First Expedition 1
マーが相談に向かった教員ジャコンからは、曖昧な返事しかもらえなかった。簡単にまとめると「魔物と戦いに行くことは大変危険なことであるから、自分からは勧められないが、最終判断は君たちに任せる」ということだった。そして彼はこう足した。「もし行くとするなら、できる限りの手伝いはさせてもらう。勿論敵に捕捉されない範疇で」と。
教員や学園が何らか頼りになることをしてくれるのを期待していたそれを聞いたは彼女は、若干の失望を感じつつ、同時に納得も感じていた。話だけではよく分からないし、手を出したら魔物が町中へ襲ってくるかもしれないからだ。踵を返す前に、彼女は一声押してみた。
「もしよかったらアドバイスもらえませんか...?」
「いいよ、ここだけ片付けたらすぐに向かいますからね。先に戻ってて。」
マーはぺこり、と一礼して部屋を後にする。足早に図書館へ向かいながら、思考を巡らせる。昔の勇者が現れては消える。あの人から何かヒントはもらえないだろうか...あの一希によく似た顔の勇者から。
一方で、残った一希、シン、チコはどう敵と交戦するかの話にすでに入っていた。チコが最初に行かない、といった時には二人は驚いたが、彼女の「戦いに慣れていない、足を引っ張りたくない」という言葉を聞いてすぐに納得した。また、二人にも戦い慣れをしていない彼女を危険な目に合わせるつもりはなかったため、異論は出なかった。この先大きな戦いが待っているはずなのに、驚くほど冷静に話し合いは行われていた。
とは言え、戦いの素人だけで頭を突き合わせてもロクな内容は出なかった。色々な本を参考にしても、あまり役には立たなかった。架空戦記の本も、架空のお話だ。神話の伝説は曖昧なものばかりで、実現性に欠けるものがほとんどだ。地理の本は大変勉強になるが、完全に彼らが使いこなす前に魔物が地形を変えるだろう。料理の本は...別の場所にあるべきものがなぜか混ざっていた。本を閉じて、ため息をつき、軽く伸びをしたシンを見てチコは言う。
「少し休憩しませんか。私ここで待ってますので、軽く歩いてくると気分転換になると思いますよ。」
「ええ、ありがとうございます。チコさん。」
「一希さんもどうです?」
「いいのか。」
「勿論です。」
笑顔の彼女の言葉に彼らは甘え、席を立った。二人が完全に図書館の中へ消えるまで笑顔で見送った彼女は、背中が見えなくなるのを待ってから本の山から一冊の本を取り出して開いた。タイトルは「人間と魔物の違い」だった。
一希は再びピエロと出会った木造のバルコニーに来ていた。太陽の日差しは彼を良く温めた。彼は森を再び眺める。森は鬱蒼と茂っており、青い自然の中を鳥が自由に飛び回っている。
「お前たちはいいな、その羽があればどこにでもいけるんだろう。」
そう呟き、そっとバルコニーの手摺から腕と手を伸ばすと、彼の手の甲の上に鳥が止まった。白い小鳥だ。警戒することなく、毛繕いを始める。優し気な表情で鳥を見守っていると、やがて鳥はどこかへ飛び去って行く。もう飽きたのかな、と思いながら彼は鳥を見送る。彼以外にも木の茂みに隠れていた猛禽類が鳥を視線で追っていたのに、彼は気づかなった。そんな彼に、後ろから声がかかった。
「あ、一希さんもこちらに?」
シンが軽く手を挙げてに一希に挨拶する。
「ああ、シン。」
「マーさん戻られましたよ、それから教員さん達も。」
「ジャコンさんたちも来てくれたのか...シン、ありがとう。戻るか。」
一希の言葉にシンは頷き、二人は図書館の元の場所へと戻った。そこには、マーとチコ、教員ジャコンとそれにあまり見知らぬ初老の男性が一人立っていた。しかし、彼らにはどこか見覚えがあった。二人が思い出そうとしているのを知ってか、男性は声をかけた。
「私、体験入学に参加していたものですよ。こう見えて昔は対魔物の軍人をやってましてね...」
なるほど、と二人は頷く。こうして、奇妙なめぐりあわせに感謝しながら作戦会議は始まった。
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