Home Town
「えっ...」
一希はいきなり抱き着いてきた女性を見ると、彼女の瞳は潤んでいた。彼女はすぐに手を放し、目尻を拭って言った。
「ごめんなさい、みなさん。驚かせちゃったわね。さぁ、上がって。」
彼女に促されるまま一行は家に入る。女性は居間へ一行を通すと、足早にキッチンへと駆けていく。見た目通りの小さな家で、居間であっても一部屋に一希、アリア、マー、シン、チコの5人が入るのは少し窮屈であった。テーブルにも4つしか椅子が無い。大柄なシンが少し遠慮してチコに順番を譲って部屋の入り口に立っていると、女性が木のトレイに人数分のティーカップを乗せて戻ってくる。
「ごめんなさいね、狭い家で。椅子、もう一脚持ってきますね。」
「いいえ、気にしないでください。こちらこそすみません、突然大人数で押しかけてしまって。」
「そんなこと気にしないでいいのよ!キッチンにあるから、すぐ持ってきますね。」
テーブルにティーカップを乗せながら女性は言う。そして一希の顔を見ていった。
「久しぶりに我が子に会えんたのですもの!」
一希は声を出せなかった。確かに何度も勘違いはされたが、それは勇者レホとであって、「カズ」という名前ではなかった。ここまでの流れから推測すれば、おおよそ「カズ」という名前は彼自身の名前である一希、つまり「かずき」のことを指すのだろう...。
彼が戸惑っていると、女性は一希の手元を見て言った。
「あら、ミルクが無いわね。カズは昔から紅茶にはミルクが無いとダメだったものね。椅子の後になっちゃうけど、今持ってくるわ。待ってて。他の皆さんはいります?」
チコが小さく手を上げたのを確認してから彼女は立ち上がって再びキッチンへと向かっていった。
女性が完全にキッチンへ向かい、様子が伺えなくなったのを確認にしてから、一希は小声でアリアに尋ねる。
「どういうことなんです。アリアさん。」
「...やっぱり知らないんだね。」
彼女はカップに少し口をつけてから言った。
「彼女は君のお母さんだよ。」
「ここは勇者の母親の家じゃなかったのか?」
「ああ、勇者の母親の家だよ。」
「...ということは、俺と勇者は同じお母さんってこと?」
「そういうことだね。」
俺はこの世界で育ったわけじゃないぞ、どういうことだ。一希が脳裏に浮かぶ多くの疑問を彼女にぶつける前に、女性は戻ってきた。シンが礼を言って椅子を受け取る。
「おまたせ!ついでに懐かしいものみつけちゃったわ。」
ミルクの入った小さな容器を受け取り、紅茶に入れながら一希は女性に尋ねる。
「何があったんですか?」
彼女はテーブルに手のひらほどの大きさの紙を二枚乗せる。一枚の紙には、少年二人とそれに夫婦であろうか、一組の男女が手をつないでいる姿が映されていた。もう一枚には赤子二人を少女二人があやしている姿が映されている。少年の顔を見て一希は自分の幼少期によく似ていたことに驚き思わず息を飲んだ。
「ジャーン、昔の写真!」
「わぁ、かわいい!」
戸惑う一希をよそに、マーは写真を覗き込んで訊いた。
「この写真ってそれぞれ誰なんです?」
女性はひとりひとりを指さしながら説明を始めた。
「まずね、この夫婦が私と旦那。若いでしょ、ふふっ。」
「今も全然お変わりないですよ~」
マーのお世辞に彼女はまんざらでもなさそうな顔をして、手を上下に振った。
「ありがと、最近の子ってうまいのね~。で、同じ写真に写ってる子供が私の子供たちよ。そっくりでしょ、双子なのよ。で、こっちの写真がこの子達の赤ちゃんの頃、あやしてるのはアリアさんと、お友達のリリアさん。」
リリアという名前を口にした時、女性は一瞬ハッとした表情を浮かべアリアのほうを見た。彼女は笑顔で小さく首を振った。
「気にしないで、私にとっても良い思い出ですから。」
その後、しばらく女性ととりとめのない雑談を続けていると、女性は言った。もっとも、殆ど雑談を続けているのはマーだったが。
「そうだわ。裏の倉庫から荷物を取ってこなきゃいけないの。誰か手伝ってくれないかしら。」
「僕に任せてください。こんなガタイですから、力仕事だけは得意なんです。」
「私も、こう見えてモノを動かす魔法が得意なんですよ!」
シンとマーが立候補した。マーの目がきらりと輝き、空になった彼女のカップがトレイの上にひとりでに飛んでいく。一希も続けて手を上げようとしたとき、シンが彼の耳元でささやいた。
「一希さん、アリアさんに勇者との関係の話を聞いておいてくれませんか。彼女とは僕とマーでうまく話しておきますので。」
「わかった。頼むよ。」
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