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Hope of Fantoccini  作者: 蒟蒻
His Setting Off
55/182

Musical 3

 この竜の操り人形は、練習中に何度も見たことがあった。上部から操られることで出てくる不安定さがかえってこの敵が自立しているように見せていた。口からは魔法の炎が時折出てくる。

 他の演者や一切の舞台装置に当たる前に消えていく炎を避ける演技をしながら、一希は改めて異世界のプロの技量に感心していたが、それは今の彼の仕事ではない、剣を強く握りしめ、シンに声をかける。

「いくぞ!」

「ああ!」

 二人の勇者は声と息を合わせて敵へ切りかかった。竜を剣が一刀両断すると、まるで断末魔のような大きな激しい音がオーケストラから響いた。それが終わると、竜はばたり、と倒れて動かなくなる。音楽ははじめは重く静かに、そして舞台転換のために一度幕を降ろしている間には、徐々に明るく、勝利の凱旋を伝える音楽へと変化していった。


 幕が上がった場面は、二人の勇者が村へとの帰還を果たす場面であった。村には鎧を脱いだタイカはじめ、全員の演者が村人役に扮して彼らを出迎えていた。二人の勇者の家族役が、彼らに抱きつくところで再び幕は下りる。安堵を伝え、段々と静かになりゆく音楽は幸せな終わりを告げていた。


 舞台は喝采に包まれた。さらに再び幕が上がった際、演者たちは並んで観客に向かってお辞儀していた。人々の期待に無事答えることに成功した彼らの表情は緊張から開放された安堵や、やりきった清々しさ、様々な達成感に満ちていた。

 ずっと舞台を支え続けてきた裏方の人々や、盛り上げることを続けてきたオーケストラの演奏者たちも立ち上がって人々の喝采を受ける。その表情はみな舞台の演者たちと同じであった。


 舞台の裏に戻ると一希は大きく息を吐き、隣ともに舞台から生還したシンに声をかけた。舞台裏は一時の休憩時間に入っていた。

「なんとか…やりきったな」

「ええ、ものすごく疲れました」

 ベンチに座っている二人の元へレオ市長が駆け寄る。市長は立とうとする二人を制し、参加者への記念品の入った箱を手渡しながら彼らを労った。

「ほんとに素晴らしい演技だったよ!お疲れ様!」

「ありがとうございます、皆さんのおかげですよ。」

 一希はお礼を言って、箱を眺めた。尾を靡かせ空を舞う鳥が中心に描かれ、豪華な装飾が施された箱には、筆記体で参加に関するお礼が綴られている。

 シンとも同じような会話を済ませた市長は二人に言った。

「本当にありがとう。このあと打ち上げがあるんだ。よかったら来てくれないか。」

 二人が頷くのを見ると、市長はもう一度次の人の元へ駆け寄ってゆく。終わって休憩もする間もなく、慌ただしく動く彼のバイタリティに感心しながらも、一希はもう一度息を大きく吐いた。


 休憩を終えた彼らは荷物をまとめ始めた。広場に設営されたテントは、この広場が市の中心部にある関係で、明日には撤去されるらしい。片付けは担当業者がいるらしく、演者たちは一足先に撤退する段取りになっていた。

 打ち上げ会場には、落ち始めた日差しが差し込み、洒落た店内を赤く照らしていた。落ち着いた風貌のレストランで、いくつかクロスのかかったテーブルいくつかと、正面には舞台がある。居酒屋での気軽な打ち上げをイメージしていた一希は、一瞬面喰らったが、疲れていたため、落ち着けることを喜びながら、着席した。


 打ち上げが始まると、最初は市長の形式的な挨拶が済むと、彼は改めて二人を前へ呼んだ。

二人が前に立つと、市長は二人の手を取って言った。

「君たちがいなかったら、舞台は完成することは決してなかった。そもそも、あの魔物を倒せていなかったはずだよ。君たちは間違いなく、舞台のなかのヒーローじゃなくて本物のヒーローだよ。みんなを代表して言う。ありがとう。」

 

ここまで読んでいただき誠にありがとうございました。

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