劉備、ついに動き出す
連日連夜、汜水関前で連合軍は董卓軍を挑発していた。
孫堅軍敗北から連合軍は大軍で汜水関前に陣を構えた。
董卓軍は夜襲をかけて以降、汜水関の扉を固く閉ざし、打って出てくる様子は一度もない。
連合軍は董卓軍を引きずりだすために毎日のように挑発するが、敵も連合軍の意図をわかっているようだ。
門に近づけば矢を射かけてくるため、連合軍は打つ術がなかった。
「未だ敵は打ってこないか……」
曹和は汜水関を見上げながら呟く。
汜水関は後漢の都洛陽を守るにふさわしい、実に強固な造りになっている。
汜水関を落とすには並々ならぬ犠牲と覚悟が必要だ。
「さて、敵はいつ出てくるか」
曹和は董卓軍がいつまでも汜水関に籠城しているとは考えていなかった。
董卓軍の主力は涼州軍だ。
涼州は異民族の反乱が頻発する情緒不安定な州だが、董卓は涼州を手中に収めるとそのまま一気に洛陽まで制圧した。
涼州軍の多くは馬を乗り好む兵が多く、騎馬を生かすにはやはり野戦で戦うしか方法がない。
野戦となれば、いくらでも敵を打ち破る方法はある。
曹和は董卓軍が動く日は近いと確信していた。
太陽はすでに沈み、辺りは暗闇に染まる。
連合軍はその日も敵を挑発し続けたが、董卓軍は動かなかった。
「敵は動く気配もないな……」
曹操は酒を一気に口に流し込む。
「董卓軍は明日以降、必ず動きます」
曹和は曹操が飲み干した器に酒を注ぐ。
「必ずや動くでしょう」
夏候惇も曹和に同調する。
曹操は陣営に曹和と夏候惇を呼び出し、酒を飲みながら話していた。
曹操が二人を呼び出したのは、曹操軍の副将は曹和と夏候惇の二人しかいないと考えていたからである。
曹操軍には二人以外にも人材はいたが、それでもこの二人しか副将はいないと考えていた。
「董卓にとって連合軍は目障り以外でしかありません。それに連合軍が洛陽近くにいるなら尚更です。明日以降必ず何かしらの動きがあるでしょう……」
曹和は自分なりの董卓軍の動きの分析を曹操に堂々と言う。
曹操も時折、曹和の言葉に頷きながら聞き続ける。
「孫堅軍は先鋒ですが、夜襲によって少なくない損害を受けております。軍を再編したようですが、一度敗れた軍をもう一度先鋒に使うとなると、連合軍の士気にも関わります……」
「孫堅軍については明日の軍議で諸侯に話してみよう」
「それがよろしいかと」
曹和の言葉に曹操は満足そうに頷く。
曹操は曹和の成長を頼もしく感じていた。
武は文句のつけどころがなかったが、知は少々知恵が回る程度だった。
曹和が数年の間に知でも曹操を唸らせるようになるのも遠くない。
翌日、曹和の言った通り董卓軍に動きがあった。
固く閉ざしていた汜水関の城門が突然と開いた。
『華』の旗を先頭に一万の軍勢が連合軍と対陣する。
曹和は遠目で『華』の旗を目視する。
「華雄の軍勢か」
旗を目視しただけで曹和は董卓軍の指揮官を当てる。
「連合軍には華雄を討ち取れる武将はいるのか…」
華雄を見ても顔色一つ変えない曹和には華雄ほどの武将でも眼中になかった。
華雄は連合軍を前に一騎出てくる。
「董卓軍配下の華雄だ。この華雄と勝負をする軍はいないのか」
華雄は烏合の衆で集まった連合軍をまったく相手にしていなかった。
連日連夜の挑発にも応じなかったが、連合軍を叩く頃合いだと判断したからだ。
華雄の軍勢が出てきた頃、諸侯は軍議を行っていた。
軍議を行っている最中に華雄の一万が出てきたと報告が入る。
「華雄率いる一万か……」
盟主である袁紹は報告を受ける。
