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第四十五話 プロローグ 共和国炎上

 統合軍と王国軍からなる連合軍は、帝国西部国境線を突破した。


 帝国の警戒が薄い王国領からの奇襲侵攻作戦。


 ローラン公国の独立を防ぐために王国軍五十万が王都を出陣してから僅か二週間後の出来事であったため、帝国は応戦準備ができず、帝国西部を戦う前から放棄せざるを得なかった。


 故に、国境を越えるのに成功した時点で、ユーリ・メルクリアは戦略面で帝国に王手をかけたと言える。


 長い歴史を誇るユグド王国とは異なり、ここ二百年で台頭してきた征服国家である帝国にとって、国の心臓部である帝都、或いは頂点に立つ皇帝のどちらか一つでも失えば、帝国全土で反乱が勃発するのは自明の理だからだ。


 後世の歴史家ですら、この時点では、帝国の崩壊とメルクリアの勝利は確実だと信じて疑わないほど彼の立てた計画は完璧な成功を収めていた。


 筈だった。


 魔王という人智を超えた力を隠し持っていた彼を超える程の理不尽過ぎるイレギュラーが二つも登場するまでは。


 一つは、帝国が極秘裏に建造を進めていた史上空前の大艦隊。


 もう一つは……。





 統合軍共和国司令部。



 共和国首都にある旧共和国防衛軍参謀本部の建物の一室に続々と連絡将校達が殺到する。


「ローゼンアリアも空襲を受けました!!」


「第三十五駐屯基地との連絡途絶!」


「第七街道も敵の空襲で使用不能です!」


 ひっきりなしに飛び込んでくる凶報を前に、その場に居合わせた将兵と政治家は頭を抱えた。


「い、いかんぞ。共和国南西部の各都市は文字通り壊滅したぞ」


「マズい。マズいぞ、これは!」


 約一週間前に、西方にある峻厳な山々を超えて共和国領に侵攻してきた帝国の大空中艦隊により、共和国全都市の二割が空襲され、死傷者の数はとても把握しきれないほど膨大な者となっていた。


 空襲自体は、イスラ同盟国との戦争の時にも経験しているので、初めてではないが、あの時と今回の空襲では毛色が全く異なる。


「ええい! 帝国の奴ら、軍人・民間人の区別なく攻撃してやがるのか!!」


 一人の将校が声を荒げるように、かつてのイスラ同盟国は民間人を巻き込まないように、軍事拠点のみを標的に空爆していた。だが、今回の帝国は軍事拠点だけでなく、民間人の住む都市までも標的にしている。


 そのため、被害はあの時とは比べ物にならないほど拡大してしまっていた。


 復興を考えれば考えるほど、頭が痛くなるが、それよりも先にやらねばならない事がある。


 目下、共和国を空爆中の帝国の空鯨艦の対処だ。


「どうするのだ!! このままでは一か月もしない内に、共和国全土は炎の海に飲まれるぞ!」


「しかし、敵艦の総数は、最低でも三百隻と聞く、そんな大艦隊どうやって葬ればいいのか??!」


 敵の数が余りにも膨大だ。


 ユニオン商会から流出した技術を用いて、よもや帝国がこれほどの数を用意していたとは想像だにしていなかった。


「ザルバトーレ元帥に敵艦隊を撃滅せよと命じてみては?」


 共和国本土防衛軍の司令官を務める剣聖ガルダ・ザルバトーレの下には、練度の高い陸軍十個軍団と、空軍二個艦隊があり、最新鋭のヴァルキュリア級艦が十四隻いる。


 三百近い敵艦隊を全滅させる事は難しいが、被害をある程度縮小できるのでは?と、その提案を聞いた将兵や政治家は期待してしまうが、上座に座る一人の老人が反対した。


「止めておけ。彼が率いる共和国本土防衛軍は、現在、共和国南部の帝国との国境付近で、帝国軍最強と名高い北部方面軍と対峙している。その上、敵北部方面軍にも多数の空鯨艦が確認されたとの報告があった。一艦たりとも戦力を割く余裕はないだろう」


