第三十七話 幕間 後編 帝国侵攻計画
瓦礫の山へと変わり果てた外務委員会の置かれていた庁舎の上で、ネオは失敗したと少しだけ後悔していた。
「やってしまった。陛下からは挨拶だけして来いと命じられていたのに、折角のチャンスだからと、つい殺してしまった。さて、どうしたものか?」
悠長に、一人謝罪の練習を始めるネオ。そんな彼に向けて、巨大な雷の竜が突撃してきた。
「おおっと、随分と久しぶりに見たな。……エアロ・ショット!!」
だが動じることなく、ネオは、魔法の威力を向上させる働きを持つ杖すら使わずに、雷属性に強い風の属性の中級魔法で雷の竜を指先から放った風の弾丸で撃ち抜くと、今の魔法を放ってきた人物の方を向き、頭を下げて再会の挨拶をした。
「これはこれは、お久しぶりです。最近はご無沙汰でしたが、ご壮健のようで何よりです。シギン様」
そこには、激しい憎悪を燃やしながら、杖を携え万全の準備を整えたシギン・カルスタンがいた。
自分の持っている最大の切り札にして超級に位置する魔法、天雷竜を相性で勝っているとは言え、中級魔法の一撃で粉砕された。この時点で両者の間には隔絶した差があるのは一目瞭然であるが、そんな事はお構いなしに、いつもの冷静沈着なイメージを投げ捨てて、老婆は吠えた。
「何故ここにいるかは知らんが、これも女神様の与えてくださったお導き。貴様だけは絶対に許さんぞ、ネオ!!」
シギンの凄まじい殺意に対し、怖い怖いとネオは、オーバーなアクションを見せる。
「ふん、ここにボクがいるのは、陛下のご意志。神など関係ありません」
「貴様、それでも女神様に選ばれた使徒の一人か?! いやそんな事は関係ない。奴隷の身であったそなたを救い、魔法の知識まで授けた我が息子から受けた恩を忘れてカルスタン家を裏切った挙句に、息子を処刑し、儂らをイスラの森に追放した恨み今ここで贖ってもらおうぞ!」
積年の恨みを晴らす時が来たと叫ぶシギン。気持ちだけは全盛期の自分を思い出した彼女に、ネオはそれは違うと異を唱えた。
「それは心外です。我が師にしてあなたの実の子であるシド様の事は、今も尊敬し感謝しております。だからこそ、あなた方の命までも取らなかったのです。まあ、勝者の余裕という奴ですが」
「ふざけるな!! じゃったら、そもそも何故あのような暴挙を!!」
「ああ、それについては簡単です。単に陛下の方が忠誠を捧げるに値する人物だっただけの事です。ああシド様!! 相手が悪かった。あなたも立派な方でしたが、陛下ほどではない」
一人、皇帝を神を崇める如く崇拝する仕草を見せつけるネオの態度に、シギンは吐き捨てるように呟いた。
「誑かされおって、あんな小娘のどこがいい?」
「少なくともパッと見て、シド様の娘さんのエシャル様よりは胸はありますよ。何より、器も大きい。全てにおいて、陛下の方が優れている。それと陛下を小娘扱いは許せませんね。長年の忠勤に免じて一度だけ許しますが、次はありませんよ」
「許す必要などない! 何故なら貴様はここで死ぬからじゃ!! 食らえ、エレメンタル・ソード!!」
息子達は敗れたが儂なら勝てると、会話の間に、無詠唱、連続起動、遅延起動という超高等技能を用いて、仕込んでいた魔法を一斉に起動したシギン。
ネオは、今の会話の最中にこれだけの魔法をよく仕掛けたなと感心しつつ全く焦ることなく、全方位から押し寄せる火、水、土、風、雷属性を帯びた無数の魔法の刃を見ることなく一言呟いて魔法を発動した。
「インパクト!!」
ネオの全身から暴風の如き衝撃波が放たれ、シギンの渾身の魔法は消し飛んだ。
またも中級魔法に該当する魔法で、自分の放った無数の上級魔法が敗れた様を見せつけられ、流石のシギンも忌々しいそうに声を漏らした。
「く、賢者の加護の前では、儂の魔法ですら意味を成さないというのか?!」
攻撃魔法を極限まで強化する賢者の加護という神の力は圧倒的であった。昔は、シギンの足元にも及ばなったネオだが、賢者に目覚めた以上、もはや相手にもならない。
杖の有無すら関係ないほどの差が、今の二人の間には存在していた。