「華雄と言えば、董卓軍の配下の中でも猛将と名高い。董卓も本腰を入れてきたとみるべきか」
袁紹は諸侯を見渡しながら、諸侯の誰が動くのか視線を集中させる。
誰一人として動く者はいなかった。
袁紹はここは自分が動くべきと口を開こうとする。
「兪渉をむかわせます」
突然、袁術が発言した。
袁紹は袁術の発言に黙って頷いた。
袁術は孫堅軍に兵糧を送らなかったことで孫堅軍が敗北した。
袁術は諸侯から疑惑の目を向けられるとともに、名誉挽回の機会をうかがっていた。
そこで華雄を討ち取ることで諸侯からの疑惑の目を払拭することにした。
袁術軍の猛将である兪渉を送り、華雄を討ち取ろうと目論んだ。
しかし、すぐに兪渉が華雄に討ち取られたという報告が入ってきた。
袁術は落胆した表情で呆然としていた。
兪渉が討ち取られるも、袁術が動いたことによって諸侯は自軍の猛将を送りこんだが次々に華雄一人によって討ち取られていく。
次第に諸侯は誰も将を送ることをしなくなった。
「連合には臆病者しかいないのか!」
華雄は連合の武将を一人で討ち取り、勢いに乗っていた。
さらに連合軍を罵倒する言葉を続け、董卓軍は全軍で笑い声を上げる。
董卓軍の笑い声は連合の本陣にまで聞こえていた。
諸侯は笑い声を黙って聞くことしかできない。
連合の士気は徐々に下がり続ける。
「華雄一人にここまで追い詰められるとは。華雄は強いな」
袁紹は内心焦りながらも、言葉を振り絞る。
沈黙の時間が流れるなか、諸侯の一人が沈黙を打ち破る。
「わが軍が参りましょう」
沈黙を破った者へ諸侯の目が一斉に向く。
「劉備殿か……」
曹操が劉備を見る。
「劉備は私のところで客将をしております。機会があれば是非とも劉備に華雄を任せたいただきたい」
劉備が勝手に動いたことに驚いていた公孫瓉だったがすぐに反応する。
「公孫瓉殿の元で客将か……。軍勢はいかほどか、劉備殿?」
袁紹は誰も動こうとしない諸侯の中で自分から動くと告げた劉備に問う。
「五百ほど」
袁紹の問いに劉備は恥じることなくに答える。
諸侯からは失笑も起きる。
しかし、曹操と孫堅だけは表情を変えずに劉備を鋭い眼で見ていた。
「五百とは……。いささか少なくはないか、劉備殿。せいぜい囮役くらいしかならないではないか」
袁紹も華雄の相手にもならないという表情で劉備を睨めつける。
「華雄を討ち取るだけならば、少数の軍勢の方が動きやすいのではないかと」
袁紹が睨んでいるにも関わらず、袁紹に怯むことがない劉備。
「勝算はあるのか?」
失笑がする諸侯がいるなか、曹操が劉備の言葉に耳を傾ける。
「はい」
短い返事だった。
誰もが相手にしないなかった劉備の言葉に曹操は決断する。
「劉備殿に任せましょう、袁紹殿」
「何を―」
「劉備殿を笑える者がいれば、華雄を討ち取った者だけだ。だれもやらないことを劉備殿はやると言ったのだ。劉備殿にやらせるべきではないのか?」
曹操が強気に言うと、諸侯も黙り込む。
「劉備殿の軍勢はわが軍が後援しよう」
孫堅も曹操の意見に賛同する。
「感謝します」
劉備は曹操と孫堅の両者に頭を下げる。
「劉備殿に華雄を任せることでよろしいか、袁紹殿?」
袁紹は無言で頷くしかなかった。
昨日投稿するのを忘れていました、すみません。
話のテンポが悪くて申し訳ないです!もう少しで反董卓連合軍の完結の話が出来上がるので、もう少し待ってもらいたいです。
次回の更新は8月22日になります。
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