようだ。


 あの黒ロリ皇帝や賢者も乗っていると思われるので、まとめてさっさと吹き飛ばしたいが、着弾時もしくは墜落時の衝撃で、ジオ・エクセ二ウム鉱石が損傷して本来の機能が損なわれる恐れがあるため、折角作ったミサイルで撃ち落とすのは反対していた。


「なら、近くの艦を撃ち落として宣戦布告としよう」


『それならば、問題ありません。では発射します』


 画面が切り替わる。要塞から放たれたミサイルは、尻から火を吐いて、帝国艦隊を目指して一直線に進んでいき見事命中した。


 バリスタである雷弓インドラと違って、魔弾テンペストには爆薬が積まれている。標準サイズの空鯨艦なら一発で撃沈してしまうようだ。


 この世界における対艦兵器の歴史が一ページ更新された記念すべき光景かもしれない。


 まあ、そんなことはどうでもいい、シビラに労いの言葉を贈りつつ、次の攻撃指示を出した。


「よし、このままなら敵の射程外から一方的に攻撃できそうだ。ミサイルをメインに攻撃を加え、敵艦の数を減らせ」


『了解しました。現在の生産エリアをフル稼働して、魔弾テンペストを増産しております。しばらくは、毎分一発の発射になりますが。生産状況にアクシデントがなければ、十五分後には毎分二発。三十分後には毎分四発での発射が可能です』


 俺が言うのも何だが凄まじい生産能力だ。

 

 この要塞にほんの一時間前までミサイルなんて一発もなかった。


 しかし、遠距離攻撃手段を欲した俺の要望に叶えるために、管理AIシビラの制御の元、空中要塞ギャラルホルンは、状況に応じて絶えず進化していく。


 これこそが、この要塞の真骨頂なのかもしれない。







 帝国艦総旗艦グレート・シンドウのメインブリッジにて。



 最初の一隻目の爆発時は原因が分からなかったが、流石に、この数分で何隻もやられれば、帝国側も、敵の正体を把握していた。


 はじめこそは、遠目だったこともあり、統合軍勢力の空鯨船だと誤認していたが、今は距離が狭まっているため、全ての帝国軍将兵が、空飛ぶ要塞の姿を直接目に焼き付けて戦慄していた。


「へ、陛下。いかがいたしましょうか?」

 

 雲の彼方より、ゆっくりとこちらに接近しつつある巨大要塞を見て狼狽する全将兵を代表し、ネルガル提督は皇帝カリンに今後の方針を尋ねた。


 皇帝は本来、直接戦場で兵を指揮しないことになっているが、己の職務を忘れるほど完全にテンパっていた提督を責めるものはいない。


 ただし、助けを求められた皇帝カリンもまた周囲には毅然とした態度を見せつけるが、度肝を抜かれていた。


(な、なんじゃ、あのデカブツは?!! 統合軍の連中め、こんな切り札を隠し持っておったのか!!)


 都市すら覆い尽くせるのではないかという巨大な飛行物体を前に、彼女も絶叫を上げたい気分に駆られるが、部下の手前そんなことはできない上、時間も惜しい。


「こちらのバリスタは、まだ届かんのか?」


「はい陛下。現状では打つ手なしです」


 その大きさを視認できるほど距離は狭まっているが、この距離でもまだ帝国のバリスタの有効射程範囲外だ。


 もっと距離を詰めないと攻撃もままならない。故に、艦隊は、何もできないまま、次々に要塞から飛んでくる謎の物体の餌食になっていた。


「統合軍勢力の方が、帝国よりも先に行っておったか」


 ラグナロク艦隊と、この超弩級艦を建造した時から、カリンは帝国の技術レベルは統合軍勢力を超えていると考えていたが、そう甘くはなかった。


(さてと、本当にどうする……)


 イスラ同盟国の首都を潰すという当初の戦略目標は達成している。敵に背を向けて、今すぐに、この空域から撤退するのも一つの手だ。


 しかしながら、今後の事を考えると、ここで逃げ出すのは少々マズい。


(バリスタも届かない超距離から一方的に攻撃できる兵器を搭載しているあの要塞が帝都まで攻めて来たら、帝都での決戦は間違いなく負ける。帝都を失えば、この戦争は帝国の敗北で幕を閉じる。それだけは避けねばならん)


