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殲滅

今回は少し長めです。

 波才本陣に向かう官軍の兵士は八千を超えた。

 対する波才本陣は三千。


 半日にして官軍と黄巾軍の形勢は逆転した。

 官軍には数的有利の余裕があり、兵士の戦いの気持ちは緩くなっている。


「まずいな……」


 曹和は緊張感に欠けている官軍を見ながら呟く。


 形勢が逆転すれば、心にゆとりもできてきてもおかしくない。

 一方、すでに波才は孤立している。

 故に、波才は討死覚悟で迎撃してくる。


 どちらの軍がこの状況において有利なのか。

 数で有利な官軍か、それとも、背水の陣で迎撃してくる黄巾軍なのか。


 今のままでは官軍が有利にもかかわらず、負けるかもしれない。


「このままだと、一角が崩されれば、たちまち敗走するぞ!」


 曹和は進軍する軍に緊張感を持つように声を出す。


 何事かと多くの兵士が曹和の方向を見る。

 それでも、曹和の言葉が伝わったとは言い難い。


 曹和の言葉に聞く耳を持つ兵士もいるが、到底、全員ではない。


 いくら曹和のような武人がいたとしても、一人で何百人の敵を相手に戦えるわけがない。

 結局のところ、戦いの勝敗を決めるのは兵士にかかっている。


「ここの兵士は、誰が指揮していた?」


 城内と城外にいた官軍が合流し、指揮系統を整えるために一度、指揮系統を一つにした。

 その際に、曹操が率いていた軍と皇甫嵩こうほすう朱儁しゅしゅんが率いていた軍は混合した。


 曹操が率いていた軍だったならば、鮮麗された動きで進軍できるはずだ。


「大部分の兵士は城内にいた兵士のようです……。曹操様が率いていた軍は追撃の部隊に回されたようです」


皇甫嵩こうほすう朱儁しゅしゅんの兵士か……」


 曹和は苦々しい表情を浮かべる。

 苦々しい表情を浮かべた曹和の心には、二人に対する怒りが込み上がっていた。


「このような軍でよく戦えたものだ……。突破したときの黄巾軍が弱かったのか?」


 あまりの皇甫嵩こうほすう朱儁しゅしゅんの兵士の不甲斐無さに、敵が弱かったのかと疑ってしまう。


「我々だけで何とかいたしましょう」


 横から聞き慣れない声が聞こえる。

 曹和は横を振り向くと、聞き慣れない声を出した人物を見る。


 思わず口元に笑みをこぼしてしまう。


「貴殿は……。劉備殿の義勇軍にいた……」


「劉備軍配下の関羽、字は雲長と申す。曹和殿……」


 曹和は、なぜ関羽が自分の名を知っているのかと思いもするが、そのようなことは今は気にしなかった。


 一目見て、手合せしたいと思った人物が目の前にいる。


「劉備軍の関羽殿……」


「いかにも。隣にいるのが、弟の張飛、字は益徳と申します」


 関羽の隣には曹和を睨みつけて、敵対心をむき出しにしている張飛がいる。


「先ほどの戦いはお見事でした。よく鍛えられた騎馬隊のようで、羨ましい限りです」


 関羽は先ほどの曹和の戦いを見ていたような言葉を口にする。


「関羽殿と張飛殿も見事な連携で黄巾軍を追い払っていました。兄弟だからこそ、なせる連携なようで感服いたします」


「けっ……。黄巾軍には雑兵しかいないから、勝って、当然だけどな」


 張飛が曹和に対して初めて声を出す。

 低い、物々しい声である。


「張飛、無礼だぞ」


 張飛の無礼な振る舞いに、関羽は張飛を叱咤する。


「張飛殿のおっしゃる通りです。相手をした黄巾軍は雑兵ばかり……。数が多かっただけです」


「ほら、みろ!俺の言った通りじゃないか、兄貴」


 張飛は曹和が、自分が言ったことを潔く認めたことに、皮肉も含めて声を荒げる。


 張飛からしてみれば、兄関羽が官軍に頭を下げていることに我慢ならない。

 頭を下げるといっても、ただの感謝に対する会釈なのだが。


 しかし、どんな理由であろうとも兄関羽が劣っているように見られることだけは、弟としていてもたってもいられなかった。


「度重なる無礼お許しください、曹和殿。張飛には十分注意するように言いつけますので……」


「お気になさらないでください、関羽殿。それよりも、波才本陣が近づいてきましたよ」


 三人が話している間にも、軍は進軍していた。


 曹和はすでに頭を切りかえ、戦闘態勢に入る。

 それをその場で見ていた関羽は、感心しきった様子で張飛と自軍に戻る。


「敵襲―」


 前方から全軍に伝令が向かってくる。


「波才め……。先手をとってきたか」


 数に劣る黄巾軍は数で勝る官軍に先手を取ってきた。


 曹和は官軍の中央にいる、伝令が次々に後方に向かっていく。

 すでに前衛は黄巾軍とぶつかったようで、あちらこちらから剣がぶつかり合う音がする。


「中央は前進!前方を押しながら、両翼からも攻撃を仕掛ける!」


 曹和のすぐ近くにいた官軍の総指揮をとる指揮官の言葉が聞こえてくる。


 悪くない。

 数の優位を生かしていると曹和は考える。


 指揮官は全軍に伝令を走らせる。

 曹和はすぐ近くから指揮官の言葉を聞き、黒騎に命令を出す。


「命令が下ったぞ!これが豫洲における、最後の戦いと思え!存分に暴れ、波才の首を我らが貰い受ける」


「おう!」


 黒騎全員が声を合わせる。

 曹和は掛け声に頷くと、馬を走らせる。


 行く手を邪魔してくる敵を無言で斬る。

 曹和が目指しているのは波才の首のみである。

