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第三十三話 アリシア過去編 呪われし姫君

感想や評価を頂きありがとうございます。やる気が出てきます。

 女神ソロンが勇者を支えるために選んだ、加護を与えられし七人の使徒達。


 聖女、狂戦鬼、剣聖、竜騎士、賢者、武闘家、そして忍者。


 何度も何度も、歴史に登場するため、知識階級にいる者であれば、加護が与える力について詳しい者も珍しくはない。


 だが、この中で、唯一ベールに包まれた加護がある。それが、忍者の加護だ。



 相手の次の動きが分かる未来予知能力。


 周囲の人間がどこにいるか分かる探知能力。


 相手の記憶を暴く能力。


 忍者の加護の力が曖昧な理由は、七つの加護の中で最も使い手の力量で化ける力だからだ。


 ただ本質的には、周囲の人間の心の声を聞く力だ。


 これは、自分と偶然似ているという理由だけで、戦闘能力がないにも関わらず、使徒に選ばれたとある少女の物語である。








 私の名前はアリシア・オルトリンデ。


 ユグド王国屈指の名門貴族、オルトリンデ公爵家に連なる者の一人です。絶対にないと思いますが、かなり下の方ですが、一応、王位継承権を持っていたりします。


 今年で十七歳になりました。


 今は、王都にある貴族向けの学校で、立派な貴族の妻になるために、マナーや嗜み、ダンス、芸術、国の歴史など、日々、勉強に励んでいます。


 女子なので男子生徒のように、剣術や馬術のような授業はありませんでしたが、いつも学年でトップ1、2を争うくらいには奮戦していました。


 最も、屋敷にいるのが辛い私にとって、学校だけが唯一心を休める場所だからという理由で、勉学に励んでいただけですが。


 私を産んでくれた母エミリアは、私が物心がついた時には、病気で亡くなったと聞きます。そのせいか、父アルバート・オルトリンデ公爵は、十人いる子供の中で私に対してだけ、異常なほど愛情を注いでくれます。後、執事長のグレゴールと庭師のロバートさんもお父様に負けないくらい甘やかしてくれます。


 私には、本くらいしか欲しい物はありませんが、頼めばすぐに買ってくれます。


 他の子供達や奥方達が、宝石や武具、屋敷や交際費を要求する中、共和国の技術発展で、紙の製法や印刷技術が向上し、安い買い物になった本だけを欲しがる私を見て、お前はなんて無欲な奴だと、お父様はよく褒めてくれました。


 ですがその結果、いい子をしている私を目障りだと感じたのか、他の血の繋がらない兄弟、姉妹、奥方達は、私の事を目の敵にしてきました。


 私の私物を隠したり、食器を割って私がやったと冤罪を掛けてきたりと、父や使用人にバレないように、陰湿な嫌がらせをしてきたのです。


 勿論、最初は、止めるように、お父様に注意してもらおうかと思いました。


 でも、この頃には既に社交界の華と称えられて、学校でもトップクラスの成績を修めていました。


 そんな時に、オルトリンデ家の話題の娘が、家族からいじめを受けていたという噂が広まれば、オルトリンデ家の評判は地に落ちるでしょう。


 私は、家名を守ることが貴族に生まれた者の使命と習っていたので、自分の中で、黙っている事にしました。私一人が我慢すれば、それで済むからです。



 そして月日が流れて、今から約半年ほど前、私は忍者の加護を持つ使徒に選ばれました。







「やあ、アリシア君。君は前からこの本を探していたようだね。プレゼントするよ」


 ある日、図書室で静かに読者をしていた私に話掛けてきたのは、一つ上の先輩で、ブライアンという名前のとある男爵家の嫡男でした。


 成績優秀、眉目秀麗。学校内では女子生徒達によってファンクラブもあると噂の生徒会長でもあります。


 お父様が、婚約話すら禁止しているため、私自身、男性とのお付き合いがどういうものか分からずにいるので、対応に困っていますが、どうやらこの方私に気があるようで、少し前から私にお茶会に来ないかなどのお誘いをしてきてくれます。


