第7話 悲報「【臆病者】、迷子になる。」
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―臆病者視点―
「ハァッ……ハァ……。……ンッシンッドイ……ハァッハァ……。」
俺は何回か角を曲がりきった所で休憩をした。
喋ることも辛いのに独り言をついつい言う。
地面にうつ伏せになった。
仮面が間を挟んでいるため、顔が少し圧迫されている。
周りからみたら急病でもでたのかと言うほどの勢いで倒れた光景にしか見えないのだろう。
200メートルを全力で走ったら、異世界人もこの世界の殆どの人も疲れる。
俺の場合、200メートル位は全速力でペースを落とさずに走ることが出来る。
ただ、代償が余りにも大き過ぎて、普段は精々100メートル程ごとに休憩を挟む位だ。
その代償は
休憩2時間!
俺は地面にうつ伏せになり寝転んだまま、その場で2時間の時を過ごした……。
……シンドイ、ダルイ、ツカレタ。
……アノユミツカイスゴカッタナ、ダルイ。
……ラクニナッテキタ、デモマダシンドイ、ダルイ。
……マダシンドイ、ダルイ。
……しんどくなくなった、でもだるい。
……かなり楽になってきたけど、まだかな。
……暇だし収納魔法に入れてきた本読もうかな。子供の頃にハマった本でも出そう。
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2時間後……。
やっと身体が動けるようになった。
今は昼間。
さあ!此処から脱出しよう(商店町からどうやってきたっけ?)。
確か右、左、左、直線、右、左?、直線?、左、直線、左、右?、左、右、左に曲がった気がする。
自信は十分にある。
絶対間違っていることに!
※6話参照。見比べてみるとわかります。
この住宅街。
住人のほとんどは、この住宅街の構造を知らない。
家が全て同じ構造かつ同じ色のレンガで出来ている。
せめてもの大きな目印は洗濯物と、窓から微かにのぞき込める住人の冷たい顔だけである。
此処で迷ってしまったら、冒険出発!どころではない。
どうやってここの住人達は、食料や生活アイテムなどを調達出来ているのか?訳ありな気もするが、言わないでいた方が良さそうだ。
ともかく、来た道を戻りたいけど無理だ。
最悪チンピラ共が探しているかもしれない。
取り敢えず、歩かないと!
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俺は近くに設置されていたこの町全体マップを見る。
木でできた掲示板ぐらいの大きさに地図が全面に張り出されている。
……。
……。
……え?
これ絶対道わからないじゃん!
なんでこんな複雑極まりない住宅街専門じゃなくて全体マップなの?
これじゃあ大雑把過ぎてわからないよ……。
俺は愚痴を漏らしたくなった。
ついつい本音がでる。
でも、今大体どこにいるかはわかった。
この町は
【一般区】
【冒険区】
【住居区】
【行政区】
の4つのエリアに分けられている。
俺の父さんの家と、冒険者商店町は【冒険区】。
洋服とかを買いに行ってた所は【一般区】。
そして、今いる場所は【住居区】だ。
生産職(冒険者にならずに、服や武器などを制作、販売し生計をたてる職業の事)の人は大体この辺りにすんでいる。
此処に住んでいる冒険者達も多い。
そのため、【住居区】は他の3つの中でも面積がどうしても広く、【とうきょうどーむ】3個分という広大な広さになってしまった。
一番の原因は、住む人が増えるたびに拡大し、無理に道と道を繋げようとした事だろう。
建設費用を削減、効率的な作業の両方を取るため、全ての家がほぼ同じになった事も大きい。
この町も他より財政はあっても、足りないのが現状なのである。
15分ぐらいひたすら歩いているが、自分が歩いているところが、皆目見当もつかない。
あれ?
ここさっきも見たぞ?
あの家確か、凄い目立つ虎柄の服を干してた気が……やはり干してた……。
え?
戻された?