 長老という異名で長年共和国議会に君臨している現共和国大統領バルバロイの意見により、ザルバトーレ元帥に救援を要請する案は霧散した。


 それではどう対処するつもりだという将兵の言葉に対し、大統領は、姿勢を崩さずに毅然とした態度を見せつける。


「今、メルクリア君が率いる統合軍・王国軍からなる連合軍は、帝国の首都を目掛けて侵攻中だ。共和国の各都市が空爆される前に、彼が帝都を抑えれば、帝国艦隊も退かざるを得ないだろう」


 幸いにも、帝国の大艦隊は都市を破壊できても兵士を送り込んで占領することはできないため、敵艦が空に見えたら逃げればいい。


 逃げて逃げて、諦めた時が共和国の最後だ。


 この戦いは、メルクリアが帝都を陥し皇帝の身柄を抑えるのが先か、帝国が共和国の各都市を焼き尽くし民意が降伏を叫び、それを統合軍の指揮権を持つイスラ同盟国が受け入れるのが先か。


 戦争の結末は、どちらが早いかの勝負になったと現大統領は断言する。


 それでも、今できる事はある。


「各都市に、食糧の備蓄を都市郊外に移すように指示しろ。それと、いつ敵が空爆しに来ても、速やかに国民を都市から逃げられるように予め避難方法を決めるように伝えておけ」



 



 共和国領西部上空。


 百五十隻を超える帝国の空鯨艦の群れの中心に、他の艦の五倍以上の大きさを誇る巨艦がいた。


 スーパー・ヴァイキング級超弩級艦グレート・シンドウ。


 帝国艦隊の総旗艦として建造された世界最大の空鯨艦は、その巨体を生かした圧倒的な戦闘力と兵員輸送能力を持つ。


 しかし、この艦の真髄は、戦闘面ではなく補給面にある。


 この艦の真の役割とは、ドヴェルグ造船所から持ってきたジオ・エクセ二ウム鉱石に宿る無限に等しい魔力を抽出して、他の艦に魔力供給を行い艦隊全体を維持することにある。


 また他の艦を整備する機能もあるので、移動する整備拠点兼空中給油機のような役割を持っていると見てくれればいい。


 これにより、帝国の空鯨艦は、着陸せずに長期間の活動を可能にすることに成功した。


 総旗艦は、現在、艦のあちこちから太い管のようなものを出し数隻の艦と空中でドッキングしているが、これは各艦に燃料である魔力を供給しているためだ。


 流石に空爆用の爆弾やその他物資は帝国本国を往復する輸送船に運んできてもらっているが、艦を動かすのに必要な燃料を運ぶ必要がないのは補給面から考えると、極めて効率的である。


 というのも、最初に空鯨船を実戦投入した統合軍ですら、燃料である魔力の補充のために、戦闘が終わると一々基地に帰還しなければならなかった。


 現在、帝都を目指すメルクリアが率いる王国方面派遣軍の艦も、地上部隊にミスリルなどの鉱物を運搬させて定期的に着地して補給する手段をとっている。


 そう考えると、今帝国が行っている手法は、空鯨艦の運用方法としてはかなり進んでいると捉えても良いだろう。





 約三百隻からなる共和国本土空爆艦隊、別名ラグナロク艦隊は、地上からでは侵攻不可能なルートの上空より、共和国の空に侵入し、いくつかの艦隊に分かれて共和国の各都市に空爆を始めた。


 この大艦隊をもってすれば、現在帝都に迫っている魔王軍や、連合軍を簡単に潰せるように見えるが、そう簡単にはいかない。


 統合軍勢力はまだ気が付いていないが、ラグナロク艦隊の大部分を構成するラグナロク・ヴァイキング級空爆艦は、言わば爆撃機。空爆と量産性を追求した結果、対艦能力は低い。