 今日まで色々な方から、お茶会やデートのお誘い、社交界への参加、中には結婚してくれと求婚してくる人達がいましたが、その全部をお父様に許可がないと無理なので、お父様に聞いてみて下さいと言って断ってきました。


 流石に公爵家の当主に突撃する方はいないので、これを言えば終わりです。


 ただ、このブライアンという方は、本好きな私のために、面白い本を紹介して持ってきてくれるので、悪い人ではないと思っていました。


 恋愛感情は分かりませんが、私は、この方の事を他の男性よりは好意的に捉えていました。


「ありがとうございます、ブライアン先輩」


「いやいや、お礼を言うのはこちらの方だ。何せ今や王国の宝石と社交界で最も輝くレディーが喜んでくれたのだからね」


 少々、大げさですよと、謙遜して私はブライアン先輩から本を受け取りました。


「おっと、手と手がぶつかってしまった」


 その時、態とかどうかは分かりませんが、先輩の手と私の手が触れてしまいました。


「君の手は雪のように白く、一切の汚れもなく本当に綺麗だ」


 ブライアン先輩は、何やら、私の手を褒めてくれましたが、この時の私は、目からではなく、頭の中に直接送り込まれる映像に心を奪われてしまいました。映像の流入は手を離した途端に治まりましたが、今度は、耳ではなく頭の中に直接、声が聞こえてくるようになります。


「? 大丈夫かね。 医務室に行こうか?」


 優しい声で、私を心配するブライアン先輩。いつもであれば手を取っていたでしょう。ですが、この時、同時に頭の中に響いてくるブライアン先輩の声は、いつもの優しい彼とはまるで別人でした。


(おや? もしかして気分が悪いのかな? だったらこれはチャンス。看病と称して僕の寮室に連れ込んで、さっさと既成事実を作ってしまおう)


「え?」


 混乱しショック受けましたが、まだこの声の主が、本当に彼のものなのかは判断がつきません。もしかしたら、幻聴かもしれません。なので、問うてみました。


「ブライアン先輩は、私を先輩の寮室に連れ込みたいのですか?」


 その一言を聞いて、ブライアン先輩の顔が明らかに焦り出します。


「やべえ、心の中で言ったつもりだったが、千載一遇の好機を前に、思わず口を滑らしてしまったのか……ちょ、ちょっと、急用を思い出した。悪いけど、先に帰らせてもらおう」


 ブライアン先輩の方から、図書室で私に話掛けてくれたのは、この日が最後でした。 



 その夜、私は夢を見ました。夢の中で、金色の髪をした私によく似た少女が、こう囁きました。


『魔王を倒しなさい、あなたに与えたその忍者の加護の力を使って、魔王の正体を暴くのです!!』





 この日を境に私の世界は一変しました。


 私に与えられた力は、本来であれば、誰も伺うことができない人の心の奥底に眠る思いを暴きます。それが苦痛でした。



(おお、アリシア様、今日も綺麗だわ)


(どこの商会の香水を使っているのでしょうか?)


(ヤバい、朝からアリシア様のお姿を見てしまった。今日はいい事あるかも)



 このように、純粋に私の事を褒めてくれたりしてくれる人も多少はいました。でも、こういう方々は極少数です。


 会話せずとも周囲の人間が、その時に何を考えているのかを私の意志など一切無視して教えてくれる忍者の加護の力は、私の心を少しずつ冒し始めました。



「あの先生。今日の授業で習った、この部分が分からないのですが」


「どれどれ」(うひょ~、また胸が大きくなったな。やっぱり、この娘たまんねえ! 何とか、俺の物にできないかな)


 入学時から、色々と親身になってくれた先生でしたが、この男性の先生に質問をしにいったのは、これが最後でした。



「アリシア先輩! おはようございます!!」


 同じ生徒会で活動している一つ下の年齢の後輩のマルクル君。彼は私の事を凄く慕ってくれてとても良い子でした。ですが……。


(おお、やっぱり良い笑顔だ。兄様達が屋敷に連れて来いというのも理解できるな。僕としても早く先輩に薬を使った快楽を教えてあげたいし)


