First Expedition 3
一行が警戒を続けながら歩いてもなお、魔物が現れる様子はなかった。
「怪しいわね」
マーの答えに改めて一希は訝しんで剣を確かめ、頷いた。剣はよく手入れされている。鞘から抜けば何時でも戦えそうだ。
「いつ魔物が出てきてもおかしくないんだけどなぁ」
「怖いですね。大丈夫ですか、連れてきちゃって。」
シンは腰を屈めて蝸牛を再び眺める。
「大丈夫。いざというときはすぐに荷物にしまうわ。」
マーの瞳がきらりと光ると虫篭がふわりと浮かび上がる。彼女が背負ったリュックサックに虫篭は音もなく入ってゆく。
「荷物を抱えたまま戦うほうが慣れてるのよ。」
かつて窓があったのだろうか、壁際に空いた穴から風が強く吹き込んでくる。
「この感じだと、神殿の先、森には風が抜けてくるところがあるようですね」
「そうね、地図に依ればだけど、この森はずっと端に行くと崖にあたるみたいね。」
一行は神殿の中央を通る大きな廊下を歩いていた。大きな扉にあたったがわずかに開いていて、そこから風がぴゅうぴゅう吹き抜けていた。彼らは警戒をしながらも会話をしていた。
「この崖はほぼ直角に近くて、下は切り立った岩山らしいわ。アタリイさん曰く、落ちたら一溜りもないって。」
いくつか扉を抜けると、一行は特に複雑な趣向が凝らされたひときわ大きい扉に当たった。その扉の中心には巨大な龍の模様が、その周りを敷き詰めるように古代の文字のようなものが、壁一面に彫られている。
「ここが行き止まりよ。気を付けて。」
マーの言葉に頷き、一希がそっと手を掛けると、扉が勝手に動き始める。その重く響く音に彼は驚きながらも急いで手を引くと、その瞬間、手のあったところに火の矢が突き刺さった。
その後すぐに矢が消え、扉は完全に開ききった。彼が顔を上げると部屋の奥に悪魔が浮いていた。黒く大きい翼だけが部屋の外からよく見えた。
部屋はいわば聖堂といえるような場所で、部屋の前方を占める祭壇にはかつての住民たちが祀っていたのであろう神を模した大きな石像が置かれいた。
悪魔は女性の姿だが、額に大きな金の角を持ち、派手なピンク色のスーツを着ていた。そこに銀色の髪が垂れている。
無礼にも彼女は石像の上に着地し、そのまま足を組んで座った。この妖艶な魔物は不機嫌そうに美しい眉を潜めた。
「よく来たわね。勇者さん。待ってたわよ。」
彼女の唇が動くに合わせて小さな魔法陣がいくつも現れた。そこから小さな火の矢を打ち出される。
通路に向かって打ち出された矢を一希たちは部屋に入って避けて戦闘態勢をとった。通路に刺さった矢は一瞬燃え上がり消えた。火のまだ燻るそこに魔法陣がまた現れる。
「遅かったじゃないの、観光してたの?」
彼女が手を上げると、その魔法陣は、高い火柱を上げた。天井まで届き、周囲の草を焼いている。火柱は部屋から通路に出ることを許さないことを示していた。
「火事にはならないわ、安心なさい。ここは私達にとっても大切な場所なの。」
一希とマーはそれぞれ武器を構えた。シンは昨日もらった魔法の石を握っている。そこから仄かな光がにじみ出ていた。
「さぁ、戦いましょう!あなたが探していた魔物はここよ!!」
悪魔が高らかに叫ぶと、再び彼女の目の前に魔法陣が現れ何匹もの魔物が飛び出す。巨大なコウモリのような姿をした魔物は、一希たちに襲いかかった。
「来なさいよ、やっつけてやるわ!」
マーは超能力のような魔法で意のままに操る大きな木槌をもって敵をまとめて殴り飛ばしながら叫んだ。
一希も持ち前の本能ともいえる転生前の勇者の力を自分が操作できる限りすべて使っていた。
シンが石を掲げると、一瞬にしてそれは大きな斧に形が変わった。彼は大柄で鍛えられた体を使い自由自在に斧を操った。魔法の斧は敵を切るのではなく、吸着させた。
斧は触れた相手をくっつけ、魔力を吸い取る力を持っていた。魔力を失った魔物たちは戦う意志を失い逃げてゆく。それでも向かってくる魔物は容赦なく一希とマーによって叩きのめされた。
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