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第十七話 ムカ着火ファイアー

 前代未聞の突然の空からの攻撃。


 聖女エシャルのおかげで、敵の攻撃は一時的に中断されたが、その衝撃は大きい。


 特にこの村に来て日が浅い新参者達は、我先に逃げ出そうとした。


 そんな逃げ腰の彼らに対し、実質的にこの村の最大派閥の長であるゴードンとシギンから怪我人の治療をしつつその場で待機し、各集団の代表者達は中央広場に集まれという指示が下された。


 敗残とはいえ、泣く子も黙るカルスタン家とフェンリル傭兵団の長。


 逆らうのは得策ではないと判断し、元村長や貴族の家長などの中小派閥の代表は今後の方針を聞くために目的地に向かう。


 そして集合地点で彼らが見たものは、シギンやゴードンを顎で使い、鬼のような形相をして、怒りを露わにして場を仕切っていたこの地のオーナーを名乗る天田要だった。


「集まったのはこれで全部か」


 この場に集まった新参者の代表者達は、今まで、自らをオーナーと名乗るこの天田という男は、物を生み出すという便利な力を持つことを除けば、平凡な人物くらいにしか思っておらず、大して警戒していなかった。


 だが、今は違う。


 逆らったら即殺されるような、危険な雰囲気を漂わせている。


 あのシギンとゴードンですらも、普段は共に暮らす対等な仲間のような関係なのに、今は怒った上司の怒りがこちらに飛び火しないか心配でハラハラしている部下にしか見えない。


 この村には村長のような存在も役場のような行政機関もない。故に明確なリーダーがおらず、強いて上げるならば、名の知れたシギンとゴードンのどちらかだと新参者の多くが考えていた。


 それだけに、これまで王様のように振舞うのでもなく、資源を対価に家や道具をくれる商人のようだった男がこの場を仕切ることに対して、少なからずの不満を持つが者もいたが、あの二人が何も言わない以上、おとなしく従うのが吉だろう。


 全員、まずは静かに話を聞くことを選ぶ。そしてすぐに、爆弾発言を聞くことになる。


「よし、これから今後の方針を説明する。と言っても難しいことはない。結界が解除された後、あの共和国製の空飛ぶ船を叩き落とす!」


 集まった代表者達のほとんどが、如何にして空飛ぶ怪物から逃げるかを話し合うだろうと予想していただけに、オーナーの発言に耳を疑った。


「ど、どうやって」


「いや、無理だ」


「勝てるわけがない」


 黙っているのが最良の選択だと考えていた代表者達も、オーナーの下した無謀な決断に対して、不可能だと反対の声を上げる。


 そんな心の底から代表者達の叫びを無視して天田は、手をかざして呟いた。


「雷弓・インドラ」


 すると、馬車と同じくらい巨大なサイズのバリスタが姿を現した。普段、彼が生み出してみせている住居よりは小さいが、初めて見る巨大な武器に、皆、大変驚いた。


「そ、それは」


「城壁の上にあるバリスタと同じように見えますが……」


 ゴブリンから村を守るため、城壁の上にはバリスタが設置されているが、今回出したバリスタは、今までの数倍以上の大きさであり、座って射撃できるように椅子のようなものまでついていた。


「使い方は城壁の上にある対ゴブリン用のバリスタと同じ、違う点は、こいつは魔法武器に該当するため、発射の前に矢と一緒に魔力を込める必要があることだ。まあ普段使っているバリスタよりも、威力も射程も桁違いと思ってくれればいい」


 バリスタ自体はこの村以外でも、見た事はあるが、ここまでのサイズのものは未だに見た事がない。


「こいつを作るのに必要な材料の一つに雷魔法のライトニングがある。普通にライトニングを放っても、あの船までは届かないが、ライトニングを材料に作ったこのインドラならば、空に浮かぶ敵船にも十分に届くだろう」