 数こそ圧倒的に上回っているが、雷弓インドラのような強力な対艦兵装を装備している統合軍の主力艦と戦えば、最悪一戦で壊滅的な被害を被る事が予想されているため、敵空鯨艦と遭遇する可能性をできる限り減らしたかったのが本音だ。


 それ故に、敵の空鯨艦がいない地域を狙い空爆を続けていたのだが、そんな時に、なんと総旗艦に皇帝カリンがやってきた。



 

 皇帝カリンは、帝国西部から押し寄せる魔王軍と統合軍・王国軍連合軍の対処方法として、帝国西部の放棄を決定。


 同時に、西部方面軍を帝都まで退却させ、中央軍と共に帝都にて、侵略者達を迎え討てとイェーガー元帥に指示を下すと、主力空鯨艦ヴァイキング級艦の一隻に乗り込み、数日後には無事に、共和国本土空爆艦隊、別名ラグナロク艦隊と合流を果たした。



 皇帝自らが指揮を執るという発表に艦隊の乗組員達の指揮は最高潮に達する。が、当の本人は険しい顔をしながら、艦隊の上層部を招集した。


「単刀直入に言うが、魔王軍と連合軍の侵攻速度が妾の予想以上に早い」


 共和国のバルバロイ大統領と同じく、皇帝カリンもまたこの戦争の勝敗は、帝都が陥落するのが先か、統合軍勢力が根を上げるのが先かに掛かっていると考えていた。


 この予測を立てた時点では、カリンにはまだ余裕が残っていたが、西部方面軍を引き上げたとはいえ、魔王軍と連合軍の侵攻速度が彼女の想像を超えていたあたりで、余裕の笑みが消えていった。


 本能的に人間を忌み嫌う魔王軍であれば、道中の各都市を襲撃したり、もしくは後方から追ってくる連合軍に襲撃するなりして、侵攻速度が遅くなると予想していたのだが、その予想は見事に外れて、魔王軍は余計な道草をしないで、帝都を目指して真っすぐに進軍中だ。


 そして余計な戦闘が行われないため連合軍も、ほとんど被害を出さずに後を追ってきている。


 この状況に、思わず魔王軍と連合軍は手を組んでいるのでは?とカリンは勘ぐってしまうほど、両軍とも仲良く進軍中である。


 まあ、共和国首都も王都も魔王軍の一度は襲撃を受けているため、そんな事はないだろうと、カリンはこの考えを頭の奥にしまったが。


 ともかく、順調に共和国の各都市を空爆中のラグナロク艦隊ではあるが、今のペースだと帝都陥落の方が先になりそうな事を危惧したカリンは、こうして最前線までやってきたのだ。


「で、ではどうなさるのです? 予め定めた攻撃計画に従った今のペースのままでは、共和国中の都市を全て焼き払うには最低でも一か月はかかりますが」


 共和国首都から離れた都市を徐々に潰していき、首都の人間に恐怖と圧力を掛けることで、民衆を怯えさせて降伏を促すという当初の計画は破棄するのですかという将校達の問いに対して、カリンは一度、目を閉じてから意を決したかのように告げた。


「イスラ同盟国首都セントラル・イスラを狙う」


「な、何ですと!!」


「さすがにそれは」


「いくら何でも、危険が大きすぎます!」


 列席する将兵達から困惑の声が漂い、反対の声を挙げる将兵達。そんな彼らを鎮めるために、主席魔法官ネオが鋭い眼差しとともに一喝した。


「無礼者!! 陛下にお考えに異を唱えるつもりか?!」


 帝国において皇帝は絶対。


 ネオの言葉で一度ピタリとおとなしくなるが、すぐに全員を代表して艦隊司令官を任されたネルガル提督が、皇帝に意見具申した。


「恐れながら陛下。今の段階でセントラル・イスラを空爆するのはデメリットが大きすぎます」


 ネルガル提督は、メリットとデメリットを挙げて自分の考えを伝えた。


「確かに、セントラル・イスラを空爆できれば、統合軍の指揮系統は混乱するでしょうし、統合軍勢力最大の造船所を破壊できれば、新たな敵艦が建造される恐れもなくなります。ですが、セントラル・イスラには最新鋭の敵艦隊が駐留しており、例の雷弓インドラと呼ばれる対空兵器が唯一地上配備されていると報告を受けております」


