第14話 一触即発の出来事
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―臆病者視点―
「すいませーん!まだ開いてますか?」
俺は干し肉専門店の店主に声を掛ける。
勿論仮面をかぶっている。
相手から見たら、恐らく強盗と勘違いされるような勢いで来たのだからビックリしている事だろう。
ギリギリ間に合ったかな……。
今日は帰ってくださいと言われたら引くしかない。
どうやら店を閉めているようだ。
「ウワワワッ! あん時の山鬼の仮面かぶった奴じゃないですか!」
え?
そこ?
あん時と言うのはもしや俺がチンピラ達から逃げてるときかな?
ちょっと派手にやりすぎた気がする。
「まあ、あの時の仮面です……。それより、今から干し肉を銀貨1枚で買えるだけ買いたいんですけど……出来ますか?」
「えっえっと……ゴホン。悪いが今日は店じまいなんだ。すまんが帰ってくれ。」
まあ、無理か。
少しわかっていた気がする。
……でも、明日買うのは余りにも危険すぎる。
チンピラ達とドンパチするだけならまだしも、他の冒険者を災いの渦中に入れるのは御免だ。
「引くしかない」とは言ったが、少し粘ろう。
「そこを何とかお願いできますか?」
「2つほど条件がある。」
条件が2つ?
それ次第だな。
「その2つの条件を教えてください。」
「1つは俺が単に損をする。」
「と言うと?あなたが損をするのは何ですか?」
「俺の店では可、上、良、優、最上クラスの干し肉がある。値段は此処に書いてあるよ。」
俺はこの専門店に大々的に掲げている干し肉の値段表を見る。
干し肉専門店【BeefKing】
可 石版2枚 残り8枚
上 銅貨1枚 残り5枚
良 銅貨3枚石版5枚 残り1枚
優 銀貨1枚銅貨2枚 残り6枚
最上 銀貨3枚 残り4枚
「残った奴全部は今日で処分したい。一日置いた干し肉をお客さんに提供するわけにはいかねえからな。だから俺は何時もこうしている。」
干し肉の店主はその大きな看板を裏返した。
すると、さっきと余り変わらない感じになってい……え?
「元々は異世界人の発案でな。確か、【たいむせーる】だったかな?」
俺はじっくりその看板を見た。
干し肉専門店【BeefKing】
【たいむせーる】中だ!
今なら全品およそ半額!
18時~20時まで。
可 石版1枚 残り8枚
上 石版5枚 残り5枚
良 銅貨1枚石版5枚 残り1枚
優 銅貨6枚 残り6枚
最上 銀貨1枚銅貨5枚 残り4枚
おおよそ半額になっている。
これが異世界人の【たいむせーる】と言う奴なのか?
「まあ、その【たいむせーる】を使っても全部買えないのは当たり前だよな。」
「まあ、そうですね。」
なるほど、店主さんは俺に全部買ってくれと言っているのか。
だけど俺は銀貨1枚しかないから、当然店主さんが明らかに損をする。
「そこでもう1つの条件といこう。ズバリ単純明快、お前さん。仮面をとって顔を見せてくれ。あの仮面少年が誰だったかその目に焼き付けておきたくてな。それをみた後、ここに置いてある干し肉全部持って行け。」
ゲッ!
それはヤバイ駄目だ!
マジかよ……。
いくら人が少ないからって俺の正体がバレたら……。
俺は今までに感じたことの無い緊張感に全身を震わす。
こんな緊張は数年ぶりだ。
最近は【試練の森】に慣れてきて恐さはさほどなかった。
それが、このイケザキ村で試練が来てしまうとは……。
冷や汗が止まらない。
「ごめんなさい。それだけは絶対に無理です。」
「どうしてだ? 仮面を外すだけで干し肉が貰えるんだ。これ以上の甘い条件は他にはないぞ?」
俺にとっては厳しすぎる条件ですそれ……。
【臆病者】とバレたら、絶対あなたは叫びますよね?
「ごめんなさい。この条件は絶対無理です。」
「そこを何とかお願いします。」
「絶対イヤです!」
俺は全力で否定する。
イグナル村長やアンナおばさん、今田さんなら人前でなかったら見せていただろう。
※第11、12話で、実際今田さんに顔を見せています。
だがここは幾ら人がほとんど居ないとは言っても公共の場所で、しかも余り面識が無い人物に顔を見せる事は俺には出来ない。
「ともかく、明日の朝にまた来ますんで、今日は……」
俺がそう言って逃げようと2歩後ろに下がった瞬間にそれは起こった。
2歩目の後ろ歩きでわずかなコンクリートの隙間に足(と言うか靴)を引っ掛けて転びそうになった。
(危なっ!コンクリートの段差で引っかけるとは俺もとんだ天然だな。)
転びそうになった瞬間に今まで散々魔物と戦ってきた経験を生かして体勢を立て直した。
「おっとお前さん、ケガは……え?」
店主が何か言っているが、気のせいであろう。
ふぅ~ここでコケるのは余りにもダサイしな。
あっ仮面が落ちたか。
早く付け直さな……え?
