呂布と曹和の運命
曹操は曹和の存在を連合軍に告げる機をうかがっていた。
黄巾の乱で曹和の名を広げたとはいえ、曹和の名を知っている者は少ない。
曹和が大陸を旅する途中、曹和を知っている者もいるが、連合軍の諸侯で曹和を知っている者もわずかだ。
そして、今まさに曹操が考えていた曹和の武を大陸に轟かせるには絶好の機会である。
ましてや敵は圧倒的な恐怖を連合軍に知らしめた呂布である。
曹操にとっても曹和にとっても願ってもいない敵である。
「呂布の騎馬隊の恐ろしいほど強い。あの騎馬隊を封じるには呂布自身も封じる必要がある。そのためにも呂布の武力にも勝る曹和を呂布に当てたい」
曹操の言葉に諸侯の視線が背後にいる曹和にむけられる。
曹和は諸侯の視線を一同に浴びながら一歩前に出る。
「呂布と互角に打ち合えるのは限られております。犠牲を最小限に抑えるためにも任せてもらいたい」
曹和は諸侯に頭を下げる。
「曹和殿であれば呂布に勝てると?」
呂布に散々に打ち負かされた第一軍を率いていた諸侯が問う。
「呂布は戦場の空気を変えるほどの武力を持っております。敵はわれわれを正面から打ち破ったことによって士気は上がっており、勢いにも乗っております。これ以上の敗北は連合軍全体の士気にも関わります」
曹和の言葉はまるで第一軍の諸侯が負けたせいで劣勢になっているんだと言わんばかりの言い方だ。
実際に第一軍だけではなく連合軍全体が敵を侮っていなければ敗北も防げていたかもしれない。
第一軍を率いていた諸侯は何も言わない。
「呂布の騎馬隊を封じるには馬止めの柵が最も有効的です。馬止めを組み立てるためにも、呂布と騎馬隊を封じる必要があります」
「馬止めの柵か……。呂布がわざわざ見逃すとは思えないが」
公孫瓉は口を開く。
公孫瓉も呂布の騎馬隊を間近で見た一人である。
一筋縄ではいかないことがわかっているからこそ公孫瓉は曹和の言葉に反応する。
「公孫瓉殿の言う通り呂布が黙って見過ごすはずがありません。呂布は必ず出てきます」
「では、どうしろと?」
「呂布の騎馬隊と正面からぶつかればひとたまりもありません。そのためにも全軍で呂布に挑み、封じている間に馬止めの柵を二重、三重の柵を組み立てます」
曹和は連合軍が勝つために最も呂布の騎馬隊を封じるために有効的な策を諸侯に提言する。
曹和の策には諸侯も唸り声をあげる。
「その策で呂布を封じこもう。わが軍が全軍の前衛を務めよう」
真っ先に曹和の策に賛同したのは公孫瓉だった。
公孫瓉は連合軍に参加して以来後方に回ることが多かった。
劉備が華雄を討ち取り、公孫瓉の軍が形式上では手柄になった。
だが、その功績は紛れもなく劉備の手柄である。
そのため公孫瓉は一刻も早く連合軍で功績を挙げることに必死になっていた。
曹和に賛同したのも、前衛を引き受けたいがためだった。
「公孫瓉殿が前衛を引き受けてくださるならば何よりも心強い」
「公孫瓉殿ならば心配あるまい」
諸侯が口を揃えて公孫瓉を褒め称える。
公孫瓉が前衛を務めることに異議を唱える諸侯はいなかった。
「では公孫瓉殿には前衛を任せましょう。とにかく呂布とは正面から当たらないことです。当たらなければ損害は最小限に留めることができましょう」
軍議が終わったことによって全軍は慌ただしく動き始めた。
全軍で柵の用意を行う。
「これだけの柵を使うことになるとはな……。呂布の騎馬隊を封じるにはこれだけの柵がなければひとたまりもないのか」
