第三十二話 関わったら、面倒な事になりそうな臭いがプンプンする!!
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さてと、どうやって、倒すか。
お姫様を助けるために、盗賊と戦う事を決めたものの、相手は二十人ほどいるため、どうやって戦うか悩む。
最大最強の魔法、天雷竜は使い果たしたため、万全ではないが、まあ、それでもあの程度の相手ならば、苦もなく倒せると踏んだ俺は、メルクリアには見せなかった秘密兵器を実戦試験も兼ねて使うことにした。
「おい、そこの男!! 死にたくなければ、両手を挙げて、ゆっくりこちらに来い!」
「そうだぞ! 痛いのは嫌だろう?」
ニヤニヤ笑う三人の盗賊は、口では助けると言っているが、武器を手にして甘い事を言って、あからさま過ぎて百パー嘘だと分かるが、俺にとってはむしろありがたい。
容赦する必要がないからな。
「着装!!」
別に叫ぶ必要はないが、気分で声に出してみる。
同時に、アイテムボックスから、いくつかの物を、俺の体に装備させた状態で取り出した。
「な、なんだ!!」
「いつの間に、着やがった?」
「黒い鎧?」
三人の盗賊が度肝抜かれるのも仕方がない。何故ならば、今の俺は、全身にフルフェイスの黒い鎧を身に纏い、手には真っ赤に輝く長剣を握っているのだ。
これだけの重武装を一瞬の内に装着、いや、もはや変身の域にいるな。
ともかく、狩るはずの獲物が、突如、完全武装すれば誰だって驚くだろう。
「げ、幻覚魔法か?」
「へっ、そんな見てくれだけの装備で俺達がビビると思うか!!」
邪悪な黒騎士にしか見えないこの姿を見て、逃げ出さない盗賊達に、少しだけ感心したが、残念ながら、この装備は、外見だけではなく、中身もちゃんと伴っている。
足に力を入れると、瞬く間に、数十メートルはある距離を詰め、盗賊達の懐に飛び込んだ。そして、手に持つ、ロカに教えてもらった剣術を思い出して、赤い長剣を振るう。
「え?」
そのたった一振りで、盗賊の両腕は、槍を握りしめたまま、宙を舞った。
腕を失った者も含めて、三人とも突然の事態にポカンとしている。
彼らが取り乱さなかったのは、断面から、一切、血が飛び散らなかったからだろう。
両腕を失った盗賊の腕の断面は、真っ黒に焦げている。俺が手に持つ剣の能力のせいだ。
ドリュアス要塞での戦いの時に、ガルダ・ザルバトーレに追い詰められた俺は、足場をなくして彼を空鯨船から叩き落とすことで、なんとか退場させる事ができた。
だがしかし、あれは単に運が良かったからできただけで、地形を弄れない場所で、彼と戦う事になっていたら、敗北は必至だっただろう。
また同じようなピンチにならないように、対処方法を考えていた俺は議長をやっていた時に、まだ作っていないレシピ内に眠る魔法武器に目を付けた。
割と、簡単な材料で作れる雷弓インドラや飛行ユニットとは異なり、ミスリルやらオリハルコン、使い手がほとんどいない超強力な魔法など、どれも材料を集めるのが、困難を極めたため、今まで敬遠していた物の作成に遂に取り込んだのだ。
多分、議長でなければ入手困難な超希少鉱物や、カルスタン家の人間ですら使用を躊躇うほどの大魔法を収集した俺は、いくつかの魔法武器を作成した。
その中で、使えそうな鎧一式をピックアップして、配色がバラバラだったのを染料で黒く染めて、仮名で黒騎士シリーズと名付けて、いつでも纏えるように、アイテムボックスの中に仕舞っていた。
装備した者は、強靭な脚力と俊敏性を与える靴装備、颶風靴イダテン。
体力向上と物理防御力アップを与える腰装備、ギガンテス。
腕力向上と、器用向上を与える腕装備、ヤールングレイプル。
身に纏う全ての鎧の重さを軽くする能力と魔法防御力アップを持つ、胴装備、アイギスの鎧。
外見はフルフェイスで、五感向上能力を与える、頭装備、悪魔の兜。
それから、莫大な熱量を宿し斬った箇所を溶解するダインスレイブ。斬った瞬間に傷が塞がるため血が出ないが、この世に斬れない物はない魔剣だ。
なんだか、一気にゲームっぽくなったが、それだけこの世界の理から外れた証でもある。
身体強化魔法が付与された武具自体は、この世界にもあるようだが、流石に、加護の力で生み出され、超希少金属をベースに、ここまで何重にも魔法が重ねがけされた武具はないと思う。