俺はこの時、今までの人生で最大クラスの修羅場を潜ろうとしていた。
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~干し肉専門店・店主視点~
「ごめんなさい。この条件は絶対無理です。」
なかなかしぶとい。
仮面を外すのがそんなに嫌なのだろうか?
まあ、根掘り葉掘り口うるさく聞いてもしょうがないな。
これで無理やったら諦めるか。
「そこを何とかお願いします。」
「絶対イヤです!」
やっぱり駄目か。
そろそろ帰るだろうな。
長いこと商売やってれば直ぐにわかる。
「ともかく、明日の朝にまた来ますんで、今日は……」
まあ、そうだろうな。
仕方ない、これの処分は……
※【臆病者】転倒しかけたが、回避。
しまった!
ここ段差が少しあるんだった。
「おっとお前さん、ケガは……え?」
俺はケガが大丈夫かと仮面少年に問いかけた途端に、それは起こった。
たまらず俺は言葉を呟く。
「おっ……おっ【臆病者】?」
俺は間違いなく見た。
仮面少年の正体はあの【臆病者】だったと!
俺たち皆が、散々馬鹿にしていた【臆病者】がそこにいた。
この時、俺は【臆病者】の本当の姿を始めて目にした瞬間であった。
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―臆病者視点―
「おっ……おっ【臆病者】?」
最悪だ……。
仮面の付け方が甘かったで、転倒を回避したときと同時に仮面が外れたのか……。
今は仮面を付けなおしたため他の人には気付かれていないようだ。
だが、この店主にはごまかしは効かない。
実際に外れた瞬間を自分の目で見てしまったからである。
俺は顔を真っ青にして目を瞑りたくなる。
終わった(人生は終わらないけど)。
俺は諦めたように言葉を呟く。
「ハイ……。俺はあの【臆病者】です……。今日でこの町を出るつもりだったんです。生憎チンピラ達とドンパチしてしまって、住宅街に逃げました。空飛べる魔法使ってギリギリあの住宅街から抜けてきたんです。」
「……。」
店主は黙って俺の話を聞いている。
少しウソをついたのは、イグナル村長と仲がよいとバレたら駄目だからだ。
※本当はイグナル村長のお陰で住宅街を脱出。詳しくは7~10話参照。
村長さんに多大な迷惑をかける訳にはいかない。
「それで……何とか住宅街から抜け出したんですけど、この町から出るのは少し遅いじゃ無いですか。僕は結局ある所で野宿しようと思ってるんです。此処に来たのは、チンピラ達とのドンパチで準備出来なかった食料品を調達するためでした。」
野宿とウソをついたのは、ホテルの場所を知って襲撃されないか心配したからである。
そんな事をやりかねないから怖い。
※泊まったホテルは【商業エリア】の冒険者ご愛用の有名ホテル。13話(前回の話)参照。
店主は頭を抱えている。
俺はなにを考えているかは勿論わからない。
(そう言うスキルがあったら何とかなるのだが……)
「一つだけ聞いていいか?」
「良いですよ。」
店主は俺に質問をして来た。
「お前さんは何故、あのモークタンを殺さなかった? 第一モークタンは最弱の魔物、実際試験を受けたものは皆合格している。不合格だったのはお前さん一人だけだ。」
「結局、それをネタに俺を【臆病者】にでっち上げたんですよ? 俺の話を一切聞いてくれなかった皆もどうかしてますよ。俺が本当の理由散々言い触らしても、ほとんど信じてくれなかったんですよ? 今更『教えてくれ!』と言われてもどうせ信じてくれないんですよね?」
俺は痛烈に皮肉を言った。
少し言い過ぎな気がしてきたが、ここまで言わないと相手の本性を引き出せないから仕方がない。
ついでに質問にはしっかり答えておいた。
前に散々言ったと。
俺は更に畳みかける。
「別に此処に【臆病者】がいると叫んで貰っても構いませんよ? その時は襲ってきた全員に怪我くらいは負わせてあげますよ。ついでに恨みをぶつけます。正直俺は【平和主義】ですけど、平和は血があって勝ち取るものだと思ってます。」
俺は収納魔法を唱えていかにも武器を出す準備をしているかのように店主に見せる。
(本当は戦うのがマジで面倒くさいんだけど……。この村で俺が本気出して真っ当に戦える奴なんて、あのいじめっ子ぐらいだぞ。)
店主は汗をかいている。
あの【臆病者】がチンピラ達とドンパチ出来るほどの力があるとわかっているハズ。
どうでるか……。
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それから、【臆病者】と店主は1分の間の沈黙を過ごした。
既に気がつくと、周りの店は全て閉店していた。
明日は商店町に新露店が追加されるため、全ての露店が場所移動しなければならない。10時開店の30分までには少なくとも決められた場所に移動していないと行けない。
そのほとんどが先日に準備を終わらせる。
特に、今日は【イケザキ祭】で夜の商店町は沈黙状態だ。
何時もより店を閉めるのは当たり前の話だった。
灯りがついているのは電灯と、【BeefKing】の店だけだった。
【イケザキ祭】をやっている【商業エリア】は盛況を極めている。
肌寒く、痛い風が【臆病者】と店主に襲いかかる。
暗く、痛い風をもろに受ける【臆病者】。
露店の電灯に照らされ、露店の布で護られている店主。
それぞれがこの1分で様々な思考を巡らせた。
皆を呼んだ方が良いのか?
