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Hope of Fantoccini  作者: 蒟蒻
His Setting Off
56/182

Musical 4

 打ち上げはその後、和やかなムードに包まれ過ぎていった。魔物がいなくてもハードスケジュールなイベントなのに、今回はこの騒ぎである。そのためであろうか、この打ち上げは、休息時間の延長というのがほぼ適切であるように一希は感じていた。テーブルの上デザートから発される柑橘類の独特な爽やかさを受け取りながら、特に市の中心部は魔物による損傷が未だ残ることもあるため、喧騒たるものもやや適切ではないだろう、とも彼は感じていた。

 ゆっくりと流れる時間がむしろ、彼らの時間感覚を緩ませていたのだろう。一希たちが店を出たのはもう夜の真っ只中であった。最後に劇団員全員での挨拶を済ませると、彼らはそれぞれの家へと散っていった。市長と雑談していたことで残された一希は、一人月を眺め立っていたシンの肩を叩いて言った。

「もしかして待たせちゃったか。ごめんな。帰ろうぜ、シン」

「大丈夫です、えっと。すみません、今日で打ち上げなので私は家に戻らないと‥」

 予期していない発言に不意をつかれた一希は彼がここの住民であることを思い出し、若干戸惑いながらも答えた。

「あ、そうか。お互い、お疲れ様だな。」

「ええ、お疲れ様です。」

 一希は笑顔で夜へと消えるシンの背中を見送る。当たり前だが、祭が終わればは彼はここの一般住民へと立ち返るのだ。対する自分は行く先に悩む旅人である。月明かりは一人宿に向かう一希をくっきりと夜闇に写していた。先程の打ち上げの穏やかな記憶が突然寂しさを増して彼を包んでいた。あの忙しいが賑やかな日々が突然過去のものになってしまったのだ。市は眠りにつき始めている。


 マーが宿に戻ってきた一希を出迎える。笑顔で彼の手を取って言った。

「一希ー!今日の劇サイコーだったよ!」

「ああ、ありがとう…」

 呆然として扉を開けた彼は力なく答えた。彼の様子から違和感の正体を感じ取ったマーは彼の肩を優しく叩いて言った。

「そっか、お祭り終わりだものね。」

「ああ、そうなんだ。」

「お疲れ様。お部屋まで送ろっか?」

「ありがとう。心配かけてゴメンな。」


 一希はベットに潜り込んで考え始めた。前の経験を思い出し、旅人なら別れは当然訪れるだろう、と自分に言い聞かせる。チュリアとルートは二人で今後うまくやっていくだろう。恋の発展はともかく、彼らはあそこでうまくやるはずだ。トカゲ退治の帰路での詩人との出会いも、旅ならではの経験だ。転生しなくたって同じだ。転職や異動があれば別れは訪れる。一緒に練習して苦労したからといって、それは変わらない。

「そんなもん、だよな」

 ごろん、と寝返りをうち、窓から差し込む星の光を眺める。やるせなさに胸が詰まり、彼は掛け布団で顔を覆った。



「タイカ叔母さん、ただいま。」

「おかえり、遅かったじゃないか。」

 シンが自宅の扉をそっと開くと、一足先に戻っていたタイカが彼を出迎えた。散歩していたんだ、どこをだい、そこらへんを…月が綺麗だったから、へぇずいぶん詩人じみたことをいうもんだね。そんな雑談を交わしながら外套を畳み、身嗜みを整え終えたシンにタイカは紅茶を進める。礼を言ってを飲むに彼にタイカは読み始めた本のページから目線を上げずにこう言い放つ。

「決断するなら、早いほうがいいよ。」

 一瞬シンの動きが止まった。彼はすぐにカップから口を放し答える。少し眉間にシワを寄せながら。彼女が読んでいる本の表紙には船便の時刻表が収録されている記載があった。

「何を決めろって…」

「私の見立てだけどね、明後日の船便じゃないかな。彼らが出るの。もしかしたら朝イチのかも。」

 彼女の方は彼の様子を気にしていないようだった。彼の言葉を流し、本から視線を上げて話を続けた。

「私は応援するよ。あんだけうまく出来なたなら、大丈夫、ここから出てもやってけるさ。」

 笑顔でそう言い切った彼女に返事せず、シンは紅茶を飲み干してしまうと、ソーサーに空のカップを戻した。それをシンクへ持って行き、きれいに洗うと片付け損ねていた荷物の入った旅行カバンを持った。

「部屋で片付けをしてくるよ。」

と呟き、自室へ戻ろうとした時、彼は顔を彼女へ向け言った。

「叔母さん、ありがとう。」

ここまで読んで頂き誠にありがとうございました。

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