 彼の首を取れば、曹操の目的の一つである黄巾の乱で、名を上げ、広めることもできる。


 次々と襲いかかってくる雑兵を一太刀で斬る。

 たいていの雑兵は曹和の強すぎる一太刀を堪えきれない。


「波才はどこだ……探せ!」


 波才の首のみのことしか考えていない曹和は、血眼ちまなこになって探す。


 戦場は両軍入り乱れる激闘。激闘の中、敵の総大将を探すことは敵を百人倒すよりも難しい。


 曹和に遅れまいと、黒騎も曹和の背後を守るようにがっちりとつき従っている。

 曹和と黒騎が通り過ぎる道には、怯えに怯える黄巾軍が進んでくださいとばかりに道を空ける。


 面白くない。

 もっと戦わせろ。

 曹和は波才が自分と互角に戦える武人であることを祈った。


 曹和は襲いかかってこない敵を完全に無視する。

 曹和が無視をしても、いずれ後方からの官軍に殺されることであろう。


 曹和は無人の道をひたすら突き進んでいると、官軍が押されてる戦闘を目撃する。

 その戦闘を目撃するまで、これといって歯ごたえのある敵とは、まだ一度も遭遇していない。


 あそこに波才がいる。

 波才を守る豫洲黄巾軍の中でも、精鋭の黄巾軍だ。


 李交は主人の曹和が獲物を狙った目をしていることに気づく。


 曹和に波才の首を取ってほしい。

 李交が今考えているのはそれだけだった。


「黒騎は散開!曹和様の前に、敵を近づけるな!」


 腹の底から出した、李交の大きな声だった。


「いらんことをするな……」


 小さく呟きながらも、表情は笑っている。


 黒騎が曹和の前に出る。

 黄巾軍も自分たちに向かってくる得体のしれない軍の存在に、わずかながら気づいている。


「曹和様の騎馬隊だ――」


 官軍の誰かが叫んだ。

 叫んだ声は官軍に響き渡る。

 押されていた官軍は、曹和が背後より来ていることを知ると、押されないように必死に抵抗する。


 曹和の戦いぶりを目撃している兵士は少ない。


 しかし、明らかに曹和が率いる騎馬隊の動きは違った。


「貴様が曹和か!」


 黄色の布を頭に巻き、孤立する中で一人だけ官軍に反抗している男がいる。

 男は、黒騎の攻撃を受けながらも、鋭い剣捌きで攻撃を受け流している。


 男は、黒騎の数騎に囲まれながらも、曹和を見ることを忘れない。


「俺が相手をしよう。貴様の名はなんだ?」


 曹和の言葉に攻撃をしていた数騎は男から離れる。


「天公将軍張角様より豫洲黄巾軍を任された波才である!貴様は曹和だな?」


「いかにも。曹操軍副将曹和だ……」


 久しぶりに雑兵以外の武人と手合せできる。

 曹和の中に流れる武人としての血が騒ぐ。


「この戦い、貴様にここまで追い詰められたようなものだ」


 波才は悔しそうな顔を見せる。


「ほざけ……。武将一人で戦いの結果が左右されるほど、いくさは甘くはない。それぐらい、官軍相手にしてきたならわかるだろ、波才……」


「確かにそうかもしれないな……。だが貴様は、戦いを左右するような武人として才能、武将としての器を持っている」


 波才が言葉を口にしている最中に、右から剣で波才の胴を狙う。

 いきなりかといった表情で曹和の一撃を力で受け止める。


「いいぞ、波才!久しぶりに一撃を受け止める武人と出会ったぞ」


 波才が一撃を受け止めたことが曹和の魂に火をつけた。


 右、左と交互に渾身の一撃を見舞う。

 曹和の渾身の一撃は、波才が手にしている剣を通じて、全身に震えるように響き渡る。

 渾身の一撃が連続して波才を襲う。


 波才も波才で曹和の渾身一撃をくらえば、生き残ることは不可能だ。


 防戦一方になりながらも、必死に曹和の剣に食らいつく。


 しかし、曹和の一撃はとにかく重い。

 手が痺れるような一撃の重さを持っている。


 防戦に徹している波才の手も一撃を受けるごとに剣を握る握力がなくなっていく。


 まずい、このままでは体がもたない。

 波才は曹和の一撃を跳ね除けた瞬間に反動を利用し、曹和に攻撃を仕掛ける。


 一瞬の隙をついた波才渾身の攻撃だった。


「貴様の首、もらった――!」


 波才は勝ったと確信する。


 剣が弾かれる音がする。


 波才の剣が僅かに曹和の首に届かずに、首元すれすれで曹和は波才の剣を防いだ。


 曹和はなぜ波才の剣を防げたのか。

 曹和は卓越した馬捌きで波才に近づき、最短の時間で波才に距離を詰めたのである。


「馬鹿な……」


 剣を弾かれた波才は絶望に満ちた顔をする。


「お前もその程度だったか……」


 興味を見失ったような瞳で波才に斬りかかる。

 波才は攻撃した剣が弾かれ、曹和の攻撃を受け止める手段がない。


「天公将軍張角様、万―」


 波才の言葉は途中で途切れる。


 曹和が波才の首を斬ったのだ。


 これで豫洲の戦いは終わりか。

 もっと戦いたい。

 次の戦いはもっと戦わせろ。


 曹和は天を見上げながら、すでに次の戦いのことを考えていた。


更新予定は6月25日だったのですが、その日は急用が入ってしまいました。

そのため、休日のお昼頃の早めの投稿となってしまいました。

次回よりは更新予定日を厳守したいと考えております。


次回の更新日は6月30日になります。


なお、早めの投稿をご希望される方がいれば、できるだけ早めに投稿したいとも考えております。

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