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第三十五話 どうしてこうなった?

 もう王国編は終わってもいいんじゃないか?


 そう思わずにはいられないほど、激動の二週間だった。


 というものファルムの街から始まり、立ち寄る街々で、俺達は、様々な勢力からの妨害行為を受けてきたが、それらを全て跳ね除けて逆に返り討ちにしてきたからだ。


 連中、何やら色々と画策していたようだが、心を読めるアリシアの前では、全てが筒抜け。


 俺が適当に下っ端を脅して、読心能力を持つアリシアが情報を読み取り、アジトや幹部、ボスの情報を入手して一気に潰す。ワンパターンだが、この戦法だけで、全ての面倒事に蹴りがついた。


 チート装備を纏う俺に勝てる盗賊は一人もいないので、俺が武力面を担当し、アリシアが頭脳面というと疑問が残るが頭脳面を担当して王都に至る道中で邪魔をしてくる連中をバッタバッタと倒していった。


 その結果、盗賊団を三つ潰し、判決は出てないが、不正行為をしていた貴族を二つも白日の下に晒すこととになる。


 ただ、肝心のアリシアを狙う黒幕までは、遂に分からなかった。まあ、王都までの護衛が俺の役割なので、黒幕について自分達でやってくれ。


 そして、彼女達と出会ってから二週間後、ようやく俺達はユグド王国王都アルンに到着した。


 




 流石は、三強の一角を占める大国の首都。今まで見てきたどの都市よりも大きい。


 共和国の首都よりも都市の面積は遥かに大きく、道もきちんと舗装されている。


 建築技術ではやや共和国に劣るようだが、世界最大の都市という看板に偽りはないようだ。


 王国全土が不景気らしいが、王都だけは例外のようで、人も物も活気に溢れていることが一目見て分かった。地方を捨て、国の中枢である王都に一極集中しているだけとも言えるけど。


 馬車は王都の、めちゃくちゃ道幅の広い中央通りを抜けて、立ち入りが制限されている貴族街に入場、そして、ゴールであるオルトリンデ公爵家の屋敷にたどりついた。


「デカ!! もう城じゃん」


 馬車から降りて、巨大な屋敷を見て、思わず率直な感想が漏れてしまったが、初めてまともに見る中世ヨーロッパ風の異世界らしい建造物の姿に、余韻に浸る暇もなく、喜びの声が響いてきた。



「おお!!! アリシア無事でよかった!!!」


「お父様、ただいま戻りました」



 たくさんのメイドと共に、屋敷の入口で待っていた一人の男性が、アリシアの元に駆け寄ってきた。


 高貴そうな顔をして、四十代前半くらいの年齢と思われるこの金髪の美中年が、アリシアの父親アルバート・オルトリンデ公爵なのであろう。


「おお、よしよし、大丈夫だったか? 怖い目にあってはいないだろうな?」


 うっとしそうな顔をしているアリシアの態度に気づかないまま、抱き着いて、優しく頭を撫でてる。


 俺は一瞬で、この父親がかなりの親バカだと判断した。


「グレゴール、お前もご苦労だった」


「はい、旦那様」


 グレゴールさんに労いの言葉をかけた公爵様は、次に黒い鎧を着る俺の方を向く。


「それで、顔も見せない、お前は誰だ?」

 

 公爵様は険しい顔で、アリシアの前に立ちはだかるように移動し、鋭い俺の方を睨みつけてきた。


 あれ? 三日前くらいに、屋敷の方に鳥で連絡を入れたんじゃないの?


