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野蛮学校物語  作者: yukke
鉄の王国アイロン ~シルバーシティ編~
103/116

第98話 リード村での出来事4.絶望の火種



 【鉄の王国アイロン・シルバーシティ】


 午後20時。

 シルバーシティのとある豪邸の玄関。


 玄関だけでも豪勢な金装飾、最新の堅固な静脈認証式自動ドアや監視カメラなど、豪勢さと安全性、便利性の高さを兼ね備える玄関であった。

 更に受け答えする用のメイドも交代で24時間体制で付いている。


 そんな雇われのメイドが、出発しようとするナガーハに報告した。



 「ナガーハ・ダパンプ様。特殊部隊20名が例の場所で待機しております。お気をつけて行ってらっしゃいませ。」

 「うむ、ご苦労。帰ったら例の者を頼むよ。」


 「畏まりました。」



 深々と頭を下げて見送りするメイドを横目に、ナガーハは玄関を出た。


 すると既に黒のリムジン車が控えており、彼は使用人に後部座席ドアを開けてもらい、堂々たる態度で乗車する。

 使用人がゆっくりと後部座席のドアを閉め、リムジン車は発車した。


 そして、彼はテーブルの上にある高級ワインをグラスに注ぎながら運転手にこう命令した。



 「向かえ。」

 「畏まりました。」



 何処へ向かうのかが全くわからない命令。


 しかし運転手は事前に送られたスマートフォンのメッセージ通りだと察知し、とある場所へ車を走らせた。








 シルバーシティ内のとある古びた建物。

 黒のリムジン車はその建物の車庫の中へ入って止まった。


 運転手が後部座席のドアを開けると、ナガーハは躊躇いも無く中へと入る。




 古びた建物の中になんと【IRON】AK-47を持った20人もの兵士達が整列していた。


 彼らはシルバーシティの中でもかなり優秀な兵士であり、一人一人の腕前は相応のものであった。



 「今からお前らに命令を下す! 聞け!」



 ナガーハの声が兵士達に響くと、直立の姿勢を以前より更に強めた。


 そして運転手が持っていた紙を両手に持って命令を下す。



 「今からお前らは気付かれることなく22時頃にリード村の制圧に取りかかる。ただし最優先目標は人間ではない。少数に気付かれただけなら構わず撃って死体も処理しろ。万が一、事が露見すれば連帯責任でお前らを処刑する。」

 「「「はっ!」」」


 「お前らが狙うのは銃制作の作業場のみ。証拠が残らぬよう跡形もなく消し去れ。尚、作業場には大量の火薬により激しい爆発が伴う。巻き込み死人が出て証拠を残すことは無いように。以上! 直ちに制圧にかかれ!」

 「「「はっ!!!」」」



 兵士達はナガーハに敬礼をすると、奥にある地下へと繋がる螺旋階段を駆け降りた。


 それを最後の1人になるまで面倒くさそうに見届けたナガーハは、運転手に命令する。



 「車を出してリード村の近くまで向かえ。リード村に盛大な花火が地上で花開くこの瞬間を見たい。」

 「畏まりました。ナガーハ様。」


 「……で、この建物の準備は万全か?」

 「数十分後に実行する筈です。」


 「よし。花火大会の会場まで向かおうじゃないか。」



 そう言うとナガーハは車に戻り、リード村近辺まで走らせた。




 数十分後この建物から突然大規模な爆発が起こり、今日のシルバーシティの夜はその話題で持ちきりとなった。


 何処からの金を受け取ったシルバーシティの爆発専門調査隊の報告に、こう記されている。


 

