Dawning 2
もはや味方のいなくなった背後を見て、悪魔は露骨に顔をゆがませた。長い銀の髪をかき上げ、槍を構える。彼女が見渡せば、周りは敵ばかりだ。
「本当にここまでやるなんてね。」
そして一希たちをきっ、と睨みつけた。槍を振るうのに合わせ、旋風が巻き起こる。悪魔はそれらの間を縫うように間合いを詰めた。一度子供を守るシンのほうに向かって攻撃する姿勢を向けたが、直前でその攻撃の矛先をぺッタ夫人へと向けた。不意を突かれた彼女は敵が放つ魔力の球を喰らった。
直撃した夫人は、大きく体制を崩す。レオ市長がそれを支えるも、長時間戦っている彼らの顔には、もはや体力の限界が色濃く見えていた。そこへ、市内の至るところに居た小さな花の魔物たちがわらわらと群れて、応援に来たかのように広場に現れた。
「危ないわ!」
サラは二人を守るように、炎を放つ。シンも自身が守っている子供を守りながら、このいわば大量の敵たちを追い払うので精一杯だった。だが、彼らのおかげで一希とマーは、悪魔と戦うことができた。空中で魔力を貯めている悪魔を見上げ、一希は声を上げた。
「マー、乗せてくれ!」
「ええ!」
彼の前に、ふわりとマーの得物である木槌が現れる。彼女の魔法で、意のままに動く木槌だ。先ほどはこれを踏み台にしたが、今度は足場にするという寸法だった。彼がそこへ上ると、空中へと木槌が舞い上がる。
「邪魔な連中ね...」
悪魔はちらりと横目で迫りくる勇者を見ると槍を手に取った。接近されるのは厄介なので、距離をとろうとするも、彼らは引くことなくこちらへの間合いを詰めてくる。振り下ろされる刃を悪魔は槍で受け止める。重い金属と金属がぶつかり、鈍い音が辺りに響き渡る。
鍔迫り合いと、ぶつかり合いが何度も続く。一希にも悪魔にも疲弊が見えてくるが、彼は決してそれを見せなかった。負けるのは勿論嫌だし、下を見れば仲間がいる。そのためにも彼は体力の限界を意思だけで乗り越えていた。片手で槍を扱いながら悪魔は、反対の手で魔法を放つ準備をしていた。小さな魔法陣が彼女の手の上に現れる。しかし、片手で武器を扱っていた事実が仇となり、彼女の隙をついて、一希は彼女の手から武器を叩き落とした。
槍が悪魔の手を離れ、地面へと落ちる重い音がした。魔法陣から激しい風を放ったあと、身を翻し急降下し、それを回収しようと彼女は一瞬だけ彼に背を向けた。その間隙を見逃すことなく、一希は足を踏み込み彼女を切った。足場から彼は一歩出たので、空中で剣を振るう形になった。風の魔法を受けた彼は、頬にはっきりを流れる斜めに一本を傷をつけていた。足場も魔法を受けて砕けていた。
彼女の両翼の付け根の間を切りつけながら彼は落下する。彼は、地上に落ちる前に同じ箇所にさらに深いもう一撃を加えた。彼女は背中から、一希は頬から、赤い戦いの痕跡を流しながら二人は地上に落ちる。ぱらぱらと木片が彼らの周りに落ちてゆく。悪魔は膝をついて着地するも、一希はそのまま倒れこんだ。
悪魔は槍を取り、再び攻撃の姿勢に映るが、そのまま崩れ落ちた。花びらのカーペットの中に、銀の髪を持った美しい遺体が残される。彼女の下敷きになった花びらは深紅に染まった。やがて美しい体躯は虚空に消えてゆき、銀色の角だけが紅の中に残っていた。
「一希くん!」
マーが一希の元へ駆け寄る。遅れてシンたちもやってきた。彼は気を失っていた。周りで小さな敵たちが一斉に逃げ出すのが見える。逃げ遅れた何輪かがサラの炎に燃やされる。自身の武器を失い、攻撃できないことを悔やみながらマーはリーダーと統率を失った花たちを眺めていた。
「勝てたんだよな...」
「そうよ。」
シンに抱きかかえられ、治療へ向かう途中に彼は目を覚ました。マーは一希の顔を覗き込んで笑う。彼には仲間の笑顔と、朝日が同じだけ眩しかった。
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