Library Conversation 2
資料に目を通しながら、意識を現世に集中させようとしているマーの邪魔をしていたのは、他ならぬ彼女自身の記憶だった。一希は、かつて彼女が出会った勇者レホに性格こそ似ついていなかったが、見てくれは良く似ていた...そのせいだろうか一希と「神に選ばれたもの」の関係性を求めるたびに、勇者が過去の自分を伴って脳内に現れる。
かつてのマーと勇者レホが向かう魔物の巣は厳しい山の上にあった。そして、彼らの足を阻むのはごつごつとして登山者に対してひどく攻撃的な岩肌だけではなかった。魔物たちも次々と彼女らの前に現れたのである。言葉通りマーは確かに彼の足手纏いにはならなかった。ただそれ以上でもなかった。
「すごく強いのね、貴方。」
山の中腹ほど、一度魔物との交戦を終えた彼にマーは声をかけた。彼は、岩肌を映す刃についた魔物の赤い「跡」を布で拭うために下へ向けていた顔を少し上げ答える。
「ここにいる連中よりかは強いだけだ。」
「謙遜しなくていいのに。」
レホは彼女に言葉を返す代わりにいきなり剣を持って飛び上がり、今まさに飛び立とうとしていた鳥の魔物に上からそれを突き立てた。驚いて片手で口を覆うマーの耳には次第に小さくなる魔物の叫び声が何度も反響していた。剣から動かなくなった敵を引き抜き、乱暴に捨てると彼は座り込み、それに向かって小さく言葉を放つ。その言葉も彼女はよく覚えていた。
「お前らが俺をこうしたんだ...自業自得な連中め...」
結局のところ、その後彼はすぐに巣へと向かい、本当に一人で魔物を蹴散らし、マーの弟を救ってみせた。しかもその日のうちに、すぐに旅立ってしまった。それ故に彼女はその言葉の意味も、彼が冒険の目的も知らず、勇者と別れてしまっていた。彼女の中で彼は恩人であり、不思議な人だった。
「みんな!!」
勇者とよく似た声がしてマーはふと現実へ立ち返った。図書館内なので声量は抑えているものの、興奮を隠しえていない声だった。シンとチコも顔を上げる。一希が焦りを浮かべた表情で立っていた。肩で息をしており、ただ事ではないことがすぐに三人には分かった。
「どうしたんです?」
彼が呼吸を整え終わるのを待ってから、シンが声をかける。焦りは少し引いてきたが、代わりに少し顔が青ざめて見えた。シンは椅子を引いて彼に一番近くの席を勧める。礼を言って座ると、彼はやっと口を開くことができた。
「実は...」
呼吸を整えると、彼は仮面のピエロから言われたことを三人に伝え始めた。自分たちを待っている魔物がいること、他人の同行を認めないこと、魔物が街中に来れることを念押すような発言をしたこと...最後に一瞬にして消えたことも加えて。
「戦えということでしょう...か...」
一希の話が終わると、消えそうな震える声でチコが言った。不安が声がにじみ出ていた。
「そうでしょうね。しかも戦いの専門家ではない私たちだけで。」
シンが眉をひそめて答える。彼の表情にも彼女に似た不安が濃く浮かんでいた。本をパラパラを捲り、少し間をおいてから続ける。
「喋っても良いというなら...アドバイスを受けに行ったほうがいいかもしれませんね。」
一方で、マーは不安と確信の入り混じった表情だった。シンの言葉を受け、すぐに席を立ちあがった。
「おっけー、ジャコンさんにお話できるか聞いてくるわ、みんなは本を調べてて!」
そうして図書館を一度抜け、彼女は扉を後ろ手で占め、職員室へと足早に向かった。廊下を駆け抜けながら人がいないところで小さく呟く。
「やっぱり一希には何か使命があるのね...」
「あの、私...」
マーが居なくなったあと、恐る恐るチコが声を上げた。二人の視線を受け、少しばかり自分の視線を剃らして続ける。
「私は行かないほうがいいと思うんです。」
ここまで読んでいただき誠にありがとうございました。