 マルクル君が心の中で言う薬というものが理解できなかった私は、思わず、意識を集中して彼の心の中を覗きこんでしまいました。


 この時、初めて分かったことですが、一人の人間に意識すると、その人の頭の中で思い浮かべている光景が頭の中に絵画を見ているように浮かんできます。


 私の頭の中に、マルクル君の他数名の男女が裸のまま、ピンク色の煙が充満した部屋で、恍惚そうな顔をして奇声を上げて体を重ねている光景が浮かんできました。


 気分が一気に悪くなりました。


 恐らくですが、これはこの前、女子学生だけが受けた夫婦が愛し合う方法と子供の作り方という奴です。でも、マルクル君が屋敷でお兄さん達と行っているこれは、授業で習ったものとは明らかに違う気がしました。



「おい、アリシア! 来月の記念式典の書類はどこにやった?! もうできているのだろうな?」


 この方はルード様。伯爵家の次期当主で、昔から社交界などで顔を合わせる機会が多かったのですが、ルード様の家とオルトリンデ公爵家は昔から仲が悪く、私の周囲の人間の中では数少ないきつく当たってくる方です。


「それならば、こちらにあります。目を通してください」


「ちっ、相変わらず仕事の早い奴だ」(本当に目障りだ。こいつが公爵令嬢でなければ、他の女共と同様に、拉致して調教するなり、奴隷商人に売り払うのに、いや、この歳で未だに婚約者がいないってことは、もしかしてこいつ既に傷物なのでは? なるほど、買い手がいないわけか。ならば、表向きは結婚して裏では従順なペットにしてやるのもいいかもしれないな)


 私まだ生娘なのに……。何人かの男性は、婚約すらしない私の事を実は傷物だと疑っていているのを知ってかなり落ち込みました。



 また、男性だけでなく、女性も、私の事を恨んでいました。


「アリシア様、ごきげんよう」(ちっ、何よこの女。私の婚約者をメロメロしておいて、本当に頭に来るわね。一度、社会の厳しさを教えてあげようかしら)



「アリシアさん。おはようございます」(この女がいなれば、私が王国の宝石と称えられていたのに、キイイイ!!!)



 学校の方々とは決して親しい中ではございませんでした。それでも、普段気軽に接していると思っていた男性の方々の九割以上は、優しい言葉を接してくれる裏で、頭の中で私の衣服を剥ぎ取って辱めていました。


 あの授業を受けて以来、公爵家の令嬢としていつか私も男性に抱かれる日が来ると覚悟しましたが、これはあんまりです。おもちゃかペットのようにしか思ってくれていないのですから。


 女性の方も、私の容姿に嫉妬しているのか、口では綺麗と言ってくれますが、心の中では汚く罵っています。


 屋敷が居づらい私にとって、学校は心が休める場所でしたが、この力のせいでなくなってしまいました。



 



 しかし、世の中には、もっと酷い人達がいます。


 社交界で挨拶をしてくれる大人の貴族の方々です。私の事を優しく見ていた方など皆無でした。


 もう見たくも聞きたくもありませんが、残念ながら、公爵令嬢の責務として社交界に顔を出さなければならないので、何度も顔を合わせてしまいますが。


 社交界に列席する当主となると、奥方にも内緒で、屋敷の地下などに秘密の部屋を隠し持っていて、そこで奴隷や使用人は勿論の事、街でさらってきた平民の娘、家格の低い貴族や平民の家に実家の圧力を掛けて連れてきた女性達に、首輪で繋ぎ、自分の欲望を満たすために相手をさせているそうです。


 反対に、男性をさらって、同様に侍らせている女性の当主も少なからずいましたが、これらの所業は、実は、表社会には出ないこの国の貴族の一種のステータスとして浸透しているのようです。


 ともかく、力の制御ができないので、社交界に出ると、気味の悪い光景が頭に浮かぶのです。


 何とか、平静を装いましたが、こんな国滅んでしまえばいいのにと何度も思いました。ですが、同時に知ってはいけない事まで知ってしまって怖くなりました。


 この力は、個人の性癖だけではなく、他の貴族の隠している犯罪や、国の最高機密まで暴いてしまいます。なので、私が忍者の加護に目覚めた事は誰にも教えることができませんでした。


 そして、この国に失望した頃、更にショックな出来事がありました。



 

