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野蛮学校物語  作者: yukke
第1章 臆病者の旅立ち編
3/116

第2話 とりあえず食料を町で買おう



 家から出た俺は、とりあえず便利な生活用品しか鞄(ちょっと違うけど)に入れてこなかった。


 町で買えば何とかなると思い、用意しなかった。

 理由は単純、この町はマジで安い。



―――――――――――――――――――――――



 実際、ここの町で売っている保存食や薬草、剣や弓などという武器はほかの町よりも、破格なほど安いものだった。


 また、冒険者用の宿屋があり、割安ながらも内装工事がしっかりと施されていた。


 正直、この町の中では一番いい宿屋と言ってもみんなは納得するだろう。


 冒険者のために出来るだけ安くして、他の町より繁栄させよう。

 そして、この町の魅力を広めていこうというのが、この町の町長の戦略らしい。


 そのため、冒険者用のバザーのような所では、かなり賑やかな景色をみることが出来るのも珍しくない。




 魔物討伐で傷付いた冒険者の中には、この町で働いてみようと言ってくれる人もいるかもしれない。

 実際、魔物にやられかけた冒険者たちがこの町で働きたいと町長に頼んだことがあり、実現している。




 俺は初めての討伐の時。

 モークタンを倒すことが出来なかったのは正直、倒した方が良かったのでは?というほどいじめられた。


 それが原因で、俺は自分でいうのもあれだか、【臆病者】になった。

 友達は一人も出来なかった。

 いじめてた奴がモークタンの噂を流しやがった。



 そのおかげでほとんどの町の人たちには煙たがられた。

 法外な金額で物品を買い、ほしいものを買うのを拒まれたりした。




 散々酷い扱いを受けて我慢できず、このままでは流石にダメだと思った。

 そこで俺は、わざわざ隣町の【ル・レンタン】というところまで行ったことがある。



 そこである一つの仮面を買った。結構高かったのは覚えている。



 ここから南方にある高い山―イピル山―にいるとされている、ランクA-の山鬼(さんき)という魔物をモチーフにした仮面らしい。


 ランクがAくらいになると、ほんの一部の冒険者でもない限り倒せないレベルだが。



 まぁ、わざわざイピル山に行かないと出会うことはないと思う。

 気にしたら負け。


―――――――――――――――――――――――



 そんなわけで、俺は素顔がばれないために仮面を被っている。


 これをかぶってからは、普通の冒険者と同じ対応をされた。


 最近、たまたま冒険者達の間で仮面ブームがぼちはち流行っているせいか、怪しまれることはなかった。

 素顔を公に見せることができる人はせいぜいイケメンか美女、美少女くらいだろう。



 閑話休題(それはおいておこう)

 現在、俺が持っている所持金は銀貨10枚である。


 銀貨10枚は一般の人にとってはかなりの大金だ。

 金貨1枚にしようと思えば出来る。


 ただ金貨1枚を渡すとお釣りが面倒なのだ。

 盗られる可能性も否定できない。

 一般の人に金貨は払いづらいのだ。



 銀貨1枚で、日雇いの大工の日給程度という感覚で十分である。

 1ヶ月で大体、金貨3枚だ。



 ここの世界で用いられている通貨はかなりの種類がある。



 価値が安い順に、



 少石版

 (端数あわせによく使われる)


 石貨

 (そこらにある商品やお菓子)


 銅貨

 (一般家庭の買い物)


 銀貨

 (高級レストランの会計)


 金貨

 (スイートルーム宿泊)


 白銀貨(はくぎんか)

 (よく銀貨と間違われる)


 エンブレム金貨

 (そもそも存在するの?)



 がある。



 冒険者認定試験に合格してから数ヶ月の間、俺は地道に金を稼いでいった。


 冒険者達のほとんどが加入している冒険者組合という組織があるのだが、そこに魔物の部位(モンスターパーツ)や薬草を持って行くと、他の所よりも若干高く買い取ってくれる。