あの【臆病者】の話を真剣に聞いた方が良いのか?
どちら側が正しいのか?と真剣に考える店主。
今のうちに逃げた方が良いのか?
店主の反応を待つのか?
逃げた方が良いのか迷う【臆病者】。
それが、1分の沈黙状態を生み出した。
暗く、静かなこの夜の商店町に2人は佇んでいた。
この沈黙状態を終わらせたのは店主だった。
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―臆病者視点―
「済まない……。俺は何も思い出せねぇ。ただ聞いてくれ、俺は1つ約束しよう。」
1分程の長い沈黙を破ったのは店主だった。
「俺は皆を呼ばない。何だかお前さんの本当の正体が【臆病者】では無いのではないかと疑いが出てきたよ。安易に変な噂信じるよりも、お前さんの口から聞いた方が良い気がして来た。もし、俺が仲間を呼んだら首を切って構わない。」
「なるほど、それでなんですか?」
「そのかわり、今一度お前さんに質問する。何故、あのモークタンを殺さなかった?」
それが聞きたいのか。
まあ、正直に話そう。
とりあえず、念は押しておかないとな。
「言いましたね? 俺は約束を守る主義ですよ? 皆に言ったら問答無用で首を切ります。」
「ああ、神に誓って一生言わないと約束しよう。勿論、この干し肉を全部持っていって構わない。」
俺は収納魔法から出前店長に貰ったナイフを右手で1本持つ。
「わかりました。交渉成立です。モークタンを殺さなかった理由をもう一度話します。」
大きな溜め息を一つ漏らした後、俺は説明した。
「そもそもモークタンのたち位置は勿論知ってますよね?」
「ああ、魔物ランクG、最弱の魔物で初心者でも殺せる。」
「モークタンにしてみれば恨み抱いても可笑しくないほど迷惑な話なんですよ? 勝手に親や子供が人間に殺されんのと同等ですよ。」
「とは言え、魔物は魔物だろ?」
「モークタンが今までの間に人を殺したことがあるんですか? モークタンは魔物だから魔物? 国やこの世界自体もモークタンを馬鹿にしてるんですよ? 俺はそんなモークタンが可哀想過ぎて仕方が無いんですよ!」
俺は声を大きく張る。
近くに人が居ないからこそ出来るものだろう。
「初心者がたっぷり経験値を貰えて強くなるためにモークタンは犠牲、モークタンは弱いから復讐してこないだろうと高みの見物? もしも俺達がモークタンだったらそれを受け入れろと? モークタンが大量虐殺されている様子を見て俺も混ぜてと言ってるようなものですよ? 経験値を初心者にあげる方法なんてもっと別の方法があるじゃないですか。」
「……。」
「今頃どっかのモークタンは、何らかの理由で一気に強くなって、この町を何時ぶっ潰そうか真剣に計画を、仲間と練っているんじゃないですかね?」
「そんな事は言わないでくれ!」
「だってしょうがないじゃないですか。誰だって親や子を殺されたら、恨むのは当然の事ですよ。実際人間がやってしまったからこっちは文句が何も言えない。」
「……。」
「まあ、これは実際にずっと考えてたこと何ですよ。あんまり重すぎる話はしたくないんですから1つ話題変えましょうか。店主さん、犬や猫は好きですか?」
俺は散々今までためてた言葉をぶつけた後に、1つ話題を変えて店主に質問する。
(ちょっと今まで貯まってたストレスが吐き出された気がするな。勿論、今ので)
この世界には犬や猫がいる。
動物という扱いだ。
異世界でもこの世界でも、ペットとしての人気は高い。
「まあ、猫は俺は好きだな。実際家で飼っている。」
「そうですか。じゃあ、何故ですか?」
「可愛いからだ。モフモフしてて、それに……。」
「じゃあ、今から1つの法律が出来たとしましょう。【猫は実は魔物だったから自らの手で殺せ】と言う法律が出来たら、それを受け入れろと?」
「馬鹿野郎! そんなん無理だろ!」
「そりゃそうですよね? と言うことは、ヤッパリ【可愛いは正義】に賛成ですか?」
