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野蛮学校物語  作者: yukke
第1章 臆病者の旅立ち編
5/116

第4話 俺様は【悪役】になる


※今回の話はずっとチンピラたちの視点です。



―――――――――――――――――――――――

~チンピラ達・チンピラのボス視点~



 ~臆病者が団体の冒険者達の間をすり抜け~



 クソが!!

 あの野郎調子乗りやがって!!


 大体何なんだ?

 何であんなにゴミ共の集まりをギリギリで回避出来る!?


 あんな隙間、帝国の暗殺者でも回避出来ねえぞ!


 流石にあせった俺達は、その後冒険者団体と衝突してしまった。

 どけ!と言ったが間に合わなかった。


 舌打ちをする癖がここで出ちまう。



 「ちょっとあんたたち待ちなさいよ! 何勝手にぶつかって来た訳? あんたらのせいで私達の服が汚れちゃったんだけどどうしてくれるわけ!」



 口五月蝿い30のババアが俺達に弁償を求めてきやがった。


 殺したいのも山々だが、今はあの野郎を捕獲して始末する方が先決だ。

 俺達を妙な技でハメて恥かかせやがった分、痛めつけてやらねえとなぁ!!



 「そこどけやゴラァ!」



 ババアの事は無視して俺達は彼奴の後を追う。


 無理矢理、腕の力で冒険者達を軽く弾き飛ばした。一応、帝国の兵士だったからそれくらいは楽勝。

 「人の話を聞け!」とかババアの近くにいた小汚ねぇ30後半の男が何か叫んでいたが無視した。


 冒険者団体の一部の奴らの手が俺達の服を掴んだが、力技で振り切った。

 この程度、元帝国の兵士だった俺達には朝飯前だ。


 此処で魔法とか打ってきやがったら流石に追っかける所じゃなかったが、そこまで団体は馬鹿じゃない。


 あくまでここは町のど真ん中だ。

 騒ぎが大きくなったら、面倒なことになる。

 あの異世界人らが発案したという【サツ(警察)】が来やがる。

 サツの厄介になるのは、しばらく御免だ。


 静かなところで確実に獲物を仕留めるってのが俺達のやり方だ。



 ~臆病者が出前店長と衝突~



 ハッハッハ!!

 ザマア見ろ!!

 俺達とかなり離れてるからって、よそ見しやがったぜ!!





 ……ん?


 彼奴今、()()()()()()()が頭に落ちてきて、何で平然としていられんだ?


 俺達がまだここにきたばっかの頃、安くて旨いからってよく食いに行ってた。


 あのそばの容器。


 容器にしてはそこそこ重かったぞ?


 普通、あれほどの重さの角が脳天に落ちたら失神どころでは済まない。

 ヘタしたら死もあり得る。


 彼奴、妙に打たれ強いと見る。



 そんな事より早く追いつかねえと不味い。

 商店町を抜けたらこの先はかなり広い住宅地。

 此処は近所のガキ共だけじゃなく、いい年した一般民でさえも平然と迷わす場所。


 あそこで迷ったと20近くのガキが公に話しても、誰も笑うどころか落ち込んでた位だ。


 彼奴が逃げ込まれたら俺達は退散せざるを得なくなる。

 空を飛べる魔法を所持している奴は俺達のアジトで待機中だ。

 空から捜すのは余りにもだるい。


 何とかして捕まえないと……。


 まあ、彼奴がヘマしたお陰でこっちは距離を稼がせてもらった。

 大人しく勝負しろやこの臆病仮面野郎!!!



 ~臆病者(頭を打ったけど)逃走再開~



 彼奴、足が早くで持続力もある。

 まるで、すばしっこい鼠みたいなクソウザイ奴だ。

 60メートルほど全速力で走っている。


 この大勢のゴミ共を回避しながらとなると、実際走った距離は凡そ80メートル。

 ぶつかったのは彼奴がヘマした出前店長一人だけ。



 人間の領域から外れかけている。

 

 

 俺達は彼奴の回避能力をどうにかできないか話し合う。



 「回避出来ない位の大勢のゴミ共で押さえ込めばいいんじゃないっすか? このあたりのゴミ共はさっきの騒動に気づいてないから、泥棒!って言ったらその気になって彼奴をとらえられるんじゃないっすかね?」



