第四話 バリケードを張り巡らせるとテンションが上がる
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目を開けた。
時計がないので時間は分からないが、太陽の位置を見るに、多分お昼過ぎくらいだろうか。どう考えても、朝から昼過ぎまでずっと寝ていたのは間違いない。それだけではなく、昨晩の疲れが抜け切れていないため、月曜日の朝のように体が重い。
でも、今晩また来るであろうゴブリン達の襲撃に備えて早急に対策しなければならないため、起き上がり行動に移した。
まず、最初にやることは昨晩の戦闘の後片付けだ。
「収納」
生物は収納できないが、死体ならばいけるはず、俺はそこら中に転がっているゴブリンの死体の一つをアイテムボックスに仕舞う。
『死体が収納されました。自動的に解体されます。腐肉、ボロ布、木のこん棒が収納されました』
問題なく成功し、木と同じように素材ごとに解体される。
さて、ゴブリンから回収できる素材について確認しよう。まずは、木のこん棒。これはレシピ内にも存在している。木の枝×3で一本作成できる。
次にボロ布。文字通りボロい布切れだ。入手と同時に新しいレシピが解放されたが、現状は使う予定がないので、これも一先ず置いておく。
今一番の問題は腐肉である。
「これって食えるのか?」
アイテムボックスの力で元が何の肉は分からないように加工されているが、いうまでもなくゴブリンの肉だ。
見た目こそはスーパーで売っている生肉と同じように、手のひらほどの大きさにカットされたピンク色の精肉だが、少し変な臭いがする。
悩んだ。もの凄く悩んだ。
昨日は木の実やキノコしか食べていない。更に昨晩の戦闘のせいもあって空腹の極みだ。なので、多少腐っていても我慢すべきと判断して口に入れた。
「うっ!」
クソ不味い。ツンとするような異臭が口の中に広がった。せめて一度火を通すべきだった。もっとも、未だに火の確保できていないため、無理な話ではあるが。
それでも、腹の足しにはなる。昨日食べたキノコももしかしたら、毒キノコだったかもしれないが今のところ問題はない。俺は、神様の身体強化が胃にも適応されていることを信じて腹が膨れるまで生のまま食した。
割と人生最悪の部類に入る食事を終えて、川の水を飲み、お口直しをしてから、残ったゴブリンの死体を片付け、ようやく俺は今日何をすべきかを考える。
食事の改善は急務ではあるが、まだ保留にできる。それよりも目下最大の障害であるゴブリンの襲撃の方を優先して対処しよう。
昨晩の出来事を思い返し、夜にしか姿を見せず、朝日が上がると死体はそのままで生き残ったゴブリン達の体は薄っすらと煙のように消えていく様を見て、真っ先に思ったことは一つ。
沸き潰しをしたい。
昔、プレイしていたゲームの仕様とまさかそっくりとは思わないが、この森は夜になるとゴブリンが沸いて来るのは、ほぼ確定と考えておこう。
ゲームでは明るくすれば、モンスターは発生しなくなったが、生憎、灯りとなる火はないし、明るくしたところで沸き潰しになるか分からなかったため、沸き潰しの方は断念し、取りあえず住居の周囲を柵で囲むことにした。
まずは、昨晩の襲撃でボロボロとなった掘っ建て小屋を一度回収し、再び建築して取り出し、掘っ立て小屋を修復させる。
次に、小屋周辺に防御陣地を築く。
目を閉じて意識を集中すると、現段階で解放されたレシピを閲覧することができる。更に、武器、建材、武具などカテゴリーごとに分類したものを見ることも可能であり、その中から、防衛設備と書かれた部分を注視すると、唯一バリケードという単語が浮かんだ。
『木材×1と蔦×1を使い、木のバリケード×4作成します』
これは都合が良いと、俺は意気揚々と小屋をゴブリンの襲撃から守るバリケードを大量に作成した。幅は2メートル、高さは3メートルくらいの大きさで重量も結構ある。これならゴブリンの襲撃を十分防げるだろう。
勿論、一つでは役に立たない、俺は掘っ立て小屋の周囲に、念には念を入れて五重に張り巡らせるようにバリケードを作成し設置した。
大量のバリケードを作成するために、周囲の木々を何本も斬り倒した結果、小屋周辺の切り拓かれたスペースが更に拡大した。