 ある日、私は、亡き母エミリアの墓前の前に泣いていた庭師のロバートさんから流れてくる悲痛な心の声を聞いて真実を知ってしまいました。


 他の奥様達が、ロバートさんを脅迫して、私の母エミリアを病死に見せかけて暗殺していた事を。


 ロバートさんが私に優しかったのは過去の負い目があったからなのでしょう。


 この時ばかりは、業を煮やした私は、お父様の元へ赴き、真実を全て話そうとしました。しかしながら、お父様から漏れてきた最初の心の声を聞いて、心が折れました。


「どうしたアリシア? 珍しいなお前が怒っているなんて」(ほう、怒っている所も、エミリアに似てきたな。ど~れ、そろそろ薬で眠らして例の部屋で一回抱いてみるか)


 その時まで知りませんでした。


 善良で名の通っていた優しいお父様でしたが、他の貴族同様に、私だけでなくグレゴールを始めとする本邸の屋敷の人間ですら知らない離れの別邸の地下に女性を侍らす秘密の部屋を持っていた事を。


「い、いえ、大丈夫です。それよりも、次の社交界なのですが……」


 慌てて話題を変えましたが、唯一優しかったお父様の真意を知ってしまった私の心の中はグチャグチャです。その場では泣かなかった事を褒めたいくらいです。


 お父様にとって私は亡き母エミリアの代わりなのです。私の婚約話をしないのは自分で愛でる野望があるから、それを知って酷くショックを受けました。


 


 女神様、何故私にこのような力をお与えになったのですか?!!


 こんなの加護じゃありません!! 呪いです!!


 知りたくなかった!


 私の住んでいた世界がこんなにも醜いことを!!



 もう疲れました。全てを投げ出せば、楽になると考えてしまうようになりました。


 ですが、「将来、結婚して貴族の家の夫人になるあなた達が生涯に渡って大事にしなければならない事は、私心を捨て実家や嫁ぎ先の家名を守ることなのです」と学校で徹底して叩き込まれた私には、投げ出すことなんてできませんでした。


 なので、私にできる事は、大分無理をしていましたが、今まで通りに、明るく気丈に振る舞う事だけでした。



 だからこそ、領地の視察の帰り、盗賊に襲われるていると分かった際には、犠牲になって死んでいった護衛の傭兵の方々には申し訳ありませんが、ようやく楽になれると思いました。


 上っ面だけは綺麗で中身は真っ黒な王都の貴族と、全てが真っ黒な盗賊の方々、どう違うというのでしょうか?


 王都にいても、いずれはお父様か、もしくは他の男性の貴族の方に、辱めを受けることになるでしょう。


 だったら、ここで、盗賊に傷物にされて見向きもされなくなった方が良いと考えたからです。


 私を馬車から引きずり出した盗賊の方達は、私に対して欲望の言葉を浴びせてきますが、どれもただの乱暴な暴力です。


 正直に言うと、淫靡で背徳的な雰囲気を重視している王都の貴族とは雲泥の差を感じました。


 己の性欲を満たすという点では一致しますが、なんというのでしょうか、芸がないというべきなのでしょうか。


 何だか、王都の貴族達を褒めているような気がして、気分が悪くなったので、この話を止めましょう。


 ともかく、貴族の調教によって心身共に服従してしまう事になるよりは、盗賊達のはけ口になった方が良いと考えて、無駄な抵抗をするのは止めました。


 この身を捧げて引き換えにグレゴールの安全だけは保障してもらおう。


 これで楽になれると、考えた矢先、馬車の外に出た事で能力の効果範囲内に入ったためでしょうか、盗賊達とは別の声が頭の中に微かに響いてきました。


 距離が離れているためか、しっかりと聞きとれませんが、小さな声のする方に目を凝らすと、遠く離れた草原の方に、男性と思しき方がおりました。


 すると、頭の中にこんな思いが芽生えました。


 やっぱり、汚されたくない。


 あの方一人で、大勢の盗賊から私を救い出してくれると思いません。あの方の安全を考えるならば、盗賊に見つかる前に逃げてくれとお願いすべきだったでしょう。


 でも、一度でも助かるかもと希望を持ってしまった私は、思わず飛び跳ねて大きな声で救いを求めました。


 そして、私とグレゴールは救われました。









「セ、セーフ、セーフ!! そうか、自発的には言っていないからな。助かった」


 救って頂いたばかりか、勝手に心の中を覗き見て、アマダ様の秘密を知ってしまい本当に申し訳ありませんと謝罪するばかりですが、一先ず、アマダ様が魔王と交わした休戦協定のが守られてお互いに安堵しました。


