Preparation Day
かなり贅沢な景気づけから始まった一日だが、今日は新たな場所へ向かう前、まる一日準備に使える最後の日だ。一希はそれを思い出し、改めて気合を入れ直すべく、もう一度顔を洗ってからアタリイたちの待つ修練場(といっても授業で使用していないときに校庭を間借りするだけだが)へ向かった。
校庭ではまず、一希は剣を使った戦闘の練習を行った。実戦経験はある程度積んだが、まだまだ動きなど粗が多い、そこを彼らに指導してもらっていた。そんな中、中学生ほどの少年がジャコンに声をかけてきた。
「センセー。何してるんすか?」
「今はこの方たちに戦闘の稽古をつけているんだ...というか君授業はどうした?」
「へへ、遅刻っス。」
にこりと笑いつつ少年が答えると、遠くから怒鳴り声が聞こえてくる。
「みなさん元気になったみたいでなによりっス。頑張ってくださいね。応援してますから!」
少年はそう言い終わると同時に箒にまたがり、空高く飛んで行った。
また、校庭が使えないときには神殿へ向かった調査員たちから詳しく話を聞くこともできた。ふたたび彼らから戦いに必要な動きや知識の指導をうける。途中からマーが合流し、三人で練習が行われた。
忙しく過ごすと、気づいた時には日が沈んでいるもので、チコが夕食を伝えに来たことで、旅立つ前の訓練は終わりを迎える。アタリイは夕食の席で彼らを激励した。
「向こうでも頑張ってくれ。きっと君たちなら大丈夫だ。」
翌朝、ジャコンや調査員、海暁たちに見送られ、4人は学園を発った。遠くで箒に乗った少年が手を振っているのが見える。
森は相変わらず緑に溢れていた。天候が好ましいこともあってか、葉の間から太陽光漏れて木そのものすら光って見える。
一希にとってはもう何度かとおった道であるがチコにとっては初めての道のりであった。魔物の気配はすっかり消え去ったとはいえ、チコは何かに警戒しつつ歩いているようだった。神殿の入口まで来ると、彼女は足を止めおどおどと言った。
「私、大丈夫でしょうか。」
大丈夫だよ、そう一希が声を掛けようと振り返ったとき、彼女の前の頭上に、銀の鳥が姿を現わした。
「...何か心配なころでもあるか。」
「い、いえ!」
銀の鳥が勢いよく急降下し、神殿の石畳に触れるとその姿は忽ちのうちに男へ変わる。
「さぁ、いくぞ。」
「は、はい。」
チコも石畳の上に足を踏み入れ、周囲を見渡し胸をなでおろすように一息をついた。
「なるほどね...これが私の蝸牛の正体...」
マーは複雑そうな声を上げた。
「不満か?」
「いえ、改めて考えるとすごい話だとおもって。蝸牛なる呪いって。」
「世の中には難しいことがいっぱいあるのだ。」
「そうですねぇ。あ、ダイくんに何か他のもの用意しなきゃ...。」
これから新しい旅へ赴くというのに、半ば雑談のような雰囲気に包まれながら、一同は銀髪の男を先頭に神殿を歩く。しばらくすると、彼らが戦いを繰り広げた広間にたどり着く。男は部屋の中央へ向かうと、両腕を上に突き上げた。突き上げたその両手を開くと、そこに巨大な魔法陣が現れる。凄まじい風がどこからか吹き荒れ始める。一行はそれを半ば感心しつつ眺めていた。男は若干苛立ちを含めた声と顎で一希へ指示を出す。
「何をしてるんだ、勇者。早く来い!」
「お、おう!」
一希が男の隣に立つと、さらに魔法陣は大きくなった。更に激しく光り始める。光は魔法陣からこぼれて、石畳をきらきらと輝かせていた。この陣は今やこの部屋全体を覆えるほどの広さになっていた。
「これで大丈夫だと思うが…一応…おい、置いてけぼりにされたくなければ近寄ってこい!」
その声に一同は一希とその隣にいる男の元へと駆け寄っていく、光は部屋のすべてを満たし、一瞬にして消えた。そして神殿のどこにも、一人の姿も見えなくなった。
ここまで読んで頂き誠にありがとうございました。