「あのね。お父様、その方は」


「手紙を読んで知っている。顔に酷い火傷があるのだろう?」


 この世界における勇者のイメージは、黒髪黒目の日本人なので、素顔がバレると面倒な事になりますよとアリシアから助言を受け、二人で考えて顔に酷い火傷の痕があるから、素顔は見せられないと事前に決めて手紙で連絡を入れていたが、それでも、顔を見せないのは気持ちの良いものではないようだ。


「初めまして、公爵様。私は、お嬢様から王都までの護衛を依頼された傭兵、黒騎士と申します」


 ここら辺の設定も、手紙に書いて連絡済みのはずだ。それなのに、何で、こんなに不機嫌なんだと思ったが、答えは簡単だった。


「貴様の功績は評価に値する。娘とグレゴールを救ってくれた事に関しては、礼をするが、貴様、私の可愛い娘に手を出していないだろうな?!!」


 知ってた。まあ、そうだよね。親バカだもんね。


 アリシアとお近づきになりたい人間にとって、この父親は最大の障壁であろう。でも、そんな気が微塵もない俺にとってはむしろ僥倖だ。


 下手に引き留めて来ないのだから、謝礼だけ貰ってさっさと退散することができる。


「ご安心を、娘さんにはこれっぽちも手を付けていませんよ。約束の報酬を頂いたら、すぐに出て行きます」


「ふん、そうか。では報酬を受け取ったら、さっさと消え失せるがいい!」


 おお、話の分かるお父さんだ。


 心を読めるアリシアの能力は大変魅力的ではあるが、俺の心の中まで四六時中、監視されているに等しいので、一緒にいると大変疲れる。


 はっきり言って、ストレスしか感じない。


 こういった考えも恐らく、アリシアにはバレているのだろうが、ここまで共に戦ってきた彼女には申し訳ないけど、これが俺の率直な意見だ。


 自分の心の平穏を守るために、早くここを出て行こう。


 そう考えていると、アリシアが声を上げた。


「お父様、そのお礼と報酬の件で、お父様にお話があります。後でお時間を頂いてもよろしいでしょうか?」


 俺の心の中の言葉に怒っているわけではないようだが、どうやら、アリシアは父親と内密に相談したことがあるようだ。


 報酬なんていらないから早く解放して欲しいのが、本音ではあるが、この二週間の苦労を考えるとちょっとはご褒美が欲しい。


 今の思考で、彼女を傷つけてしまったと思うが、俺が貰って嬉しい物を引き出せるように頑張って交渉してくれと願うのであった。






 今日はもう遅いから、屋敷で体を休めるといいと言われて、離れの屋敷で一晩を過ごした。


 公爵様も、アリシアも顔を見せないので、大変気が楽だった。とはいえ、素顔を晒せないので、ずっと部屋に籠っていたが。


 そして、早朝、突然メイドからの連絡を受けた俺は、断る理由も特になかったため、言われるがままに馬車に乗って、何処かに連れていかれた。


「どこに行くのですか?」


「申し訳ありません、それにつきましては、お嬢様からお伝えするなと固く命じられております」


 メイドのこの返答を聞いた時点で気付くべきだったが、気付いた時には手遅れだった。


「ねえ、ここ王城じゃね?」


 馬車が停まったところは、王都の中心にそびえるとてつもなく巨大な城の前だった。


「その通りです」


 その通りです、じゃねえ!


 え? 何がどうしてこうなった?


「陛下への謁見の準備は整っております。城の案内の者の指示に従って、真っすぐに玉座の間に行ってください」


 全力で逃げ出したい。警備の衛兵がたくさん見えるけど、今ならばまだ逃げられる。


 しかし、それだと最悪不敬罪とかになりかねない。小心者の俺は、やって来た案内人の指示に従うしか道がなかった。





 玉座の間には大勢の人間が詰めかけていた。


 衛兵もいるが、大半が貴族だ。広間の左右には、宝石が散らばれた色とりどりの衣服に身を包んだ貴族達が並び、全身を黒い鎧で覆われた俺の事を品定めするように観察してヒソヒソと囁いていた。