小規模の村なら作れるかもしれない広さだ。
住人は俺しかいないけど、将来的には倉庫や牧場、畑なんかを作る予定なので、今のうちに、木々を切り倒し土地を整地しておいても損はない。
小屋やバリケード自体は素材が揃えばアイテムボックス内で一瞬で作れるが、一人なので、素材を集めるのにどうしてもそれなりに時間が掛かる。特にバリケードに使う蔦は、現状では、かなりレアの部類に入る資源で周囲一帯を散策しても中々見つからなかった。
それだけに今後を見据えて、ゴブリンの夜襲を完璧に防ぎ、夜にしっかり睡眠取り、朝から素材集めができる状態をいち早く構築せねばならない。
などど考えてはいたが、それ以上にバリケードに囲まれた掘っ立て小屋を見て、俺のテンションは、早くゴブリン来ないかなと舞い上がっていた。
夜。
「あ~、そう来たか」
目の前の光景を見て酷く落胆した。
確かにバリケードは、きちんと仕事を果たした。ゴブリンの腕力とこん棒ではバリケードを正面から破壊することは叶わない。
最初は、五重にも張り巡らされたバリケードに守られた掘っ立て小屋から、一番外側のバリケードの突破すら活路を見いだせずに、無意味にこん棒で殴りつけるゴブリン達を見て勝ったと確信していた。
だがそれは、最初だけだった。
力技でバリケードを破壊するのは不可能だと判断した知能の欠片もなさそうだったゴブリン達は、バリケードの形状が、角材で格子状の組まれているのを利用して隙間を足場にしてバリケードをよじ登ってきたのだ。
一見すると、武器を仕舞い両手両足を使い完全に無防備になるため、下策に近いのだが、この場に限っては違う。
「あっ!迎撃する奴がいねえ」
悲しいことに、敵の侵入を遅らせ一方的に攻撃できる防衛陣地の構築には成功したが、それだけだった。
でどうやって敵を倒すんだ?ということまでは考えていなかった。
「ハハハハ……」
少し考えれば分かることだった。バリケードに迎撃機能はついていない。昼間は都合よく便利なものがあるじゃんと深く考えずに、ただひたすらに大量生産をしてしまったが、今は後悔しかなく、昨日に引き続き、誰かが、起きてゴブリン達の処理をしなければならない現状は変わらない。
でも俺以外に他に人がいないので、結局俺がやるしかない。
「ちくしょう……」
最後のバリケードを乗り越えてきた所で、ボコればいいので昨日よりは楽に処理できたが、一睡もできないことに変わりはなく、こうして二回目の夜もゴブリンとの戦いに勤しんだ。
三日目の夕暮れ。
「ハァハァハァ……できたぞ、これならどうだ」
二日目と同じように、午前中に睡眠を取り、午後に資材回収と防衛陣地の改良を行い、ついに新たな防衛陣地が完成した。
昨日の大量のバリケードによる防衛陣地の失敗の原因は、チート級のクラフト能力に浮かれて、外見だけは堅牢な陣地に見えたが、機能面のことは一切考えなかった作りにしてしまったせいだ。
その失敗を繰り返さないためにも、無駄に場所を取った前回とは真逆に、今回はコンパクトに作ってみた。
「これならいける!」
今日は、資材回収の時間を食料採取にのみに定め、作業の大半を空堀作りに費やした。
アイテムボックスに地面を直接収納することはできないが、掘り起こせばバケツ一杯分くらいの量で、土×1と認識されてアイテムボックス内に収納することができるので、今回はそれを利用した。
レシピから石のスコップを作成、神様から貰った強化された身体能力に物を言わせて、地面を掘り即座に収納。カウントが百を超えたら、移動して森の中に全て捨てる。
この方法で、数時間で、掘っ立て小屋を囲うように幅4メートル、高さ3メートルくらいの空堀を完成させた。その上で、昨日に引き継きバリケードを設置しゴブリン達の侵入を遅延させる。
ちなみに、出入りする時は、周囲5メートル以内であれば、好きなように物の出し入れができるアイテムボックスの能力を利用し、必要に応じて木の板を取り出し橋代わりに設置し、使わなくなったら回収する方法を取る。
完璧だ。今日こそは、いい夢を見るぞ。
俺は拳を握って、アイテムボックスから夕食用の腐肉を取り出し、昨日と同じように、夜が来るのを待つのであった。