 その中には衣服の元となるものや、ポーションの原料等があり、下手をすると他よりも数倍の値段で買い取ってくれる事もあると言う。



 俺が一番驚いたのは、暑い時期になると青いぷるんぷるんするゼリーのようなものが、デザートとして最適だと料理研究家という職業の人たちの間で公表されてしまった。


 爆発的に売れたのは言うまでもない。


 これにより、ある低級モンスターの捕獲クエストの報酬額が一匹あたり銅メダル1枚という前代未聞の金額が1ヶ月間提示された。


 ちょうどお金が欲しかった俺にとって、このクエストはラッキーだった(提示された低級モンスターは不幸な目にあっただろう)。


 このクエストで俺が稼いだ金額は銀貨8枚である(捕獲数80匹)。

 かなり捕獲するのに抵抗があったが、お金の為ならと必死に我慢した。

 正直もっと捕獲しておいた方が良かったのではと若干後悔している。


 ※ちなみに最高捕獲数は4265匹。その人は、青いゼリーの捕獲の資格を持った大ベテランで、1ヶ月間ひたすら捕獲していた。


 その貯めていたお金を、今日解放するときがきた。

 まず最初に回復薬の調達だ。旅の途中で回復薬がなくて死んでしまいましたでは父さんに合わせる顔がない(物理的には無理だけど気持ちが肝心)。


 俺は回復薬を買うために冒険者商店町(しょうてんまち)へと足を運んだ。


 住んでいた家から少し離れている。


 この町の家や商店などは、木材またはレンガで建てられている。

 ちなみに俺の父さんの家は木で出来ている。


 もしも、家の骨組みが鉄筋コンクリートで作っていたら、白銀貨4000~5000枚かかる。

 紛れもなく鉄のせいである。


 レンガの様々な色と、木造の奥深さが相まって、この町の景色全体を色づかせている。



 しばらく仮面を被りながら不思議な景色を眺めながら堪能していると、一際人が集まる所を見つける。


 俺はこの町をでる前に、ここに寄らなければいけない。


 コンクリートで舗装された幅10メートル、長さ200メートルのこの場所が、この町一番の、魅力を伝える場所だ。


 細長いコンクリートの道の両端に町が運営している露店が等間隔で配置され、冒険者用のアイテムが幾つも並べられている。

 ほぼ毎日開いていたのだが、臆病者と言われた俺が子供のこと入るのは流石に御法度だった。


 初めて此処に入ることができたと言うことになる。

 臆病者の代償はここまでやってくる。


 俺はいろんな店を目で楽しんだ。


 いろんな冒険者が武器屋の店の人に、「何とかもう少し安くしてくれないか!?」と懇願したり、「この店で一番高い奴を買ったぜ!!」と冒険仲間に自慢したりする光景は何時も見ていてなかなか飽きないものである。


 もっとも、仮面を着けたままいろんな人をまじまじと見るのは変人の領域に触れている気もするが。

 仮面を着けている人は多いしまあ多分大丈夫だろう。……うん。


 様々な感情が飛び交うこの商店町を30メートルほど歩いていると、見つけた。



 俺はその露店で立ち止まった。

 まず最初に確保しておかないといけない、冒険者にとっては絶対必需品。


 回復薬の店だ。


 テントのような作りの露店の上のほうに緑色の液体の入った瓶が大きく描かれている。



 「いらっしゃい。うちの回復薬で備えあれば憂いなしだよ! 今日のオススメはこれ!」

 


 何で父さんが話していた、ことわざというやつもでてるんだ?という多少の疑問はある。

 まあ異世界からこっちへ転移されてきた人が、皆に伝えたらそれが流行りました。と考えたら薄々納得はいくが。

 まあ、挨拶の言葉と言うことにしておこう。


 この回復薬を売っているのは近所でも評判の高い薬売りのおばさんーアンナ・エドワードーである。




 全体的にふくよかな体型をしている。

 ゆっとりとした両目と眉毛、鼻筋が少し通った柔らかそうな鼻。

 シワや放線などが優しい丸顔で見えない。


 頭には茶色い三角ずきんのようなものをかぶり、今から料理でもするのかというほどコックに非常に近い服を着ている。

 茶色い三角ずきんみたいなものは、国からの薬師(くすりや)の称号だ。

 年齢はヒミツと確か言っていた。40代後半に近い気がする。




 俺の家の隣の家に住んでいたのはよく覚えている。

 俺のことを臆病者呼ばわりしない数少ない中の一人だ。


 秘密の訓練で町を抜け出すのをたまにみていたのかもしれない。

 幾度か相談したこともある。



 仮面はつけてなかったから、多分よく耳を澄まさないと俺だと気付かないだろう。

 本当は仮面を取って別れの挨拶をしたいくらいだが、とることができない。

 此処で取ってしまえばどうなるかは想像に難くない。



 問答無用で追い出される。

 仕方なく別れの挨拶はやめにした。

 