安価で大量に作るならば、雷弓インドラが一番であるが、インドラは用途は異なるが、これらの装備と比べると性能面では数段劣る。
量産など、とてもじゃないが不可能だ。
「お、俺の腕が!!!!」
「お、おい、お前……」
「てめえ、何をしやがった!」
放心していた盗賊達が我に返ったようだ。無駄な抵抗をされる前に、一気に肩を付けようか。
二閃。
普段は大きな鎌を使っているが、剣に関しても相当な腕前を持つロカに直々に教えてもらった剣術だ。
鉄製の武具など接触しただけで一瞬で溶かす魔剣ダインスレイブの前では、紙切れ同然。二人目は、両腕を、三人目は両足を斬り落とし戦闘不能に追い込むと、残りの盗賊達の方へゆっくりと歩きだした。
「へへへへっ……。この通りです。もう盗賊は辞めます。奪ったお宝が欲しければ差し上げます。だから、命だけは見逃して下さい。お願いします」
魔法やら矢が飛んできたが、チート鎧の前に傷一つ付けることもできず、また盾で防いでも盾ごと両断してしまう魔剣が相手では、調子に乗った盗賊達も観念するしかないようだ。
盗賊を五人ほど無力化した所で、勝てないと悟ったのか、まだ五体満足だったリーダー格の男が武器を捨てて降参した。
う~む。どうしたものか。
俺は、人を殺すことに快感を覚えるような異常者ではないし、こいつらにそこまで恨みはないので、危害を加えないと約束するならば、見逃してやってもいいと考える。
ここで根絶やしにしないと、後で厄介な事になると思えるほどの強敵でもなく、武器を捨てた奴を一方的に殺すのにも、多少は抵抗がある。
というか、今まで戦った中ではこいつら一番弱かったな。
まあ、最後に対峙した相手が魔王とその側近の怪物だったので、盗賊と比べるのは少し酷かもしれないけど。
「じゃあ、目障りだから、とっと失せろ!!」
盗賊達をあっという間に切り伏せた魔剣をちらつかせて、早く消えろと急かした。
ふと、金目の物は置いていけとも思ったが、奪った相手が返還を求めてきたら、面倒だったので、言うのはやめた。
「助けてくれてありがとうございます」
「これを契機に、盗賊業から手を洗って田舎で、農家になります」
「奪った物も持ち主に返します」
最初に突っかかってきた三人の仲間とは思えないほど、低姿勢で謝罪のアピールをしながら、ペコペコ頭を下げて、負傷者を連れて退散する盗賊達。
真面目に謝っているように見えるが、多分、この場を凌げば、約束を翻して盗賊に戻る気がする。
それでも、俺は王国の人間ではないし、禍根を絶つために、そこまで頑張る必要はないだろう。
彼らが馬に乗って、視界から消えるのを見届けるのであった。
「あ、あの、ありがとうございます」
安全が確保されてほっとしたのか、今まで静かに事の成り行きを見守っていたお姫様が、声を掛けてきた。
が、それを無視して、取りあえず、地面に横たわっている老執事の元へ駆けよった。
「う!! 酷い傷……」
「ハハハハッ、アリシア様。そんな辛そうな顔をしないで下さい。グハッ」
一緒になって俺の後についてきたお姫様が、自分を守るために奮戦して、ボロボロになった執事を見て、とても悲痛な顔をする。
そんな老執事の上半身を優しく抱きかかえると、お姫様は、目から涙を溢す。
「ごめんなさい。私がもっと、しっかりしていれば、こんな事にはならなかったのに……」
「いいえ、全ての責任は、この私の不徳にあります。襲ってくる可能性のある盗賊を事前に、もっと調査しておくべきでした」
「やだ! やだぁ!! 死なないで、グレゴール!!」
老執事がもう長くない事を悟ったのか、嗚咽を漏らすお姫様。
祖父と娘ほど年齢差があるが、家臣でありながら、自分の事を心の底から心配してくれているその姿を見て、満足したのか、老執事は苦しみを堪えながら首を動かして俺の方を見た。
「さ、最後、に、お願いがあります。黒き騎士よ。ここから馬車で数時間の距離に、ファルムという大きな街があります。どうか、アリシア様をそこまで送ってはくれないでしょうか?」
「いやぁ! いやぁ! グレゴールも一緒に来るの!! こんな所でお別れなんて嫌だよ!!」
泣きわめくお姫様を無視し、執事として、男としての最後の願いを聞いてくれと息を切らせながら、懇願してくる老執事。
だからこう言ってやった。
「ヤダよ。そんな面倒臭いの」
「「はい?」」
え、この場面で断るの?