 ここのアジトに何日か前に入ってきた新入りがそう言う。

 少し、上に対してのその口の聞き方は悪いが、悪い手ではない。


 大勢のアリは一匹の象に勝ると言うワケか。



 「成る程! 彼奴を泥棒呼ばわりすれば、頭の悪いゴミ共はその気になってコッチの味方になってくれると言う算段なわけか。」



 俺の側近がその新入りの提案に賛成する。

 俺はその発案に乗ってみることにした。



 ……しかし、俺は彼奴がそれすらも乗り越えようとするのではないか?という予感がする。

 このゾッとする妙な感覚。


 俺が今までゾッとした奴は帝国の中で数人。


 帝国の元兵士だったから、ある程度の名前は知っている。


 彼奴のように回避する誠とかいう異世界人。

 帝国で唯一、最強クラスの魔法を所持しているガルト・ローレンツ。

 そして、帝国の創設者のイミルミア・アルト・リーア=ローゼル。


 あの化け物達の中にあの野郎が入るというのか!?



 「おい! アイツを捕まえてくれ! アイツが俺らの金をスリやがったぜ!! 捕らえてくれ!」

 「「!? おい! アイツが金をスッたとよ。皆で取り押さえろ!!」」


 

 俺の部下の一人が彼奴に右手の人差し指を彼奴の方向に差しながら、大声でそう言う。

 ゴミ共は俺達の策にハマったようだ。

 


 ~臆病者の前に冒険者達が立ちふさがる!~



 ゴミ共は彼奴の数十メートル先に集まっている。

 両端の露店ふくめて幅10メートルをゴミ共が塞いでやがる。



 さあ、奴はどうする?



 1.ゴミ共に突っ込む?


 そんなことをしたら、逃げても俺達は追いつける。

 仮に逃げ切れても、差はかなり縮まる。

 後100メートルほどもある商店町で、数メートルの差は逃げてる立場となると、後が無い。


 俺達の何かの発案でトドメを刺せる位の距離になる。

 少し面倒だが、捕らえる。



 2.わき道にそれるのか?


 一番俺達にとっては万々歳だ!

 わき道は俺達の縄張り。

 人やサツの目を気にせず、遠慮なく殴り殺せる。

 ついでに仮面の中を見てやるとしよう!



 3.ゴミ共に自分は無実だと説明する?


 無理だな。

 そんな時間はない。

 しかも、ゴミ共は捕らえる気満々だ。

 その隙に俺達が彼奴を簡単に捕まえられる。

 愚策と彼奴も考えていることだろう。



 4.唯一行けそうなところは上か?空を飛ぶという


 ゴミ共の上を飛ぶの上を飛ぶという突発的な発想の切り抜け方は、俺は嫌いじゃねえ。

 確かそういう発想が、こんな歪みまくった世界を変えるんだと帝国の革新派閥はそう言ってたな?

 でも、無理ってもんだ。


 いさとなれば俺は空を飛べる魔法を使える奴を呼ぶ。

 地面を走るのがかなり遅いクセに何故か空の飛ぶ速さは帝国で2番目だ。


 一番目はあの異世界人の誠。

 別格過ぎて笑うしかねぇよ。


 異世界には【じどうしゃ】という人を運ぶ乗り物があると聞いた。

 だが、それよりも速い速度で跳ぶことが出来るという。まあ、地面と空はかなり違うがシンプルな速さで言えばの話だ。


 彼奴は空を飛ぶ能力は無いとみる。



 色々考えたが、直ぐ思い付くのはせいぜいこの程度だ。


 だが、どの道を辿っても俺達に捕まる運命しかない。

 彼奴とゴミ共の距離は凡そ10メートルだ。


 2と3を使うなら今だぞ!

 使ったら俺様の勝ちだ!


 ……チッ。

 彼奴感づいてるな。

 使用とする雰囲気がまるで感じらんねえ。 



 残るは1と4。

 彼奴とゴミ共の差は後5メートル。


 空の魔法の、対人適性距離だ。


 空飛ぶ魔法持ってんなら今のうちだが、魔法の詠唱が無い。

 もしかしてあのガキの年で無詠唱!?とも思ったが使用していない。


 これで4は消えた。


 距離が近過ぎると、ゴミ共に足を捕まれて魔力切れでジ・エンドになる。

 そのための適性距離だ。



 となると、1の突っ込むだと?

 なかなか脳ミソが優れてるんじゃねえか!

 この俺様をかなり翻弄させてくれるなぁ!


 まあ、大した奴だった。後は俺達の小手先の技で捕まえるか。










 彼奴とゴミ共の距離あと4メートル。


 なかなか楽しかったが、派手にゴミにぶつかるがいい!

