Flower 12
「君、卑怯だと思わないのか!」
レオ市長は声を上げるが、悪魔の女性は先ほどと同じように髪の先をくるくると指で巻くだけだった。50cm弱ほどの花の魔物によって人質とされた子供は広場の入り口にいる。シンは魔力の玉を投げるが、この魔物は子供を蔓の先に抱えたままひょい、と身をかわしてしまう。
「別にィ、だってそもそも複数で襲ってくるほうが卑怯でしょ。武器を捨てなさい。勇者さん達。」
一希の背後から、重い何かが落ちる音が聞こえる。それが、地にぶつかる音は花びらの床に吸収されて聞こえない。恐らく、マーのいる場所だ。夜の冷気が空気を否応なしに張り詰めさせる。彼は剣を背中へ回した。相手の要求は一時的に飲んでやるがすぐに得物を抜けるように。
「捨てなさい。この子がどうなってもいいなら別だけど。」
彼の思惑など見透かしている、と言わんばかりの表情を浮かべ、悪魔は彼に言った。
「わかったよ。」
彼は小さくうめき、敵との距離を測った後に剣を落とす。
「ま、魔法使いの連中だから武器が無くても油断できるじゃないけどね。」
悪魔は人間の三倍ほどもある巨大な魔物の緑の胴体を優しく撫でる。魔物は嬉しそうに低く声を上げた。一希たちにはわからない言葉だが、彼女は笑顔を浮かべ頷いていた。手に持ったままの槍の穂先と頭の銀の角が月光を反射する。巨大な敵は、蔓をほとんど一希に切り捨てられが、残った数本を足のように動かし自由に動き出した。
巨花が蔓を振り下ろしたのを皮切りに彼らの防戦が始まった。巨大な花と小さな花の魔物、それに悪魔、敵は三匹に増えた。焦る一希は仲間たちの動きに目を向けた。恐らく全員が人質を救出しようとはしているのだろうが、花がギリギリのところでターゲットを変え、器用に人間の進路を阻む。市長は光の魔法で盾を作りだし、強引に攻撃を切り抜けようとする。その彼の前に悪魔が槍を持って現れる。
「まず貴方から倒させてもらうわ。それ、しまいなさい。」
彼の手の先にある盾を指さし、指をすうっと動かし、人質のほうへ向ける。市長は眉を顰め、目を閉じた。盾が光の粒子となって宙へ消えてゆく。すぐに再び目を開け、粒子が消え終わらぬうちに突き付けられる敵の黒い槍を避けた。
「いいわ。すぐに倒しちゃったらつまらないし。特に貴方みたいな偉そうなやつはね。」
「卑怯者め。」
そして、やはり市長以外のほぼ全員を相手にしているとはいえ巨大な魔物の狙いと怒りは自らをここまで直接傷つけた一希に向いている。彼は拳を握った。その拳が異様に熱い。自分も卑怯な手段を取った魔物たちにこれほどの怒りを持っているのだろうか。彼はそう考えながら敵の飛ばす毒液を避けてゆく。
巨大な魔物から一番遠くにいたシンは彼らの目を縫って、敵は半壊した商店の中に駆け込んだ。彼と途中、彼と目のあったペッタ夫人は彼の思惑を察してか小さく頷く。この商店は祭の時にはよく使われる施設で、ここからだと広場中央舞台にいるどちらの敵からも死角になるとを彼は知っている。ここは彼の故郷だ。商店は円形の広場の円周に沿う形をしてて、円周の四分の一ほどは占めている。一番端まで行けば、かなり広場の入り口には近づく。彼は足音を消して走る。
窓から外を覗くと、夫人敵の注意を引いているのが見える。子供を捉えている魔物の近くにはサラがいる。よし、自分ならできる。彼は自身に言い聞かせるように頷いた。災害用の倉庫から脱出用の一番小さなマットを、取り出し、持ったまま階段を駆け上がる。屋上から戦況を一度に見渡すことができた。ここから降りれば人質をもつ魔物の背後に回れるはずだ。人が小さく見え、冷たい風が彼の顔を撫でる。そもそも自分が屋上から最初に足を滑らせなければこんなことには巻き込まれなかったはずで、自分も避難する一市民だったはずだ。一希が一緒にいなかったら、そもそも劇にすら参加しなかっただろう。だが、今こうして彼らと一緒に戦っているのは事実だ。彼は息を飲み、マットを地面に向かって投げ、そこに向かって飛び降りた。
なかなかこちらが倒れないので、二人の敵はだんだん苛立ってきた。特に大きい花は怒り心頭と見え、もはや一希ばかりを狙っていた。悪魔はそんな魔物を怒鳴りつけながら、槍で薙ぎ払った。大きな風が起こり、市長とサラを一度に飛ばす。マーは夫人に頼まれ、魔法ですぐに武器を手元へ引き寄せられるようにしていた。
そこへ大きな着地音がしたので、むろん全員の注意を引くことになった。すぐに状況を理解した悪魔は声を上げ、そちらへ飛び出した。
「しまった!」
シンは手の中にあった魔力の球を勢いよく人質をとった魔物へ投げつける。顔ともいえる花の部分に直撃しよろめく敵から子供を奪い取り、しっかりと抱えた。
ここまで読んで頂き誠にありがとうございました。