 僅かの間に、色々考えを巡らせたが、やはり敵にあの空飛ぶ要塞がある限り、帝国に勝利はない。


 帝国の勝利条件に、要塞の撃破が加わったと言っても過言ではないほどの脅威だった。


 カリンの頭の中で、破壊は決定事項となるが、新たな問題が浮上する。


 今やるか、一度引いて態勢を整えた後でやるかだ。


「八十二番艦、轟沈!!」


「くそ!! 何とかならんのか?!!」


 国の命運も左右するだろう。慎重にゆっくりと考えたいところであるが、残念ながら、そんな暇はない。


「仕方ない」


 カリンは大きく息を吸い込み、意を決して口を開いた。


「地上へ堕ちた友軍の救出は中止する。全艦隊、直ちにこの空域から離脱するのじゃ!」


 その命令を聞き、一瞬だけブリッジは静まり返るも、すぐにネルガル提督は頷いた。


「了解しました陛下。おい! 発光信号を用いて全艦隊に通達しろ。この空域から撤退するとな」


 そうと決まれば話は早い。


 一方的にやられている現状に不満を抱き、一矢報いてやりたいという将兵も中にはいたが、今からあの要塞に突撃するとして、こちらの武装の射程内に近づくまでに一体どれほどの味方がやられるか計算できない馬鹿はいなかった。


 旗艦から打ち上げられた発光信号を見て、帝国艦隊は一斉にその場で回頭を始める。


 その際にも何隻かやられてしまったが、敵の攻撃を防ぎようがないので、自分の艦だけは狙ってきませんようにと祈りながら、向かう所敵無しであった帝国艦隊は、敵に背を向け逃げ出す準備を開始した。


 しかし、回頭を終了し、いざ全力で逃げようとした段階で、命令を発した旗艦だけはそれができなかった。


「くっ、一体何じゃ!」


 突然、がくんと船体全体が揺れた。よもや被弾したのかと全員に緊張が走る。


「た、大変です。本艦は、現在あの要塞に引き寄せられています!!」


 伝声管を使い各所からの報告をまとめたブリッジクルーの一人が叫んだ。


「何だと?!」


「それは、どういうことじゃ?」


「本艦の後部に向け、敵要塞が赤い光を照射しています」


 ここからでは詳しく分からないが、他の艦からの報告では、現在旗艦は、敵要塞から伸びる赤いロープのようなものに引っ張られているように見えるらしい。


 いまいち要領を得ないが、ブリッジの窓から外を見ると、この艦だけが他の艦から引き離されているのは、すぐに確認できた。


「機関最大!! 振りきれ!!」


 ネルガル提督は、これ以上要塞に引き寄せられないように、強い口調で叫んだ。


「だ、ダメです。前に進みません!! どんどん後ろの方に引っ張られています」


 瞬く間に艦隊から大きく引き離されてしまった。もう前方以外に味方の艦は見当たらない。


 この時、他の艦の艦長達も旗艦だけが、逃げ遅れていることに気が付いていたが、自分達も時間が経過するごとに激しさを増す要塞からのミサイル攻撃から逃れる必要があったので、旗艦に構う余裕がなかった。


 ブリッジ中に絶望感が漂う。賢者であるネオでさえ、どうすればいいのか分からなかった。


 不安を感じ誰もが口を閉ざす。それだけに何を思ったのか皇帝カリンの笑い声がよく響いた。


「クククッ、まんまとやられたのお」


「へ、陛下……」


 一体どうしたのかとネルガル提督は尋ねようとしたが、彼女の笑い声を聞いて、少しだけ顔に笑みを見せたネオが割り込んできた。


「陛下。私と共に旗艦を脱出しますか?」


 確かに、現状唯一空を飛べる魔法使いであるネオであれば、小柄な皇帝を抱えて単独で旗艦から離脱できるかもしれない。


 後に残された自分達が、どうなるかはさておき、帝国にとっては一番最善な選択だ。不満はあっても、反対の声は出なかった。


 しかし、皇帝カリンは、自分だけ逃げるネオの策を一蹴した。


「妾だけ逃げてどうする? それに、まだ終わったわけではないぞ」


「と言いますと?」


「あの要塞は、容赦なく他の艦を攻撃しているが、この旗艦にだけは攻撃しておらん。恐らく、敵さんは、この艦を無傷のまま鹵獲したいのじゃろうな」


 そう言われてみるとそうだと納得した空気が漂った。


 とはいえ敵の狙いは、この艦にいる皇帝だろう。殺されなくとも、敵の虜囚になれば、状況が悪化するのは間違いないので、誰も安堵してはいなかったが。


「では。このまま身を任せるわけですね」


「ああそうじゃ。折角、向こうから招待されておるのじゃ。今はおとなしくしといて、接舷したら兵を送り込んで、攻めればよかろう」


 それから矢継ぎ早に指示を下す。


「ネルガル提督、艦内にいる全ての兵士に、敵要塞内に突入次第、白兵戦をすると通達しておけ。それと、他の艦には、敵要塞からの攻撃が届かなくなったら、その距離を保ちつつ待機せよと信号を送っておけ」