政変の際には、元帝国最強と呼び声の高いシギンと直接対決することはできず、長年鬱憤が溜まっていたネオであるが、今度こそ、自分が一番だという事実を示す事ができたのが嬉しくて、この街に来てから一番の笑顔を見せ高笑いする。
「ワハハハハハハハハ!! そう! それですよ! その顔が見たかった。いや、実に満足です。ですが」
ネオは右手を向けた。
「折角の好機です。邪魔者は消せるときに消しとけと陛下もよく言っていますし、貴方もシド様の所で送って差し上げますよ。フレア・カノン!!」
莫大な熱量が込められた火球がシギンに向かって放たれる。
魔法戦で敗れたショックで放心状態のシギンに備えはない。
死んだな。
ネオは勝利を確信したが、その時、自分とシギン間に割り込んでくる者がいた。
「マジック・バニッシュ!」
男の声と共に火球は一瞬にして霧散した。
これには、流石のネオも心底驚く。
まさか、シギンでも抗えない自分の魔法を防げる者がいるとは、もしや自分と対局した力を持つ聖女かと夢想したが、その予測は外れた。
「おいおい、首都のど真ん中で何をドンパチやっていると思えば、何故、てめえがこんな場所にいるんだ。ネオ?」
ネオは、目の前に立つ男が、この街にいるのは知っていたが、シギンを相手に優位に立っていたため、失念していた。
「ち、剣聖ガルダ・ザルバトーレ。二年前の国境紛争以来ですか。面倒な相手が来たものです」
統合軍参謀総長にして、全ての魔法を無効化する剣聖の加護を持つ、最強の使徒との呼ぶ声も多いガルダ・ザルバトーレ元帥の登場に、ネオは初めて余裕の笑みを隠し、苛立ち交じりに舌打ちをした。
「ついでに私もいるわよ」
しかもガルダ・ザルバトーレのすぐ後ろには、使徒を除けば現世界最強と名高い魔法使いロズウェル・カルスタン陸軍大将の姿もあったのだが、目障りなのは剣聖だけだと、彼女に対しては鼻で笑って見せた。
「おやおや、誰かと思えば、共和国へ逃げたシド様の妹さんではないですか。貴方の前の世界最強と持て囃されていた、シギン様は、たった今ボクに負けましたよ? どうです? 敵討ちを兼ねて次はボクと戦いますか?」
ネオは、魔法使いである以上、貴様など眼中にないと煽ってやったつもりだったのだが、ロズウェルは予想外の返事をして見せた。
「私の方を見ている暇あるの?」
「何?」
ふざけた事を言いやがると叫ぼうとしたが、その前に首筋に冷たい物が当たる感触を覚えて、後ろを振り向く。そこには、自分の首筋に剣を向けるガルダ・ザルバトーレの姿があった。
「やあ!」
「何だと?!」
完全に慌てた様子で、先程までシギンの前にいた方のガルダ・ザルバトーレに目を移す。すると、空気に溶けるようにガルダ・ザルバトーレの姿が消えていった。
訳が分からないと首をかしげるネオに対して、自信ありげにロズウェルは種明かしをした。
「簡単よ。貴方が母に放った魔法を消した後、ザルバトーレ元帥はそのまますぐに貴方の後方に回り込んだだけ。ただ、私の掛けた幻覚魔法のせいで、貴方はそれに気づかなったの」
このボクにいつ幻術を掛けたとネオは驚愕した顔を見せ自尊心を大いに傷つけられたが、同時に、こちらに向かって大勢の兵士がやって来るのを視認できたため、リベンジはまた次の機会と潮時を悟った。
「なるほど、ひたすら攻撃魔法を極めたシギン様とは違い、こういう姑息な魔法を貴方は得意とするのですね。覚えておきましょう。ですが、覚えておいてください、ボクもこういう魔法は得意なのですよ。フライ!」
本気で抑えていなかったとはいえ、ガルダも反応できないほどの速さで魔法を起動し、風を纏いながらネオの体は空に向かって上昇した。
「どうです? あなた方の空鯨船の飛行機関の仕組みを解析してボクが新たに開発した飛行魔法です」
人間を空に飛ばす魔法なんて考えもしなかったと目を丸くする眼下の人々を眺めながら、ネオは最後にこう言い残した。
「陛下の計画するラグナロクが発動した時があなた達の最後です。その時にもう一度会えるでしょうから、今日の決着はその時につけましょう」
