Preparation Day 2
一希がふと目を開くと、彼らは石でできた部屋のなかにいた。この広間の入口には扉がなく、出入口から石畳の通路が続くのが見える。
「成功した...の?」
マーが尋ねると、銀髪の男は頷く、そして出入口の左右に配置された石像を指さした。
「ああ、おそらくだが。あの石像を見てくれ。」
石像は来た時とは異なるものだった。一対の生き物が向き合っている。一希には狛犬のように見えたが、あれは虎だと男は説明した。
通路にでると、壁に模様が連なっている。前の神殿に比べ、破損が少なく全体がきれいに保たれている。通路わきには別の部屋への出入り口がいくつかあり、覗き込めば中を伺うことができたが、どの部屋も中には小さな石碑がいくつも立っているだけであった。ほとんどの石碑がきれいに保たれているように見える。石碑にはそれぞれ何かが彫られているが、銀髪の男がどんどん進んでいくため、一希はしっかりと中を見ることはできなかった。
「この神殿はどういった役割があるのですか?」
シンの言葉がそう尋ねる頃には、神殿の屋根が終わり、一行は庭のような場所に立っていた。石畳だけが続いている。
「墓場だ。」
庭は瑞々しい色をした背の低い草が地面に生え小さな草原になっている。そこにいくつもの墓が建てられていた。一つの小振りの石に銘と名だけを彫って作られたシンプルなものや、大きな岩を加工し長方形にした上でいくつもの装飾を施したものまで、様々なものがあった。
それらは特に規則性なく並んでいたが、乱雑な印象は受けない。中心には大きな石像が立っている。中性的な人間の石像だ。これが場に調和を持たせているのだろうか。一希は石像を眺め考えていると男は再び口を開いた。
「以前ここは魔物との激しい戦いの場となっていた。その魂を眠らせる場所だ。」
「そうなのね...」
マーは目を閉じて祈るような仕草をした。シンも続くなか、チコは言った。
「人がいらっしゃいますね。お参りに来た方でしょうか。」
女性が一つの石碑に花をささげている。彼女もこちらを見つけたのか、ぺこりと一礼した。その後女性は一瞬眉間にしわを寄せて、こちらをじっと見つめた後、驚きつつも喜んだような表情に変わった。そして親しげに笑いこちらを手招いた。一希とマーには長く赤いポニーテールと、こ洒落た飾りが少しだけついた唾の広い帽子に見覚えがあった。
「奇遇だね‼勇者様じゃないか。」
女性が一希の手をとった。ジメハテの町でトカゲ退治を引き受けた際に、道中の広場で出会った女性だった。近づくと、長身の体躯と翠の瞳が過去のイメージを鮮明にした。
「やぁ、皆様こんばんは。」
もう一度頭を下げて一礼する女性。一希とマーはシンたちに彼女と以前のエピソードを簡単に紹介した。それを聞いてから銀髪の男がこちらの事情を簡単に説明する。込み入った話は避け、悪い魔物と龍を討つための旅をするということを中心に話した。
「そんなことがあるのか...流石勇者様というべきかなんというか。」
彼女は驚いたあと一瞬悩むような表情を浮かべ、荷物を持ち上げる。
「自分でも驚いてます。」
「私も君だったら、腰抜かすレベルだね。」
それから女性はからりと笑ってから言った。
「じゃあ折角だし、カイナ町まで案内するよ。私の故郷もそこでね...」
「ありがとうございます。」
神殿の庭の石畳の終わりに着くと、男は先頭を彼女に任せ、一同は歩き始めた。銀髪の男はそっと列から抜ける。
「助かる、私が案内できるのは神殿の中だけでな。」
歩き出す一同の後ろから、銀色の鳥がゆるやかな風に乗ってついてくる。
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