 成功しても失敗しても帝国艦隊は壊滅的な被害を被るとネルガル提督は考えている。


 それだけならばまだ良いが、敵艦とまともにぶつかってラグナロク艦隊の対艦性能は低いことが露見しまう恐れもある。


 これだけやられても、統合軍艦隊が迎撃に来ないのは、こちらの数が多すぎるのを恐れて下手なちょっかいを出せないだけで、対艦性能の低さを知れば、他の戦線を捨ててもラグナロク艦隊を潰しにくるのは容易に考えられる。


 故に、共和国の都市の大半を焼け野原にするまで、敵艦隊と衝突する可能性を抑えたいネルガル提督はあくまで反対の姿勢貫き、大半の将校も内心は同意見だった。


 ネオの厳しいに視線に晒されても、考えを曲げないネルガル提督をカリンは高く評価したが、これだけは譲れない。


「諸君の言うことも一理ある。確かに妾の作戦は博打に近く、成功しようが失敗しようが手酷い目に遭うじゃろう。じゃが、それでも……」


 帝国軍は大きく分けて、東西南北中央の五つの方面軍で編成されている。だが、一方面軍だけで中小国の全軍を超えると謡っているものの各方面軍の戦力には大きな差が存在していた。


 帝国にとって最大の脅威である共和国との国境に配備されている北部方面軍と外征と有事に備えて帝都近郊を守る中央軍は精鋭揃いの一線級の部隊と目される。


 平均的な練度を持つと見なされる二線級の部隊は、帝国領南部と東部と国境を接する中小諸国を相手にしている南部方面軍と東部方面軍。


 老人の国と甘く見ていたユグド王国との国境線を守る西部方面軍は、左遷された将校や新兵、老兵だらけの三線級の部隊と帝国内でも最弱軍と揶揄されていた。


 最強の中央軍と最弱の西部方面軍が帝都で、魔王軍と連合軍を打ち破ればそれに越した事はないが、戦力分析から今の戦力では帝都を守り抜ける可能性は低いとカリンは予想している。


 そして帝都が陥落すれば、もう一つの精鋭部隊である北部方面軍は、現在対峙しているガルダ・ザルバトーレ率いる敵軍と、帝都を陥したメルクリア率いる連合軍によって挟撃されることになる。


 仮に帝都が陥落しても皇帝である自分の身柄を抑えられなければ挽回はまだ可能かもしれないが、そのための切り札である北部方面軍までも失えば、帝国は本当にお終いである。


 自身満々にラグナロク作戦を発動した皇帝カリンは、今これを一番恐れていた。


 無論、連合軍が帝都を陥落させても魔王軍という第三戦力がまだ残っている可能性もあるため、連合軍がすぐに動けるかは微妙なところであるのだが、何だかカリンには、魔王軍が自分の予想通りに動いてくれる気があまりしなかったのだ。


 

 その後もセントラル・イスラを狙うカリンの案に反対する将兵はいたが、結局、皇帝の権限をちらつかせて黙らせた。


 本当に窮地に立たされた時と、向こうから泣きついてこない限り、自分の任命した部下を信じる傾向が強く、また軍事面においては皇帝の権力で相手を脅すことをやりたがらないカリンにしては珍しい行動だったが、それだけ彼女も切迫詰まっていたのだろう。


 軍議が終わると、同時進行中の共和国空爆作戦を途中で完全停止するわけにもいかないので、ラグナロク艦隊の半数と帝国本土から連れてきた増援艦隊を率いて皇帝自ら襲撃する。

 