騒いでいたお姫様も、死にかけの老執事も目を丸くして口をパクパクさせて驚いているが、残念ながら、それが俺の本心だ。
大事な主人を安全な街まで送るならば、自分でやれ。
「ほら、これを飲め」
俺は、アイテムボックスから緑色の液体の入った一本の小瓶を取り出すと、強引に老執事に飲ませた。
「い、痛みが消えていく?」
その効果のほどは、すぐに証明された。
「本当に効果があるんだ!! 凄いわ!!」
「まさか、今飲ませて頂いた物の中身は、ポーションですか? 貴族ですら簡単には買えない貴重な魔法アイテムだと言うのに」
そう、俺が老執事に飲ませた液体の正体はポーションと呼ばれている一種の回復アイテムだ。
飲むだけで、あらゆる傷を癒すという破格の効果もたらす効果を持つこのポーション。
魔法に関する知識と回復魔法と付与魔法、これら三つの技能を達人レベルで会得した者だけが、清らかな川の水に、回復魔法を付与することで生み出せる。
よって、作れる者が極めて少ないため市場には滅多に出回らず、場合によっては一本で屋敷が建つほどの大変な高価な物である。
世界最大の商会と名高かったゼラシード商会ですら、ほとんど在庫を抱えていないと聞いており、また実は、アイテムボックス内のレシピにも存在しない超貴重な代物なのだ。
そんな貴重な物をどうして俺が持っているかと聞かれば、わざわざ言わなくも分かるだろう。
俺の脳裏に、築城の加護では作れない事を知った銀髪の少女が、万が一のためにと数十本もくれた光景が蘇った。
「凄い! 凄いわ!! 本当に凄いわ!! その女の子本当に凄い。私とは違って他人のために役に立つ力を貰って少しだけ嫉妬してしまうわ!!」
ん?
あれ? 今なんかおかしくなかったか?
今、俺、喋っていなかったよな? ポーションをくれた少女、聖女であるエシャルについて一言も喋っていないよな?
エシャルの事を頭の中で思い出した直後から、妙な事を口走って、興奮しているお姫様に、得体の知れない不気味さを抱く。
すると、俺からの視線を感じたのか、お姫様がビクッと震えて、一転しておとなしくなった。
まあ、いいか。もう会うことはないだろうし。
「いや~良かった、良かった。これでめでたし。じゃあ、後は勝手に頑張ってくれ!!」
何だか、こいつらと関わると厄介な事に巻き込まれると本能が叫んだため、俺は鎧を着たまま、じゃあと片手をあげて、さっさと立ち去ろうとした。
「いや、待たれよ! アリシア様をお救いくださり、この老骨のために、貴重なポーションまで恵んでくださったあなた様を、このまま何のお礼もせずにお返しする事は、私がお仕えるオルトリンデ公爵家の名誉に関わります!!」
公爵家?!
最上級の貴族じゃないか!!
てことは、こちらのお姫様は、公爵令嬢か?!!
関わったら、絶対にめんどくさいぞ!!
