第三話 夜襲
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バンッ!バンッ!バンッ!バンッ!バンッ!
真夜中。外から壁が叩かれているような音で俺は目を覚ました。
学生時代にも、深夜にテレビを付けていたから、うるさいと隣の部屋から、壁越しに叩かれて注意された事はあるが、今は全方位から叩きつけられているので、風などの自然現象でなく、何者かの手のよるのはすぐに分かった。
しかし、少し冷静になって考えてみるとこれはおかしな現象だ。
なぜなら、こんな深い森の中で一体誰がこんな事をしているのか?という疑問に至るからだ。少なくとも昼間に散策している時は人影はおろか、動物すら見ていない。なので外にいる連中は誰だという話になる。
そう考えるとマジ怖い。
でもこのまま籠城しているのは得策ではない。
作りも建材も粗末な掘っ建て小屋は悲鳴を上げているかのように今もギシギシと異音が響かせている。
「覚悟を決めるか」
俺は、アイテムボックスから万一に備えて、武器になりそうな石の斧を取り出すと、意を決して外に出た。
扉を開け外に出る。灯りは一切ないが、雲一つなく真上に輝く月灯りのお陰か、それとも身体能力が向上しているせいか、はっきりと状況を把握することができた。
そして、小屋を取り囲んでいた連中の正体を知る。
「なっ、何だ! ゴ、ゴブリンか?」
外にいたのは、ゲームでお馴染みのモンスターゴブリンだった。数は四体。身長は俺の半分くらいで、粗末な布を腰に巻き、手に木のこん棒のような物を持ち、どれも野獣のような目をしていた。
見た目からして、どう見ても友好的な存在には見えない。そして、この予感は見事に的中した。
「「キキキキッ!!!」」
理解不能の言葉を発しながら、ゴブリン達は襲いかかり、手にしたこん棒を叩きつけてきた。
だが、日本にいた時であれば、打撲、下手をすれば骨折や内臓にも被害が出ていただろうが、神様に身体能力を底上げして貰った影響か、子供にポカポカ叩かれている程度しか感じなかった。
「「キキッ?」」
自分達の攻撃がなぜ効かないんだと、ゴブリン達は一度手を止めて首をかしげる。その隙をついて、俺は石の斧を一番近くにいたゴブリンの脳天に叩きつけた。
斧は、ゴブリンの頭部を縦に割り胸の辺りでつっかえて止まったが、一撃で倒すことができた。できたのだが、正直かなりグロい。少し吐きそうになったが堪えた。
できれば、今の光景を見て他のゴブリンが敵わぬと立ち去ってくれないかと期待したが、そんな事はなく、他のゴブリン達は再び攻撃を開始した。
「チッ」
俺は舌打ちしつつ、ゴブリンの体に刺さったままの斧を手放し、アイテムボックスの中から新たな石の斧を瞬時に取り出し同じように振り下ろした。
「ふ~、こんなものか」
ゴブリン達は、体が小さくやたら素早かったが、こちらは大してダメージを受けないし、当たれば即死させられる。なので、残りの三体を倒すのに対して時間は掛からなかった。
それでも、斧を使って戦ったせいか、血と肉片が飛び散り、小屋の周辺は凄惨な状況になってしまったので、これは明日は片づけからスタートだなと考え、面倒だなと思いながら、ようやく睡眠が取れるとボロボロの小屋に戻ろうと足を動かす。
その時だった。背後から足音が聞こえてきた俺は振り返り、思わず声を漏らした。
「まだいたか……」
そこには、新たに五体にゴブリンが、同じようにこん棒を手にして、獲物を見つけたような目付きでゆっくりと近づいてきた。
とはいえ、今の俺は、まさに俺tuee状態負けるはずがない。
そう確信しているからこそ、俺は新しく石の斧を作り取り出すと、まだまだ獲物が足りないと走り出した。
「ハァハァハァ、もう朝か……」
もう無理と斧を捨て、大の字になって地面に倒れた。完全に無防備な状態なので、ゴブリンからすれば絶好の好機のはずだったが、辺りには生きているゴブリンも新たに姿を現そうとするゴブリンもいない。
俺以外には、無数のゴブリンの死体だけが残されていた。
一体何体倒したのだろうか?俺は寝転んだ状態で一夜を振り返る。
大誤算だった。最初こそは、俺tueeと調子に乗っていたが、倒しても倒してもゴブリン達は尽きない。結果、戦いは夜通し続いた。
ゴブリン自体の戦闘力は低く一撃で倒せ、滅多に浴びなかったが攻撃を受けても少し痛いだけであり、武器もすぐに補充でき、一度に襲い掛かってくる数も多くて十体ほどで、見つけ次第すぐに始末できた。
問題だったのは、倒しても倒してもすぐに新たな個体が姿を現すことだ。一体倒すと、すぐに次の個体がどこからか沸いて来るような感じだった。
一度に百体、千体を相手をするよう事態にはならなかったので一人で対処できたが、少数の雑魚相手に延々と戦うのは流石にしんどい。
疲労困憊。ただでさえ、昨日は転移してきた直後で疲れ切っていたのに、ゴブリン達のせいで一睡もできなった。
人間関係が煩わしいと思っていたから、神様に人がいないところに飛ばしてもらったはずだが、これなら人間がいる場所の方が良かったかもしれないと少し思ってしまうほどだった。
身体能力が上がっているため、体力も向上しているようだが、それでも一晩中戦えば、疲れは生じる。
「あ~、あいつらまた来るのかな」
夜になって急に姿を見せ、倒せば次の個体が出てくる。生きている奴は朝になると幻のように消え、死体は残った。
このことから色々と推察できるが、少なくとも今晩も襲撃してくるのは間違いない。夜が来る前に何かしらの防衛策を講じなければいけない。
色々とやらなければ、ならない事が山積みで少しだけ、憂鬱な気分になるが、今は疲れたので早く寝たい。
睡魔に襲われた俺は、ゴブリンの襲撃に壁は穴だけになり、もはや小屋とは呼べない寝床の中でようやく眠りにつくのだった。