 総旗艦にして空中整備拠点であるスーパー・ヴァイキング級超弩級艦一隻。


 空爆の要であるラグナロク・ヴァイキング級空爆艦百五十隻。


 そして、帝国軍の主力戦闘艦として北部方面軍と中央軍に十隻ずつ配備しているのと同じ艦種の対艦性能重視のヴァイキング級空鯨艦二十隻。


 延べ、百七十一隻は、イスラ同盟国の本拠地にして、統合軍勢力最大の造船所でもある首都セントラル・イスラを目指し進撃を開始した。






 王都襲撃事件の数日後、俺は空中要塞ギャラルホルン建造のために動き出す。


 現在の王都は先の襲撃で壊滅状態。


 住む場所を追われた難民達も最初は王都の郊外に天幕を張って暮らしていたが、統合軍と合流した魔王軍追撃部隊の出撃と同時に、アルバート公爵を始めとする貴族達が政治機能の移転のために旧都に移動したのを知ると、王都を見限り王国各地に散っていった。


 なので、今の王都にいるのは、金目の物を漁る盗賊紛いのごろつきくらいだ。


 もっとも、貴族街にあった金銭価値の高い物などは、生き残った貴族達が魔王軍追撃に参加しなかった兵士達を使って根こそぎ持って行ってしまったため、金になる物はないと思われる。


 他家の財産でも生存者がいないことと王国復興のための資金にするという名目で、あっという間に全部回収していった辺り、流石は王国の貴族だと少々感心してしまうのであった。


 


 さて、現在俺とエシャルとロカは、アリシアの案内の下、貴族街の中心にある王宮の地下にいた。


「へ~頑丈そうな扉ね~」


 ロカが思わず感嘆の声を上げるのは無理はない。俺達の目の前には、ユグド王国千年の歴史で収集した金山財宝が眠る宝物庫を巨大な扉があるからだ。


「扉自体も非常に硬い希少金属でできていますが、この扉には強力な魔法が施されていますね。聖女の私でも解除には時間が掛かりそうです」


 魔法の専門家でるエシャル曰く、この頑丈そうな扉そのものがある種の魔法道具で、物理的・魔法的手段による攻撃を完璧に防ぐらしい。


 聖女である自分でさえ、扉に掛けられた魔法を剥がすのには一か月は掛かると言うくらい強固な扉だ。エシャルの言葉に追随するようにアリシアも補足する。


「この扉の先には、王国で最も金銭的価値の高い物が保管されているため、非常に頑丈な造りになっております。ちなみに扉を開くために必要な合言葉は歴代の国王だけが口伝で伝わっていると、以前父から聞きました」


 とはいっても、複数の熟練の魔法使いが数か月掛ければ、合言葉無しでも解除魔法で開けられるそうだ。


 なので、必ずしも合言葉は必須ではないため、現国王ガリウスは、事態が落ち着くまでは、誰も開けられないはずのこの宝物庫を放置したのでしょうとアリシアは告げた。


「聖女であるエシャル様でも、お一人ではこの扉を突破するのは難しいと思います。アマダ様、いかがいたしましょうか?」


 アリシアの解説を聞き、ロカもエシャルもお手上げだわと匙を投げている様子だったが、俺には秘策があった。


「え? それで上手く行くのですか?」


 俺の心の中を読めるアリシアだけが、俺の秘策を知り、それで成功するのか疑問を呈している中、俺は動いた。


「収納」


 一瞬の出来事だった。


 俺は築城の加護の力を使い、扉そのものをアイテムボックスの中に収納した。予想通り、加護は魔法ではないので、無事に扉ごと取っ払えた。


「あ~その手があったか」


「確かにそれならば魔法は関係ありませんね」

 

 もう見慣れた光景だと納得するロカとエシャル。対して、頭の中を覗いて知っているとは言え、実際に築城の加護の力を、自分の目で見てビックリしているアリシア。


 対照的な表情を浮かべる彼女達を横目に俺は退職金代わりに宝物庫の物色を始めた。

 

 