「そうだ。」
これなら理由が言えそうだ。
これを言ったのは今までで4回。
イグナル村長。アンナおばさん。今田さん。最後に俺の父さん。
「俺、モークタンが可愛いと思ったんですよ。何でこんな可愛いモフモフしたスライムっぽい奴を殺す必要があんのか?って。そう思ったら、自分がバカバカしくなって。殺さなかったんですよ。」
「そう言う事だったのか……。殺せなかったのではなく、殺さなかったのか……。」
これで5回目になった。
俺は大きな溜め息をまた漏らす。
「でも、現状は外で他の魔物が大暴れして死者が出ているのは事実なんですよ。だから皆に隠れて10年くらい、外で経験積んできたんですよ。正直しんどいなんてレベルじゃなかったです。何度か死にかけた事もあります。」
「馬鹿な……町の周りには20メートルクラスの外壁が……。」
「外壁出来てから何百年か経っていますよね? 薄い銀の板入れたらスッポリ入る所があるんですよ。それを階段状に入れていったら簡単に登れますよ。」
「どうやって降りている?」
「ゴミ捨て場といったら理解出来ますか?」
「!?」
ゴミ捨て場とは、イケザキ村のゴミ捨て場のことをいう。
ゴミ捨て場は俺自作の階段の近くの外壁辺りにゴミが集められる場所の事を言う。
ある程度ゴミがたまったら火の魔法で燃やす。
残った燃えカスは国の施設へ持ってゆき、魔法で別の物質に交換する。
コレを繰り返して良い環境を何千年も続けている。
「ゴミ袋や燃えカスがクッションになって怪我を回避出来たんですよ。服が汚れでも、綺麗にする魔法持っていれば問題は解決です。ただ運悪く燃えカスが回収されたばかりだったり、ゴミ袋の数が不安だったら諦めてました。ちなみに、帰り方は一緒ですよ。壁の隙間に銀の板を階段状に挟んで……一回それが出来れば、後は楽ですからね。」
「……。」
店主は俺の話を聞いてポカーンとしている。
今まで自分たちが聞いていた大嘘の噂に乗せられた分の時間がそうさせているのだろう。
噂とは恐ろしい。
【戯れ言だけで世界を変える】。この世界のことわざだが、案外間違っていないのかもしれない。
「そんなに信じられなかったら、俺に向かって何本かナイフを投げてみてください。」
「馬鹿な……それじゃあお前は下手したら死……」
「全部回避します。もし死んだら『【臆病者】が出たけど、腹が立つ事言われたからキレて殺した』言って結構です。多分、皆は見向きもしませんよ。」
店主さんはかなり抵抗したが、結局少したってナイフを3本俺に向かって投げた。
遅い。
あのチンピラ達に比べたら完全に見劣りする。
投げた瞬間、1本は絶対当たらない。
左脇腹と右肩か。
俺はナイフを投げた瞬間にナイフを右から左に持ち替えていた。
俺は左へ移動。
この地点で右肩のナイフは絶対当たらない。
ついでに左脇腹のナイフは遊んでやろう。
左脇腹から今度は腹の真ん中あたりにまで移動している(自分が移動しただけだけど)。
左手に持っていたナイフを構えた。
そして飛んできたナイフを持っていたナイフで俺は弾き返すつもりだ。
(出前店長の今田さんが鍛冶職人に特別に作ってもらったナイフの硬さを見てやろう。)
「キィィィィィン!」
投げてきたナイフは今田さんのナイフにあたり、凄まじい金属音(出るのかよ……)を響かせた後、俺の足元に落ちていく。
俺は刃が手に当たらないように右手でキャッチした。
今田さんのナイフは傷一つ付いていない。
他のナイフは地面に転がり落ちた。
「これで薄々信じてくれました?」
俺は落ちたもう2本のナイフを拾い上げ、キャッチしたナイフ含めて3本を店主に返しながらそう言った(カッコつけてドヤ顔したけど)。
「クックック……フッフッフ……ハーッハッハッハ! 俺が聞いた【臆病者】はただの大嘘噂だったのか。まんまと騙された訳だな!」
(ここで笑いの三段活用を使うってわざとなのかな?)