「騎馬隊で連合の注意を引き、その間に歩兵で柵を排除する。呂布ならばそう対処するでしょう。そのためにも大量の柵が必要になるのです」
曹操は目の前で大量の木が集められている光景を見ている。
「お前が呂布であれば、どう対処する?」
「呂布であれば柵を用意している今すぐにでも攻め込みます。柵が完成してしまえば、どんなに精強な騎馬隊でも柵の前には手も足も出ないですから」
「すぐに攻め込むか……。悪くないな」
曹和の判断に曹操も同感する。
「数日で柵は完成します。柵を完成させれば、こちらの勝利は決定的です」
「子元、お前の悪いところが出ているぞ。戦う前から勝利を確信するな」
曹操は曹和の欠点を指摘する。
曹和の欠点は状況を分析し、確信してしまう部分がある。
相手を分析することができるまで成長した曹和だったが、曹操からしてみればまだまだ甘い部分が多かった。
「兄者の言葉、胸に刻んでおきます」
曹和は反省した様子で曹操に謝罪する。
曹和がいくら歳をとっても曹操には遠く及ばない。
全軍の働きによって、ついに柵が完成した。
柵が完成すると連合軍はすぐに動き出す。
公孫瓉が前衛、曹操は前衛の両翼を中心に陣を構える。
呂布も連合軍の動きを察していたためか、柵を完成させている間襲ってくることはなかった。
連合軍が陣を構えると、呂布も軍を展開する。
公孫瓉は、白馬で揃えた騎馬隊を先頭に軍を動かしはじめた。
白馬の騎馬隊は三千。
公孫瓉は守るというよりも攻め込む気持ちの方が強かった。
公孫瓉の気持ちが陣形にあらわれている。
「公孫瓉は突っ込むつもりなのか」
左翼から公孫瓉の軍の動きを見ていた曹和は不満げな表情だ。
「まぁ正面からぶつかるなと言われればぶつかりたくなる気持ちもわからないわけでもない。だが、呂布相手には無謀だぞ、公孫瓉」
公孫瓉が呂布相手にどういう戦い方をするのかにも興味がわくのも仕方がない。
「俺は俺で戦いたいように戦わせてもらうか」
曹操は曹和に左翼を任せ、自身は右翼を担当している。
前衛の左翼の実質的な指揮官は曹和だ。
左翼に二千、右翼に三千。
公孫瓉の騎馬隊が動くと、呂布の騎馬隊も連動して動く。
呂布の騎馬隊は中央に三千、両翼に一千。
「呂布が動くぞ」
曹和が声を出す。
呂布を先頭に公孫瓉の白馬の騎馬隊とぶつかり合う。
騎馬隊同士が激しくぶつかり合う。
呂布と公孫瓉は互いが先頭を駆けているため、二人が正面から激突する。
呂布と公孫瓉が打ち合う。
呂布の一撃が重く公孫瓉の体にのしかかる。
公孫瓉の体勢が崩れる。
公孫瓉は体勢を整えようとするが、呂布がそれを見逃すはずがない。
体勢を整えようとする隙を与える暇もなくすかさず追い打ちをかける。
公孫瓉は顔を歪ましながら、呂布の猛撃をかわし続ける。
呂布の騎馬隊も公孫瓉の騎馬隊を圧倒する。
見とれるような動きで騎馬隊を翻弄する。
打ち合いに押されはじめた公孫瓉は呂布に背後を見せる。
呂布に背後を見せると呂布の馬に追いつかれてしまう。
だからといって公孫瓉が呂布と打ち合い続けても勝ち目はない。
公孫瓉は退路を断たれた。
「公孫瓉殿」
背後から公孫瓉の名を勢いよく呼ぶ声がする。
公孫瓉が後ろを振り返る。
公孫瓉の眼に移ったのは全速力で馬を走らせてくる曹和の姿だった。
次回の更新日は8月31日です。
ブックマークや評価、感想などをもらえるとありがたいです。




