Home Town 7
英雄の姿をした魔物は、目を開けたまま崩れ落ちる村娘を抱えた。矢が放たれたほうを見ると人間の後ろ姿が逃げ去っていくのがみえる。大方自分を狙って放ったのものが失敗したので逃げたのだろう。彼は舌打ちをして、急いで彼女の治療を始めた。矢には毒が塗られていたようだ。自分自身が治癒の魔法を使うことができないことを悔やみながら、止血や薬草など様々な方法を試みた。だが、横たわった彼女は少しも反応しない。彼は何度も彼女に呼びかけ続けた。
「...ねぇ。」
村娘の声を聴いて魔物はハッとして彼女の顔を見た。彼女は薄く目を開けている。震える手を彼の顔へと伸ばした。そして途切れ途切れに話し始めた。
「私、あなたと会えて、よかった。素敵な人生だったわ。」
「そんなこと言うな!お前の人生はまだまだこれからだろう。」
英雄は感情が昂ぶり、その姿を保っていなかった。もとのスライム状の魔物に戻って叫んでいる。彼女は驚くほど冷静に、首を振って続けた。
「本当に幸せだったわ...人間と魔物の違いないんてないことに気づけた。」
「おい!」
「不思議なことにね、全然怖くないの...でも少し寂しいわ。」
彼女は魔物のスライム状の手を握った。彼女の指の間から液体がはみ出す。
「お願い、少しの間だけ、私の手を握っていて...」
魔物は再び彼女の手を握って声をかけ続けた。彼女は安らかな表情だった。やがて彼女は目をゆっくりと閉じた。その後、再び開くことはなかった。
数日後、英雄は二人が出会った切り株の近くに小さな墓を作った。この後彼は、他の戦いを好まぬ魔物を連れて別のところへ避難せねばならない。まだ争いのさなかであったから、どちらの陣営にも破壊されないよう、なるべく自然になるようにして、名前を刻むことを先へ延ばしたことが心残りであった。
回想の中の過去から現在に戻ってきた騎士の英雄は、小川の近くに生えていた白い花を一輪摘んだ。森をしばらく歩くと、切り株の近くに小さな石があった。周りが自然豊かで適度な環境なため、少し苔むしたところもあるが、時折手入れされていることが伺える。彼は花を石の前に捧げた。
彼は石の前で目を閉じて膝まづく。手を組んで祈りをささげた後、立ち上がってその場を後にした。森の奥へ向かうさなか、道端に生えた黒い花を一輪摘む。種類は先程の白い花と同じなようで、小さく可憐であった。
森の奥、鬱蒼としたその場所は、先程の小川の上流であった。大熊の魔物が石碑の前で座り込んでいる。石には文字が刻まれていた。安らかに眠れ、と。
「よう、カラヘジ...もうすぐだぜ。俺たちでよ、お前の仇打ってやるから...」
そこまでいうと、クマは騎士の存在に気づいたらしい。はっとして後ろを振り向く。声をあえて張って言った。
「お、兄ちゃんも報告か?いい心掛けじゃないか。」
熊は立ち上がり、こちらに向かって歩いてくる騎士に肩を並べた。調子づいたいつもの口調でしゃべるが、空元気なことが伺えた。
「他のやつにも作戦を見て、推敲してもらったぜ。これなら早くやつらと戦えそうだ。」
騎士は熊のほうを見た。いつもの冷たい目ではなく、憐れみを持った寂しげな目だった。そして優しげな口調で言う。
「こんな時ぐらい強がらなくても良いだろう。仇とるか、あいつらに会いに行くか二つに一つなんだから。」
そういって石碑の前に黒い花を騎士は捧げた。その後、腕を伸ばして、自分よりも背の高い大熊の魔物の背中に触れる。森の中にはすすり泣く声が小さく響いた。
神殿の古びた屋根の上に、銀色の巨鳥が降り立った。その姿は、たちまちのうちに長い銀髪の男へと変わる。彼は屋根から降りると、神殿の中へと入っていった。
「さて、勇者無しでもあやつが本当に来るものか...」
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