 もし今ので約束が破棄されて、勇者の代わりに魔王を倒す事になった使命を帯びたアマダ様がご迷惑を被った場合、女神様を始め、この世界の全ての人達にどうお詫びすればいいのでしょうか? 本当に良かったです。


 アマダ様には、聖女のエシャル様や、狂戦鬼ロカ様のように、綺麗で可愛いくて強い女の子達がいます。

 

 にも関わらず、そんな優秀な方々を置いてきてまで女神様からの使命を達成しようとしていうのに、役立たずの私如きがそれを邪魔をしてしまっては、目も当てられません。



 さて、アマダ様の最終目的は、人が住んでいない秘境でスローライフを送ることです。私も自分が公爵家の人間でなければ、一緒に連れていって欲しいですが、王国の貴族社会に失望しても、長年の教育で自分が公爵令嬢だとはっきり自覚しているので、それは無理だと思います。


 ですが、平和な世界を作るために、イスラ同盟国を牛耳る魔王を倒すことに関しては、何か協力できるかもしれません。というより、こういう時こそ、公爵家の権威を使うべきでしょう。


 権力を振りかざし、人の心を暴くなんて、絵本の物語に出てくる悪役のする事ではありますが、これが恋なのでしょうか? この方のためならば、今は何故か不思議と、悪い気がしません。 



 それに、アマダ様は、怖れ多くも、女神様と姿の似ている私に遠慮してか、他の男性のように下卑た声を発しません。


 普通の男性であれば公爵令嬢という看板も、とても魅力的なものだと思うのですが、アマダ様は、それだけで私を拒絶しています。本当に変わった方です。

 

 ただ、異性として認識していても、全くその気がない態度に、少しだけ不満を感じたのは内緒です。

 









 


「おい、今なんて言った!!」


「ひいい、申し訳ありません、ボス」


 謎の黒騎士にボコボコされて、おめおめと命乞いをして盗賊団『ヴェノム』のアジトに帰還したリーダー格の男は、構成員五百人の大集団を率いるボスの前で頭を垂れていた。


「確かに、獲物を最初を捕らえたチームが独占しても良いと許可を出したが、まさか、あれだけの人員をつぎ込んで逃がすとは思わなかったぞ!!」


 リーダー格の男以外にも、二十人前後のチームを指揮する作戦に参加した他のチームのリーダー達もまた、玉座のような椅子に座るボスの前で、ひれ伏していた。


「ちっ、お得意先の貴族の方から、俺達が気に入る積み荷を運んだ馬車が通ると教えてもらったから、そのルートを張っていたというのによ!」


 酒の入った盃を飲み干すと、苛立ちを募らせながら、一番の大失態を犯したリーダー格の男に投げつけた。


「ですが、あの謎の黒騎士は予想外の力を持っていました。俺達のチームが束になっても勝てる相手ではありません!」


「それで、おめおめと逃げて来たと!! 貴様、盗賊としての誇りを忘れたのか!!!!」


「ひいいいいい、すみませんでした!!」


 土下座をしてまで心の底から謝罪するリーダー格の男の情けない姿を見て、少しだけ怒りが和らいだボスは、ため息をつき、全員に聞こえるように、ニヤリと笑った。


「まあいい。例の貴族様からまた連絡が来た。俺たちのアジトのあるこのファルムの街に、わざわざ向こうから獲物が来たそうだ。いいか野郎共、チャンスをものにできなかったお前達と先に交わした約束は撤回する! 黒騎士とやらは四肢をもいで川に流し、爺は首を刎ねて情報をくれた貴族への贈り物に、そして、噂の王国の宝石と称えられる公爵令嬢様は、首輪を掛けて俺様直々の性奴隷にしてやる!!」




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