 俺は並べられている商品を眺める。これらの回復薬の違いはと聞くと、アンナおばさんはにこやかにゆっくり説明してくれた。




 まず回復薬は3種類あって、その2種類である瓶がある。



 瓶といっても細長い瓶と普通の瓶がある。

 細長い方は一般には魔力回復薬という薬が入っている。


 魔力回復薬は簡単に言うと魔法を唱えるときに使う魔力というものがあり、それを回復してくれる。

 回復する事によってまた魔法が撃てる。

 しかし飲み続けると効果は落ちていき、最悪死亡するケースもあるらしい。



 普通の瓶の方は動物や魔物から受けた傷を治してくれる。

 傷薬を液体にして、飲んだり、直接塗ったりできる優れものといえばわかりやすい。



 もう一つは薬草。

 つまり葉っぱである。


 葉っぱは回復役だが、正直瓶に入っている奴よりも効果が薄い。ただ、生産能力はダントツなので、値段は安い。

 人々はその草を緑草(りょくそう)と言う。


 儲かる理由は毒物と見分けるのがなかなかの難所で、素人には難しいらしい。

 専門ならそこそこなのだとか。




 次に液体の色である。

 青、紫、赤、緑、黄緑色、金、虹がある。


 虹に近づけば近付くだけ回復の性能は違う。


 そもそも虹なんて作れたことも見たこともないけど、と口に左手を当ててながら右手で手招きしているアンナおばさんは笑ってたけど(その仕草見たことがある気がするけど)。


 まあ、新しいことが好きな人なんだろう。

 そうでないと新薬開発なんて根性なんかでやろうとも思わないし。


 緑草も良し悪しがあるらしい。

 一番上の緑草は瓶に入っている奴よりも効果が高い場合があるのだとか。


 俺は少し悩んだ。

 もともとどれを買うかで計画はたてていたが、いざ実行となると悩む人はいるはずである。


 (どうする?緑草だけにするか?それとも瓶だけにするか?念のために両方を取るのもアリだな……)


 俺が悩んでいるのは傷薬の質と量のどちらを重点的にとるかである。

 魔力回復薬は瓶しかないし、俺はあまり魔力は持っていない。

 だから銀貨1枚で青を4つ購入した。


 (やっぱりかさばるのは辛いな。量が少ないのも心許ない。)

 

 俺は両方取る選択に決めた。


 一番下の緑草を20枚で銀貨1枚。

 その次の緑草を10枚で銀貨1枚。

 回復薬(青)の瓶を4つ銀貨1枚。

 回復薬(紫)の瓶を2つ銀貨1枚。

 回復薬(赤)の瓶を1つ銀貨1枚。


 これぐらいで十分だろう。

 実は俺も緑草位は簡単に見極められるが、安全に越したことはない。


 草を採っている間に魔物が襲ってきたら厳しい戦いになる。

 それだけは避けたい。


 俺はそれらを購入すると言い、アンナおばさんに銀貨5枚を手渡す。




 悩む前に買った魔力回復薬の銀貨1枚を考慮すると、


 残り銀貨4枚。


 十二分の残額である。食料品は正直安いため、かなり買うことができる計算だ。

 正直銀貨2枚でなんとかなる。


 俺はアンナおばさんに仮面を告げながら別れを告げようとした。




 「なあオイ! ちょっとまちぃや!」




 別れの挨拶を言いかけた途端。

 少し背後から怒鳴り声で俺のことを睨みながらズカズカとこっちへ向かってきた図体の高い男達。


 複数の冒険者に絡まれてしまった……。

 何で俺なんだろと聞きたいところだが、それどころではなさそうだ。



 「テメー今さっき銀貨6枚も薬に使ったよなあ! まだほかに持ってんじゃねえのか!? はやくありったけの金出せ!!」

 「あんな威勢よく薬屋に6枚払うのは、金持ちしかいねえんだよ!」



 俺あと銀貨4枚しかないんですけど……と言いたい。

 後、俺である理由も大抵は理解出来た。


 俺が回復薬の店で銀貨6枚も使うのだからどこかの坊ちゃんと勘違いされてるのだろう。

 確かに回復薬の店で一気に銀貨6枚はまずかった。

 普通の人なら何回か店に通って薬を揃えるというのが一般的な買い方らしい。



 アンナおばさんがチンピラに鋭い視線を向けている。

 どうやらこの町で色んな意味で有名?などっかの国の組織から外された、悪い集団らしい。

 外されたとはいっても元精鋭に変わりはない。



 このあたりの荒れた地帯でイキっているチンピラとは違い、大柄な体躯だ。

 身長なんて背伸びしたら2メートルはいくのではないか?