そして、そのまま地上を見ることなく、空鯨船を遥かに超える速度で、ネオは空の彼方に消えた。
「やれやれ、やっと行ったか。正体を知らんとはいえ、私を民主主義の旗頭と勘違いするとは、片腹痛いな」
瓦礫の山から少し離れた位置で、ボロボロの服を着たユーリ・メルクリアと彼の愛犬と周囲には思われている黒い犬ケルベロスは、駆けつけた兵士達と同様に、空の彼方に消えたネオのいた方角を眺めていた。
「まあ、本来であれば、協力して私に歯向かうはずの、使徒共が互いに争っている所を見るのは痛快ではあるが、一体どれだけの書類と人材が消えたと思う? 謝罪と賠償を要求したいところだ」
賢者ネオの放った魔法の爆発に巻き込まれて、致命傷を受けたメルクリアではあるが、不老不死の魔王である彼が神剣以外の攻撃で死ぬ事はない。
それどころか、魔王固有の能力である闇の魔力を使用したため、服は修復できないが、傷の方は既に完全に治っていた。
なので、彼的には糞忙しい時に、庁舎や人材、各種重要機密の書かれた書類を失った方が痛手だった。仕事がなくなってラッキーなどという馬鹿な発想は微塵もない。
「仕方ない。これまでは優秀な奴だけゼラシード商会から引き抜いてきたが、今後は、二級線の人材も引っ張って、失った人材の穴を埋めるとしてだ」
ここからは万全を期して、距離はあるが周囲に聞こえないように、テレパシーでの会話に切り替えた。
(問題は帝国か。遂に出てきたな)
(ああ、最後の敵だ)
勇者を倒し、高い技術と経済力を誇る共和国とイスラ同盟国の双方を事実上の支配下に置き、国境を接する北方の中小諸国も、外遊のおかげで統合軍への参加をほぼ確実なものにした。
中小諸国はまだあるが、警戒するほどではなく、中には共和国からの投資欲しさに、向こうから統合軍への参加を打診している国もある。
よって、大勢を動かせるほどの力を持つ勢力は、同じ三強のユグド王国とバイキング帝国を残すのみとなった。でも、この両者の間には明確な差がある。
(老人の国である王国など、今の統合軍でもいつでも潰せる。問題は先代の頃から軍事拡大を図り、今の皇帝の代で最大に版図を広げた帝国だ)
(やはり、今の統合軍では勝てんか?)
(ああ、普通に考えれば、守るならばまだしも、攻めるのは難しい。それに連中がユニオン商会から奪った造船所や空鯨船の技術をどう扱っているかの情報が全く掴めない。相当、厳重に管理しているのだろう。ただ、残念なことに、あの飛行魔法を見るに何もしていないわけでないようだ)
そう考えると今回の賢者の襲撃は良い方に転んだと、メルクリアは微笑んだ。
武力で帝国を屈服させたいメルクリアにしてみれば、共和国とイスラ同盟国の国民に、帝国に対する危機感を植え付けることができたのだから。
(それで、次はどうする?)
(予定を前倒して、王国をこちらの味方に付ける。あそこは老人の国だが、近衛騎士団を始め優秀な傭兵が揃っているからな。是非とも彼らを味方に付けたい)
(だが、プライドの塊である王国貴族が軍権を捨てて、統合軍への参加を良しとするか? よしんば、参加を表明しても、現在評議会が独占している指揮権を寄越せと言ってくるのは目に見えているぞ)
共和国の歴史は百年にも満たない。ゼラシード商会の活躍により、今の三強体制が生まれてから数えても三十年ほどで、帝国も建国したの二百年前。
翻って、ユグド王国が建国したのは今から千年前だ。それだけ長い歴史があれば、王国の貴族が増長するのも頷ける。
それなりに長き時を生きているケルベロスにとっては、没落気味とはいえ、帝国よりも王国の方が厄介だという考えがぬぐえないのだが、メルクリアは問題ないと自信ありげに答えた。
(ローラン伯爵領。あそこさえ、王国から切り崩せればほとんど終わったも同然だ)
心配する点はあるが、メルクリアが大丈夫と言うのだから、一先ず、追及はなしと判断したケルベロスはふと、ある事を思い出した。
(そう言えば、あの臆病者と結んだ印はどうなった?)