「あれがそうよ。顔に大火傷の痕があるから、顔面を覆う鎧で顔を隠しているそうよ」


「私が聞いた話とは違うな。もの凄く不細工だから、城の者に顔を隠すように言われたらしいぞ」


 随分と好き勝手言ってくれる。この国に災いあれと心の中で叫んだ。


 ゆっくり歩きながら、ちらりと見たが、玉座には、王冠を被ったおじさんが偉そうに座っていた。このおじさんがこの国の王様だろう。


 ついでに、綺麗な赤いドレスに身を包むアリシアと彼の父親の公爵も視界に収めた。


 そして、入室する前に案内してくれた人が教えてくれたように、玉座まで続く赤い絨毯の上で膝をつく。


 俺が位置についた事を確認すると王様の隣に立っていた老人が、広間中に轟くほどの大きな声を出した。


「それでは、これより論功式を行う!!」


 王城に着いた時点で薄々気づいてはいたが、やっぱりそういう要件で呼び出されていたようだ。


 俺はこの国に永住する気は欠片もないので、領地とか要らんぞと思いながら耳を傾ける。


「まず、この者の功績について発表する。第一に、盗賊団ヴェノムの襲撃を受けたアリシア・オルトリンデ公爵令嬢を救った事だ」


 うん。元を正せば、この件の報酬を貰うためにわざわざ王都まで護衛したようなもんだ。だから、特に何も思わないが、どうも、第一というのが引っかかる。


 そして悪い意味でそれは当たった。


「第二に、この場にいる者も噂程度には知っていると思うが、盗賊団ヴェノムのボスの捕縛並びに、ヴェノムと裏で繋がっていた不届き者ファルム子爵の罪を白日の下に晒した!!」


 宰相と名乗った老人の言葉を聞き、先程以上に、広間中におお!という歓声が鳴り響いた。


「あのヴェノムを潰したのはこの黒き騎士だったのか!!」


「あの盗賊団には我が領も被害を受けていた儂からも報酬をやろう!」


「フェルム子爵家も取り潰しであろう。さて、一体誰があの領の利権を手にするやら」


 純粋にヴェノムを潰した事を讃える声もあるが、それ以上に、ファルム子爵の処遇と残った権益をどうするかの方に興味を持っているみたいだ。


「第三に、かのクオーツ伯爵を殺めたキマイラ盗賊団を完膚なきまでに潰した!!」


 再び、広間に歓声が轟く。


 クオーツ伯爵云々は知らないが、クオーツ盗賊団はファルムの次の街に行く道中に、襲ってきた連中だ。


 襲撃してきた連中は下っ端だったが、アリシアが心を読み、隠れアジトがすぐ近くにあるのが分かったので、俺一人でアジトを強襲して、他の構成員をボコボコにしてボスだけ拉致して次の街の衛兵に突き出した。アジトの場所も教えてあげたので、残ったメンバーも縛り首だろう。


 こんな感じで、宰相は、ファルム子爵家から王都に至るまでに、俺が挙げた功績を次々に発表した。


 嘘ではないし、他人から見れば簡単に終わったように見えるが、実際に動いた俺からすれば、とても苦労した。頑張ったなと自分を褒めたいくらいだ。


 なので、働いた分の報酬は確かに欲しいが、宰相の言葉を聞いている内に、妙な胸騒ぎと同時に何か違和感のような物も感じ始めた。


「第八の功績は、レクトール男爵領のお抱え商人が違法な薬物を栽培していた件だ。」


 うん?


 一部の貴族からはまだあるのかという声も聞こえてきたが、ここでようやく俺は違和感の正体に気が付いた。


 この件に俺は一切関与していない。


 立ち寄った街で、読心能力を持つアリシアが自分で勝手に気がついて、領主に報告しただけだ。俺も全てが終わった後に事後報告で聞いていただけなので、気にも止めなかった一件だが、何故か全部俺の手柄になっていた。


 というか、先程からアリシアのアの字も話題に上がっていない事に、今更気が付く。


 無敵に近い圧倒的な武力を持つ俺でも、アリシアの読心能力がなければ、どれも解決できなかった。それだけ、彼女の持つ力は情報戦において無敵なのだ。


 なのに、彼女の功績が一度として取り上げられていない。


 おい、これはどういう事だ?


 俺は一瞬だけ目を横に向けてアリシアの方を見る。


 すると彼女は、いつかのお遊びの時と同じような、とても嬉しそうな笑みを浮かべていた。


 くっそ嵌められた!!