 余裕だという天田の言葉に、おお~っと歓声が巻き起こった。


 それは素晴らしい。


 あれだけ高いところにいてはどんな魔法でも届かないと諦めていただけに、微かな希望の光が生まれたのだが、まだ問題は残されていた。


「しかし、仮に届くとしても当たるでしょうか?」


 そうだ。


 対ゴブリン用に普段使っているバリスタは、壁に押し寄せるゴブリンの数が多すぎるため、適当に放っても命中する。


 だが、今回の敵は一体だけで遥か空の上。


 近くにいればデカい的だが、距離があり過ぎてここからでは、遠くの的を狙うようなものだ。まず当たらないだろう。


 誰もが、やはり無理だと諦めるなか、天田だけは一切問題ないとのたまう。


「命中率を心配しているのか?確かに仮に命中率が1%だったとしたら、百回に一回しか当たらんだろう」


 その通り。命中率が1%あるかも怪しいが、事前の訓練もなしにいきなり当てろというのはいくらなんでも不可能である。しかし、そんな事はお構いなしに天田は話を続ける。


「俺の故郷にはこんな言葉がある。下手な鉄砲も数打ちゃ当たる」


 鉄砲という言葉は聞き慣れないが、何となく言わんとしている事は理解できた。そして、その予想が正しかったと言わんばかりに、天田は、一台目のすぐ隣に二台目を設置した。


「百台ほど作ってぶっ放せば、まぐれで数発くらい当たるだろう。それをアレが堕ちるまで繰り返せ」


 絶句するしかない。


 いや確かにその言葉は正しいが実現できるかは別問題。


 結界が消えて後数時間で敵の総攻撃が始まるこの段階で、対空用の巨大バリスタを大量生産するなど普通に考えれば不可能なのだが、この男の力はそれを可能にする。


「こいつを一台作るのに、上質な鉄×16と上質な木材×12と丈夫な紐×3、それから雷魔法のライト二ング×1が必要だ。アイテムボックス内の蓄えを総動員するが、多分足りないはず。なので足りない分は」


 瓦礫の山を指差す。


「あそこから回収する」


 天田は、敵の奇襲で瓦礫の山となった家の残骸を再利用して、あの空飛ぶ化け物を撃ち落とす兵器を生産するつもりだ。


 通常であれば、廃材を回収して使えるパーツを分別し、一つの巨大バリスタとして完成させるだけで一週間以上は掛かる。いや、そもそもできない確率の方が高いだろう。


 それに仮にできたとしても、重労働をする者や、専門知識を持った職人など多くの人材も必要だ。


 それら全ての膨大な行程を、天田はたった一人で行い、かつ短時間で実現する。


 まさに神の御業だ。


「ゴードン。あの船を墜落させた後は、ロカに突撃させろ!!狂戦鬼の力で生存者を蹂躙してやれ」


「了解しました」


 戦闘集団である、あのカルスタン家やフェンリル傭兵団が従順になるわけだ。


 こうして天田の本気を目撃した代表者達もまた、彼に付き従うことを決意するのであった。





「准将、結界が消滅していきます」


「約二時間間か……流石の聖女もこれだけの結界を維持し続けるのには限界があるようだな」


 地球とは異なり、この世界には戦争のルールというものはなく、民間人を一方的に殺害しても一切咎められることはない。


 むしろ戦闘力はないが、国民の喪失は長期的には敵国の国力の低下を招くため、民間人を積極的に狙って行けと命令する将校が他国にはごまんといるくらいだ。


 なので、リチャードも兵士達も、これから村人を一人残らず殺す事に何ら抵抗を感じず、むしろ作戦が万が一露見した場合、議会と国民に叩かれることの方が恐ろしいと思っていた。


 ただそれでも、獲物に対して、最後に思い出話くらいはできたかと狩人として上から目線で思いを馳せていた矢先、突然、部下達が叫んだ。


「うん?」


「あ、あれは!!」


 濁った水のように視界を遮っていた結界が解かれて再び眼下に広がる村を視認できるようになったのだが、村の様子が先程までとは異なっていた。


「あれはバリスタか?!」


 瓦礫の数が減っており、代わりに、この高さからでもはっきりと分かる巨大なバリスタがあった。


「何だあの大きさは、デカい、デカ過ぎるぞ!!」


 下に車輪がついてあったとしたもあの大きさの物を動かすとなると、かなりの人数で押す必要があるだろう。


 こんな田舎にそんな代物が一台あるだけでも驚きだが、問題なのは、それと同じ巨大バリスタが、他にもいくつか確認できたことだ。


「一、二、三、四、十……ん?いや、何だこの数は?!!」


 五十、いや下手をしたら、百を超えている。


 結界が展開される前にはこんなものを一台もなかったはずなのに、この二時間の足らずの間に一体何があった?

 

「こんなに、沢山どこに隠していたんだ!!」


「あ、ありえない。ゼラシード商会が生産しているバリスタよりも大きいし、我が軍が持っている全てのバリスタをかき集めた以上の量の大型バリスタが、何でこんな千人いるか分からないちっぽけな村にあるんだ?!!」


「ど、どうしますか准将?」


「落ち着け!数はあっても、あのバリスタの矢がここまで届くとは限らない!」


 常識を疑う大きさと量だ。この高度でも万が一の可能性がある。


 一先ず動揺する部下を落ち着かせて、高度を上げるように指示を出そうとするリチャード准将。


 だが、時すでに遅し。


 命令を下すよりも先に、雷を纏いながら百を超える長く黒い棒のような矢が地上から一斉に放たれた。


 直撃はなかったが、船の至近距離を飛んだ巨大な矢の嵐を浴びて、自分達を狩人だと思いこんでいた乗員は恐慌状態に陥る。


 何人かの魔法使いは、何とかしなくてはと本能から命令を待たずに、地上に攻撃を仕掛けるが、統制と冷静さを欠いていてはろくに命中しない。


 それでも、何発かは地上の巨大バリスタのいくつかに直撃し沈黙させたが、あの数が相手では焼け石に水だった。


 そして数分後、健闘も空しく、敵からの第五波により、ついに運悪く船を浮遊させる重要な部分をバリスタの一撃が穿ち、無敵であるはずの空鯨船は、森の中に堕ちていった。



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