Home Town 2
一希たちが少し前までいた国、ムーン王国はある標高の高い山があった。ごつごつとした山肌には雪がうすく積もっている。そんな山の斜面、ある一つの岩の上にピエロが立っていた。山の標高は非常に高く、もちろんそこにいる彼らも高い場所に位置し、曖昧ながら学園と神殿のある森が見渡せる。この場所には明らかに道化師のような姿は不釣り合いだ。そんな彼の隣には騎士が立っている。整った顔立ちと透き通る青い髪が、岩山を抜ける強風に直面するも、殆ど動かない。
「勇者はカイナの町へ向かったそウデスよ。」
「そうか。」
騎士が立ち上がった。彼は剣を鞘から抜いて真っ直ぐに構えた。
「俺も向かおう。今度こそ決着をつけてくれるわ。」
ピエロは足元の雪を少し蹴り上げて声を出して笑った。その後、仮面に張り付いた笑顔の下から、軽蔑の含みを持つ声が聞こえてくる。
「軍の出動要請はマダですケド。」
騎士は乱暴に大きな丸い石をピエロの顔面目掛けて投げた。彼がギリギリのところでそれを受け止め眺めると、石には大きなキバのような物が埋まっているのがわかった。ピエロが訝しんで、それをくるくると手元で弄び、騎士に向かって声を掛けようとしたとき、騎士はそれを遮るようにして言った。
「支援の軍などは要らぬ。」
「オヤマァ!!!」
ピエロは大げさなリアクションで驚いて見せるも、騎士はそちらのほうを見向きもしなかった。視線を手のひらに落とし、強く手を握りしめる。
「魔王の力などいらぬ。あの付近には軍部には入っていないが、人間に恨みを持つ魔物がまだいるはずだ。彼らと協力する。」
「デハ、我らが魔王さま軍は、神の復活にだけ注力すれば良いと言いたい、そういうコトですね。」
「言い方が腹立たしいが、まぁ、近いことだ。」
吐き捨てるように言って騎士は突然歩き出す。別れの挨拶すらせずその場を離れようとする彼に、ピエロは手を振って言った。
「リリアさん、でしたっけ?の仇打てるといいですネェ。まぁ、がんばっテクださいネ!」
その言葉に、騎士の整った顔は一瞬ゆがんだ。そして彼は振り向きざまにピエロを切り付けた。しかし剣は空を切っただけだった。その刃が道化の首を裂く前に、忽然とピエロは姿を消していたのだ。
カイナの町の小さな民家では、静かになった部屋に、チコが気まずそうにカップを置く音が響く。
「アリアさん、ちゃんと説明してください。」
一希が強めの口調でアリアに再び尋ねると彼女は小さく頷いた。
「やっぱり君は覚えてないんだね...繰り返しになることもあるが許してくれ。」
この言葉の後、少し間をおいて彼女は話し始めた。
「ここは、勇者レホの故郷、彼の母親の家だ。そして、あの写真と話から、勇者が双子だということがわかったね。そして君は母親が信用するほどに写真の子供に似ている。そこから考えられることは?」
一希は写真のほうを見つめたまま言った。
「俺は、勇者の兄弟...」
「そういうことさ。そして私は君の同郷の者なんだ。」
一希はそう呟いたものの、半分以上自分が勇者の兄弟だとは思っていなかった。自分はここからみた異世界で生まれ育ったのだかから。そんなことを知ってか知らずか、彼女は二人の少女と二人の赤子が映る写真を手元に寄せ、悲しげな表情で眺めた。
「私はジメハテの町付近の広場で初めて君を見たとき...勇者レホだと思ったんだ。この辺に来ている噂は聞いていたこともあってね。私のことを覚えていないし、様子がまるでおかしい。私が初対面のように接しても、君は違和感一つ示さない。人が変わったかのように見えたよ。だが私には君に見覚えがあったんだ。」
「見覚え。」
一希が彼女の言葉を繰り返した。
「故郷の曲を奏でても、君は反応を見せなかった。一晩考えて、勇者の性格は兄弟のカズのようになったと思ったんだ。」
「どうして、その時に聞かなかったんですか。」
チコはカップの中をスプーンでかき混ぜながら尋ねる。
「何か理由があると思っていたし、私のなかのカズの面影はあくまで子供の頃のものだ...そして、勇者をを怒らせたくなかったんだよね。」
一希はカップに映る自分の顔を見つめようとした。カップを受け取った時ほどはっきりと見ることができない。ミルクが入っているので、その分白さが強くなって、反射を減らしているのだろうか。かき混ぜると崩れていく...
「だけど、夜の見張りの時に見た君の寝顔はまるで、兄弟のカズ少年が大人になった姿だったんだ。カズ少年なら、大人になった私がわからなくても仕方がない。だから、君がレホではなくカズなんじゃないかという考えもあったんだ...別れてから少し調べものなんかもしてね...再び君が私の目の前に現れた時、それは確信に変わったんだ。」
ここまで読んで頂き誠にありがとうございました。
本日は投稿時間が遅くなってしまい申し訳ございません。




