First Expedition 2
元軍人の初老男性はアタリイと名乗った。彼は話始める前に、遺跡のある区域の地図を広げ、咳払いして、先に一言前置きした。
「言葉だけでは足りないだけろうが、無いよりか幾ばくかマシだ。」
「そんなことないです。すごく参考になります。」
肝心の遺跡の場所は、聖域かつ魔物の生息地とされており、遺跡内の詳細な地図はなかったが、歴史書から引用されたであろう読みにくい地図はあった。ジャコンは調査隊によるものや、参考になりそうな近代のいくつかの地図を持ってきており、これを一同へ見せた。そして、アタリイは区域の地図と突き合わせながら一希たちに話を始めた。
まず、いくつかの戦いの基本について。そして森の奥にある遺跡...神殿に到着するまでのルートなど。彼は、会議が終わった後には、武器の手入れや確認もしてくれた。
「それから君にはこれだ。」
老人はポケットから小さな石を取り出し、シンのほうへ投げた。
「魔法の力を強くするお守りの石だ。君の魔法があれば、武器のようにも使えるはずだが...まぁ、無理はするな。」
「ありがとうございます...武器ですか...」
彼は手元にある青い石を眺めた。この透き通った石には掠れてよく見えないが何かの紋章のようなものが刻まれている。彼の筋肉質でごつごつとした手の中にすっぽりと収まっていたが、不思議な存在感を彼に感じさせていた。
「よし、これで話せることは終わった。老い耄れ故、あまり力になれなかったかもしれないが、君たちの勝利を祈り、信じているよ。」
老人はそういって立ち上がった。皆がお礼を言うと、改めて彼らへエールを送ることで返した後、シンへ向かって言った。
「この石の使い方を教える。グラウンドへ来てくれ。」
シンを伴って老人はグラウンドへ向かう。そして一希とマーはその後、明日への休養をとり、直接その場へと向かわないチコは手伝えることはないか、留守の間にできることはないか、と献身的に動いていた。
夜、一希は部屋できれいに手入れされた剣を眺めていた。手厳しく修行を受けたのだろうか、同室のシンは戻ってきて食事と入浴を済ませるとすぐに寝てしまった。ようやく自分に関する秘密がはっきりとわかるのだろうか...その前に魔物との戦いに勝てるだろうか...不安でいっぱいだったが、文句を言わずについてきてくれている二人のためにも、自分が頑張らなくてはいけないのだ。月が雲に隠れて一瞬暗くなる。窓を開け、暗闇に顔を突っ込み、冷たい風が撫でられながら彼は自分を奮起させた。
この神殿は豊かな自然のなかにあった。魔物がいる地域とはいえ、この地域の自然は、ほとんど人や魔物による管理を受けず、神殿もまた自然とともに生きていた。花の香りが遠くから吹いてきて神殿にぶつかる風に乗って一希の鼻を擽った。ここは古代からほとんど変化が無いように感じられる。青々と日差しを受ける自然の中で一希たちは神殿の巨鳥が翼を広げた姿が彫り込まれた扉に手を掛けると、その重厚そうな外見とは反し、わずかな力で開いた。彼らを歓迎しているように見え、ここに恐ろしい魔物がいるとは到底思えなかった。
「すごいわね...ここが神殿、だっけ?」
マーが地図を確認した。歴史書から引用された地図は、自分たちの位置を示すことしか役立たず、彼女は苦笑いを浮かべながら、調査隊がもたらした別の地図を開いた。
「ここに魔物がいるとか思えないくらい平和だし、警戒しつつ行くしかなさそうね」
「そうですね」
シンも苦笑いし、一希も頷く。魔物が彼らにを待ち構え、老人にも今や魔物の生息地であると念を押しされた場所だが、魔物たちは彼らの隙を狙っているのだろうか、まったく敵は姿を現さなかった。
「まぁ、気を抜かないで頑張ろう」
警戒心だけではなく、この神殿への興味が三人の心の中にはあった。時折、一希は自分のルーツのヒントは無いかと壁の読めない文字を眺め、シンは壁に彫り込まれた模様を眺めていた。シンはふと、マーの肩にかかった虫かごが目に入った。中にいる蝸牛は、殻についた傷が神殿に入るわずかな光を浴びてその光以上に輝いてみえた。
「蝸牛、連れてきたんですか?」
「ええ、本当は預かってもらおうと思ってたんだけどね...この子なんだか神殿の話をしてからガサガサうるさいのよ。きっとここが気になるんだろうと思ってね。それにほら、この傷跡、なんだかこの神殿の巨鳥の紋章に似ているでしょう。きっと何かあるのよ。」
蝸牛が見えるようにシンの高さへ虫かごを持ち上げる。
「なるほど。確かに似ていますね。」
「でしょう。」
会話が一瞬止まった。あたりは不気味なほど静かで、神殿を吹き抜ける風の音と、三人の足音、それに籠の中の蝸牛が草の上を這う音だけが神殿のBGMだった。
「しかし、本当にここに魔物がいるでしょうか?」
ここまで読んでいただき誠にありがとうございました。