 その顔を見て俺は、瞬時に理解した。


 アリシアの奴、自分の手柄も全部、俺の手柄にしやがった。


 確かにアリシアが忍者の加護を持つことは明かせない。それは理解できる。でもだからって、何もかも全部、俺の手柄にする事ないだろう。


 学業優秀で、頭脳明晰な自分がやりましたと言ってもいいし、グレゴールさんの功績にしてもいいだろう。でもあいつは、それをやらなかった。


 恐らく、丁度いい塩梅に調整する事も十分可能なはずだったのに、俺が護衛の片手間に、みんな潰したかのように報告したのだ。


 これを善意でやっているのであれば、無欲な優しいお姫様だと考えるだろう。でも彼女には、面倒事を避けたい俺の心の中が分かるはずだ。


 つまり、百パーセントの悪意を持ってやっている。



 人の心が分かる読心能力は、使い方次第で、他人の思考や行動をある程度誘導することができる。



 怖いので教えるつもりもなかったし、俺と出会うまではそんな事ができるとはこれっぽちも思っていない様子だったが、もしかしたら、この二週間の旅の中で、その可能性に気がついてしまったかもしれない。


 仮に、力の使い方を理解していたら、俺の事を、第一印象から嫌っていた父親をねじ伏せるなど朝飯前だ。


 俺は、やべぇーモンスターを生み出してしまったかもしれない。


 あのにこやかな笑顔の裏で何を考えているやらと考えると、和やかさは消え失せ、恐怖すら覚えるが、そうこうしている内に、功績発表は終わり、いよいよ審判の時が来た。



「では、此度の黒騎士殿の功績を称えて、王国金貨一千枚と、王国白銀天竜勲章と、騎士爵を与え、そして、近衛騎士団への入団を認める」


 宰相が報酬内容を告げると大広間に、今までにないほどの大歓声が響いた。


「王国白銀勲章だと!! 一体、何十年ぶりだ?」


「金貨一千枚も羨ましい。屋敷が一つ建てれれるぞ!!」


「頭脳明晰、天下無敵、まさに最強の騎士の誕生だ!!」


「帝国や共和国の連中も、震え上がるだろうよ」


「それよりも、彼に我が領を荒らす盗賊共を始末してもらえんか? アジトの場所が分からなくて難儀しておるんだ」


 いやいや、金貨と勲章は貰って終わりだから、それでいいが、近衛騎士団入りは御免被る。


 この国で目的を果たしたら、すぐに別の国に行く予定だったんだぞ!!


 冗談じゃない!


 俺はすぐに辞退する旨を伝えようとした。だが、その前に今まで静観していた国王が口を開いた。


「うむ、これだけ優秀な者に守って貰えると余は幸せものじゃ。アルバート、此度の、貴様の娘が繋いだ縁、必ず王国の未来に役立つ事だろう」


「は、私としては、少しだけ思うもあるのですが、陛下がご満足されることが一番だと考えますので、そのお言葉ありがたく頂戴いたします」


「なんじゃ、貴様の所で専属騎士にするつもりじゃったか? だとしたら悪い事をしたの。ハハッハハ!」


 思うところがあるならもっと頑張れよ!!


 俺を近衛騎士団なんかに入れるなよ!!


 アカン。とてもじゃないが、辞退しますなんて言える空気ではない。


 一体、どうしてこうなった?


 アリシアの奴、俺に恨みとか抱いているのか?