 流石にこっちも賞賛を贈らない訳には行かねぇ。此処まで俺達に挑む勇気に敬意を評してやるとしよう。

 無駄な抵抗をしなかったら助けてやることにしてやる。彼奴を俺様の仲間に引き込めば、間違い無く勢力は拡大する!

 

 








 彼奴とゴミ共の距離あと3メートル。


 へっ!あの異世界人が発明したという【かめら】があったらすげぇ光景を納め……。









 俺様が【かめら】で彼奴とゴミ共の写真を一枚撮っておこうと思いかけた瞬間に、彼奴は動いた。


 ()()()()は、俺様の勝利の微笑みをぶち壊した。


 仲間は全員、顔を青ざめる結果となった。

 その後、俺達の何人かは彼奴に視線をそらした。


 俺は彼奴の行動が信じられなかった。

 一瞬の光景で背筋が凍る。


 あのゾッとする感覚も来た。

 俺様が今までゾッとなった人間は確かに何人かいた。


 あの数人も人間離れしていたが、それでも人間という部分は微かに残していた部分があった気がした。


 しかし、今回はそれよりもヤバい。

 俺様が今まで感じたものよりも強く、そしてガツンと心臓に突き刺さりやがる……。


 (彼奴の凄まじい身体能力は、人間の領域を遥かに越えた存在。間違い無く彼奴は、この世界で何かスゲェ事をしでかす。こんなクソみたいな世界を変えるかもしれない新芽の彼奴を、俺らみたいな雑魚が摘み取る権利はあるのか?)


 そう思うと、今まで追いかけた自分達がすっげぇ情けなく思えてきた。


 仲間が目を背けた理由もイテェほどわかる。



 今回の作戦は俺達の完全勝利だと思っていた。


 99.99パーセント勝つと最低、思っていた仲間もいるだろう。

 0.01パーセントなんか気にする人は誰もいないのである。


 それが彼奴の行動で一瞬で玉砕された。0.01パーセントの小さな欠片を彼奴は掴みやがった!



 「夢であってくれ!」



 という気持ちと



 「認めたくねぇ!」



 という気持ちが混ざった結果、目が現実を受け止めきれなかったのだろう。






 それが起こったのは、彼奴とゴミ共の差が残り2メートル50センチの出来事。


 彼奴がしたのはゴミ共に突っ込む事ではなかった。



 ただの()()()()



 何の変哲も無いただのジャンプ。

 


 それだけでも充分凄ぇ。

 俺様でも不可能という状況で、唯一希望の解決方法を彼奴は自力で探し抜いた。


 飛んでいる時間は一瞬。

 空を飛ぶ奴を呼ぼうにも、一瞬なら意味がない。

 ゴミ共は確かに飛んでくるのを意識していた。当然だ、空を飛ぶ魔法は冒険者達の間で人気の魔法だ。

 人気の魔法を無視する訳がない。


 ところが彼奴は対人適性距離の範囲内では、その魔法を詠唱しなかった。

 それが理由でゴミ共は彼奴が上へ逃げる可能性を蹴った。


 俺でもそうする。

 

 それを逆手に取った彼奴は、ジャンプという選択を取った。

 突っ込んでくると思ってやがったゴミ共は虚をつかれたのだ。



 そして、俺達の心が折れたのはジャンプの性能だ!



 彼奴がとんだ距離は6メートル程。

 ゴミ共の平均は3メートルだと聞く。


 人間を辞めている!

 いったいこれほどの所業を魔法なしでどうやって出来ると言うのだ!


 しかも中心点の高さは250センチ。

 ゴミ共の平均160を大幅に越えている。


 彼奴はゴミ共の壁をジャンプで越えてしまった。


 もしも彼奴が本気を出して飛距離を延ばすことだけを考えたら……。

 そう思うと、あのゾッとする感覚がにじみ出やがる……。


 だが、これでハッキリとした事がある。


 もしかしたら彼奴は……。

 




 プレイヤースキルを極めた存在!





 地獄の何かの訓練を地道に積んできたからこその、脅威の素早さと回避能力を得ることが出来るという。


 確か、あの異世界人の誠とかいう奴もプレイヤースキルによるものだと自ら公言していた。



 こうなれば、冒険者のランクも糞も無い。

 プレイヤースキルと言うのは、



 己がどれだけ地獄の訓練をしてきたかによって、その強さに差が出る!



 彼奴の冒険者ランクはDでも、油断が一切出来なくなりやがった!