 筋骨隆々の体にどこかの魔物の毛皮で作ったであろう黒い頑丈な服を着ている。

 袖はない。


 俺に一番近いチンピラがリーダーだろう。

 黒い服に白い糸で刺繍をした模様?が付いている。

 白い糸と言うよりは赤い。



 どういうことかは何となくわかる気がする。

 これはたぶん人間の血。


 でも、この町はかなり経済的にも広さ的にも治安の良さ的にもほかの町よりも優秀なのだが。

 やはり、町がよければよいほど治安が悪くなるのは当たり前の話か。


 ともかく、何とかこの状況を早く切り抜けないと先がわからなくなる。

 チンピラの服装をよく見ると腰の辺りに刃渡り20センチのナイフがある(てかナイフ鉄で出来てない!?)。


 抜かれては不味い。

 タイマンでも勝てなさそうな気がする。


 俺は素直に銀貨4枚を出すのもよいかと思ったが、食料品を買えなくなるのは後々後悔しそうな気がした。


 それは御免だ。

 だから、チンピラ達にびびりながら交渉を持ちかけた。



 「俺は旅をするための準備をしていた。ただ、道中に死んでしまっては元も子もない。だから残りの銀貨で回復薬を買うことにした(嘘だが)。今俺の手持ちはほとんどない(これももちろん嘘)。ただ、もし回復薬が欲しかったら、俺が今さっき買ったこれを差し出そう。」



 俺は収納魔法から赤い液体が入った瓶を取り出し、チンピラたちに差し出した。


 何処からか一部の強そうな冒険者からは何故かざわついている気がする。

 まあ、気のせいだろう。


 右手のひらの上に回復薬(赤)が垂直に置かれている。時折緊張が手元にくるので、赤い液体が瓶の中でぴくぴく揺らいでいた。


 収納魔法というのはかなり簡単な魔法だ。冒険者育成学校で魔法の授業をしていたときに習った奴だ(本当の力を発揮するのは難しい)。


 一部の人たちがざわついているのは間違い無くこの魔法のせいだろう。

 この町では別に当たり前の技なのだが。



 そんな事より、この魔法の効果は単純明快。

 何時でも好きな時に量を出し入れできる優れもの。


 しかもこの魔法は魔力を消費しないため、わざわざ魔力を回復する必要がない。この世界は魔法でいろいろと便利なようだ。



 とそんな解説はよしとして、問題はこのチンピラがこんな提案を受け取るだろうか?

 回復薬何て今更、チンピラがほしがるとはあまり思わないのだが。


 チンピラの一人は俺が右手に乗せている赤い液体の入った回復薬に手をかけようとした。

 俺はホッとした。これでやっと事がおさ……

 


 パリン!!



