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第三十話 最恐の暗殺者がやって来る

 ユグド王国が統合軍勢力との開戦を決定した日から四か月ほど、時は遡る。






 女神様と夢の中で再会し、空中要塞建設のために行動を開始した俺は、気付かれない程度に街から資源をアイテムボックスの中に仕舞いこんだ。


 そのお詫びと言ってはなんだが、イスラ同盟国の国力が低下しないように、倉庫にインドラや飛行ユニットなどのアイテムボックスの中でしか作れない物を置いておくことにした。


 要塞建造に必要な資源は、まだまだ全然足りないが、取りあえず、この場所で集められる物は可能な限り回収できたので、そろそろ河岸を変えたい。


 しかし、評議員を辞職し共和国との交易も始まったので、アイテム交換のために俺の下を訪れる者も大分に減ってきたが、それでも元議長が理由もなく一人で街を出て行くのは問題だと思う。


 かと言って、目的が目的だけに、きちんと報告して同行者を付けられても面倒だ。


 どうしたものかと悩んで数日後、俺の家に一人の男がやって来た。


「元議長であるあなたに内密でお見せしたい物がございます」


 見ない顔だ。恐らく、夢を追い求めて共和国からやって来た商人だろうと推測した。


 もうほとんど評議会の方には関与していないが、造船所やら繁華街を建設するためか、最近は空鯨船に乗って、ひっきりなしに共和国からの移住者が増えてきている。


 辞めたとはいえ元議長。評議会とのコネを作るのが目的ならば、追い返そうと一瞬考えたが、暇だし、まあいいかと、了承した。


 思えば、これが運命の分岐点だった。





「おい! どこまで行くつもりだ!!」


「もう少しでございます」


 見せたい物があるからと、その男は、街を離れて俺を森の中に案内する。


 昼間なので、魔物が襲ってくる心配はないが、 共和国民にしては迷うことなくイスラの森を進むその男に違和感を覚えつつ、文句を言いながら後ろを歩く。


 やがて、街から結構離れた場所で足を止めた。


「ここがそうなのか?」


 何もない深い森の中だ。見せたい物とは一体何だ?


 俺は男を問い詰めてみた。すると、突然、発狂したかのように。男が大声で叫んだ。


「や、約束通り、連れてきました!! だから、命だけはお助けを!!」」


 その一言で俺は、自分が嵌められた事を察した。


 このままではヤバいと、鍛え抜かれた危機察知能力が警戒信号を発した。


 逃げの一択だと、足に力を入れた矢先、木の上から一匹の子犬が降りてきたと思ったら、着地する寸前に、トラック並みの大きさまでに巨大化し、可愛い顔が一転、獰猛な肉食獣のような形相へと変わった。


 おまけに低い声で流暢に喋り出した。


「ご苦労だった人間。もう用済みだ!!」


 そして、前足の爪の一振りで泣きわめく暇すら与えずに、俺を案内してきた男の胴体を両断した。



 ドリュアス要塞の戦いでは、空の上からゴブリン以外の魔物を目撃したが、距離がありすぎたため、いまいち実感がなかった。


 俺の中では、今でも魔物=ゴブリンという認識。


 それ故に、初めて目の前で目撃した怪物に思わず体が竦んでしまう。そんな俺の心の中を見透かしたのか、巨大な黒い怪物は獲物を追い詰めた狩人のような雰囲気で喋り出す。


「お前が、イスラ同盟国の元議長か。人外の魔境を切り拓いた男と聞いていたので、どんな奴かと興味を持っていたが、期待外れだ」


 俺が元議長だと知っていて呼び出した?


 こいつは一体なんだ?