 武闘家である自分に、賢者であるネオ。それに、親衛隊一個大隊も乗船している。要塞相手には勝てなかったが、内部に乗り込んでしまえば、白兵戦で勝ち目があるとカリンは踏んだ。


 そして同時に、島と見間違える巨大要塞に近づくにつれ、新たな欲望が目覚めた。


(これはチャンスかもしれぬ。この要塞を奪取できれば、帝国の勝利は決定じゃ)






「圧倒的だな」


 シビラに全力で帝国艦隊を駆逐せよと命令を発してはいたが、彼女は予想以上の戦果を叩き出してくれた。


 生産エリアで作られたミサイル魔弾テンペストは、無数のゴーレム達の働きにより、発射台へと移され、シビラの制御の元、放たれたミサイルは遠方にいる敵艦隊を容赦なく撃破していく。


 敵の攻撃はこちらに届かない。数では大きく劣るが、ワンサイドゲームだった。


 だが、このままでは全滅すると判断したのか、三分の一近くを沈めた辺りで、敵艦隊は一斉にこちらに背を向けて逃げる姿勢を見せた。


「ち、ここまでか。シビラ、プランBに移行しろ」


 全滅させたいところではあるが、今は、一方的に敵艦隊を殲滅するよりも優先すべきことがあった。


『了解しました。魔光バキューム改、敵旗艦に向けて照射します」


 地上にいる人や物を回収するための魔光バキューム。その改良版が、ゴーレム達の手によって要塞側面にいくつかある船着き場の一つに設置され俺の合図で起動した。


 そこから放たれる赤い光により、ジオ・エクセ二ウム鉱石があると思われる敵旗艦は、この要塞に強制的に引き寄せられることになった。


「ジオ・エクセ二ウム鉱石はまだあの艦にあるんだな」


『はい。万が一、別の艦に移送された場合は、魔光バキュームの照準を変更いたします』


 今の戦力でも既存の空鯨艦相手に圧勝できるが、ジオ・エクセ二ウム鉱石を手に入れてラグナロク砲が使用できるようになったら、いよいよ敵はいなくなる。


 無敵要塞の完成だ。


『間もなく、敵艦が第3船着き場に到着します。準備の方をお願いします』


 シビラのアナウンスを聞き、席を立ち上がろうとしたが、この時、後ろで静かに様子を見守っていたエシャルが口を開いた。


「少しよろしいでしょうか? これから招き寄せた敵艦に乗船している帝国兵を倒し例の鉱石を回収するんですよね?」


「そうだが、何か意見でもあるのか?」


 あの旗艦にいるであろう使徒二人をこの要塞に招くのはリスクがあったが、ジオ・エクセ二ウム鉱石を可能な限り無傷で確保するには、これしか方法がないとシビラが進言してきた。