 俺は自分の無力を噛みしめて、お礼を述べて、顔を伏せるしかなかった。







 式典が終了した後、すぐに俺はアリシアを問い詰めた。


「おい、どういう事だ?!」


 俺がかつてないほどの怒りを感じているのは、お前が一番よく理解できているだろうと睨むが、アリシアの一言を聞いて、激しく動揺することになる。


「ジオ・エクセ二ウム鉱石」


「な、何?!」


 何故それを知っていると尋ねるのは愚問だな。


 俺の脳裏に女神様との会話が思い起こされる。



『ジオ・エクセ二ウム鉱石。莫大な魔力が宿る、この鉱石が空中要塞ギャラルホルンの動力源よ』


『なるほど、それでどこで採掘できるのですか? イスラの森にいた時は、一度も聞いたことない鉱石ですが』


『地下深く。今の採掘技術では入手不可能よ。でも、一昔前の火山活動で、動力源作成が可能なほどのサイズの物が、地表に出たわ』


『ほう? で、それは今どこにあるのですか?』


『ユグド王国よ。ただ、それ以上は分からないわ。ここからでは、生物の観察しかできないから、鉱石がどこにあるかまでは分からないの、それに一度に複数の人間の監視なんてできないのよ』



 俺が最初に、王国を目指した最大の理由は、一番入手難易度が高そうな、このジオ・エクセ二ウム鉱石を手に入れるためだ。


「ジオ・エクセ二ウム鉱石は、私が探します。ですが、それまでアマダ様はお暇でしょう? なので、その間のお仕事を紹介しました!」


 明るい笑顔で言うが、何てことしてくれたんだと、俺は心の中で叫ぶ。


 確かに今の俺は無職だが、報奨金をたっぷり貰っているので、生活に苦労する事は無い筈だ。そもそも築城の加護もあるので、飢え死にする事もない。


 折角、働かなくても良い状況なのに、わざわざ職を用意するとかこいつ悪魔か?! 何を考えていやがる?!


 怒り爆発寸前だが、冷静に考えてみれば、確かにアリシアならば、所在が不確かなジオ・エクセ二ウム鉱石も簡単に見つけられるだろう。


 ぐぬぬ。仕方ない。


 それならば、ジオ・エクセ二ウム鉱石が見つかるまでは、現状を受け入れるのも悪い判断ではない。


「うう、……分かった。ではお願いする」


「はい!!」


 アリシアは、俺の言葉を聞くととても良い笑顔で返事を返すのであった。








 ごめんなさい。アマダ様。


 あなたが、私に対してこれっぽちも良い感情を抱いていない、それどころか、少しだけ憎んでいることもちゃんと分かっています。


 論功式の件でも、怒り心頭な事も納得していないのもきちんと理解しています。


 それでも、たとえ嫌われているとしても、私はあなたが遠くに行ってしまうのが嫌です!!


 あなたの心の声が聞こえなくなると心が痛むのです。


 無理なお願いだと思いますが、ずっと傍にいて欲しいとさえ思っています。


 ですが、私には公爵家の人間として果たすべき役割があります。アマダ様のように、今の立場を捨てる勇気がないのです。


 それならば、私がアマダ様の面倒を一生見てあげればいいのではと考えもしました。ですが、たくさんの人間が住むこの王都での暮らしをアマダ様は、きっと拒絶なさるでしょうから、口にも出せない叶わぬ願いです。


 ですので、せめてもう少しだけ、この国にいてください。


 勿論、ジオ・エクセ二ウム鉱石はちゃんと見つけます。


 手心は加えません。本気で最速で探すつもりです。


 でもきっと、ここまで私の感情が揺れ動いているのは、恐怖もあるからなのでしょう。


 アマダ様とグレゴールには黙っていましたが、私達を襲撃するように盗賊達に依頼していた貴族の正体を私は既に掴んでいます。


 その人物は、オルトリンデ公爵家ですら、容易には手が出せないとても強大な力を持つ貴族、共和国との貿易を一手に引き付けるあのローラン伯爵家です。


 私は、盗賊のボスが、ローラン伯爵からの使者と名乗る男性と密談していた光景を見てしまったのです。


 共和国との貿易停止令のせいで、落ちぶれるのではと心配する声もありますが、ため込んだ莫大な財は健在です。だからこそ、何をしてくるのか? ここからでは、民から慕われる善良な領主と名高いかの伯爵の真意は分かりませんが、震えずにはいられない相手です。