せっかくの15分を無駄にしたのである。
こんなものがずっと続くのなら迷子は確定である。
大の大人も迷わせる迷宮。
その恐ろしさをこの世界、異世界人全員に試してもらいたいものだ。
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例題
今、俺は虎の服の家から始める。
右手に虎の服の家。
左手の家の奥にはボロボロのボールがある。
曲がり角がでるまで直進する。
すると、今度は右に回る選択が出てくる。
俺は迷わず右に曲がる。この曲がる前、左手の奥には、木製のおもちゃが乱雑に置かれている。
曲がった道には、両サイドに家がある。
左手には何故か分離されている。
右手の家の目印が何もなかったので、窓を覗き込むと、筋肉むきむきのマッチョが汗をかきながら腕立て伏せをしていた。
……見なかった事にしよう。
また分岐だ。
今度は直進か右か左のいずれか。
直進は少し狭いな。
今度は左へ進もう。
途中分岐があったが、直進をする。
また分岐だ。
左のみ。
無視して直進しよう。
……ん?
「現在ここは一部、道路陥没のため通行出来ません。」
通行止めか。
諦めて戻ると左しか無かったから曲がる。
少し道幅が狭いな。
左手には家が見える。
奥にはテーブルと、紙製の何かのカードが置いてあったのが見えた。
家が見えて直ぐの右に、分岐がある。
ここも道が細い。
それから少し先には左への分岐がある。
直進の方は大分先が見えるな。
俺は家が見えて直ぐの右を曲がる。
すると、直ぐに分岐がでた。
右か左か。
右を言ったら確か通行止めの場所に戻るハズだ。
迷わず左を選択。
また直ぐに分岐。細道の左か右か。
左を選択すると、さっきと同じ所に戻される。
俺は右を選択。
曲がって直ぐの左側には、家があった。
手前の庭には、異世界人の遊び(と言うよりスポーツらしい)であった【ばすけっとぼーる】が幾つか置いてある。
おいおい、銅製とは言え、【ばすけっとごーる】もあるぞ!
なかなかの金持ちだな!
また分岐だ。細道の右か左か直進。
俺は左に曲がる。
今度も分岐!細道の直進か細道の右か。
(俺分岐って何回言ったのだろう)
左に曲がる。此処まで300メートル位?歩いたのかな。
左に曲がって直ぐの左側の道路沿いには、大きな青いバケツがあった。
幼少期の頃、いじめっ子から隠れる時にバケツを利用したことがあった。
悪くて苦い思い出である。
少し歩くと、右の家の奥には家族3人でバーベキュー(銅製の製品)をしている。
たまたま異世界の知識と被ったと言うのは、奇跡というより、味の味覚が一緒だったからかもしれない。
左手の家を窓越しに見てみると、家族4人で何かの凄い料理を作っていた。
父さんと何回か料理を作っていたけとがある(俺のせいで6割ぐらい飯がマズかったのは、今でもつらい)。
懐かしい。
俺もいつか、こんな家庭を築くのだろうか。
冒険者で出稼ぎして、一家の大黒柱になって、それで……。
でも、俺は【臆病者】。
これからの旅も修羅道を貫くのだろう。
勿論、独りで。
ここの住宅街に住んでいる人々の生活は、個人個人が、何かしらの幸せを、既に持っているのだろう。
俺はとぼとぼ歩く。
幸せを掴みかけた者と、そうでない者の幸福の差は破格なものである。
ここ辺りで活気に歩いていた(仮面をつけた奴が歩道の真ん中をカッコつけて歩くのは、変人の領域に触れかけるのではないか、と何度か考えた)足取りが重くなったのだ。
気持ちの問題だとわかる。
幸せな家庭の家を歩いてすぐ、前に家があった。
更に右しかない分岐だ。
少し前の選択が無駄になった。
目の前の家の右側には何か白色の堅そうな服を干している。
これは確か……学校の部活の体験会らしきもので、この服を着た気がする。
そうだ!確か異世界人が考えたスポーツだった!