その問いにメルクリアは、ため息を溢し、傷一つない己の右腕を出す。
(この通り、腕は綺麗に再生できた。でも、魔法である印までは治せなかったようだ)
闇の魔力による再生は、肉体は瞬時に癒すが、掛けられていた魔法までは流石に元に戻せない。
賢者ネオは、メルクリアでも一人で倒せる相手だったが、そのためには魔王の力を解禁する必要があった。なので、無抵抗なままやられた振りをしたが誤った判断だったかもしれないと後悔していた。
ネオの攻撃で傷を負った右腕を、闇の魔力で元通りに直したまでは良かったのだが、魔法である印が消えてしまったのは、失態だとメルクリアは嘆いた。
(では、今の奴の腕は?)
(そのままだ。彼が約束を破らない限り健在だ。でも、こちらは印がないので、彼が約束を違えたは私には分からなくなった。反対に私が約束を違えた場合は、向こうの印は消えるので、彼はすぐに身の安全を考えることができる)
(それはそれは、奴にとっては随分と有利な状況になったな)
(まあ、私の印が消えた事を知らなければ、彼にとっては変わらないだろうがな)
少々、面倒になったと思いつつ、ケルベロスは今後どうするかを尋ねた。メルクリアは悩みながら、ある事を告げた。
(そうだな。もう私が魔王である事を隠し通すのは難しくなったのは確かだ。というよりも、実は隠す事に関しては諦めていたがね)
(?)
(これまで私は、人の心を読める忍者の加護を持つ者を警戒していた。魔物である君以外に正体を告げなかったのはそのためだ。秘密を抱えている私一人が常に周囲に気を配り、急に顔色を変えた人物がいないかチェックすることで、読心による秘密の漏えいは防げたはずだったんだ。全く、女神が教えるなんて糞みたいな展開がなければそれで十分と思っていたのに)
メルクリアの備えは完璧だった。それだけに理不尽なお告げで一点といえ水漏れしたのが許せなかった。
(お前そこまで事まで考えていたのか)
(ああ、だが、女神があの男に教えた時点でもう隠蔽には意味がないと判断したよ。女神にどこまでの事ができるか分からないが、また別の人間に私の正体を伝える可能性があるからね)
(なるほどな。それでどうするんだ?)
天界にいる謎多き女神の事まで考慮するのは難しい。ならば代案が必要だ。
(信頼のおける人間に、私が魔王であることを明かす。そもそも、歴代の魔王達は、忠誠を誓った人間に魔物の支配権を移譲していたのだろう? それを遅れながらやるだけだ)
確かにメルクリアの言うように、歴代の魔王達は、中間管職的なポジションが欲しかったので、配下の人間に力を与える代わりに忠誠を誓わせていたが、歴代の魔王とメルクリアには決定的な違いが存在する。
それは信頼。
歴代の魔王達は力に溺れ暴君になり果てる以前に、腕っぷしの強い盗賊や落ち目の貴族など人間として問題があった。魔王とか関係なしに万民が信頼するに値する為政者ではなかったのだ。
だが、長い年月を掛けて信頼と実績を積み上げ、とうとう共和国の大統領にまで上り詰めて、今も着々と成果を重ねているメルクリアは違う。
(流石に、今の段階で、世間に知らせて賛同を得る自信はないが、私への信頼と、安定した統一国家の実現のために、魔王の力を容認してくれそうな人物に多少は心当たりがある)
極一部とはいえ、今まで隠し通していた自らの正体を明かす。
そうメルクリアは賭けに出たのだ。
アマダ、まだ見ぬ忍者、それから女神の介入によって正体が露見する前に決着をつけ、世界征服をしてしまうことを。
そのための短期決戦に挑むために、魔王であることを知ってなお、自分に付き従ってくれる人間の配下を欲していた。
どの道、最終的には、統一国家の政権の中枢の人間を全てを魔王の信奉者にする予定ではあるが、世界の征服者として実権を握るまで、ここからはもうスピード重視だ。
(仮に、イレギュラーの事態が発生し、世間に私の正体が露見し、魔王の支配を認めないという連中が現れても、私がイスラ同盟国の中枢に居座ったまま、世界征服を成した後では、どうすることもできまい)
統一国家を樹立し、世界征服を成し遂げれば、後はどうとでもなる。
もっと詳しくいうと、王国を飲み込み、悪しき帝国を打倒し、絶対的な地位を確立したイスラ同盟国及び共和国が覇権国家となり、その前後にゴードンを追いやって自分がそのトップに君臨するのだ。
無論、世間へ自分の正体が露見することなく、穏便に世界統一できればそれに越したことはないが、状況に応じて、計画の途中で正体が露見しても問題のないように、メルクリアは入念に計画を立ていた。
(概ね、理解した。それで一先ず、帝国を倒すのが第一か。で、具体的には?)
