First Expedition 4
いつの間にか聖堂のあらゆる場所に魔物が現れていた。絵画の裏から、壊れた銅像の中から、巨大なコウモリがとびだしてきた。一希は剣を、マーは木槌を、シンは斧を、それぞれが得意武器をもって応戦する。それでも今の今まで隠れていただけあって魔物は相当な数であった。彼らも警戒していたからこその対応ができたものの、苦戦をしいられていた。コウモリたちがキィキィ唸る声が一希の耳に激しく突き刺さる。
シンも敵を魔法の斧で攻撃し、逃げる敵を目で見送り、次の敵への視線を戻すことを繰り返していた。彼らには、一匹は大きな脅威でないが、完全に不利な消耗戦にあり、このままいけば負けは明確なことも分かっていた。一方で女性の悪魔はスーツの襟を直しながら、嬉しそうに彼らをあおった。
「逃げる?この先は崖よ!」
彼女は一つの魔法陣から火の矢を神殿の壁に向かって放った。左右の壁は片方が白虎が描かれ、反対側の壁に巨鳥が描かれていた。ひときわ大きな矢が壁に激しくぶつかると、白虎が天を仰ぐ姿が、壁の一部が壊れ、断崖絶壁の崖が見えた。彼女は魔物たちに叫んだ。
「この人間どもを始末しろ!」
その声にこたえるように魔物の数はさらに増え、彼らを圧倒した。一希はコウモリの羽を押しのけつつ声をあげた。
「くそっ!こいつらいい加減にしろ!」
それに答えるように、マーも叫んだ。
「数が多すぎるわ!」
高い位置からは、人間たちがあがく姿がまるで楽しい見世物であるかのように、悪魔の楽しそうな笑い声が聞こえる。
「どうしようもないのよ。あなたたちだけの力じゃ!」
敵を切り捨てながら進もうとするも、一行に数が減る気配はない。一希には、この悪魔の立ち振る舞いは嘗てジューカルミ市で一希が戦った悪魔によく似通っているように見えた。だからといって、それはこの戦いにヒントを与えるものではなかった。仲間がいた前回とは違う。敵の圧倒的な物量に押されるばかりだ。マーは自分の荷物のほうにも殺到する魔物を操る木槌で倒しながら考えた。どうやっても自分たちの力だけでは勝てない。虫篭がゴトリと重い音を立てて床に落ちた。
さらに、一希は自分が壁の壊れた場所から、神殿の外に出ていることに気が付いた。魔物の数に圧倒され、外へ彼は押し出されていたのだ。妖艶なこの悪魔は彼らが崖のほうに向かうよう矢を、魔物を仕向けた。そして、弓矢が彼の足元の土をえぐりとり、崖を崩した。彼の叫び声に振り向いたマーには一希が落ちていく様がはっきりと見えた。
「じゃあね!」
彼女の耳には悪魔の女の高い声が響いていた。
「うまくやっているかしら...」
チコは学園のカフェテリで空のグラスをテーブルに置いた。マーからもらった小さなノートには彼女のかわりに巡ってほしい場所が記されている。ほとんどが商品を納入する場所だ。
遠くから見ると、大切な人帰りを待っている女性のようにもみえた。牛乳を飲み干すと、紙で口の周りをを拭い、ため息をついた。心配で仕方がない、もし彼らが負けたら自分はいったいどうすればいいのだろうか、彼女には何ができるのか。
ここでただ時間を浪費していても仕方がない。彼女は立ち上がって半ば押し付けるようにお会計を済ませると神殿へ向けて走り出した。
二人からわずか遠くにいたシンは、一希が落ちた時、壁の崩れた場所とは反対の壁を背にして戦っていた。その壁には巨鳥の壁画が描かれている。しかし、魔物もシンも目をくれる暇などなかった。一希の声を聴き、シンは力を振り絞って魔物を追い払おうとした。その時だった。
突然の閃光が壁画から放たれた。
一閃の矢がまっすぐに一希の落ちた崖に向かって飛んで行く。光源の一番近くにいたシンには一瞬人影のようなものも見えたが、すぐにそれは消えた。矢は途中形を変え、速度を上げながら、鳥のような形になりながら飛んでいく。魔物たちは、その速さに思わず身をかわすことで精いっぱいであった。光が弱くなるとともに、形はますます鳥へ近づき、崖の下へ向かい、マーたちや悪魔の視界から消えるときには、本物の羽を広げ、長い尾をまっすぐになびかせて飛ぶ、銀の巨鳥になっていた。
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