 俺は、彼女の作戦を承認し、無事に敵旗艦のみを捕らえることに成功した。


 作戦は次の段階に進む。


 これより、使徒以外にも大勢兵士が乗っているであろうあの艦の乗組員達と、要塞内で迎え撃つことになっていた。


「私も参戦してよろしいでしょうか?」


「え?! う~ん」


 一緒に戦ってくれるのは嬉しいけれど、要塞内での戦いも、シビラの作戦通りに行うことになっていた。


 作戦に参加する戦力の中に、エシャルを含めた三人娘の名前はなかった。女神の加護を有する使徒がいなくても勝てるとシビラが判断したからだ。


 俺としては、彼女達にはこの指令室でおとなしくして欲しかったが、エシャルは、かなりやる気を見せていた。


 まあ、エシャルには帝国との因縁もあるのだろう。その気持ちには応えてやりたいとシビラに話してみたら、問題ないと言ってきた。


『分かりました。それでは、迎撃位置まで誘導しますので、通路にいるゴーレムの後をついて行ってください』


 流石は管理AI、すぐに作戦を修正したようだ。ただし、そうなると文句を言う奴が出てくる。


「お姉様ばかりずるいわ。私も戦っていいかしら?」


 案の定、バトルジャンキーの気質があるロカが名乗りを挙げた。


「わ、私は」


「ああ、アリシアはここで待機していてくれ」


「ほっ……よかったです」


 同じ使徒として自分も戦場に立つべきか悩んでいたアリシアには指令室での待機を命じた。


 戦闘力皆無のアリシアを前線に連れていく余裕は流石にない。しかし、狂戦鬼ロカの参戦は歓迎したい。シビラも同意見だった。


 準備は完了した。俺は近衛騎士団時代に使っていた黒騎士装備を身に着け気合を入れた。


「よし、行くぞ」


「「「おおおお!!!」」」






 ハッチが開き旗艦の外に出るとそこは港のような場所だった。ギリギリとはいえ、超弩級艦である旗艦を収容できる広さがあった。


 警戒を怠らずに、帝国軍兵士達は続々と乗り込んでいき、周囲の探索を開始した。数分後、得た情報を報告するために、一人の兵士がハッチ付近で待機していた皇帝とネオの元へ駆け寄る。


「周囲に敵兵らしき姿は確認できません」


「そうか。普通に考えれば上陸時を狙うんじゃがのう」


 この要塞の指揮官は大馬鹿じゃ。などと笑いはしなかった。どう見ても、常識に囚われて勝てる相手ではないのだから。


「それで、侵入経路は発見したか?」


「はっ、ほとんどの扉は閉じられていましたが、一か所だけ開いております」


「陛下。絶対罠ですよ」


「そうじゃろうな。じゃが、他の扉を強引に壊して進むのも危険が伴う。ここは素直に招待を受けるとしよう」


 よし続けと、皇帝自ら先頭に立ち、突入部隊は内部への侵入を開始した。


 


「殺風景な内装じゃのお。嫌いではないが」


 敵兵や罠に警戒しつつ突入部隊は進んでいく。


 色彩豊かな皇宮の華やかさとは正反対のSF的な要素を思わせる白と青で配色された通路や階段を進む。どうやら、上に向かっているようだ。


 このまま何もないのか?


 敵が仕掛けて来ないため、楽観的な考えが浮かび始めた時を狙ったかのように、突如、ネオが立っていた足元の床が開き、彼だけが深い縦穴に落下していった。


「ネオ!!」


「「「主席魔法官様!!」」


 カリンは慌てて穴に近寄ろうとしたが、すぐに床は元に戻ってしまう。


 一瞬、己の拳で床を破壊しようかと思うも、この下がどうなっているのか分からないので、ギリギリで思いとどまった。


 それに、最強の魔法使いであるネオを信頼していた。すぐに冷静さを取り戻して、不安な顔をしている部下達に告げた。


「まあ、あやつならば、一人でも大丈夫じゃろう。妾達は、このまま先へ進むぞ」


 





 穴に落ちたネオは、窓も扉も何もない空間に叩き落とされた。


 ただし、魔法を使ったので、かなりの高さから落とされたにも関わらず、手もつかずに華麗に着地する。


「ふむ。ここはどこだ? そのまま落ちたので、先程まで歩いていた通路の真下だとは思うが……」


 辺りを見渡し状況を把握する。すると、真正面にある継ぎ接ぎのない壁が開き一人の少女が入ってきた。


 誰だ?とは言わなかった。一目見て誰か判断できたからだ。


「お久しぶりですね。ネオ」


 この少女がどうしてこんな場所にいるのか? 尋ねたいことは山ほどあるが、一度求婚を申し込んだ事もあるし、かつての主の娘は無下にはできない。


 礼儀正しくお辞儀をし、再会の挨拶をした。


「そうですね。こんなところで会うとは思いませんでしたよ。エシャル様」







 狭い通路内ではまともに戦えないと、突入部隊は警戒を緩めずに駆け足で、道なりに沿って進んだ。


 そして、最後の階段を登り、遂に最上階に達した。


「要塞の上部はこうなっておったのか」


 カリンを含め、要塞上層の庭園を目にした者達は、争いとは無縁の緑豊かな光景に目を奪われた。


 しかし、いつまでも呆けている暇はなかった。


「ようやくお出ましか」


 奥に見える巨大な白亜の城の門が開き、敵の軍勢がこちらに向かって歩いてくるのが確認できたからだ。


「幸いにも合戦ができるほどの広さじゃ。戦うには申し分ない。総員、陣形を組め」


 この場までたどりついた突入部隊、総数約千名は、皇帝カリンの号令の元、速やかに戦闘態勢を整えた。




 対して白亜の城から出てきた軍勢は異様な雰囲気を醸し出していた。


 先頭を歩くのは、黒い鎧を纏った一人の騎士。


 その後ろを、二千体の赤いゴーレムが、一糸乱れぬ行進をして続いていった。 




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