 こうなれば、彼奴がハメしなければ俺らは捕まえることすら出来ねぇ。


 仕方ねぇ。

 此処で捕まえて路地裏で問いただすすもりだったが……。


 俺様の仲間の心を折らせる彼奴がとても気に食わねぇ。

 

 住宅地に入ったらほぼ俺達の負けが確定しちまう。



 かくなる上は……。



 俺は、とある魔法を使用した。



 「へぃ! お頭。今はゴミ共の住宅地前と住宅地から70メートルほどの場所で待機中ですぜ!」



 最悪の場合に此処で捕らえる積もりだった。

 しかし、もうこの方法は彼奴には通じねぇ。


  

 「おいお前らぁ! 最終手段だ! 俺の声をよく聞け!」



 「へぃ!」という下っ端からの返事を待った後、俺は一番やりたくねぇ最終手段を部下に伝えた。



 「商店町で山鬼の仮面をかぶった彼奴を見つけろ! 今そっちに向かって全速力で走っている! 見つけたら……。」



 俺は一瞬躊躇う。


 このクソみたいな世界を救うかもしれない若い新芽をここで俺達が摘んでもいいのか?


 でも、やるしかねぇ。



 もし、あいつがこの状況を切り抜けたら、彼奴のプレイヤースキルは凄かったと諦められるな。

 部下に言い分が出来るというもの。



 彼奴がここで倒れたら、このクソみたいな世界でやられた内の一人だと言い分が出来る。


 彼奴ならば、きっと乗り越えてくれるという期待を込めて。



 「()()()



 俺は確かにそう言った。

 殺っちまったら、サツに捕まって俺達の人生仕舞いだな。


 殺せなかったら、サツには捕まらねぇ。

 この世界はサツすらも、事件が起きないとうごかねぇ。

 物的証拠がねぇと捕まらねぇと言い訳する一方、いろいろな理由で殺戮をする世界になっちまった。

 お陰で都市はサツの手が回らなくなって綺麗に廃止。

 唯一ここはまだサツがある地点で、治安はマシな方だが(俺達が治安を荒らしてるのだがな)。


 彼奴はどうやらこの町から出るみたいだ。

 此処よりも狂気の街なんて山ほどある。


 もしも、彼奴が英雄になったら、俺達は悪役になるのか……。


 

 そう思ってたら思い出した!

 ガキの頃に俺は大事なことを聞かされた事をずっと忘れていた。

 忘れてた理由は俺達が帝国の兵士だった頃に、あの出来事をまじまじと見せつけられたからなのだろう。

 


 

―――――――――――――――――――――――


 

 とある小学の劇で、悪役を無理矢理押し付けられた俺は、小便垂らしながら異世界人の先輩に駆け寄って質問した事がある。


 俺は4つで両親を亡くしたから他人に色々よく聞いたもんだ。


 俺は主人公の役をやりたかったのに悪役を押し付けられた。悪役は皆の敵何だろ?ってな。


 今思えば笑える。恥ずかしくて情けねぇ話だ。

 だが、その先輩は俺の質問にこう答えた。



 「悪役は主人公の活躍を湧き出たせる役割だで、実は主人公位大事な役なんだ! 悪役になったら、『憎たらしい』とか『死ねば良いのに!』とか色々言われると思うだろうけど、それで良いんだ。主人公の魅力を最大限引き出す事が出来る素晴らしい演技をしなさい!」



