Second Expedition 3 後
一希たちのいる場所は、相変わらず一真っ白な世界で、二人の人間と声の主、それに小さな虎以外なにも居なかった。銀の髪の男は未だ自分の長い髪にじゃれつく虎を引きはがすのに懸命だ。敵意無く無邪気に絡むものを遠のけるのは却って難しいようで、男は乱暴な手つきにならぬよう苦戦している。
「次の冒険...?また別の場所に転生でもするのか?」
一希はそんな男の様子を横目で眺めつつ、若干ほほえましくも感じながら、声の主に尋ねた。
「いや、ほら、聞いたろ。神殿間のワープの話。アレだよアレ。」
以前神殿はこの世界にある別の神殿にワープする力があるというのをにマーが話していたのを思い出す。こくりと頷いた彼を見てなのか、中性的な声は嬉しそうだ。
「鳥さんとと違って、ものわかりが良くて助かるよ~。」
そう呼ばれた男は以前と同じようにぎろりと鋭い視線を飛ばすが、如何せん小さい生き物にじゃれつかれては拍子抜けした感覚が否めない。
「で、準備ができたら君の仲間たちを連れてきてほしいんだ。」
声は先ほどから徐々に早口になってきたように一希には感じられた。
「この世界にある別の神殿へ君たちを飛ばすからね。そこは君たちを必要としている人がいる場所だ。」
一希は何もない空間で、自分に課せられた使命を感じていた。自分はどうやらやっぱり世界を背負う人間になってしまったようだった。
「必要としている...」
自分の力が必要とされているという場所は、おそらく戦いが起こる、または起こっている場所なのだろう...一希はそこで自分が魔法を、力を使いこなせるかが心配になってきていた。
「で、そこはどこなんだ。」
考え込む一希のかわりに男が声を上げる。男はやっとのことで虎を引きはがしたようだが、その虎はまだ銀色にきらきら光る毛先がおもろいのか、髪の動きを目で追っていた。
「カイナの町。かつての勇者にとって、そしてカズにとっても大事な場所さ。」
いつの間か銀髪の男は小さな虎を抱えていた。虎のほうもそれが嬉しいのか、喉を鳴らしておとなしくしている。
「なるほど、悪い選択ではないな。」
「だろう。そこから港一つ挟めば、闇を払う虎がいるはずの町にも着くからね!」
虎は男の腕の中から、前足を一希のほうに伸ばしている。声は満足げに一つ咳払いをして言った。
「よし、じゃあ頼んだよ!」
その声を皮切りに、白い世界が一瞬で色づいていく。草、木、石、壁、それらが奇妙に絡み合う。この世界に来る前の場所、神殿の色だ。
「戻ってきたようだな。」
男の腕の中に小さな虎はいない。空の腕を抱えた格好をしているのを見られて、急いで腕を解く。
「...早くに出発することになるだろう。帰るぞ。」
「他に誰も見てないから大丈夫だって。」
もうあの中性的な声は聞こえない。男の長い銀髪の毛先は、一部だけくしゃくしゃになっていた。
「神のくせに妙な真似をするものだな。きっと神の中でもああいうのは変わりものに違いない。」
「でも俺はあの虎かわいかったと思うけどな。」
「...そうだな。動物は嫌いじゃない。」
二人の足音が神殿へ響く。入り口に着いたところで足を止め、男は言った。
「ちょっと待て。」
神殿の石畳から森の土へ、男の足が踏み入れた瞬間、足がきらきらと光り出した。男は腹立ちげに眉をゆがめる。もう一方の足も石畳から土へ移ったそのとき、足だけだった光が男の全身に広がり、男を包んだ。
「大丈夫か!」
一希は突飛な事態に思わず叫んだ。光が男を包んで、楕円形になって、小さくなる、その後また大きくなり、形が変わる。卵型の光から、大きな羽が広げられた。
「問題はない。」
男の姿は銀の巨鳥に戻っていた。ばさり、と一度大きく羽ばたいてから近くの木の枝へと移る。
「蝸牛の姿に戻されそうになった...どうやら鳥の姿にはなれるようだが...人間に戻るには、やはり元凶を倒さねばいけないようだな...」
枝から垂れた銀の尾が物寂し気に一希には見えた。
「早くあの龍を倒さないとな。」
「そうだな...私はここで待っている。仲間たちを連れて準備できたら来てくれ。私は神が残したワープとやらをする方法を確認しておく。」
「ありがとう。頼んだ。」
一希は神殿を背に走り出す。太陽の高さは入ってきたときと変わっていなかった。
後半のアップにつき、前半のタイトル含め誤字等を一部修正いたしました。
ここまで読んでいただき誠にありがとうございました。