「グレゴールの言う通りです!! 私も、お父様に、是非あなたの事を紹介したいので、一緒について来て下さい!!」
お姫様まで、再び興奮しながら、老執事に追随してきた。
もうこれはヤバい。厄介事ルートに片足を突っ込んでいる気がしてならない。
彼らの言葉を全部無視して、背を向けて、この場から逃げ出そうと決めたするが、逃がすまいと、老執事が、ラグビー選手の如きタックルをかまして、鎧ごしに俺の腰の辺りの方を掴んできた。
「きちんとお礼するまでは、絶対に離しませんぞ!!」
この爺さん、力強え!!
回復させたのは失敗したかもと思えるほどの力で抑えて来る。
「わ、私も!」
この光景を見て、何を思ったかは知らないが、お姫様まで、老執事と同じように、逃がすまいと、俺の体にしがみ付いてきた。
「いや、そういうのいいから。離してください!!」
「いや、いや、さぞ名の通った傭兵かと存じ上げます。公爵家を挙げてお礼せねば、公爵家が他家から馬鹿にされます」
傭兵じゃないわ!!と心の中で突っ込みを入れると、今度は、お姫様が声を上げる。
「あんなにお強いのに、傭兵じゃないのですか?! ……ならば、お父様にお願いして近衛騎士団に推薦しますわ!!」
「アリシア様、もしかしたら、爵位の授与も可能かと」
「そうですの!! 黒騎士様、近衛騎士と貴族の爵位、どちらがよろしいですか?」
やめろ! やめて! そういうのはもう嫌なの!!
てか、さっきからお姫様。君はエスパーか? 俺の心の中が読めるのか?!
流石にそれはないかと思うも、いよいよ俺はあまりにもしつこいこの二人を、力ずくで強引に振りほどくか本気で思案する状況に追い込まれた。
当然ながら、女神様から身体能力を上げてもらい、伝説級の魔法の鎧を纏った俺が本気を出せば、老人と小娘など、どうとでもなる。
二人の熱意に圧倒されて本気を出せないだけだ。
後、善意でお礼をしたいという二人を無下に扱うのはどうかという不安も少しだけある。
しばらく考えて、二人の粘りに根負けした俺は、分かったと両手を挙げて降参した。
取りあえず、ここにいても仕方がないため、犠牲となった傭兵の死体を布に包んで収容して、一番近いファルムという街を目指すことになった。
それと出発前に、お互いに改めて自己紹介した。
きちんと身分と名前を明かす二人に誠意を持って答えるために、この時、顔を覆う兜を脱いで挨拶しようかと思ったが、一応イスラ同盟国では、死んだ事になっているので、取りあえず、黒騎士と名乗って、やっぱり設定が楽なので先程拒絶した傭兵をやっていると告げた。
その後、老執事グレゴールの隣、即ち御者席に座ろうとしたが、「あなたは命の恩人なので屋根のない御者席なんかには座らせられませんよ」と、老執事グレゴールに言われて、渋々、金髪のお姫様と一緒に馬車に乗って移動する事になった。
「「…………」」
狭い密室で、しかも対面して座っている。とても気まずい。
すぐ隣には傭兵の遺体がある事も気まずさに拍車を掛けている。
向こうもどうしたら、いいのか分からずに、困惑した様子だ。
取りあえず、話の切り口を見つけるために、今まであまり直視せずに深く考えて来なかった誰もが振り向く美しきお姫様の外面を観察することにした。
でも、やっぱりすぐに止めた。
理由は単純明快だ。
この女の子、正直に言うと、気持ち悪いほど、俺をこの世界に送り込んだ女神様に似ている。
いや、より正確には、女神様がもう、三、四歳成長した姿と言ったところか。
身長と胸の大きさ以外は、瓜二つだ。
つうか、実は、本人じゃないかと思ってしまうほどよく似ていた。
まあ、それはないか。自分はこの世界に直接干渉できないと言っていたし、単なる偶然だろう。
しかしながら、エシャルやロカと同じか、それ以上の超美少女を前にしても俺の心は全く動じない。
まず、公爵令嬢という看板を背負っている時点で、関わりたくない厄介な存在だ。
それと、俺に第二の人生を与えてくれた恩人によく似ているからと、今もこの瞬間に、魔王の正体を暴いたテレビで、この光景を見ているかもしない女神様に、後で、何を言われるか分かったものではないからだ。
本当に面倒だなと心の中でぼやき、視線を前に集中すると、何だかお姫様の顔が少しだけ赤くなっているような気がした。
「どうかしましたか?」
「え、いえ、大丈夫です。少しだけ混乱しているだけです……。あと、ほんの少しだけ嬉しいです」
やっぱり少し変わった娘だなと思いながら、今度は、意識を御者席にいるであろう老執事グレゴールさんの方に移した。
主を守るために、その身を挺して守る。
執事であるグレゴールさんは物語の中ではよく出てくる忠義者だが、自分のことで精一杯の俺には今一、彼らのことが理解できない。
故郷への復讐を誓うカルスタン家、フェンリル傭兵団、共和国からの亡命者達。
それから、世界征服の野望を叶えるために、魔王であることを隠したまま共和国の大統領になったメルクリア。
どうして俺の周りには、スローライフを目指す同志がいないのだろうか?
