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Hope of Fantoccini  作者: 蒟蒻
His Setting Off
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Dispel

 一希は恐る恐る目を開き、戦況を確かめた。魔物は歯を痛めたらしく、惨めに逃げ去ってゆく。彼の構えた剣は飛びかかってきた魔物から彼を守ったのだった。一方ではマーが魔物をほとんど倒していた。残りの魔物もそれらを知って蜘蛛の子散らすように逃げていく。マーは木槌を下ろし、一希に声をかけた。

「やっと追い払えましたね。これで彼らは暫く来ないでしょう。協力ありがとうございます」

「こちらこそありがとう。俺、何も出来なくて、すみません、実は俺は戦いの経験が全然無くて」

「そんなことないです。先程の奇襲に対する対応、なかなかのものでしたよ!経験が無くてこれならとても凄いです!流石、勇者様」

 そこまで言うと彼女ははっとしたように口に手を当てた。

「でないのですよね、すみません。えっと、すみません、なんて呼んだらいいでしょうか?」

「笹村一希です。好きに呼んでください」

「では、一希さん。改めてよろしくお願いいたします。」

 マーはにこりと笑い深々とお辞儀をした。一希もつられて深々としたお辞儀を返す。

「ふふっ」

マーは微笑した。

「すみません。なんだか不思議な感じがしてしまって。はじめてじゃないのに、はじめてって」

 一希も微笑み返した。緊張の糸が解れたのだろう。異世界なのにまるで現代のようなお辞儀のやり取りはとても穏やかで不思議なものだった。

 お互いの笑顔が空気を和らげ、暫くの間とても柔らかな空気が続いた。マーは辺りを見回すと、輝く欠片がいくつか落ちているのに気がついた。一希も欠片をよくみると狼の牙のような形をしていることに気がついた。先程の戦闘で叩き折ったのだろうか。もし折れたのが自分の歯なら、かなり痛そうであると、一希はぼんやりと考えながら牙を眺めていた。

「見てください。戦利品ですよ。」

 彼女は牙をひとつ拾って一希に見せる。彼女があまりにも嬉しげにそれを見せるので、一希は不思議に思った。勿論魔物の退治できたのは嬉しかったが、彼女の喜びはまた別次元のものに感じたのだった。

「狼の牙、ですよね?」

 一希の疑問にマーは咳払いして答えた。

「そういえば戦闘の経験があまり無いのでしたね。説明しますね。えっと、私たちが利用している道具のうち魔物が落とす戦利品を使うものがありますよね。それは、このように戦ってして得るのですよ。加工されて沢山のものになります。」

 一希は興味深そうに話を聞いた。魔物とのいる世界において、戦利品を生活に活かす仕組みが確立されているのだ。やはりファンタジー世界なだけある。

 しかし、落ち着いてきた今、転生なんて自分は良くできた夢を見ているのではないか、と考えはじめてもいた。細かく設定された夢、という二つの若干反する考えに頭を混乱させられながらも彼は頷いた。

「なるほど」

「それでこれらは魔物討伐で生計を立てる人にとって依頼を達成した証にもなるのです」

 彼は相槌を打った。同時にマーの背後の茂みに仄かな光を見かけた。その光は仄かだが確かに鋭く、彼の注目はそっちへ引き寄せられた。

「さらに、これは魔力を持ってるためある程度の需要があり、売って旅の足にもできるのです。そう、売れるのです‼」

 彼女は親指を立てて言った。喜びの理由は売れることだった。行商であるマーにとって強調すべき一番の魅力はそこだった。しかし、一希は既に背後の光に夢中だった。彼は光が狼の魔物の残党であることに気がついた。マーは彼の様子の変化を感じ、訝しげに背後を振り向こうとした。

 その瞬間、狼の魔物は牙を向いて躍り出る。魔物はマーの喉笛を狙っていた。一希は言葉より早く彼女を突き飛ばした。狙いを失った狼の魔物は一希の腕に噛みついた。

 狼の魔物が噛みついた腕。その牙がねじ込まれたところから血がだらりと流れ出す。それを一希は驚くほど冷静に見ていた。ああ、実に痛い。やっぱり夢じゃないんだ、と。

 一希には、突き飛ばされたマーの悲鳴が遠くに聞こえた。ほんの少しだけして、落ち着きを取り戻した彼女が得物を使い狼を彼から引き剥がし、乱暴に倒したことさえも。

お読になって頂きありがとうございました。

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