 『大規模な爆発の割に死者が出なかった為、意図的に爆発させただけ。証拠は一切残らなかったとの事。』




 そう。

 まるで、




 「お前らはこの爆発だけ見ていろ。」




 と言わんばかりに……。












 【リード村】



 午後21時50分。

 兵士達は音を立てる事も無く、リード村へとたどり着いた。


 5人4隊で別々に分かれ、小型化された無線連絡で連携を保っている。


 早速、無線連絡が始まった。



 O-152「此方O-152、時刻21と50。銃制作の作業場と見られる建物を発見。O-157応答せよ。」

 O-157「O-152了解。周辺に人影、怪しい物が無いか迅速、正確に確認せよ、どうぞ。」

 O-152「O-152了解しました。」


 O-154「此方O-154。時刻21と51リード村住人の中で2地点3名、共に外で酒を飲んでいる模様。場所は2-21と3-4地点。」

 O-157「O-154了解。引き続き状況に変化あれば連絡願う。どうぞ。」

 O-154「O-154了解です。」


 O-156「此方O-156。外部からの変化は今の所無し。変化あれば至急連絡を行う。」

 O-157「O-156。了解。」



 O-152が実行役。

 O-154がリード村に住む住人の監視。

 O-156がリード村の外の監視。


 そして、これらを纏めるO-157。



 人数は多く無いが、リード村にある建物の爆破程度など彼らに取っては朝飯前の事であった。


 ……だが、今回は敵にする相手が悪かったと言えよう。

 異変は小さな出来事から始まった。



 O-152「此方O-152。作業場に巨大なモークタンが出現。」

 O-157「O-152了解。モークタンのサイズを正確に述べよ。どうぞ。」

 O-152「O-152了解。推定縦100、横150。」

 O-157「O-152了解。【特殊魔物】の可能性あり。待機を命ずる。どうぞ。」

 O-152「O-152。モークタン、そのまま寝た模様。自然退去する気配無し。」

 O-157「O-152了解。定刻時、強行突破に移る。爆破した後に殺傷弾で撃て。どうぞ。」

 O-152「O-152了解しました。」



 作業場にデカいモークタンが居たようだ。

 彼らは謎のモークタンの登場に振り回されていた。


 その間、小型無線にはO-152とO-157のみに通信が通っている状況であった。


 マトモな無線機であればもう少し早く異変を察知で来ただろう。



 O-154「……こちらO-154。酒を飲んでいた3名は家に戻った。」

 O-157「O-154。声が変わったがお前は誰だ? 応答願う。どうぞ。」

 O-154「O-154。同一人物ですよ?」

 O-157「O-154、合い言葉をどうぞ。」

 O-154「へ~、随分と用意周到ね。わざわざ合い言葉なんて作るなんて。」

 O-157「何者だお前!?」

 O-154「そんなことよりもさ、O-156とO-152さんを気にしなくていいのかな?」



 偽者のO-154。

 その正体はなんとアリスであった。



 アリスはクロスボウで矢を放ち、O-154部隊の持っていた銃をいとも簡単に破壊した。


 そして殺さないように素手で殴り合ったのだ。

 少女とは思えない圧倒的レベル差だけで、素手で彼らに勝ってしまったのだ。



 O-157「O-152、O-154。応答せよ! 応答せよ!」

 O-152「此方O-152。お前らの場所は何処だ?」


 O-154「此方O-154。今の気分は如何お過ごしですかな?」

 O-157「お……お前ら、誰だ?」



 O-157の部隊の連絡係は、残ったそれぞれの部隊に連絡した。


 ……が、まず最初に繋がったO-152部隊は明らかに偽者であった。


 更にO-154部隊も明らかに偽者であった。




 自分ら157以外は既にやられたのである。


 それはデカいモークタンが発見されてから、僅か90秒の出来事であった。


 計画が不可能だと悟った157部隊達は、無線連絡を切ってシルバーシティへと戻ろうとする。



 「ヤバい! 退却だ! 俺達以外は全員やられた! このままでは全滅だ!」

 「おい、退却してもどうする? 俺達は死ぬんだぞ?」


 「そ、そうだ! お、応援を要請しよう! 数で踏み潰せば良いだけの話……。」

 「ん? 数で踏み潰せば良いって?」



 その時、後ろから最近聞いた事が有る声。

 O-157の全員が後ろを振り返った。


 暗い暗い影から、ツカツカと足音が近付いて……。

 O-157の1人が震えながらその影に指を指す。



 「お前は……ゆゆゆ、ユッケ?」

 「あらら、知ってる奴が居たのはちょっと盲点だったかな。」

 「う……撃て! 早く殺せ!」


 「止めろ!」

 「バババ! ジャキッ! ババババ! ジャキッ! ババババババババァン!!!」



 もう一人は銃をユッケという者に向けて連射する。

 直前にユッケを知る者が止めようとするが……遅かった。


 幾度もの連続射撃が災いし、銃自体に熱が籠もる。

 しかし弾が詰まっても撃ち続けた。

 撃った弾はユッケに当たりそして……。




 いとも儚く地面に落ちてしまった。

 ユッケ、ダメージ0!