 頭の中をフル回転させて怪物の正体を見極める。すると、一つの答えが浮かびあがった。


 だが、それを指摘する前に、怪物が先に動いた。


「せめてもの情けだ。苦しまずに一瞬で終わらせてやろう」


 先程と同様に、前足を振るうが、正体に気が付き恐怖が薄れたおかげで、予備動作がない分、俺の方が少しだけ早かった。


「うぐッ!!」


 アイテムボックスから石壁を取り出し、怪物の頭上に落とした。


 かつて狂戦鬼であるロカを一撃で沈めた戦法だ。


 しかし、相手は人間よりも遥かに図体のデカい怪物なので、押しつぶすことはできなかった。


 それどころか、痛みで短く悲鳴を漏らすが、大したダメージを受けているように見えない。


「何だ、今のは。どこから降ってきた?」


 どうやら俺がやったとは思っていないようで、俺から視線を逸らし、周囲を見渡し警戒する。チャンスだ。


「食らえ!!」


「?!」


 俺はアイテムボックスから以前、シギン婆さんが放ってそのままアイテムボックスに収納した魔法、天雷竜を解き放った。


 激しい稲妻が辺り一面に解放されたと思ったら、次の瞬間、巨大な雷の竜が怪物を飲みこんだ。


「ぐおおおおおおお!!!!!」


 シギン婆さんの代名詞で、彼女を帝国最強の魔法使いに押し上げた最強魔法を予備動作も詠唱もせずに、ぶつけたのだ。


 防御も回避も許さずに、怪物は断末魔を上げて黒こげとなり倒れた。まだ息はあるようだが、どうやら瀕死だ。


 一発分しか収納していない最強魔法が無事に決まって安堵したが、怪物が力尽きるまえに問いたださなければならない事がある。


「おい、お前。確かケルベロスとか言ったか?」


 戦闘の直前に思い出したが、女神様に見せて貰った映像に、メルクリアの部下として従っていたこの化け物がいた。


 同時に恥ずかしながら、空中要塞の事と、どうやって街を抜け出そうか考えるのに夢中で忘れていたが、メルクリアがこいつに俺を暗殺しておけと言っていたのを今更ながら思い出したのであった。


 まあ、こんなに早く殺しに来るとは思わなかったが。


 このまま息絶えるのを待つばかりの怪物は、俺の一言で倒れたまま目を見開いて驚く。


「な、何故、それを!! 昔の勇者との戦いの記録を見て、我の事を知っていたのか?」


 怪物の問いかけに、俺は首を横に振った。


「違う。お前が過去にどれだけ活躍していたかについては、全く知らん。俺が知っているのは」


 きっと目玉が飛び出るほど驚くだろうと予想して、勿体ぶって、一呼吸開けて告げた。


「お前が、魔王ユーリ・メルクリアの家来だという事だけだよ」


 絶対に他に漏れていないと思っていた最重要機密が漏れていた。案の定、怪物は絶句した。


 翻ってこちらは、実にいい気持ちだ。


 バレないと確証を持った真犯人を追い詰めた探偵はこんな気持ちなのだろうか?ともかく気分が良い。


 だが、残念な事に、その快感は長くは続かなかった。




 突如、背後から聞き覚えのある声が耳に届く。


「やはり、念のため、魔法で透明化し観察して正解だったな」

 

 振り返って、声の主を見て、今度はこちらが驚いた。


「な、お前は!!」


 驚くべき事に、そこには魔王ユーリ・メルクリア本人がいた。


 しかも、なんと彼の足元には、今倒したはずの怪物が変身する前に一瞬だけ見せた黒い犬の姿と瓜二つの生き物がもう一匹いたのだ。


「やれやれ、三分一程度とは言え、我を瞬殺するとはな」


 そう言って、新たに姿を晒した黒い犬は俺の横を走り抜け、先程倒した瀕死の怪物に触れた。


 すると、黒い靄のような包みこみ、靄の中から、先程よりも一回り大きく、獰猛な顔を二つ持つ怪物が姿を現す。


「ああ、首が一つなのにケルベロスって名前だったから、ずっと変だなと思ったけど、そういう事か」


 その姿を見て、密かに感じていた疑問が解決して、思わず納得してしまったが、身体から冷や汗が出るほど危機的状況に陥っているため心臓バクバクだ。


 前には、先程よりもパワーアップした二つ首の怪物。後ろには不死の魔王。


 しかも、こちらは最大の攻撃手段で一つしかストックがなかった天雷竜を既に使用済みだ。一応、他にも切り札は用意してあるが、こいつら相手では、役に立つか疑問だ。


 ともかく大ピンチだ。


 心の中で、この光景を見ているならば、助けてください女神様と泣き叫ぶが、メルクリアは予想外の一言を告げた。


「無詠唱で、天雷竜が使える貴様と敵対するつもりはない。それよりも、今は少し話をしよう」







「イスラ同盟国の議長は、存在しない筈の八番目の使徒の可能性がある。情報局長時代に密偵からの報告を聞いてから今日まで半信半疑だったが、実際に戦っているところを目にして確信した。知識にはないが、その力は間違いなく女神由来の物だ。ただし、格は使徒程度だがな」


