Musical
「本当かい?体調は大丈夫かい。」
一希の申し出に、レオ市長は嬉しさと心配さを混ぜ合わせた表情で尋ねる。大きな戦いからの解放と、休息を経てやる気に満ちている一希は、珍しく自信のある表情で答えた。
「ええ、俺に力添えできることがあれば、遠慮なく!」
「そうか!」
「ええ!」
「じゃあ、明日のお昼、本当は今日やる予定だった劇を行おうじゃないか!!」
スケジュール容赦ないな。彼の予測しなかった頼み事をされた一希が次の言葉を継ぐ前に市長は続けた。
「これね、うちの劇団員の提案なんだ。落ち込んでいる子供たちに、笑顔をあげようって!」
そこまで言うと市長は早速立ち上がり、扉に向かう。途中振り返り、彼に手を振った。
「じゃあみんなに声をかけてくるね!」
パタン、と音がして扉が閉まると、一希は机の上に腕を組んで顔を伏せた。
大きなため息とともに考えが頭をめぐりだす。断ることもできたはずだ。もう数日間だけでも猶予をもらうとか。「子供たち」という言葉を出されたから断れなかったのだろうか。いや、ただのはっきり言えない自分の性格なだけだ。真面目なだけがとりえだと自分に言い聞かせてきたツケに似たものだろうか...いや真面目が悪いワケじゃないだろう。いつかきっとこのままじゃこれ以上の苦労をするぞ...なぜ一言言えないのだろうか。
堂々巡りの思考を断ち切るように、彼を再び疲労が睡眠へと誘ってゆく。
次にふと彼が目を開けると、淡い光に包まれているのが目に入った。もう翌日だ。あの戦いの終わりの朝から丸一日が経ってしまったのだ。自分が何もできていないことにわずかに失望しながら、ゆっくりと彼は椅子から立ち上がった。その時、彼の視界に何やら白いものが入り込み、自分の上に毛布が掛けられていたのがわかった。礼を言おうとしても、部屋の中には人がいなかった。彼は毛布を丁寧に畳み、部屋に置いた。
彼は扉を開け、廊下を見渡したが、宿の静けさに彼は今が早い時間であることを知るに留まった。視線を送る人もないためか、大きな欠伸をしながら、彼はそっと部屋の扉を閉める。昨日ぐっすりと休んだせいか、欠伸の割にはあまり眠くなく、彼は、演劇の練習に取り掛かることにした。台本をぱらぱらとめくり、台詞を目で追う。ふと、毛布に書いてある文字に目線が飛ぶ。隣の部屋番号、シンの部屋だ。
「一希さん、起きてますか。」
朝食の時間に近くなると、ノックの音に続いて丁寧な口調の低い声が聞こえた。シンの声だ。一希は扉を開けると彼に照れ臭そうな笑顔を見せた。
「起きてるぜ。すまない、うるさかったかな。」
「いえ、全く問題ないですよ。そろそろ朝食だそうです。」
私も練習しなきゃな、と小さくつぶやくシンに彼は毛布を見せた。
「もしかして、これかけてくれたの?」
「そうです。市長に明日の公演予定を告げられ、一緒にあなたの部屋に行った際に、あまりぐっすり眠られていたので、カゼを引かれるといけないかな、と。しかし、よくわかりましたね...」
「まじか。せっかく来てくれたのに悪いな...部屋番号、書いてあるぜ、ほらここ。」
「ほんとだ。」
「意外と見逃すよな、こういうのって。」
「そうなんですよね...」
二人の話が世間話に移り変わってきたとき、朝食を告げる時計が鳴った。二人ははっとして食堂へ足を向けた。
マーたちと合流し食事は和やかに終わり、その後のリハーサルもうまくいったはずだ。なら、俺はなんでこんなに緊張しているのだろう。昼下がり、市の中央広場にある舞台。舞台袖にて、演劇に似合う派手な化粧が施された彼は、そんなことを思い出しては精神を落ちつけようとしていた。観客の前で淀みなく言葉を発する市長がもう一声上げれば、もう自分の出番は始まってしまうのだ。深呼吸して覚悟を決めた。
「やるぞ、俺はたぶん勇者なんだから、できるはずだ。」
「それでは、始まります!」
その言葉とともに市長は一瞬にして消え、辺りは魔法の光に包まれた。あたりから一斉に音楽が鳴りだす。彼が表舞台へと躍り出ると、喝采と視線が彼へと注がれる。その期待に満ちた視線に刺され、一瞬緊張で動きが止まるも、彼はすぐに台詞を紡ぎ出した。
ここまで読んで頂き誠にありがとうございました。




