Home Town 4
神殿の近くで巨鳥が空を旋回している。彼は一度高く飛び上がり、ぐんぐんと高度を伸ばしていった。夜の空は異様なほどの快晴で星がぎらぎらと輝いている。銀の尾を引いて飛ぶ鳥は流れ星の逆流のようにみえた。彼は大陸全体を鳥瞰できるほどに高く上がると、その視線を今度は正面の空へとやった。
どこまでも雲がない空が続いていた、ごく一部だけ暗雲が立ち込めたところがあった。しかもその淀んだ黒雲はあまりに分厚く、海面すら覆って何があるかわからなくさせている。まるで、天から降ろされた円柱が海に刺さっているようだった。
鳥は黒雲がすっぽり覆ってしまった海面をじっと見つめると、そのまますぐに高度をおろしていった。やがて森へとその姿は消えていく。
「よぉ、兄ちゃん。元気か。」
洞穴の奥から出てきた4つの目を顔にもつ穴熊は、入り口に立つ青髪の騎士に声をかけた。
一希たちがワープしてきた神殿からさらに森の奥へ進むと、段々木々の色は深くなり、あたりは暗くなっていく。人の手が加わらないそこは魔物たちの棲家だ。崖下の洞穴で、熊と男は対峙している。熊はかなり大きく、騎士の男は見上げる形になっていた。
「問題は...まぁあまり無い。そっちはどうだ。」
「こっちもだぜ、前に人間にやられたところもすっかりよ。」
熊は洞穴の中へ騎士を招き、話ながら自分の左の手のひらを見せる。そこには大きな目がついていた。琥珀色の目玉はぎらぎらと強く光っている。
「で、わかってるとおもうんだが、お前を呼んだのは、人間どもに一矢報いるために協力してほしいってことだ。」
「勿論だ。私もこの人間たちを許した覚えなどないのでな、できることならさせてもらう。」
近くにあった石造りの小さな椅子に腰掛け、騎士は答えた。熊は満足げに頷いて、洞穴の床に大きな地図を広げる。
「そりゃ頼もしいぜ。実はな、俺様は戦うのも士気を上げるのも得意なんだが、如何せん若干ココが弱くてな...」
ここ、と言ったときに頭を指でコツコツと軽くつつく。
「オメェのクールさも相変わらずだなぁ。まァいいや、でさ、前の時も参謀役に計画作り頼んだってワケよ...そうカラへジのヤツさ...酒癖以外はサイコーのやつだったよな...そうそうで、今回はお前に頼みたいんだ。お前はここの故郷だから地理も強いし、なんせお前は人間の村の近くまで行ってたろ。」
「人間の話はやめろ。」
騎士の男がぎろりと穴熊をにらみつける。その眼光はあまりに鋭く、並みの動物や魔物なら瞳だけで逃げ出してしまうほどだろう。しかし、熊はケロリとして、騎士の男の肩を軽く叩いた。
「彼女との話で人間と縁切ったてェのは正直わかるけどよ。今は戦いのときなんだしさ、そうカリカリすんなよ。お前が怒りぶつける相手は人間だろ、そのためにお前の知識を使ってくれよ。」
騎士は熊の手を振り払うと地図を眺めため息をついた。
「そうだな...」
しばらく男は地図を睨みながら考えごとをしていた。床に地図が男の視線が下がっている。透き通る青髪も同じように垂れていたが、入り口から風が吹き込むたびにふわりと髪がうかぶ。顎に手を当てて思考にふける美麗な男の顔立ちに、熊はふと考えた。
あれがあの娘っ子の好みの顔なのかねぇ。俺があの娘だったらもう少し毛深くしてもらうけどな。ま、人間と魔物じゃ好みも違って当然だな。
他者に作戦を考えさせながら、自分はそんなことを考えている4つ目の熊は、ふと騎士の頭の上に何か乗っていることに気がついた。注視すると緑で、小さくて長い。最初は植物の茎か葉の一部かと思っていたが、それが動いたので近づいて見ると小さなトカゲだった。
「...なぁ、お前いつからトカゲなんて飼いはじめたんだ?」
「なんだ?」
いきなり大熊の顔が近づいてきたので、驚き気味に騎士は返した。そして彼は自分の頭の上に手を乗せ、小さなトカゲを下ろす。
「こいつか。ま、いろいろあってな。勇者にやられた親トカゲの代わりに面倒を見てやっているだ。」
トカゲは騎士の掌の上で嬉しそうにぴゅい、と小さく鳴いて丸くなる。騎士は膝の上にそっとトカゲを置くと、熊に言った。
「よし、簡単だがまとまったぞ、話すから聞け。」
「おっ、早いねぇ。もしかしてある程度考えてくれてたのか。どれどれ。」
熊は地面にどすり、大きな音を立てて座ると騎士の話を聞きながら、地図を眺め照らし合わせる。
「まずはこの森でな...」
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