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曹操と劉備

早めに仕上がったので、投稿させて頂きます。

 長社の草原のいたるところが燃え始める。

 長社に籠城していた官軍も草原が燃え始めると、城を出て総攻撃をしていた。


 黄巾軍を城の内と外での挟撃。曹操が描いた戦いがようやく始まる。

 曹和の黒騎を先頭に外の官軍は丘陵から勢いに乗り、黄巾軍の側面を攻撃する。


 波才はあらかじめ挟撃されないように、曹操率いる官軍には一万の兵士を割いている。

 先頭を走る曹和が城を出て総攻撃をしている官軍と合流するには目の前の一万を打ち破らなければならない。


 先の戦いとは違い、目の前にいる黄巾軍は豫洲よしゅうにおいても、精鋭の黄巾軍である。

 正面から当たるのは下策。黄巾軍の側面を攻撃するのが上策である。


 曹和は馬に乗りながら、丘陵を下った速度に加え、さらに馬を加速させる。

 曹和の周りには私兵である黒騎がピッタリと寄り添うように主人である曹和に黄巾軍を近づけないような陣形になっている。


 後方には官軍の大半を占める歩兵が曹和とかなりの距離で離れている。

 ゆうなれば、曹和は官軍の軍勢から一つ頭が飛び出ている状態だ。


「曹和様、後方とかなりの距離が離れておりますが、どうなさいますか」


 曹和の隣を駆ける黒騎が問う。


「このまま敵陣に突撃する。後ろのことは気にするな」


 曹和は前方だけを見ながら、黒騎の問いかけに答える。

 黒騎も曹和の身を案じて、さらに問いかける。


「しかし、我々がこのまま敵陣に突撃すれば後方の味方と分断されてしまいます!そうなっては我々は孤立してしまい、退路を断たれてしまいます!」


 黒騎は懸命に曹和を説得する。

 黒騎は主人である曹和の命令を遵守するのが曹和に対する忠誠心であるが、もう一つの忠誠心がある。もう一つの忠誠心は曹和を死なせないことである。


 黒騎はみな、曹和に雇われているという形になっている。

 しかし、黒騎の全員が曹和に何かしらの恩を感じ、自らの意志の元で曹和に仕えている。


「元より退路なんてこの戦いに存在しない。この戦いで退路を失ったときは死ぬときだ……」


 曹和の頭には退路という二文字は存在しない。

 あるとするならば、黄巾軍を側面から切り崩すことだけである。


 主の曹和の並々ならぬ意志に黒騎は諦めの表情を見せる。


「では、せめて後方にいる官軍の騎馬隊二百をお使いになってはいかがですか?」


 諦めの表情を見せた黒騎ではあったが、やはり黒騎あるというべきであろう。

 何とか単独での突撃を控えさせるためにも、後方にいる騎馬二百を使い突撃の威力を上げようとする策を曹和に提言する。


 提言された曹和は、一瞬考える素振りを見せる。

 思考に研ぎ澄まされている曹和の馬の速度は遅くなり、後方との歩兵の差もじわじわと縮まっている。


「後方の騎馬二百……。その策、悪くない、黒騎五十に官軍の騎兵二百が加われば一気に突破力が上がる」


 提言した黒騎は曹和の言葉を聞くや否や、後方の騎馬二百を先頭に加えるために後方に走らせる。


 それほど時間が経たないうちに先頭の曹和は黄巾軍とぶつかった。


 先頭の曹和を中心に側面から黄巾軍を手当たり次第に切り殺してゆく。曹和が剣を一振りすれば、黄巾軍の賊は一人二人と切り殺される。


 曹和の武に勝るにも劣らない黒騎も見渡す限りの黄巾軍を一人でも減らすため、黄巾軍を剣で薙ぎ払ってゆく。


 曹和は黄巾軍と戦いながらも、敵の層が薄い部分を探す。

 層が薄い部分を一気に突破できれば、外の官軍に対陣している黄巾軍一万を突破できる。


「突撃しては引いてを繰り返すぞ! 」


 黄巾軍は中央に歩兵が固まっているため、曹和は右翼を中心に攻撃を仕掛ける。


 黒騎五十は一つの生き物のような動きをしながら、黄巾軍に対して攻撃しては引くを繰り返す。

 騎兵の特徴を生かした機動力に翻弄される黄巾軍。黄巾軍大半が歩兵なため、騎馬の機動力についてゆくことができない。


 黒騎は曹和の描いていたように黄巾軍を切り崩してゆく。


 敵を突破するには頃合いとみた直後、曹和の視界には策を提言した黒騎が現れる。黒騎の背後に騎馬二百の姿が見えている。


「連れてきたか‥‥」


「いかがなさいますか、曹和様」


 いつの間にか曹和の横に馬を並べている李元。

 

「李元、お前は官軍の騎兵二百を率いろ。お前の指揮の下、騎兵二百で注意を引け。その間に突破口を開き、兄者の歩兵が城内軍と合流する」


「はっ!」

 