 「バ……バカな! 我らが誇るアイロンの武器が通じない!?」

 「おや? 『我らが誇るアイロン』? コルクでも飛んで来たのか? しかも大量生産でジャムりやすいからな~。」


 「おい、アイツのレベルは幾つだ?」

 「お、俺が見たときは……230。」



 230。

 O-157達のレベルを全員足しても届かないレベルであった。


 驚愕しないハズは無かった。



 「230だと!?」

 「ほぅ、ついでだから教えてやる! 今の俺のレベルは……。」


 「に、逃げろ! 殺されるぞ!!!」

 「おい、ちょっと待て……。」



 ユッケは更に怖がらせる為に実際のレベルを教えようとするが、O-157の兵士達は我を忘れて全力で逃げ出した。


 元々殺すハズも無く、ただ気絶させようとしていたユッケ。

 そこへアリスが来てユッケをからかう。



 「あ~あ、ユッケさんやらかしちゃったね。みすみす逃がしちゃうなんてさ。」

 「アリス、お前殺さなかっただろうな?」


 「アイリスと変態にそーとー念押しされたからやってないよ? 大体この幼い少女の私が人殺すと思う?」

 「元カニバちゃんのお前が何を言う? あの時相当依存し過ぎてたぞ?」


 「そそ、それは言わないお約束でね……。ってそんなことよりもさ、早くアイリスの収納魔法に戻らないとマズいよ? ドローンって奴にバレると厄介だし。」

 「そうだな。」



 アリスの提案にユッケは頷き、急いでアイリスの元へと向かった。


 走っている最中、アリスが呆れ顔でユッケにこう言う。



 「……まさかナガーハがこんな手を考えるなんてね。ただの賄賂好きの醜いオッサンだと思ってたら……。」

 「ああ。リード村の住人達が心の拠り所にしている、作業場を爆破でぶっ飛ばすって考えするとはな。それをアッサリ見抜いたサングラスも凄いが。」


 「そう言えばアイリス。O-152倒した後に変態残してどっか行ったんだけどさ、知らない?」

 「……えっ!?」



 ユッケはアリスの発言に足を急に止める。

 ちょうどリード村の正面玄関に入りかけていた所であった。



 「何よ急に?」

 「ちょっと待て! それ、詳しく聞いたか?」


 「分かんない。ただ、サングラスに聞いてた気がする。」

 「はぁ……それを早く言ってくれよ……。」


 「あ……ゴメンナサイ……。」



 アリスはとある事に気付き、物凄く申し訳無さそうに頭を下げた。

 「これは面倒な事になったな。」とユッケは夜空を見上げながらポツリとそう呟いた。


 そして、ユッケはサングラスに



 『おい、サングラス。お前、アイリスが何処に要るか知っているか?』



 と聞いた。



 《申し訳ありません。アイリス様に口止めされていました。言うと是が非でも止めるだろうと。では、御説明します。》



 サングラスはアイリスの行動を説明した。



―――――――――――――――――――――――



―――――――――――――――――――――――

~ナガーハ視点~



 「あと、どの位だ?」

 「はい。もう数分程で花火が上がるかと。」



 俺は運転手に爆破の時間を聞いた。



 午後9時57分。

 俺のリムジン車はリード村近辺で闇に紛れ、花火が派手にうち上がる瞬間を待っていた。


 車の色自体が黒だからそう簡単に見つからない。




 で、盛大に花火を見て帰ったらお楽しみの時間だ。

 最近、取引先とのやっかみもあって随分溜まっているからな。


 今日はその分を開放してやろう。



 19っていう数字はピッチピチでオジサンには最高だ!

 胸を弄るだけでも単純に価値がある!



 賄賂で貰った有り金の大半を注いでるんだ。


 男の抗えない欲求を金で解決して何が悪い?




 まぁ、そんな話は後だ。

 そろそろ、花火が上がる。



 「ナガーハ様、午後10時です。彼方をご覧下さい。」

 「カメラは持ってきたか?」


 「はい。何時でも大丈夫です。」



 運転手の知らせを聞いた俺は、リムジン車の窓越しにリード村を見つめた。




 そして、30秒程たった頃。

 リード村から大きな花火が上がった!!!




 ハッハッハッハ!

 ザマァみやがれ! この老いぼれガール!


 作業場が煌びやかに燃える瞬間を!

 瞬間を……



 「……ん?」



 私はとある疑問が湧いた。


 昔の記憶で曖昧だが、あそこに作業場があったか?



 花火は丁度中心から撃ち上がっているが、

 俺の記憶だと作業場は少し中心から外れていたような……。



 「おい、あの花火は本物か?」

 「……申し訳ありませんが、偽物で間違いございません。あれはアイロンの爆弾ではありません。」



 元腕利きの兵士であった運転手から、花火が偽物であると伝えられた。


 恐らく誰かによる妨害が起こり、失敗したのだろう。



 「クソが! 一体あの兵士達は何をやっていたんだ! オイ! 敗残兵は一人残らず機関銃で撃ち殺せ!」

 「畏まりました……ん?」



 運転手は頭を下げる。

 その直後、何故か辺りを見回して警戒を始めた。



 「ナガーハ様。急スピードで突っ走ります。構えてください。」

 「えっ? どうしてだ。」



 すると運転手は、即座にエンジンを掛けて逃げようとする。


 少し後ろから、誰かが闇に紛れてリムジン車を追ってきたのだ!

