School Life 3
教員であるジャコンがこれまでの話をまとめて再度繰り返す。振り返って黒板がきちんと作られているか確認し、生徒たちが追いついているか様子を見てから生徒たちに質問がないか尋ねる。
特に質問がないのを確認すると、次の話に入った。「人々がどんな魔法が使えるか、それは本人の適性に大きく左右されます。適性のある魔法は基礎レベルであれば容易に使いこなすことができます。一方で、適性が無ければ、多くの場合、後天的にその魔法を極めることは不可能だと考えられますね。より平たい言葉でいうと…生まれつき決まっている、ですね。遺伝による影響が大きく、多くの場合親族と同じ魔法が使えることが予測されます。」
彼はチョークを動かす魔法を止めて、生徒たちのほうを向き直り、真剣な表情を浮かべた。
「もし、みなさんのお子さんに両親のどちらとも違う魔法が使えたら…もう一人、あなたの知らない親がいるかもしれませんね。」
大人の参加者が多いこの体験学習、故にか場の空気が一瞬止まる。教員はそれを見て急いで表情を崩し、いたずらっぽく笑った。
「ごめんなさい、冗談です。実際は新しい魔法が使える人が生まれたり、遥か遠くの同じ血を持つ人の影響が現れたりすることは珍しくないので、決してそのような誤解はなさらないように。」
小さく咳払いしてから、彼は再び話を再開した。
「我々の使う魔法は神の贈り物だと考えられています。だからこそ、与えたれた適性にそった仕事を果たし、我々の世界を発展させることで贈り物の礼を果たすのだという考え方が古くから支持されていました。もっとも、最近の人は適性よりもやりたいことを優先する風潮ですけれどね。」
再び生徒が追いつくの待つ間に、彼は少し話始めた。
「私個人としては、やりたいことを優先するのは、正直難しいと考えていますが…でもどんな考え方でも人に迷惑かけないなら、頑張る人は応援したいと思ってます。」
そして、再び小さく咳払いをしてから彼が質問を求めると、恐る恐る手が挙がった。尋ねたのはチコであった。
「新しい適性を持つ人が生まれる可能性があるってことは、逆に、適性を持たずに生まれる人もいるのでしょうか。」
「難しいですが、大切な質問ですね。うーん、まず、答えをはっきりと言わせていただくなら、居る。でしょうか。」
教員の迷いを示すように、背後でチョークが右往左往、ふわふわと移動している。
「ただ、これは私達が、持っている適性を見抜けなかったというパターンが殆どです。先程の講義で魔法を分類ごとに分けましたが、これ以外の魔法を使いこなす人もいるはずです。型にはまった魔法がつかえないことと魔力が無いことはイコールではないのです。」
「本当に全く魔力を持たない人間はいない…ということですか?」
「いいや、違う。いるね。多くはないけど。」
彼は教卓に教科書をおいて話しを続ける。チョークの動きはすっかりと止まっていた。
「僕はそういう人々こそ可能性の塊だと思うんだ。適性がある人は魔力は後天的に学ぶことが難しいからこそ、むしろ好きな魔法を学ぶことができるのかもって思ってるよ。魔法学の教員がこんなことをいうのもナンだけど、そもそも魔法という既存の価値観に縛られないのはとてもいいことだと思うね。」
チコはほっとしたような表情を浮かべた。
「ありがとうございます。」
「いいや、こちらこそ熱が入ってしまって申し訳ないね。授業を続けようか。」
その後、主に魔法と神の贈り物についての関係が語られ授業は進行していった。
その神話のような内容に一希は圧倒されつつ、ノートに綴っていった。
魔法は昔、魔物に圧倒されながらも懸命に生きる人々の行いに心打たれた神が人に贈り物を与えたものであること。魔物の介入できない町や街道、神殿も同時期の贈り物であるということ。これらによって生活が安定したことが、神への礼をするという考え方を生んだこと。
また、神の使いと呼ばれる聖獣という存在がいるということ、この生き物を育てるには親以外に人の魔法という手段しかないらしい。
一通り黒板を移し終えたノートを俯瞰し、まるでファンタジーだ、一希は考えた。その後何気なく、窓の外を見ると、魔法の練習している生徒が、ちょうど手から氷の塊を放つ姿が見え、当たり前か、と一人腑に落ちたような気分になっていた。
教員の話が終わったところで、鐘の音が響く。 は教科書を閉じた。瞳の光が少しずつ穏やかになり、背後で自律していたチョークが黒板に備え付けられたチョークの箱に戻っていく。
「それでは、午前の授業はおしまいです。食堂はいくつかあるので、お好きな場所をどうぞ。本日はどこも体験学習の方はタダ、ですから!」
ここまで一番の歓声が教室じゅうに響いた。
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