 意外な事に戦闘ではなく対話を求めたメルクリアだったが、何だか追い詰められている感じがした。


「今の戦闘と事前に集めた情報から推測するに、生物以外の物体を異空間に出し入れし、加工すると言ったところか。従来の七つの加護とは明らかに毛色が異なるが、それでも余を殺す程の力はない」


 いつの間にか、一人称が余になっている。普段被っている仮面を捨てて魔王として接していることが伺えた。つまり本気中の本気だ。


 戦闘はしないという言葉を信じ切らずに、最大限に警戒をしつつも耳を傾ける。


「どうやら、異世界から来たというのは、本当のようだな。それと、余が魔王というのは女神から聞いたのか?」


 ここで、初めて質問を投げかける。かつて一度は土下座をさせた相手だが、本性を現して問いかけてきたので、俺も彼に倣って、今までの関係性は全て捨てて答えた。


「そうだ。ただし、俺は勇者ではない。向こうの世界で死んだ俺を不憫に思ったのか、女神様がこの世界で蘇らせてくれただけだ。お前の知らないこの力は、護身用に与えられた物だ」


「なるほど、それで? 女神に余を倒すようでもに命じられたか? イスラ同盟国とやらは、余が掌握しつつある共和国を潰すために創設したのではないのか?」


 そういう見方もできるかと思いつつ、メルクリアの考えを否定した。


「違う。そもそも、女神様は、魔王は勇者が何とかするから放置していいよと言っていた。まあ、もう大前に殺されてしまったようだが」


 確かに、初めて顔を見合わせた時は、女神様も、スローライフ希望の俺を対魔王のための戦力とは考えていなかっただろう。


 しかし、勇者が敗れた今は状況が異なる。神剣に代わり、魔王を殺せる兵器である空中要塞を密かに建造しようと企んでいる事だけは知られてはいけない。


「おい、メルクリア! こいつには、お前を殺せる力はないが、お前が魔王であることは知っている。今の内に消しておくべきだ」


 勘がいいのか。それとも先程の恨みか、背後にいるケルベロスが、やってしまおうと急かしてきて、ビビったが、メルクリアは、その考えには賛同しなかった。


 それどころか、驚くべき提案をしてきた。


「いや、殺すのは早計だ。そこで取引だ。余に協力して一緒に世界征服をしようぜと言ったら貴様はどう返事する?」


 判断に迷わなかったと言えば嘘になるが、女神様が、この光景を見ている可能性があるので、迂闊な事は言えない。速攻で拒否した。


「断る」


「何故? きちんと成果を挙げれば、余が作る大帝国の幹部の地位を与えてやってもいいんだぞ」


 自分が殺せる神剣が既にないためか、絶対に負けないという自信があるのだろう。凄まじく上から目線の態度だが、彼の機嫌など関係なしに、これだけは譲れないとはっきりと告げた。



「俺はスローライフ生活を送りたくて、物作りの力を貰ったんだ。大帝国の幹部だと?! 俺が議長を辞めたのは知っているだろう!! そんなストレスが溜まりそうな環境など、こちらからお断りするわ!!」



 仕事人間に、言いたい事を言ってやったぞと気分がスッキリしたが、案の定、俺の言葉にメルクリアもケルベロスも不可解な顔をする。


 大真面目に、本当に理解に苦しんでいるようだった。


「……意味が分からない。この世に生まれてきたからには、常に上を目指すべきだ。それは平民も、議員も、貴族も、商人も、騎士や兵士も同じ。スタートラインや、乗り越える壁、やり方は様々だが、より高みを目指すのが人間という生物のはずだ」


「しかも、武器を置いた老兵ならまだしも、この若さで、隠居を考えるとは」


「貴様、出世欲はないのか? そういえば、戦争の責任をとり、イスラ同盟国の議長を辞任していたな。 余の存在を抜きに考えれば、あのままイスラ同盟国を率いれば、世界征服を狙う事もできたはずだ。もしかして、馬鹿なのか? 恥を知れ!!」