 そいつが魔法を掛けた。



 「【氷球】! 【分裂100】!」



 100個に分裂した氷球はリムジン車を越えた辺りで地面に落ち、氷の面を作り出す。


 リムジン車に当てるんじゃなく、リムジン車を止めるつもりか!




 「ナガーハ様! 物につかんでください!」

 「ギャアァァァァァァ!!!」




 100キロ走行を越えて高速回転していたリムジン車のタイヤは、氷の面に触れた途端に空回りし、ハンドルの制御が利かなくなった。



 「キュイィィィィィ!!!」



 運転手の必死のハンドル捌きの元、車体は氷の上やアスファルトの地面で何回転もグルグルと周りながら進んでいく。


 余りの勢いに飲んでいた酒のビンが割れて顔に掛かった。

 グラスも当然割れ、破片が右腕に刺さって黒に近い血が出てしまった。


 そして、大回転した車は遂に停止した。



 俺は右腕の激痛を耐え、後部座席のドアを開けて外に出た。


 (このガキ!俺様を殺す積もりか!)


 運転手は俺の元へ駆け寄り、ポケットから回復薬を取り出す。



 「ナガーハ様! 誠に申し訳ありません!」

 「……俺を殺そうとしたあの糞ガキを殺せ! 汚名返上のラストチャンスだと思え。」


 「この命に代えても果たします。」



 俺が運転手に命令すると、かなり奥から糞ガキが走ってきた。



 「夕方の頃はどうも。アイリス・オーリアです。」

 「この糞ガキ! よくも俺様をハメやがったな!」


 「俺がハメた? 折角賄賂を渡したというのに、約束をぶっ壊すかのように作業場を吹っ飛ばそうとしたお前が今更何を言う?」

 「黙れ! アイロンの方針に異国のお前が首突っ込むなァ! アイツを殺せ!」



 俺がそう言うと、運転手はセミオートライフルを取り出す。

 そして遠くにいるアイリスに向けた。



 「ハハハハハ! アイロン製の大量生産された性能の良い銃の腕前を見せてもらおう!」

 「ババババババババ!!! ジャキッ! ババババババババ!!! ジャキッ! ババババババババ!!!」



 運転手はセミオートライフルをアイリスに向けて乱射した。

 アイリスはというと……。


 まるで全て飛んでくる弾の方向が分かっているような仕草で体を動かしながらゆっくりと近付く。



 「どうした? コッチにはたった数発しか飛んできてないぞ?」

 「ババババババババ!!!」

 「チッ!」



 運転手は再びセミオートライフルを乱射した。


 だが撃ちすぎて熱が籠もってしまった。

 熱がある程度冷めるまでは暴発の危険があるため絶対に撃てない。


 運転手は思わず舌打ちを鳴らす。



 そうこうしている内に、アイリスとの距離は既に15メートル程まで近付いていた。


 そしてアイリスはにやけながら収納魔法から何かを取り出す。



 「食らえ。これがガールさんが身を粉にしてまで守ってきた、伝統工芸の銃の力だ!」



 あれは……リード村の銃?


 そう思う間にアイリスは運転手に向けて狙いを定め……撃った。



 「バァァァン!!!」

 「バキン!」

 「!? バ……バカな! たかがリボルバー式の拳銃で……?」



 弾は運転手が撃った銃よりも遥かに速い。



 夜空を迅速に駆ける一筋の一撃は、運転手の銃に当たった。


 銃はさっきまであった安心感が、バラバラに砕け散ったのを感じた。



 「ま……まだだ!」



 運転手はセミオートライフルを失っても、懐から単発式の拳銃を取り出そうとする。


 しかし、アイリスに拳銃を狙って撃つまでの時間はもう無かった。



 「主を必死に守るお前には少々悪いが……眠って貰おう。」

 「グッ! グッ……グハァ!」



 アイリスは運転手の銃を全力の拳でぶっ飛ばし、腹と顔に向けて数発殴った。


 怯んだ隙に収納魔法から取り出していたであろう、謎の粉を運転手の顔に振り掛ける。



 「おお、意外と聞くな。」

 「Zzz……。」



 粉を浴びた運転手は地面に倒れ込んだ。

 眠ってしまったらしい。


 運転手が嘘で寝ているかを確認したアイリスは、俺様の目を睨み付けて近付いてきた。



 ひっ…ヒイイ!