 勢いよく飛び出していった李元を見ながら、曹和は右手をあげて黒騎を集結させる。


「李元が黄巾軍の注意を引く。我々は一瞬でいい……突破口を切り開く」


 再び黒騎が一体となって動き始める。一度動き出せば、曹和の指示がなければ黒騎は数が減ろうとも止まりはしない。


 黄巾軍と何度もぶつかり合いをしたため、黒騎の数は若干ではあるが減っている。数に劣る官軍は徐々に黄巾軍を締め付けていくしか方法はない。


 曹和が黄巾軍に対して暴れている間、李元率いる騎兵二百は曹和がいる右翼とは反対の左翼を中心に黄巾軍と戦っていた。


 李元は二百を二手に分けると、一隊は自ら率い、もう一体は官軍の指揮官に任せる。


「雑兵は相手にするな!我々の役目は突破口を空ける間の囮だ!」


 大声を張る李元は縦横無尽に左翼を攪乱かくらんさせる。

 官軍の騎馬隊は曹和の黒騎のように一つの生き物ような動きには及ばないものの、十分練度は高い。


 背後に騎兵がいるのか確認しながら、剣を振り黄巾軍の注意を引く。


 右翼と左翼でそれぞれ騎馬隊が機動力を生かし黄巾軍を攪乱かくらんさせているため、右翼と左翼に黄巾軍の兵が集中する。


 騎兵より二里(約八百メートル)後方には曹操が歩兵四千を率いながら、黄巾軍に近づいている。

 歩兵の先頭にいるのは曹操。曹操の視界には陣形を乱している黄巾軍が何とか陣形を持ち直しているように見えている。


「子元が上手くやっているようだな……」


 曹操は敵の手薄な中央からに皇甫嵩こうほすうと合流しようと考えていた。

 そのためにも右翼と左翼の騎兵には一秒でも長く時間を稼いでもらう必要があった。


「もう少し、時間を稼いでくれよ」


 曹操は小声で呟く。

 曹操の思惑通りに進めば、歩兵で黄巾軍を突破できれば黄巾軍は総崩れになる。そうなれば、城内から出撃した官軍と共に波才の首を狙うのみである。


 歩兵の士気は最高潮に達しており、今ならば黄巾軍を突破できるという自信が曹操にはあった。


「全軍、中央の黄巾軍だけに集中しろ!後の敵は気にしなくて良い……。ここを突破すれば勝利は間違いない!」


 総指揮官の曹操による兵士の鼓舞の言葉は官軍の兵士に勝利への確信を持たせるほどだ。

 曹操自ら歩兵の先頭に立つと、中央の黄巾軍と衝突する。


 曹操の周りは見渡す限り黄巾軍しか見えない。騎馬隊が両翼で暴れているからとて、黄巾軍一万に対しては数が少なすぎた。

 それでも、曹操はがむしゃらに前方の方角だけを見ながら、剣を振るう。


 歩兵は次々に黄巾軍と死闘を繰り広げ、中央に圧力をかけようと必死に戦っている。

 懸命に戦っている官軍ではあるが、もうひと押しができない。


 数が足りない。曹操は戦いながらそんなことを考えていた。

 千か二千いれば一気に黄巾軍を崩せる。それだけの数がいれば、もう少しで黄巾軍を崩すことができる。確信はしていたが、理想と現実とでは大きくかけ離れていた。


 曹操は思わず唇を噛みしめる。曹操が殺した黄巾軍はすでに十は越えているだろうか。