世界の敵であると運命つけられたり、失脚したり、左遷されたりしたのだから、もういいじゃん。諦めて煩わしい人間関係から解放された僻地でのんびり生きようぜ。
などと心の中で考えていると、突然、目の前に座る少女が、自分でも制御できないくらい驚いた顔をしてぼそりと声を漏らした。
「え? ……共和国の大統領が魔王なのですか?」
「えっ?」
「えっ? あ! やってしまいました!!」
悪さをしていたことが親にバレて「やべぇ、見つかった」と慌てて両手で口を塞いで知らんぷりする悪戯好きな子供のような仕草に、ちょっぴり心に来るものがあるが、そんなの今はどうでもいい。
もう確信を持って言える。
俺は、心の中でこう呟いた。
(もし、俺の心の中が読めるのであれば、首を縦に振って頷いてくれ)
もし予想が当たっていたら、かなり面倒な事になる。
頼むから外れてくれと天に願うが、無情にも公爵令嬢アリシア・オルトリンデは、少し悩んだ後に、意を決したかのように、俺が心の中で指示した通りに、頷いてしまった。
それから頭を下げて謝罪してきた。
「あなたの心の声を聞いてしまいました。申し訳ありませんカナメ・アマダ様」
俺はこの娘に本名を告げていない。つまり確定だ。
「マジか~。嘘だろう!! え? その力は魔法か何かか? でもシギン婆さんやエシャルさんは、そんな魔法があるとは言っていなかったぞ」
「この力は魔法ではありません。私は女神ソロン様が選んだ七人の使徒の一人、忍者の加護を持つ者です。そして忍者の加護の持つ力は、他人の心の声を聞くというものなのです。誰にも話していないので、この事知っているのは今の所あなただけですが、何やら複雑な事情があるようなのでお話しました」
忍者の加護ってそういう能力なの?
エシャルに聞いた時から、忍者は、中世ヨーロッパ風のこの世界には合わないなと思っていけど。
分身とか変身とかすると思っていたよ。
でも、忍者だ。人の心の中くらい読めるかも知れない。
「それにしても読心能力か、ヤンデレヒロインが手にしたら、オープニング前のアバンで主人公が死にそうな能力だな」
これは面白い能力だなと、やや浮かれて「この娘どこまで俺の事を知ってしまったんだろう」かと呑気な事を考えていると、ふとある事を思い出して背筋が凍った。
「あ!!」
「どうかされましたか?」
尋ねてきたアリシアさんは、最初はキョトンとした顔をして見せたが、俺の心の中を読んでしまったのだろう。
同じように、一瞬にして顔が、真っ青になった。
「か、確認しますか?」
恐る恐る聞いてくる。盗賊に襲われても悲鳴一つ上げなかった鋼の心を持つアリシア公爵令嬢様だが、今回は、大きく動じたようだ。
「約束を結んで、まだ一週間も経っていないぞ。いくら何でもこれは洒落にならない」
心臓バクバクだが、魔王メルクリアと結んだ約束がまだ機能しているかを確認するために、俺は身に纏っていた鎧をアイテムボックスに仕舞った。




