Library Conversation
一希とマー暫く重い空気が流れ、やっと口を開いたのは一希のほうだった。
「そうだよな...やっぱり...」
「うまく言えなくてごめんなさい。この一希の身に起きた出来事と勇者のお話、絶対関係あると思うのよね。」
「俺も、そう思ってる」
再び沈黙が場を埋め、それに耐えかねた二人は同時にわざと明るい雰囲気の声を出した。
「じゃ、俺、資料探してくる。」
「私も!お互いがんばりましょ!」
他にも資料が無いかと探して歩みを進める間に一希は図書館の奥の方へと向かっていっていた。彼の歩みとてもは遅くかった。優柔不断な自分のことや、仲間に負担をかけていることが頭から離れない。もし仮に自分が勇者だとしたら、自分たちは、今後の旅はどうなるのだろう。
ふと、顔を上げると、正面の通路の突き当りに大きな扉があった。木の扉で、ドアノブに手をかけるとわずかな力で動いた。光が入ってくる。
通気用かな、と考えながら彼は扉を開けると、外の風景が見た。木造のバルコニーだった。柵にはツタが絡まっている。暗い書庫からいきなり眩しい日の光を全面に受け、一希は目を細めた。小鳥のさえずりが聴こえる。
古いがしっかり作りだとしたと思いつつ、柵の手摺に軽く手を掛けると、彼の顔の目の前にいきなり真っ白な逆さの笑顔が現れた。
「わ!!」
驚いて勢いよく仰け反る彼に対し、白い笑顔の主は手摺の上に立ち、深々と礼をしてみせた。全身を見るとピエロのような衣装を纏っており、白い笑顔は仮面だった。
「こんにちワ。」
「こ、こんにちは。」
ピエロは呆気にとられて動けないでいるを一希まるで気にかけていないように話し始める。
「ご機嫌如何ですか...おッと...大声を出さないで...小鳥が逃げちゃいます。タダの伝言に参りましただけですので。」
時折音をわざと外し、声の高さを激しく変えながら喋っているピエロは相手を馬鹿にしているように、手摺の上で片手で逆立ちを始める。
「森の奥の神殿で貴方のことをお待ちしている魔物がおりますノデ、是非いらしてくださいネ。但し...貴方とあなたのご友人一行だけで来てくださいネ。お話するのはケッコウですが、決して、他の方をお連れシナイヨウ、何卒宜しくお願い申し上げます...魔物が街中に入れるのはご存知ですよネ。」
逆立ちをやめ、再び手摺の上に彼は立った。ベルトからぶら下がっている懐中時計を手に取って時間を眺めると、やっと立ち上がった一希を一瞥する。
「じゃ、失礼しますネ。待っておりますヨ」
「待て!お前は...」
彼の言葉が終わらぬうちに、ピエロの姿は消える。彼は柵から身を乗り出してこの不気味な相手を探すが、木にとまっていた小鳥と目が合うだけだった。白い小鳥は彼を見て少し首を捻ってからどこかへ飛んで行った。彼は急いで元の仲間たちがいた場所へ戻るため、再び大きな扉のノブに手をかけた。今度は暗さが彼に向って飛び込んでくる。
一方で、マーは机に向かっていた。彼女は集めてきた数冊の本をぱらぱらとめくり眺めているが、脳内には別のことがめぐるばかりだった。それは、彼女が初めて一希とあったときに間違えた人物、勇者レホのことだった。彼と冒険したときのことを思い出していたのだ。彼女は、魔物にさらわれた弟を助けるために、単身魔物の巣に向かっていた。道中で既に魔物に苦戦している中、闇夜から颯爽と勇者が現れ、彼女を助けてくれたのだった。目を閉じれば、はっきりと思い出せる。
ぱちぱちと火が音をたてている。敢えて街道を外れ、魔物が出る場所野営をするのは一般人にとって自殺行為に等しかった。だが、この勇者は、あえてこの行動をとった。勇敢というよりむしろ無謀なこの行動を訝しげに感じながらもマーはこれに同行することを選んだ。
「俺だけでその弟さんを助けるから、君は戻っていてよかったのに。」
レホは火から目を離さず、マーに話しかけた。一方で、彼女は勇者のほうを向いて答えた。
「私が弱いのはわかっているわ、だけど一緒に向かわせて。」
「魔物の巣に着いたら、俺は君を守れない。」
「自分の身なら守れるわ。一応私も行商人のはしくれなの。」
「さっき苦戦してたくせに...説得力に欠けるね。」
「そうね。でも私、自分の弟を見捨てたくないの。守れなかったって思いたくないの。」
彼はかたくなに彼女と目を合わせようとしなかった。最後の言葉を皮切りに少しの間だまりこんでしまっていた。少しして、顔をわずかに彼女のほうへ向けた。
「細かいことを聞く気はないが...そんなに言うなら勝手にしろ。」
「ありがとう。」
彼女はふと我に返った。資料をちゃんと見なければ、と資料との睨めっこに戻ったが、彼女の頭の中では過去の記憶がまだ、思考を妨げていた。
ここまで読んでいただき誠にありがとうございました。