「国を建国してまで我らに抗うつもりなのかと、少しだけ評価していたが、とんだ腰抜けだな」


「元議長であるため、評議会にそれなりの影響力を持っているだろうが、形式的には、今の貴様は全ての地位と権力を捨てた一般人だ。対して愚物ではあるが、共和国議員連中ですら、高額な報酬と権力を守るために、必死になって地元で選挙活動をして、選挙に挑むというのに……貴様の頭の中は、摩訶不思議だ」


「メルクリアなんてなあ、毎日、横暴な上司であるダグラスの恫喝と無理難題な仕事の指示に耐えて、血反吐を吐きながら、今の地位を掴んだのだぞ!」


 何かもう言いたい放題だが、それだけ、彼らには、俺の事が理解できない表れだろう。


 おかげで、最初は理解不能っていう感じだったが、徐々に罵倒に変わり、最後には侮蔑の眼差しを向けてくるが、結果として、それは俺にとって良い方向へと変わった。


 何より、戦争に勝った上で、議長を辞職した事が、大きく響いたようだ。


「メルクリア。こいつはもう放っておいてもいいんじゃないか?」


 ケルベロスの奴、若干、憐みの籠った目をしてやがる。それにしても犬から憐みを受けるとは。


「そうだな。余を妨げる神剣は既になく、こいつの加護では余を殺す事はできない。唯一の懸念は、余の正体を知っている事だが、力尽くで口封じを試みて、勇者の時のように、思わぬ被害は出したくない」


 倒すのは面倒と思えるほど、強さを評価してくれたのは嬉しいが、散々罵倒された後なので、複雑な気分だ。


 でも、このまま見逃してくれるのは有り難い。


 実はアンタを殺せる兵器を建造中ですとは言えないし、早く解放してくれと心の中で懇願したが、そう上手く事は運ばなかった。


「これは約定印という。大変、貴重な魔法道具だ」


 メルクリアはポケットから印鑑のような物を取り出し説明を始めた。


「約束事を決めて互いの身体に打ち付けて、一方が破った場合、もう双方の身体から印が消える。どこにいても、約束を破れば相手にバレると思ってくれればいい」


「つまり、それを使い口封じすると?」


「今の段階では息の根を止めるよりは、こちらの方が良いと判断した。返答は?」


「交わす約束の内容は?」


「私が魔王だと他人に教える事を禁止する。勿論、口頭以外にも、紙に書いて教えるのも禁止だ。貴様が自分の意志で誰かに教えることを禁じる。反対に、こちらは、約束が守られる限り、貴様の命を見逃そう」


「もし先に俺が約束を破れば、お前は自分の正体が露見したことを知れる。逆に、お前が先に破れば、暗殺の魔の手が来るというわけか」


「そうだ。ついでに釘を刺しておくが、先に印が消えた場合、余はその時点で、貴様の死体を見る日まで暗殺の手を一切緩めない。絶対に死んでもらう」


 なるほど、悪くない取引だ。少なくとも、この場で勝ち目のない戦いを始めるよりは、断然良い。


 俺は了承したことを伝えた。


 すると、メルクリアは、蓋を外し、袖をめくって自分の腕に印鑑を押し付けて、俺の方に放り投げた。


 受け取った俺も、奴と同様の場所に、身体に印を打ち込む。


 腕に子指ほどの大きさで、複雑な魔法陣のような刻まれたことを確認すると、契約が完了した知らせなのか、手に持っていた印鑑が粉々に砕けた。


 これで終わったのだろう。ケルベロスは先程殺した男性の死体を咥えると、ゆっくりとメルクリアの方へ移動し、魔王も俺に背を向けた。


 そして最後にこう告げた。


「自身の無欲さに感謝しろ。そして、二度と、イスラの森と共和国の地に立ち寄るな。厄介事が起きる可能性は少しでも減らしたいからな。貴様は森で魔王軍の偵察部隊と交戦し、原型も残らないほど惨殺されたと情報操作しておく。貴様のような向上心もなく、楽をすることばかり考えるような輩を余は最も嫌悪する。目障りだ。約束した事を生涯忘れずに、遠く離れた秘境で永遠にスローライフとやらを送るがいい」


 後ろ姿からは、俺の事を完全に軽蔑している事が伺えた。


 正直、少しだけショックを受けた。だが、それ以上に喜びに満ち溢れていた。



 あれ? これって、凄くラッキーでは?