 願わくば、ジオ・エクセ二ウム鉱石が見つかる前に、ローラン伯爵の一件が解決される事を切に願います。







 日の沈んだ頃、湯あみの前に、私は近衛騎士団に合流するまでの数日の間、オルトリンデ公爵家の本邸の近くにある離れの屋敷に滞在することになったアマダ様の下に、寝る前のご挨拶するために赴きました。


 本音を言えば、私の専属の護衛騎士になって欲しかったのですが「例の秘密の地下室を奥方達にお話します」と、脅迫しても、それだけは譲らなかったお父様に対しての愚痴を溢しつつ、移動しました。


 離れの屋敷に入り、真っすぐにアマダ様のお使いになっている部屋を目指します。


 すると、部屋の前で、二人のメイドが困っている様子をしているのを発見しました。


「どうかされたのですか?」


「あ、お嬢様! はい、黒騎士様なのですが、屋敷に戻ってから、これはもう久しぶりに酔わないとやってられないと仰りになりまして、ありったけの酒を持って来てとの、ご指示を受けましたので、その通りにしたのですが、先程から部屋の中の様子がおかしいのです」


 ん? そう言えば、この二週間、アマダ様がお酒を飲んでいるところを余りお見掛けしませんでしたが、考えてみれば、あの方はお酒に強いのでしょうか? 


「おかしい? どうおかしいのですか?」


「はい、部屋の中から、偶に怒鳴り声が聞こえて来るのです」


 酒癖悪かったんですね。


 その自覚があったから、余り飲まなかったんですね。


 お酒を飲むと豹変する方はいますが、お酒とはそういう物です。


 あまり珍しい事ではありませんねと、一人納得していると、メイドの片方がこんな事を言ってきました。


「ほとんど聞きとれなかったんですが、一点だけしっかりと聞こえてきました。ただその内容が、メルクリアの奴、魔王の癖に大統領なんて生意気だぞという言葉で……」


「あのメルクリアという方は、共和国の前の大統領のお名前ですよね? その方が、今の魔王なのですか?」


 その事を聞いた時、最初はあまり動揺しませんでしたが、すぐに体が震えるのを感じました。


「今聞いたことは絶対に他に喋ってはいけません。他言無用です!! それから、毛布か何か持ってきてくだいさい」


「「は、はい」」


 この屋敷で働くメイド達は、秘密事には慣れっこなので、他言する心配はないと思いますが、私の心配は別の所にありました。


 メイド達を一旦、遠ざけると、二人から受け取った部屋の合鍵を使って、私は急いで部屋の中に入ります。


 アマダ様は、大量の酒瓶に紛れて机の上に顔を伏せて眠っていました。


 このままお酒を飲んで寝るつもりだったのでしょうか? 後で背中に毛布を掛けてあげるにもしても、その前に確認すべき事があります。


 幸い、いつも着用している鎧を着ていないので、以前、一度だけ目にした印が押された右腕を簡単に目にする事ができました。


 そして、愕然としました。


「ハハハハハハッ」


 嘘でしょう。


 これって、私のせいなのでしょうか?


 ヤケ酒するほどアマダ様を追い込んだ私が悪いの?


 それとも、彼が遠くに行かないように、悪だくみした罰なの? 


 そもそも、私が心の中を覗いた時は、紙一重で回避できたのに、こんな馬鹿馬鹿しい事でアウトになるなんて、おかしくないですか!!


 でも、もうどうしようもありません。


 幸か不幸か、アマダ様は大陸でも有数の戦闘部隊と名高い近衛騎士団に入団します。近衛騎士団の人達はみんな、化け物級にお強い方々ばかりです。


 流石の魔王も容易には手が出せないでしょう。


 それでも、これとそれとでは話は別です。


「アマダ様。私の目が黒い内は、もう二度お酒なんて飲ませませんよ」


 ちょっとだけ、不機嫌な気分になりながら、眠っている彼の頬をつねると、私は静かに部屋を後にしました。




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[気になる点] このクソ忍者なにしてくれんだほんま。
[良い点] 展開が早いwww やけ酒で叫んでアウトってwww あと、ヒロインちゃんが実に雌い・・・
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