ケルベロスの問いにメルクリアはとうとう話す時が来たという顔をして答える。
(今回の牽制とも思える賢者の襲撃と断片的に集めた帝国内の情報から見るに、帝国が共和国への攻め入るには最低でも後、半年から一年掛かると予想する。故にこちらは、その前の三、四か月以内に討って出る)
(? 三か月程度では、共和国側の戦力も今と大して変わらんだろう? 空鯨船には力を入れているから、多少は増えていると思うが)
(勿論、その通りだが、元から軍事大国の帝国にあまり時間を与えたくない。先程の賢者が言っていたが、ラグナロクなどと妙な事を企んでいるしな。それに三か月あれば十分だ。それだけあれば、ユグド王国を除いた帝国と領土を接する全ての国を秘密裏に統合軍へ協力させることができるだろう)
ケルベロスは黙って静かに聞いていた。
(詳しい事は後日話すが、私の計画通りに事が運べば、ローラン伯爵領を取った時点で、ユグド王国は詰みだ。それから、王国内における物流網の始発点であり、既に共和国との貿易を円滑に進めるために、兵站拠点にすぐ成り代わるほどに物流面の整備の行き届いたローラン伯爵領を拠点に、統合軍の陸軍主力は王国の国土を横断しイスラの森を迂回する形で、王国領から一気に帝国領に侵攻する。この時に、王国で活躍する有力な傭兵団や近衛騎士団が合流してくれればベストだ)
(ほう~)
ケルベロスの脳裏に、イスラの森を取り囲むように、上の方に共和国が、右の方に王国、左の方に帝国の三カ国が存在している周辺図が思い起こされた。
一見すると、共和国領から直接帝国領に侵攻するのが、距離的には一番手取り早いように見えるが、メルクリアの頭の中にはわざわざ王国領を通過して帝国領に侵入しなければならない理由があった。
(現在、帝国側はこちらからの侵攻に備えて共和国との国境付近には堅牢な要塞や砦を集中して建造中であるが、その分、王国側の国境付近は手薄だ。王国領経由ならば楽々帝国の国境は突破できるだろう。そして陸軍主力が、帝国領に侵入した時点で、密約を交わした帝国と直接国境を接する全ての国の軍隊が帝国領に一斉になだれ込み帝国軍の各方面軍を国境付近で釘着けにさせる。その間に空軍の援護爆撃を受けた陸軍主力が、一直線に侵攻し帝都を攻め滅ぼす。これで終わりだ)
何が起きるか分からないので、その都度修正するが基本計画はこんな感じだと、メルクリアはケルベロスに告げる。
すると内容を理解したケルベロスはこんな事を聞き返してきた。
(その計画には、魔王軍が入っていないな。どこで使うんだ?)
ケルベロスの質問に、メルクリアは、この時ばかりはテレパシーを止めて口を開けた。
「それはお楽しみだ」
この日から、凡そ一週間と三カ月後、メルクリアは当初の予定通りにローラン伯爵領を手に入れるのであった。
感想やブクマ評価ありがとうございます。
話数的にはまだまだ更新しますが、この作品もいよいよ終わりが見えてきました。
最後まで応援して頂ければ幸いです。




