Preparation Day 3
一行が町へと歩く間、雑談ながらに自己紹介が交わされていた。
「私はアリア、旅する詩人ってやつかな。よろしくね。」
そしてハーモニカを取り出し一小節奏でる。それを皮切りに、一希から、マー、シン、チコの自己紹介が始まった。4人の紹介が終わった時、アリアは言った。
「そういえばさっきの男性はどうしたんだ?」
「私はここだ。」
銀の尾を引いて鳥が彼らの上空に現れる。鳥はシンの肩にとまった。鳥はかなり大きく、もともと大柄の彼の肩でもやや狭そうに見えた。
「魔物のせいで私は外では人間の姿ではいられぬのだ...」
「それは大変だろうね...何か私にも協力できることがあったら教えてね。」
「感謝する。今のところは問題はない。ただ、些か街中には入りにくくてな。何か頼むことがあるかもしれない。」
「任せておくれよ。」
「では私はまた少しこの辺りを散策しているよ。」
そう言って銀の鳥は翼を広げて空へ再び舞い上がる。彼らに見送られながら鳥は大きく旋回して森のほうへと消えていく。アリアは振っていた手を下ろすと、小さく呟いた。
「あ、名前聞くの忘れてた。」
しばらく街道沿いに歩いていると、木がだんだんと減ってきて、代わりに畑が増えてきた。魔物の姿は見えず、放牧されているのか、牛の鳴き声が遠くから聞こえる。そのまま歩みを続けていると、彼女は途中で足を止めた。
「さぁ、ついた。ここがカイナの町だよ。」
一見すると普通の農村に見える。山間に見渡す限りの畑が広がっていた。また、点々として家が見える。人の喋りより鳥のさえずりがよく聞こえるような平穏な姿で、到底魔物との激しい戦いがあった場所だと一希には考えられなかった。
「挨拶する人は決まってる?村長さんかな。」
そう尋ねるアリアに彼は首を振ると、彼女は少し遠くの民家を指さして言う。その家は木造、一戸建ての小さな家で、この周りに点々としている家も同じ形だ。
「あの家に君たちを紹介したい人がいるんだ。」
「普通のお家に見えますけど...」
チコの言葉に彼女は頷いて言う。
「ああ、普通の家だよ。でもきっと、あの人はわかるはずだ。」
「ついてきてくれるかい。」
あの人、が誰だか一瞬疑問を覚えたが、おそらく彼女の家なのだろうと予測し一希は頷いた。
「ああ。」
そして、再び彼女を先頭に一行は歩き出す。途中畑で農作業をしている人に声を掛けられ、挨拶をしたりと会話を交わしながら歩いていたが、彼らには一希が勇者レホだと思われていた。自分は実際勇者を見たことがないからわからないが、今までのも含め、こうもなるとよほど良く似ているのだろうと実感せざるを得なかった。
「勇者さんや、お母さんにお顔を見せてあげたらどうだい。」
そう一人の老婆に言われた時、一希は申し訳なく感じた。自分が別人であることは説明したものの、勇者がもう「この世界に」いないという事実を母親に突き付けることになるのは、自身に非がないとしても悲しいことだった。
舗装が少ない道を目的の家に向かいながら歩く。彼はアリアに言った。
「というか、この町は勇者の故郷なんですね。」
「ああ、そうさ。そしてこの家はね。」
目的の家を彼女は手で示した。
「勇者の母親の家なんだよ。」
「ごめんくださーい。アリアで~す。」
さきほどの言葉にぎょっとして、一希は扉を叩こうとする彼女の手を急いで止めた。
「待ってくれ、まだ心の準備はできてないから。」
その時ゆるやかに扉が開いた。中年の女性と一希は目が合う。彼はその瞬間、自身では言葉にし難い懐かしい雰囲気を覚えた。彼女は目を輝かせ、一希に抱き着いた。
「カズ、おかえりなさい!」
ここまで読んでいただき誠にありがとうございました。