 俺は何が起こったのか理解するのにそこまで時間はかからなかった。回復薬に手をかけようとしたチンピラがナイフで回復薬を斬ったのである。

 割れた瓶の中から赤色の液体が辺りに飛び散った。

 今や瓶は割れた皿のようになってる。


 右手に乗せていたため、瓶の大きな破片が右手に刺さってかなり痛い。

 ある程度の血が流れ出している。 


 あと数ミリずれていたらおれの手がどす黒い赤色になってから回復薬で治癒されていただろう。

 ホッとした時に右手を若干下げていたため、腕を切り落とされずに済んだ。


 本気で俺の右手を狙いにいった気がする。



 「いったよなぁ!! ありったけの金出せって。調子乗ってんのかァ!! ぶっ殺すぞ!!」

 「人の話聞いとんのかゴラァ!!」



 チョウシノッテナイデス。

 正直びくびくしてます。

 マジで怖いです。

 右手我慢してるけどかなり痛いです。


 俺は交渉をしたことを後悔する。

 さっきの交渉は、チンピラ共を舐めているとしか言いようがないものだ。

 やってしまった。

 失敗どころか大失敗だ。


 俺が本当に金なかったらどうするつもりなんだよ。まあ、あるけど。


 ただ、この金は食料品を買うためのお金。

 でも、出しません!と言ったらチンピラはナイフを向けてくるかも知れない。

 かくなる上は……。



 「ああっ! 何だあれは!」



 俺は見えている方向に何かがあるような様子をしながら、斜め上に左手で指さしをした。


 右手は漏れた回復薬で傷は治りかけていたがそれでもかなり痛い。

 握るなんて行為が出来るはずがない。


 もしも、誰かがかつてこのネタを知っていたら俺は本当にまずかっただろう。知っていたらの話だが!初見で見切る人間は数少ない。




 運が良かった。




 チンピラ共と俺達の騒ぎを見ていた野次馬の野郎等は俺の指をさした方向に皆が体を向ける。


 チャンス!

 俺は一目散にチンピラ共の反対の方向へ走り出した。

 絶対追ってくるという覚悟はしている。

 捕まったらただではすまない。



 チンピラ共は俺の視線そらしがウソだと気づいたのは、俺が逃げてから3秒後だった。



 「クソが!!! ハメやがったな!! おい野郎ども!! あいつを追ってぶっ殺してやる!!」

 


 チンピラのボス(回復薬壊した奴)は、手下に捕獲命令を出した。手下は主人公が走り出した方向へと向かっていった。


 チンピラのボス自身は手下に命令を下すと、何かの魔法を自分の足へかけた後、主人公を追った。

 


―――――――――――――――――――――――

~アンナ・エドワード視点~



 後に残ったのはどよめく野次馬たち。

 コンクリートの地面には、飛び散った赤色の液体と、べっとりとついた仮面の人の血が残るばかりである。


 私は、仮面の人に迷惑をかけてしまったことを後悔している。

 忠告しとくべきだったと。


 (しまった……。あの仮面の子に一言注意を言っておけば良かったのに……。でも、あの声どっかで……。)


 今まで交わしてきた会話の発音を頭の中で繰り返してみた。

 アンナは会話の主が誰であるのかすぐに気づいた。よく耳を澄まさないとまったく気付かなかった。

 アンナ・エドワードは思う。


 (あの臆病者呼ばわりされた坊ちゃんだったのね。いつの間にか成長してるじゃない。もしかすると、あの坊ちゃんは臆病者というよりは……)


 ここで少し考えてみる。


 周りの噂話なんか信じず、今まで自分が見てきた坊っちゃんの印象を照らし合わせてみる。

 すると、こうような結論がでてきた。


 (心が大きくて、優しい子なのかも知れないねえ。あのモークタンを殺さなかったのもそれが理由かしらね)

 

 

 臆病者は直ぐに逃げることもなく自ら前に進んで、これで収めてくれないかとあのチンピラ達に交渉を持ちかけた。


 多少緊張して手が震えていても言葉は噛むことなく、臆することなく勇敢に立ち向かった。

 あのこの町で誰も彼らの前に立ち向かうことはなかった。


 交渉が失敗し、戦わないとまずい事になっても、あのチンピラ共相手に見たこともない技を使って戦闘を一時回避した。


 一部始終とチンピラ共の強さを知らない人からしたらこの手は卑怯な逃げの手の一種だと思うだろう。


 だが違う。卑怯な手を使うなら、チンピラ共を別の方法で殺したハズ。

 彼がそうしたのは、



 誰も傷つけないための最善の手段だったから。



 私は笑みをこぼした。



 (こんな荒れた町にはあんたみたいな人には似合わない。此処よりももっと豊かで素晴らしい都市を探してきなさい。)


 アンナ・エドワードは今日はこの時間で露店を閉めることにした。


 何時もより数時間早い終業である。


 薬を壊されたからでも、小さな惨劇を見たからでも、何もしてやれなかったからでもない。




 臆病者が立派な一人前の冒険者になって、私の店に来てくれたから。

 それだけで、私は満足だから。




 仮面の人物が一体誰なのかという件については秘匿しておこうと決意したアンナであった。



 自宅へ帰っていくアンナ・エドワードの背中は堂々たるものがあった。


 (早く坊ちゃんの成長を見るのが楽しみになってきたわね!)



―――――――――――――――――――――――



 後にこの騒動を「英雄の初交渉」と言い伝えられるのはもう少し後の話である。


※銅メダル→銅貨に修正。

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