 扉の向こうに広がる宝物庫の内部は、体育館ほどの広さの巨大地下空間だ。


 内部には、金銀財宝がザックザク。


 流石は千年王国。よくまあ、これほどまでにため込んだものだ。


 この蔵にある宝物の一部を解放していれば、今の不況を乗り越えられたのではと勘ぐってしまう程の量の宝物が、置き場所がないほど山ほどあるせいか、無造作に散乱していた。


「言葉が出ませんね」


「ほえ~~!」


「私も中に入ったのは、二度目ですが、凄まじい光景です」


 エシャル達も大層驚いている。


 ここにいると、この世にある全ての富を手にしたかのような優越感を味わえるため、いつまでも眺めていたい気分だが、そういう訳にも行かないので、とっとと内部調査開始だ。


 四人で手分けして宝の山をかき分けていく。


 彼女達には、俺が欲しい物を予め伝えているが、やっぱり一番最初にお目当ての物に辿り着いたのは俺だった。


「お、これは?! 行けるか収納!!」


『オリハルコン(特大)を収納しました。新たにレシピが解放されます』


 ミスリル以上の魔力を宿す鉱物であるオリハルコンは、今までに何個から収集しているが、特大サイズは初めてだった。


 空中要塞ギャラルホルンの動力に必要な魔法鉱石は、ジオ・エクセ二ウム鉱石×1、オリハルコン(特大)×9だ。


 ジオ・エクセ二ウム鉱石がなければ主砲ラグナロクは撃てないが、オリハルコン(特大)が九個あれば、要塞を建造し運用することは可能なため、野望に一歩近づいたといえる。


「あと、八つか」


 このサイズのオリハルコンになると、レベルの低い王国の魔法技術では生かすことはできない。しかしながら、見た目が錆びた色をしているジオ・エクセ二ウム鉱石とは違い、海のように深い綺麗な青色をしているオリハルコンは鑑賞価値が高いため、この宝物庫で保管されていた。


 つまり、金銭的価値も高いということなのだが、どうせ王国の連中では生かしきれないだろうし、いつかお礼でもすればいいと考えて、今はありがたく頂戴することにする。




 思えば、この時の俺はどうかしていた。


 突然頭の中に振って沸いた天啓としか思えない閃きに従って盗みを働いていたが、これはどう見たって泥棒である。


 後に、もう少し考えてから行動するべきだったと大いに反省することになるのだが、この時の俺は自分の知性が導き出したと妙案であると錯覚していたため、完全に浮かれて、気分は宝物探しだった。



 

 その後、傍に六つ。エシャルとロカの二人が、棚の奥に転がっていたオリハルコン(特大)をそれぞれ一個ずつ見つける。


 金銭的価値の高い貴重な物と言いつつ、床や棚の奥に転がっている辺り、博物館と同様に管理の杜撰さが伺えた。


 オリハルコン(特大)は、二十以上保管されていたが、要塞建造に必要な数に達したため欲を出さずに、この場を後にして、先程アイテムボックス内に収納した扉を取り出して設置し直した。

 

 これで全て元通り。宝物庫を守る扉は健在だ。他の盗人に入られる心配はしなくて良いだろう。


 


 その後、地上に出ると今度は、廃墟と化した貴族街の建造物の残骸の収納を始めた。


『最高級の石材×1を入手しました』


『最高級の木材×1を入手しました』


 やはり貴族の屋敷は建材ですら一級品を使用し建てられていた。そして空中要塞ギャラルホルンの大部分を構成する素材は最高級の~と冠される素材群だ。


 こういった素材は、イスラ同盟国にいた時では、滅多に手に入らない代物で、それらが山のようにあることが分かると再び気分が舞い上がる。


 金目の物がないかと貴族街を物色している者達は多少はいたが、そういった輩の相手はロカ達に任せて俺は素材を集めに集中する。


 


 やがて、貴族街が更地になる頃には、ジオ・エクセ二ウム鉱石を除き、これまでの収集した素材と合わせて要塞建造に必要な素材が全て揃うのであった。





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― 新着の感想 ―
[良い点] 肝心要の鉱石が奪われたのは痛いな
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