Decision
彼らの劇が幕を下ろした翌日。天候は快晴だった。昨日休息を取った一希はじっとしていられず、他の旅人や行商人も市民に交じって再建の手伝いをしていた。再建も三日目ともなると、人々は作業に慣れてきたように見える。マーが大量の荷物を魔法で浮かせて運ぶように、魔法の力で作業を行う人もおり、彼はファンタジーの世界らしい、と心の中で感嘆していた。
「一希さん、申し訳ないね。昨日に続いて、今日まで動いてもらっちゃって」
作業中、彼は一人のおばちゃんに声を掛けられた。
「いいんですよ。このお手伝い、俺が好きでやってますから。」
「ありがとうねぇ。劇、すごく良かったし、おばちゃん、もうひと頑張りしちょうわよ。」
彼女は荷物をひょい、と持ち上げ運んでいく。彼がさっき苦戦して持ち上げた箱だ。おばちゃんはどこの世界でも強いものだ。しかし、彼も負けていられないと思い、荷物を持ち上げる。人々に劇の感想を貰えるのは嬉しいことだった。自分も力を貰ったような気がしていた。
ある人は、崩れた家を建て直し、ペンキを塗る。またある人は、魔物に荒らされた花壇を直している。見た目が美しくなるに応じて人々の士気は上がり、作業のスピードも上がってゆく。昼食の際には大半が魔物の襲撃前に戻っていた。祭の飾りは無くなってしまったが、それでも市民たちは明るい気分で新たな広場を眺めていた。
そこに臨時で作られた小さなテーブルで一希とマーは他の人々に混じって昼食をとっている。食事は襲撃前に比べ質素なものだったが、それでもどんな高級品よりも彼らを満足させるものであった。人々の会話にも明るい内容がみられた。被害の小さな一角ではもう殆ど作業が終わっているだとか、船便もそう遅くないうちに正常化するだろう、といったものだ。
食事を終え、再び作業に戻ろうとする一希にマーは声をかけた。
「お疲れ、一希。そっちの調子はどう?」
「みんな最高のパフォーマンスを見せてる。俺が明日出ていってもなんにも問題ないかんじに。」
彼は冗談めいて答えたが、実際にこの市の人々の底力にはずっと驚かされており、自分がいなくてもやっていけるというのは嘘ではなかった。彼にとって、別の広場で作業をしている友人のことだけが引っ掛かっていたのだった。彼女は一希のほうと、ここにはいない彼との共通の友人が作業をしている広場のほうへ交互に瞳を動かしたあと、彼に答えた。
「とてもよかったわ。こっちも最高なの。この調子なら…明日には出れそうね。」
「明日?」
彼女の言葉の最後に呟くようにしてつけられた一言に、一希は不意を突かれ思わず聞き返した。彼にはまだここから離れる心づもりができてなかったのだ。
「ええ、店長さんからお届け物のお仕事が入ったのよ。というか届けて短期契約の終了ってかんじで。なるべく早くって言われているの。もう市が大丈夫なら、私たちはここで行商人に戻って市を潤すことにお手伝いしたほうがいいかなって。もし予定が会わなければ、私だけ行ってまた戻ってくるわよ」
「予定的には大丈夫だと思うんだ。」
唸りながら彼は返した。彼は旅人故にいつかは自分がここを出るのを知っていた。だが、こんなに早い必要があるのだろうか。作業再開の声が聞こえ、彼はハッ、として彼女に答えた。
「ちょっと考えさせてくれ。今日の仕事が終ったら、声かけるよ。」
「勿論よ。急かしちゃって、ごめんなさい。」
謝るマーに大丈夫、と彼は返し、二人は作業へ戻っていった。
一希は広場に飾られる花壇の花の種を撒きながら考えていた。どうすればよいのだろうか。彼の脳内には半ば極端な考えすら浮かんでくる。定住するという選択肢は果たして勇者にあるのだろう、と。しかし、すぐに答えも浮かんできた。敵を倒してないのに、そんな話聞いたこともない。ここにいればヒーローかもしれない…きっと楽しいだろう。でも、いいのだろうか。いつか自分の真実をまだ知らなければならない時が来るはずだ。長くいればいるほど、離れられなくなる。
夕刻、再建に全力を注ぐ人間たちを見守るように暖かな光を放っていた太陽は傾き、その赤みは最高潮に達していた。今日の再建作業は終わり、人々がお互いに労いうあうなかで、一希はマーを捕まえて声をかけた。彼の顔は太陽の光で赤くなっているように見えた。
「決めたよ。俺」
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