【からて】だったかな確か。服じゃなくて【どうぎ】と言ってたっけ。
他にも【てにす】とか【ばとみんとん】とか【ばすけっとぼーる、通称ばすけ】も異世界人のスポーツだった。
俺の場合、森の特訓があったからどの部活にも入らなかった。
けど、【ばすけ】に入った同級生の話を耳を立ててみると、「すっげー練習は大変だけど、バスケットゴールに入れた瞬間の喜びと、試合に勝ったときは凄いよ!」と友達に自慢している。
異世界人は青春を味わえるスポーツを好むものなのだろう。
まあ、この世界で適用された本当の目的は、身体能力の向上だろう。
【からてのどうぎ】が干してある家を後にして、右に曲がる。
家族3人でバーベキューをしている美味しそうな匂いを嗅いでしまった。
(焼き加減のちょうど良い肉の匂いじゃん!?)
見てただけで空き始めた気がした俺のお腹は、肉を嗅いだだけで更に空いてしまった。
急いでここから逃げるように走ると、また分岐だ。
右か左か。
何故か前の方には、大きな穴と長い銅のパイプがある。
大きな穴で見えているだけの長さだけでは無さそうだ。
地中にずっと続いている。
その半分がボロボロ。
カビや虫や変色で見るだけでも酷い。
もう半分は新品。
キラキラした茶色い金属が太陽に反射して、見るだけで神々しい光を放っている。
まぶしい。
水道管の入れ替え工事か。
異世界人の発明だったな。
異世界人は全く違う物質で水道管作ってたけど、そんなものはこの世界に無いから銅で代用したんだっけ?
※銅でも代用できますが、年代と共に錆びるので、一定の期間で取り替えが必要。
これのおかげで、全ての家庭に水道が行き渡るようになったから便利なものである。
右は駄目だ。さっき選んだ選択にふりもどされる。
俺は左を選択する。
直ぐに右へのルートへ曲がれる細い通路があった。
今度は右を曲がる。
細道を少し歩いたところには道がまた分岐していた。
右か左か直進か。
めんどくさいから直進!
また歩くと右手に家がある。
窓を少し覗いていると……。
夫婦喧嘩してる。相当な修羅場だ。
若干だが声が聞こえるので耳を澄ましてみる。
男「ちゃんとサンマ(モドキ)の目玉をしっかり焼けと言っただろうか!!」
女「なによ! 自分でもう一度焼けばいいじゃない! 私はこの家の家事で大変なの!」
男「うるせえ! コッチだって子供養うために命張った仕事(冒険者)やってんだ!」
……。
……。
……えっ?
サンマの目玉がしっかり焼けてないだけで、そんな修羅場になるの?
これで最悪の場合、離婚とかいう事になるから末恐ろしい……。
まあ、確かにサンマの目玉はそこそこ美味しいけど……。
(これってさ、どっちかが「やる」と言ったら済む話なのに……)
どっちも「やらない」からこういう羽目にあってるんだけど。
喧嘩が冷めて、熱くなることを取り敢えず願っておくことにした(他人だけど)。
サンマの目玉の家から少し歩くと分岐があった。
一端右に曲がる。
曲がった直ぐに左に曲がれる道があったが、直進する。
家が両端に見えてきた。
右手に虎の服の家。
左手の家の奥にはボロボロのボールが……。
あれ?
どうやら一周してしまったようだ。
此処まででおよそ30分。
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これで、この住宅街の恐怖がわかっただろう(誰かこの気持ちわかってくれ!)。
これは少し早い気がするが、認めなければならない。
俺は迷子になってしまった(迷子じゃなくて遭難)。
ヤバイ。
冒険どころの話ではない。
慌てて近くにあった家の住人にどこが出口か聞いてみることにした。
「ゴンゴンゴン(ノックの音)すみません! どなたがいらっしゃいますか!?」
少しした後、カタッというロック解除の音を鳴り響かせて直ぐに、中年位の男が出て来た。
「何? ゴンゴンうるせぇナァ! 勧誘なんか二度と御免だ。いったいった!」
男は左手に持っていた銅のパイプを、突然玄関の地面に叩いて音を響かせる。
キーンという音を響かせた。
マジかよ……。
単なる脅しだが、この住宅街の住人達に迷惑をかける訳には行かない。
親の面目丸潰れだ(仮面はずられたら最悪)。
「すみませんでした!」
と一目散に俺は逃げる。
勧誘って何なのだろう?