 だって、こちらが約束を破らない限り、魔王は手を出してこない。万が一、向こうが暗殺を決めたら、こちらは、すぐにそれが分かる。


 おまけに、穏便に街を出られる口実も貰った。


 後は、安全が保障されている間に、空中要塞ギャラルホルンを密かに建造して、主砲であいつらをブチ殺すだけ。


 事実上の追放宣告を食らったので、このまま見知らぬ土地に行くしかないが、既にいつでも出ていけるように、必要な物はアイテムボックスの中にある。


 旅支度は万全だ。




 これも全て日頃の行いのおかげだなと納得して、俺は勇み足で森の中を移動した。







 後日、イスラ同盟国で、建国の父カナメアマダの国葬が盛大に執り行われた。


 初代議長の突然の死に、多くの者が涙を流して、魔王への復讐を誓う。


 そんな空気の中、偉大な人物を過去の者にすることに成功したメルクリアは、不敵に笑うのであった。







 大規模な再開発が始まったイスラ同盟国の首都、セントラル・イスラ。


 街の一等地に建てられたカルスタン家の屋敷の一室に四人の人物が顔を合わせていた。


 この場にいるのは、使徒であることが確定しているため、魔王候補から除外された、七使徒、剣聖ガルダ・ザルバトーレ、聖女エシャル・カルスタン、狂戦鬼ロカ・フェンリルの三人と、会を取り仕切るシギン・カルスタンの四人だ。


「それで、シギン殿見立てでは、メルクリア殿が一番怪しいと?」


 剣聖ガルダ・ザルバトーレは、シギン・カルスタンの考えに納得できないでいたが、同席している彼女の孫娘であるエシャルは賛同していた。


「魔王の疑いを掛けられた人物は複数人いますが、その中で彼が一番怪しいのは間違いありません」


 歴代の魔王達は、自ら正体を晒して力を誇示する傾向があるが、今代の魔王にはその傾向はない。それどころか、名前すら名乗らないのは明らかにおかしい。


 だとすれば、今の魔王は気軽に正体を晒せない大物、各国の要人である可能性が高いとシギンは踏んだのだ。


 そして、近頃の情勢から鑑みるに、最近になって得をした者が挙げられた。


「私は、ダグラスゼラジードかジョシアボードマンを警戒していた」


 共和国の影の支配者であるダグラス・ゼラシードと、彼を出し抜いて空鯨船の技術を奪ったジョシア・ボードマンの二人をガルダ・ザルバトーレは疑っていたのだが。


「でも、そいつらは失脚して今は牢で裁判待ちでしょう?」


 最有力候補だった二人が、今は両方とも会長職を失い戦犯として牢の中。候補からは外れた。


「その通りだ。ロカ・フェンリル。ちなみに君は誰を疑っていた?」


「私は、お姉さんが怪しんだ奴に一票よ!」


「はあ~。その気楽さ流石はあのゴードンの娘だな」


 ぶっちゃけ魔王が誰かなんて余り興味がないという素振りのロカの態度に、少しだけ、場の空気が和らぐが、シギンが一つ咳を入れて真剣な雰囲気が戻ってくる。


「無論、他にも候補はいるが、奴が一番怪しい。じゃからこそ、裏で手を回して奴に評議員の一席を与え、ここに呼んだ。近くで見極めるためにな」


「そこまで言うならば、仕方ない」


 同胞としてメルクリアの庇う発言が見られるガルダ・ザルバトーレも、調査ならばと一先ず納得した。


 それからはシギンは、三人にある事を告げた。


「勘じゃが、恐らく、カナメ・アマダはまだ生きておる」


「私も議長が簡単に死ぬとは考えておりません」


「私もよ。かつてたった一人で私達に恐怖を刻み込んだあの人が死体もほとんど残らずに殺されるなんて思わないわ」


「ふむ、だとしたら、彼が死んだと報告し、あの誰かも分からない見るも無残な死体を持ってきたメルクリアが一番怪しいな」


 ガルダ・ザルバトーレの一言に全員が同意した。


「では、とりあえず、カナメ・アマダの行方を探そう。また、並行してメルクリアを監視する。それでいいな」


 他の三人が頷き、秘密の会議は終了した。





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― 新着の感想 ―
[良い点] まったく主人公と関係ないところでばれてるwww 有能だわ。
[良い点] ばれてーら!
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