 ガキの俺は感動しちまった。


 「悪者~」とか「主人公になれなかったな!」とかいう他のガキ共には目もくれず、

 いつしか、英雄の活躍を際立たせる【悪役】という役割をもう一度やってみたいと思った。


 でも、そんなガキの頃の思い出なんか直ぐ忘れちまった。


 帝国生まれだった俺は勉学の才能は今一つだったから、帝国の兵士になった。

 身体能力は人一倍高かったから兵士になれたんだと今でも思う。


 帝国の兵士として俺は鍛錬の日々に身を投じた。

 確か6年ほどやってたな。

 今の俺に付いている仲間も、俺の後輩に当たる人物だ。

 あん頃はマジで楽しかった。後輩と馬鹿やって、上司(今の親父)にすっげぇ怒られた事があったっけ。


 だが、俺らの幸せが狂った。

 俺がそこそこの兵士隊長になったばかりの時だった。


 その日、半分の兵士は緊急招集をかけられた。俺達もその中にいた。



 戦争だ。



 俺達は、野蛮などっかの国が召喚した大量の悪魔を始末しろと上から聞かされた。


 俺達は、戦う前から殺る気満々だった。ようやく鍛錬の成果を見せつけることが出来る!と。



 帝国の中心を出て1ヶ月ほど進軍していたある日、ついに悪魔達と対面する事が出来た。



 戦いは始まった。



 俺達は最前線で戦ったというわけではなく、悪魔の下っ端ばっかりを倒せという命令を受けていた。

 一匹たりとも逃すなと。


 敵は下っ端といえども俺達にとっては多少厄介だった。

 必ず複数で多彩な攻撃魔法を使いやがる。


 だが、俺達は鍛錬で培った剣技で仕留める事が出来た。

 戦争は数日間の間続いた。



 その時、帝国から支給された回復薬を俺達が飲んでいる間に、一匹の青い小さな悪魔が来やがった。

 この戦争の最後の日の夕方だった。


 俺達はすぐさま剣を構えるんだが、青い悪魔は戦う意志がこれっぽっちも無かった。


 ただ一言の言葉を言われただけだ。



 「……もうこれ以上、僕達の国の民を殺さないで! お願い!」



 甲高い少女の声で、カタコトだったが確かにそう言った。

 数々の疑問が出たのは言うまでもねぇ。


 もうこれ以上殺すな?

 僕達の国の民?

 お願い?

 

 俺達は初めてその悪魔を見逃した。

 

 そして俺達は、帝国の中将の会議室にこっそりと忍び込んだ。

 重要な会議は別の大将の会議室で行っていたここと、警備がいなかったことが幸いだった。


 そこで俺達は帝国の書類とあの青い悪魔が言ってた国、魔国の書類を発見した。



 内容を要約するとこうだ。

 帝国の返事の仕方は異世界人の知恵で魔国へすぐ送れるようになっていたハズだ。


 おそらくコイツはメモの様なものだが信憑性が高いのは事実。

 帝国のトップが使っている印鑑の印がある。




 ~帝国から魔国への書類(メモ)


 やぁ。お元気かい?魔国の化け物の官僚の皆様方。

 もうそろそろ僕達帝国の奴隷になったらどーだい?

 初めはゾクゾクするほど楽しかったけど、一方的な戦いばっかに飽き飽きしてきたよ。

 戦力差を考えてみれば、アタマの悪い君達でもわかるカンタンな問題だよね?

 自国の民を見殺しにする君達はよっぽど民の事に興味を持ってないのかな?

 あぁ、僕達帝国の民はよっぽど僕の言葉を信じているよ!

 ……まあ、僕がいってるのは全部嘘だし、君達を殺そうと躍起になっている兵士も僕の言葉を信じきっているだけの操り人形状態だけど。


 そんな前触れはいいとして、今年も退屈な戦争をするつもり?

 抵抗するならまだ君達の国の民をいたぶり殺すけど、降伏するならいっぱい帝国で可愛がってあげるよ!


 ……奴隷としてだけど!


 10日以内に返事ちょーだーい!

 期限までにお返事しなかったら戦争すると見なすよ。


 じゃーねーっ!



 ~魔国から帝国への書類~


 帝国の創設者のイミルミア・アルト・リーア=ローゼル様。


 どうしてあなたは私共が人間とは違うと言うだけで、私達魔族を差別するのでしょうか?

 我々はあなた方帝国を敵視したわけでも、人間を差別したわけでもありません。

 私達魔族はあなた方と平等な条約を結びたいと考えております。


 これ以上、両国の犠牲者を増やすようなこの長き戦争を終わりにしませんか?


 この世界であなた方が相手にするのは、アイロンでも私達魔族でもない。


 私達も敵視している神の世界なのです!

 何時かはわかり会える時が来ると思っております。嘗てあなたがこの大きな帝国を創設したころの自分を思い出してください!



 ~帝国から魔国への書類(メモ)


 ハァ!?

 何、数百年戦って僕たちの兵士ちゃんをたくさん殺した化け物さんが何抜かしてんのさぁ?

 って言うかこれ僕達の返事、完全にガン無視だよね?

 後、残り3日で前に送ったやつの期限過ぎるんだけどー。

 どー責任とるつもり?


 あ、全然言わなくて良いよ!

 どーせ今年も戦争するつもりでしょ?

