Flower 9
練習を続ける劇団の雰囲気は、劇を神に捧げるという言い伝えも助けてか非常に高揚していた。この世界の神話や信仰をあまり知らない一希ですら、この雰囲気に飲まれていた。彼らは疲れも知らずリハーサルを終わらせると、荷物を片付けると市への帰路についたのであった。
斜めった赤い光が市街地に差し込み、人々の活気が炎として可視化されたように見える。市に戻ったばかりの一希は思わず目を細めた。彼らは本番までの休憩時間を各々過ごしていいとのレオ市長から言葉を受け、宿の自室へ向かった。宿の主に暫くしたら起こしてもらうよう頼み、そのままベットに飛び込むと、静かに寝息を立て始めた。いつもの妙な夢を見ることもなく、心地よい仮眠時間のはずだった。
「起きてください、大変です!」
しかし、彼の静寂な眠りはそんな言葉ですぐにかき消された。彼はまだ半分眠っているままの目を開けると、宿の主の不安と焦りに満ちた表情と対面した。彼は一希の顔をのぞき込んでいる。もしかして寝過ごしてしまったのかと思った彼は勢いよく跳ね起き、主人を驚かせた。
「悪い、起こしてくれてありがとうな。」
鞄を掴んで外を見ると、まだ外は赤に染まったままだった。もう少し暗くなってから起こしてもらったほうが嬉しかったが、ぜいたくは言えないか、と思う彼に主人は焦り声で伝えた。
「起こしてしまってすみません。市に魔物が入ってきまして...」
魔物、とうとう市に来たか。彼は居ても立っても居られなくなった。
「わかった。」
主人の言葉が終わらぬうちに、勇者は剣を持って部屋を飛び出した。自分が戦力になるか悩んだことすら忘れて。
宿屋のロビーには戦力を持たない人々が身を寄せている。苦し気な表情をして帳簿を眺める商人などもいるが、小さな子供は泣いていたり、はぐれた子供を心配している母親もいた。彼はそんな人々に声をかけて励ますシンを見つけ、声をかけた。
「なぁ、シン。外はどうなっているんだ?」
「魔物がいきなり地面から沸いてきた...いや咲いてきたのです。門を破ってなどではなく、下から生えてきたわけですから...市の中央にも、門の近くでも、お構いなしです。人も多いですから大混乱ですよ。」
「ありがとう。そりゃ大変だな、ちょっと俺も手伝ってくるよ。」
彼は剣を担いだ。ずっしりと重いが、持ち上がった。
「足、引っ張らないようにするさ、シンも気をつけてな。」
市にはそこらじゅうに花の魔物がうじゃうじゃしている。皆、根を足のようにと蔓を腕のように使って移動していた。一体一体はさほどの強さもなく、一希ですら容易に倒せるようなものだったが、いかんせん数が多い。彼が一息ついたところで、遠くからマーとサラがやってくるのが見えた。
「一希くん、大丈夫?」
「ああ、こっちは大丈夫。そっちは?」
「大丈夫よ。彼女、サラのおかげよ、炎の魔法が使えて、それがあいつらに効くみたいで、勝手に逃げるか燃えていくわ。」
言葉が終わらないうちに、地面からまた一輪、花が飛び出し、サラが杖を振ると火の玉が飛び出し、花は燃えた。
「すごいな...」
「ありがとう、でもこれだけの量だと、おそらく親分を叩く必要があると思うの」
彼女は杖を背負い、市の地図を開きながら答えた。市と外をつなぐ一つの門を指さし、彼らがいる宿の近くの広場まで指を滑らせる。遠くで兵士の怒号が聞こえる。
「私たちはとりあえず中央の広場に向かっているわ。さっき、中央から光の柱が天に向かって伸びて消えたのをマーが見つけたの。あそこは何かあるに違いないわ。」
「よかったら一希も来てくれないかしら、戦力が多いほうが良いし。」
マーは地図から顔を上げて一希を見る。彼は頷き、三人は市の中央へ駆け出した。道中はさっきよりも明らかに魔物の数が増えている。彼は小さな花の魔物を叩き切りながら胸騒ぎを感じていた。
広場に近づくにつれ、地面が紅白の花びらで埋まっていく。まだら模様のカーペットが敷かれているようだった。踏みつけると、普通の花びらと石のような硬さがある。彼らは足元に気を付けながら歩みを進めた。広場に到着するとその紅白の派手な化粧に対し、立ち並ぶ店には人ひとりいなかった。いくつかは破壊され、カラフルな布飾りも壊れている。広場の外周の花壇には花の魔物が腰を下ろしているほどだった。この小さな花たちは人間のことをもう忘れて雑談に花を咲かせている。
その中央にある舞台に、巨大な朝顔の魔物がいた。一希の3倍近くありそうな大きさをし、人間の胴体ほどの太さの蔓を器用に操っている。花の中央には大きな一つの目玉がぎょろぎょろと動いていた。すぐにその視線は一希たちを見据えて止まる。
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