店主は笑いながら左手を自分の額に当てる。
「どうやらお前さんは【臆病者】じゃなくて【一人前の冒険者】だったんだな。」
すると、すぐに店主さんは土下座をしだした!
いや人は居なくても、流石にそれは気まずいって!
「すまない! 俺は……俺達は……あなたに迫害を続けたばっかりに、大きな心の闇を抱えさせてしまった事を深く謝罪します! 申し訳ございませんでした!」
俺は必死で店主を諫める。
「違います! 店主さんだけが謝る問題じゃない! 皆は、この世界の糞みたいな常識に従っただけなんです。こんな事態を防ぐには、災いの元を絶つよりも、再発の防止が大事何です!」
……とかいろいろ言ったのは覚えている。
物事が解決したのはそれから10分後のことだった。
俺は収納魔法を発動させ、持っていたナイフをしまう。
同時に銀貨1枚を取り出し、店主に渡した。
仮面の正体を知る者がもう1人増えた。
「……約束だ。ここにあるありったけの干し肉全部持っていきなさい。」
「ありがとうございます。」
「例は要らん。元々、これは処分する予定だった。罪滅ぼしにもならんちっぽけなものだが、今はこれが限界だ……。すまない。」
「構いません。気持ちだけでも充分です。それに、【臆病者】で良かった気がするんです。」
「何故?」
「だって【臆病者】と言われなかったら、絶対俺はこんなに頑張らなかったんじゃないかって今でも想像してるんですよ。」
「何故君はそこまでして……。」
俺は少し考えた。
そして……
「そんなもん、冒険が子供の頃から好きだったからですよ。」
と言った。
おっとついでに聞いておこう。
「店主さん、名前は何て言うんですか?」
「カラル・ナリリツだ。みての通り干し肉の専門店を経営している。」
「カラルさん。今度の冒険ででっかいことして来ます。待っておいてください。」
「ああ、楽しみに待っている。」
俺は干し肉専門店を後にする。
店主はその直後、店をたたんだ。
一瞬振り返ったからわかる。
俺は静まり返った冒険者商店町の真ん中をそろそろと歩く。
コツコツという足音と、【商業エリア】から漏れたお祭りの男以外は何も聞こえない。
100メートル位歩いてきたが、これといって何も起こらなかった。
むしろ、さっきまでの出来事が凄まじかったのだ。
俺は銀貨1枚で大量の干し肉を得ることが出来た。
要約するとこんな感じ(収納魔法に入ってる)。
可 8枚
上 5枚
良 1枚
優 6枚
最上 4枚
最上の干し肉を見ると、よだれが出てしまいそうだ。
大きさおよそ70センチ。
牛の中でもかなり希少なA5ランク(最高A7)の霜降り肉を贅沢に干し肉にした一品。
肉の間はカラルさん曰わく霜降りの赤身らしい。
大量生産で普通に味付けや乾燥している良以下とは違い、優以上の製品は1枚ずつじっくり丁寧に複数回の味付けと長期乾燥を何度も繰り返して出来る。
これだけでも生産者の愛が溢れているのだが、最上の権利が得られるのはその丹精に作られた内のおよそ10分の1。
かつ、A4ランクまたはA5ランクの牛肉を使っていた場合のみ最上という地位を得ることが出来る。
最上1枚の定価が銀貨3枚だったのも頷ける。
これのもう一つ上に極があるのだが条件が厳し過ぎて、まずこのイケザキ村には流通しない。
それでも最上が銀貨1枚で4枚も貰ったのは大収穫といえよう。
大きなハプニングはあったものの、一件落着である。
それにしても……。
何にも無さ過ぎて暇になってきた。
干し肉専門店の店主であるカラルさんと別れてからわずか数分。
俺は段々暇になってきた。
【うでどけい】で時間を確認した所、時計の短針長針は17時35分をさしている。
(あの出来事でそこそこ時間がだったけど、それでもまだ17時30分か……。)
俺は仕方なく冒険者商店町を後にするしかなかった。
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※次話の投稿は2日後の21日です。
15話が余りにも膨大な文字数の為、一部を14話に持って来ました。
前回の物語の最後の部分に追加しただけです。