 じゃー君達の死体で責任をとってもらおー。

 今回は、執拗にいたぶり殺すから覚悟しといてねー。


 それじゃあ、君達の幸運祈ってるよー。




 俺がこの3通の手書きのメモをじっくり俺達の陣地で読んだ瞬間、俺は帝国のメモをバラバラにしかけた。

 ぐっと右手で必死にこらえた。今までで一番力強く握り過ぎて、手のひらに血が滲んだのは頭に焼き付いてやがる。


 俺達を家畜としか見ていない態度。

 魔族をコケにする文章。


 本気でぶっ殺したくなった。


 だが、不可解なことがある。


 「嘗てあなたがこの大きな帝国を創設したころの自分を思い出してください!」だと?


 明らかに人が変わりやがったような文章だ。

 イミルミア帝王は何かの理由で変わり果てたのだろうか?


 アタマが回らない俺はそこまでしか考えられなかった。

 だが帝国に拾ってもらった恩はこれっぽっちも無くなった。マジで6年を無駄にしちまった……。

 帝国のため、帝国のためと思って、6年間必死になって鍛錬積んできた俺がバカみたいじゃねぇか。


 俺はこの戦いの後すぐ、自ら兵士を辞めた。

 これからは俺の生きたいように生きよう。


 帝国の返事は、



 「ご自由にどうぞ。ただし帝国に二度と来るな。」



 そうかそうか。

 辞めてやるよ。


 俺が帝国から出ようとしたとき、後輩や上司が一緒に付いてきてくれた。



 マジで泣きそうだったよ。

 リーダーとして、人間として。



 ずっと兵士だったら一生飯を気にしなくていいのによ。

 わざわざ俺追っかけるためだけに兵士を辞めてきたんだから。

 上司も上司で、帝国に踊らされたくなかったからって「君達が居なくなる人生よりも、自由に生きていく君達を追いかけた方が何だか素晴らしいものに出会える気がしてね。」とか言いやがった。

 本当は俺達の責任取って辞任したハズなのにだ。

 「親父!」と言うようになったのはそれからだ。



 そして俺は兵士を辞めた。


 代償は大きかった。

 何よりも名前なんて親が亡くなったから職も就けねぇ。


 本当、親が死んだ手当てすらねぇ。帝国のトップが何かで変わっちまったのもくだらねぇ。名前がねぇと職も就けねえ。





 ほんとクソみたいな世界に俺達は生まれちまったものだ。





 なった職はチンピラ。

 兵士からのただ下がりだ。


 冒険者は駄目だ。

 もう誰からの命令も指示も聞かねえ!


 人生、挫折しかけたぞ。


 冒険者が集まりやすい所がどこか探しあった。

 それがこの村。

 色んな参考書を調べてみたがこの村の名前が記載されてねぇ。

 だだ、冒険者専用のアイテムが豊富に扱っている冒険者商店町というのがあって連日話題らしい。

 それからここで4年ほどチンピラをやって今に至る。


 冒険者から金を引ったくるのはつらかった。

 傷を付けるのすら何回も躊躇った。

 出来るだけ掠り傷で済ませようと考えた事もあった。

 あえてオーバーな【悪役】の演技をして、傷をつける前に金を出してくれないか願ったものだ。


 全ては、最低限のお金で食っていくため。

 これ以上、人を殺したくなかったから。



 それがある時ふっと……。

 何時しか、本当に悪党になっちまったよ。



 あの頃の【悪役】を完全に忘れちまってた。


 すっげー派手にやった【悪役】は大成功。

 主人公の魅力が滅茶苦茶凄いという理由で、帝国のトップに御披露目するほどヤバかったんだぜ。


 今では傷どころか、冒険者の命まで脅かしてる。

 俺の手で何人死んだか検討もつかねぇ。

 


 何時しか本当の【主人公】を待ってたのかもしれねぇな……俺の心の中は。


 (もう一度【悪役】を俺に!)


 

―――――――――――――――――――――――



 それが、今日になるかもしれねぇ。


 だから俺は信じている。

 彼奴がひょっとしたらマジで英雄になるかもしれない。



 それならば最初の村を旅立つ英雄の門出を、俺達【悪役】が派手に祝って(存在感を出して)やろうじゃねぇか!



 勿論、部下たちが納得いくように殺す気でいくからよ!



 待ちやがれぇぇぇ!臆病仮面英雄野郎おぉぉぉっ!!!



―――――――――――――――――――――――



 チンピラたちは全力で臆病者を追いかける。


 チンピラのボスは少し前に掛けていた魔法を発動させようとしていた。

 魔法の名前は【操士豪速(ソウシゴウソク)】。


 同時にチンピラたちの体から、黒紫色のオーラのようなものが抜けていくような気がした。

 と証言する者も何人かはいる。


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