それにしても凄く住人はかなり冷たくて寒い。
この住宅街に入ってから既に3時間。
お腹が空き始めた。
収納魔法の中には干し肉数枚だけだ。
緊急用の物を余り使いたくはない!たが、迷子程度で野垂れ死には辛すぎる。
(飛べる魔法習得しとけば良かった……)
今更悔やんでも遅いのである。
「オイ! ちょっとお前! もしかして迷子か!?」
後ろから突然聞いたことのある気がする声が聞こえた。
キターーーーッ!
3時間のプチ地獄からようやく開放されるかも知れない!
世の中には優しい人もいる事を理解しないといけない!
「いやーすみません! 初めて此処の村に来たんですけど、凄く複雑ですねー。お陰で、お腹が空いてしょうがないんですよー。ここから出る出口を教えて……え?」
俺はとりあえず、バレないように考えた台詞を棒読みで言おうと振り向いたとき、相手の佇まいで誰なのか直ぐにわかった。
意外過ぎて口が止まる。
「ハハハハッ! なんだ、妙に言葉がたどたどしいから誰のまねだ!と思ったら、冒険者の演技か? 俺はなかなか面白かったぞ! 坊ちゃん? あれから元気にしてるか?」
「そっ……村長さん!? 何で此処に!?」
この村の村長さんだ。
町というほど此処の村がでかすぎたのでよく町と言っていたが、国では村扱いらしい。
俺は余りにもここにいる可能性の中で薄い知り合いの、突然の出現に慌ててしまい、つい腰を抜かしてしまった。
慌て過ぎて手をバタバタさせたのが恥ずかしすぎる。
俺、やっぱり【臆病者】かも知れない。
30少しの若い村長だ。
もっと若い頃に冒険者をやっていた経験や知恵を生かして、この町の村長に抜擢された。
確かこの町で41代目だったが、30過ぎたばかりの村長は初めてかもしれない。
少しラフな恰好の服装だ。
町の集会の集まりできているあの勇ましい服とは少し違った男としての魅力を秘めている。
(決して俺は異世界の言葉で言う【ほも】と違うよ! 絶対違うよ! 誤解しないで!)
身長176センチ。
俺より4センチ高い。
体重確か70前半。
俺より8キロほど重い。
筋肉ガチガチと言うより、標準的な体系なのだろう。
ただ、戦闘能力はこの町で色々武器などを買ってる冒険者よりも明らかに上。
若い頃に冒険者をやってたからなのは、言うまでもない。
魔物との戦闘を近くで見ていただけでもかなり熟練の動きだ。
なんだかんだ、この町では最強なのかもしれない。
この服装……あれ?確かどっかで……。
この虎柄の服どっかで見たような気が……。
「ん? どうした坊ちゃん? この服か? さっき、異世界人が『これいります?』何て言うから渋々着てやったんだ。そしたら、若い頃にこういう派手な服ではっちゃけてたのを思い出したから、ついつい貰ってしまった……。『やっぱり返す!』と言うのもさすがに大人げないし、着ないと衣服として成り立たないからな。」
俺にはいまいちわからない。
だが、懐かしい思い出が蘇ったから、ついつい「ください!」と言ってしまった。なのは理解できる。
(いや……。立場的には村長だしそれは……町の人みんな引いちゃうのでは?)
普段、黄緑の服を着ている。
それを被せるように虎柄を着るのはいささかどうかと思うが。
凛々しい顔立ちが、あのチンピラに段々見えてくる。
衣服は、着ている人の見た目を変えるという。
それを見せられた気がした。
しかし、この瞬間、俺は迷子ではなくなった。
村長さん。いや、イグナル・ゼルゲイ・ジャン村長は、この町の全てを知り尽くしているからだ!