 全身に返り血を浴びながら、必死に現状を打破できる策を考える。


「(曹和を中央に戻せば突破力は上がるが、完全に囲まれる。そうなれば、全滅は必至……)」


 戦いの中でそれほどの考えを頭に浮かべられる曹操。


 そんな時だった。黄巾軍の右翼が突然、崩れ始めた。


 曹操は何事かと左翼に視線を向ける。草原が揺れるほどの錯覚に陥らせるほどの地響きを立てながら、黄巾軍の右翼を突破している軍勢がいる。


 敵ではない。曹操の直観が味方であると判断した。右翼を一気に突破している軍は中央を目指しているように見える。


 曹操はさらに兵士を鼓舞する。


「左翼より援軍だ。あと、ひと踏ん張りすれば突破できるぞ!」


 曹操も懸命だった。

こんなとこで死ぬわけにはいかない。

 曹操の心の奥からそんな言葉が聞こえた。


 援軍という曹操の言葉に、歩兵は見事に応えた。押され気味であった前線を押し返し、あわよくば前線を押し上げることさえしている。


 右翼が完全に崩れたことによって、中央と左翼の黄巾軍は混乱する。


 すでに右翼が崩壊したことで、黄巾軍の兵士の士気は下がり、我先にと逃げはじめる。

 軍というのは、一人が逃げはじめればいとも簡単に崩れてしまうものである。案の定、一人また一人と黄巾軍の兵士が逃げはじめる。


 曹操は逃げ回っている雑兵は無視し、右翼を切り崩した軍勢と合流する。

 右翼を切り崩した軍の大将であろう指揮官も曹操に近づいてくる。


「援軍助かった。貴殿の名は?」


 曹操は援軍の感謝の言葉を言うと同時に名を聞く。

 名を聞かれた軍の大将は曹操の瞳を見つめながら、口を開く。


「劉備、あざなは玄徳。黄巾軍鎮圧のために義勇軍を募り、助太刀に参りました」


「劉備殿……。どちらから参られた?」


幽州ゆうしゅうより参りました」


幽州ゆうしゅうより義勇軍……。官軍五千を指揮する曹操、字は孟徳と申す。劉備殿、よければもう少し共に戦ってほしいのだが……」


「無論です、曹操殿」


「感謝する」


 曹操は劉備という男を見極めていた。どこにでもいそうな平凡な男にもかかわらず、曹操さえも感じる不思議な魅力を持っている男、劉備。


 さらに曹操は劉備の背後に控える二人の男にも視線を向けていた。

 劉備とは典型的に違う、すでに武将の雰囲気を醸し出している大男の二人。曹和に似ている、曹操は感じた。

 劉備に完全に従っているように見える大男二人は劉備の命令によって、一足先に軍を率いて進軍を開始する。


「劉備殿、この戦いが終わったらゆっくりと語りたいものだ」


「是非。曹操殿」


 すでに黄巾軍を突破しているため、城外で総攻撃を行っている皇甫嵩こうほすうの軍の姿が見えてくる。

 勝利は目前だ。曹操は劉備の軍と共に進軍する。


次回の更新は予定通り6月22日になります。

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