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Hope of Fantoccini  作者: 蒟蒻
His Setting Off
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Magic

 元の宿屋に戻った一希への最初の報酬は、宿へ避難している人々の安心した表情だった。人質になっていた子供も自らの足で母親の元へ戻ってゆく。人々の安堵を見届けると、戦いの疲れに負けベットへ吸い込まれたのだった。

 考えてみたら、自分はシンに抱えられて戻ってきたのだ、子供は自分で歩けるはずだ。疲れたとはいえ、けっこう恥ずかしい姿を見せてしまったかな。などと彼は一人、布団の中で体裁について考えながら彼は深い眠りに落ちてゆく。 


 次に彼の目の中に光が飛び込んできた時、二人の女性の顔も同時に彼の瞳に映された。彼がマーとチコが自分を覗き込んでいるのを理解するまで、彼の意識がもう少しはっきりするのを待つ必要があった。

「おはよ!一希、気分はどう?」

 まだぼんやりとしている彼にマーは聞き取りやすいよう、ゆっくりとした口調で声をかける。

「すごーく眠いことは除いて、気分はいい。」

「治癒魔法は効いてるみたいね。もう少し寝てる?」

「いや、いい。他の様子はどうだ?」

「あなたが一番ぐっすりよ、もう夜だもの。」

 窓の外を彼女は指さす、そこには闇夜と月が居た。窓際の籠の中で草を貪る蝸牛の殻に月がキラキラと反射する。昼間が飛ばされて処理が追い付かず呆然と外を眺める彼にチコが説明を加えた。

「一希さんのことを心配された市長さんが、治癒魔法を使える方をこちらへ連れてきてくださったのです。ちょっと眠くなる効果もあるんですけどね。それで一希さんは、すごく眠いのだと思います。他の方手当を受けましたが、わりかし元気ですよ。避難されていた方々は、もう市の再建に動き出していましたよ。」

「よかった...ありがとう。」

 彼は段々と意識がはっきりとしてきて、言葉をすべて理解してしまうと、安堵のため息を吐く。それから、緊張がほぐれたのか大きな欠伸をした。一緒に腑抜けた声が出てしまい、顔を赤らめる彼にマーはにやりと笑って言った。

「すっかり良くなったようね。良くなったら市長さんが話したいて言ってたんだけど、大丈夫かしら?」

 こくり、と彼は頷く。

「オッケー!なら市長さんに声をかけてくるわね。」

 マーは言葉の口に手を当てて欠伸をしてから答えた。窓際の籠を手に取り、紐を肩にかけると扉を開けて彼のほうを振り返る。

「ごめんね、私ももう寝ちゃうかもだから、来るのは市長さんだけかも、お休み!」

「ああ、マーも戦ってたのに、世話かけちゃってごめんな。」

「いーのよ!気にしないの!」

 彼女は音を響かせないようそっと扉を閉めた。後に残されたチコはベットからゆっくりと立ち上がる一希のほうを見つめながら外に聞こえないように言う。

「マーさん、凄く心配されていたんですよ。私がここに来たときはもういらっしゃって、その時はシンさんとも一緒だったのですが、彼が市の手伝いに戻っても、彼女は一希さんの様子を心配されてこちらに残ったのです。」

「なんか申し訳ないな、おっと」

 一希がよろけると、チコは彼を支えた。礼を言った彼が部屋の丸テーブルに据えられた椅子に腰を下ろすのを手伝うと、彼女は反対の椅子に座って上着のポケットに手を入れた。

「お互いのことを思いやられて、お二人ともお優しいのですね。」

 寂しげな表情と声の彼女がポケットから手を出そうとした瞬間、扉が開いて市長の舞台向けの声が部屋に響く。

「一希くん!目が覚めたんだね、よかった!」

 市長とチコの目が合うと、彼女はすぐにポケットから手を出すと、ぺこり、と頭を下げて彼らに挨拶すると足早に去っていった。

「すみません。私もそろそろ失礼します!」


「私に気を使ってくれなくて構わないのに...悪いことをしちゃったかな。」

 そう呟いて、市長はチコの去った後の椅子に座ると、一希のほうを見た。

「本当に君には迷惑かけたね。詫びと礼を言わせてくれ、本当に申し訳ない、そしてありがとう。」

「大丈夫です、それに勝ったのは俺だけの力じゃありません。」

「もっと誇るべきだよ、みんなを結びつけたのは君さ。市はだいぶやられてしまったけど、みんな君たちの戦いぶりを知って、より再建に力が入っているんだ。中央広場はひどいけど、明日の朝には良くなるはずさ。あそこはこの市の歴史の生まれるところだからね。」

 一希は話を聞いていて、彼らの底力に感心するばかりだった。今朝まだ戦っていた場所なのに。彼は居ても立っても居られなくなり、思わず言った。

「何かできることはありませんか。」


 一希たちから逃げるように部屋から出てきたチコは宿の裏庭で、ポケットから小さな封筒を取り出した。封筒には一希の名前が書かれており、固く封がされている。彼女は小さくため息をつき、それを元へ戻し、誰にも聞こえないように呟く。

「次こそ、うまくやらなきゃ。」

 黒髪が月の光を受け艶やかに輝いていた。


ここまで読んで頂き誠にありがとうございました。

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