 か、勘弁してくれ!



 俺はアイリスの圧力に気圧され、腰を抜かして後ろから倒れ込む。



 「ヒイイ! た……助けて……。」

 「安心しろ、別に殺すつもりは端っから無い。」


 「お……お金なら幾らでも渡そう! だっだから……この一件は黙っていて欲しい!」

 「黙れ。お前はこの一件の全部が全部、金で解決出来ると思ってんのか? あと少しでリード村に済む職人を絶望のどん底に落とす所だったんだぞ? それを、皆に金払って『許します。』なんて言うと思うか?」


 「……。」



 俺は思わず口籠もってしまった。


 散々罵倒しまくったアイツらが、加害者側の俺に許しますなんて言うわけが無い。 



 今になって罵倒したツケが回ってきたと言うのか?



 どうやらアイリスは俺の考えまでも読んでいたらしく、こう続ける。



 「お前が勧めている大量生産の質の向上についての考え方は間違ってはいない。寧ろ、アイロンの為に貢献しているのは多分そうだろうな。」

 「そ……それなら何故?」


 「伝統工芸を必死で守り通そうとしているアイツらに無理矢理やれ!と罵倒するのは間違ってる。挙げ句の果てに、アイツらの作業場を燃やすなんて考えが出て来るとは呆れた。だからお前の考え方を変えるためには、少々痛い思いをして貰おう。」

 「オイ! 俺様にそんな事をしたらどうなるか分かっているのか? アイロンの法律をちゃんと読んだだろ? 法律を破る事になるぞ?」


 「法律を破る? ……悪者を更生させるために一撃のパンチをして何が悪い? 痛い目を見ないと分からないヤツなんて、この世の中には山ほどいるんだ。」



 アイリスは俺の胸倉を掴んだ。

 そして腰を抜かしている俺の体を持ち上げ、立たせる。



 「ま……待て! もうこんな事はやらん! 頼む!」



 俺の必死の止めにもアイリスは応じず、アイリスは右腕に力を込めて降りかかる。



 「ギャアァァァァァァ!!!」

 


 アイリスの放った渾身の右ストレートの一撃パンチが、俺の右の鼻辺りに命中した。


 右半分に走る、今まで感じたことの無い電撃の後に、体が思いっ切り後ろへと持って行かれた。

 激痛により受け身の体制を取れずに地面へ激しく叩き付けられた。




 その後、俺が目覚めたのは病院だった。


 鼻の骨にひび割れたらしく、金貨5枚の高性能回復薬を出費するハメになった。




 それ以来、俺は殴られる事にトマウマを抱いてしまった。

 


―――――――――――――――――――――――



―――――――――――――――――――――――

―【臆病者】アイリス視点―



 ナガーハを殴った俺は、意外なヤツに出会った。



 「ウゴクナ! ウゴクナ! テイコウスレバ、ウツ! テイコウスレバ、ウツ! リョウテヲアゲロ! リョウテヲアゲロ!」



 どこからともなく上から現れたドローン数体に囲まれたのだ。


 (アイツが言ってたのはコレか?まぁ、アイツ確か結構シルバーシティのお偉い方って言うのはサングラスから聞いたしな)


 俺はナガーハの最後に言ってた言葉を思い浮かびながら、ドローンの言われた通りに手を上げる。



 暫くすると囲んでいたドローンよりもデカいドローンが来た。


 俺の目の前まで来ると、そのドローンの正面が開いた。

 中には何か入っている小さな箱と、俺がギリギリ入れそうなスペースがあるだけだった。



 「ハイレ!」

 「えっ? この中に入るの?」


 「モンドウムヨウ!」

 「痛!」



 後ろのドローンが俺の頭に軽く体当たりする。

 突拍子な上に金属で少し勢い良く突つかれたのでそこそこ痛い。



 俺は仕方無く中に入る事にした。

 慣れているとはいえ狭い。



 「ホカクカンリョウ! シルバーシティヘレンコウ!」



 俺を載せたドローンはそう言うと、多分シルバーシティへと向かった。



 「プシュー!」



 真っ暗闇の中、どこからか発射された何かの気体が俺の空間内に広がる。


 余りに予期できなかったため、呼吸を止めたものの……4分程で吸い込んでしまった。


 気体を吸い込んだ俺は、何時の間にか眠ってしまった。



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