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Hope of Fantoccini  作者: 蒟蒻
His Setting Off
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Flower 3

 2匹の魔物が森へ消えてゆくのを見守り、一希たちの元へ戻ってきたシン。そこへちょうど守衛たちがやってくる。行商人の一人の男が彼らに手を振り、無事を知らせていた。

「来てくださってありがとうございます。この方たちが助けてくださったので、大丈夫でした。」

 男が一希たち三人を紹介する。守衛が彼らのほうを向き、驚いたように目を開いて言った。

「...祭の主役に選ばれた勇者さまたちではありませんか!本当にありがとうございます。」

「いや、俺は何もできてないですよ...みんなのおかげです。」

 照れ隠しに両手を振って否定する一希。そんな彼の肩を叩いてシンは言った。

「そんな、否定しなくていいじゃないですか。皆さんが無事だったんですし。」

 大きな負傷者が出なかったことが大きな手助けとなり緊張がほぐれたのか、一行は和やかな雰囲気で帰路に着いた。帰路といっても市はすぐ近くで、ここを出たときと同じ門番が心配そうにこちらを見ていた。いつの間にかかなり日が沈み、月が少しづつ主張を始めている。市に戻るとレオ市長が彼らを出迎え、無事を喜び、自ら助けに迎えなかったことを詫びた。となりにはサラもいる。彼女はマーの手を取った。

「大丈夫だった?凄く心配したのよ...守衛さんに危ないから待っててって言われちゃって...」

 マーは一瞬面喰ってた表情をしたが、すぐに彼女は麻袋を持ち上げ、歯を見せて笑った。

「ごめんね、でもあの腹立つ魔物どもをぶちのめして戦利品も得られたんだから!さ、早く戻りましょ。店長さんも心配させちゃってるものね。」

 彼女は麻袋から戦利品の花弁でできたライオンのたてがみを取り出しサラに見せた。白い花弁と彼女の歯に係る最後の赤い太陽の光が血のような色をして見えたので、サラは一瞬ぎょっとして目を丸くしたが、すぐにそれの正体に気づき、その戦利品がマニアに高く売れることを直感したようだった。

「ちゃっかりしてるわね、マーったら」

 表情の半分を心配と残りを感心として笑顔でサラも返すと、マーは笑顔を貼り付けたまま戦利品を麻袋に戻した。一方では行商人たちも市長に報告をし、営業についても話し込んでいる。流石、ただでは転ばない人たちだ、一希はマーをはじめ商人たちを見てそう思った。シンは守衛ととりとめのない会話をしているようだ。

「じゃ、私たち店に戻ってるから!」

 マーは手を振り、一希に声をかけて店へ向かっていくようだった。サラと商品を納入しに来たこの行商人たちと一緒のようだ。彼らもまた大量の荷物を運んでおり、これから何か所も回るつもりらしい。舞台に飾り付けるのだろうか、大きくカラフルな色合いの花を持っている商人もいる。戦いの後だというのに...気丈な人々だ。一希は少しは見習わないと、と感心しながら彼らに手を振った。


 彼らは練習場である市議会に市長と一緒に戻っていた。今日はもう無理して練習することもない、むしろ休んでくれ、という市長の言葉に甘え、台本を借りて一希とシンは宿に戻る準備をしていた。自分たちが練習を抜けて心配させてしまったことへの詫びも兼ね、少し個人練習をするつもりだったのだ。

 そのため宿に戻って彼らは食事を兼ねた休息の後に練習を始めた。一希は宿の庭を借り将軍の役をしていた女性から教えてもらった剣術の型とそれらの流れを習得しようとしていた。型と言っても十分実戦に通用するものらしく、それだけの練習を要する。演劇のことも心配だが、今日のマーの様子がいつもと違うようで気になっていた。もうすぐ高みに至るであろう月の明りが雲に隠れ、彼の部屋の窓のすぐ下にある花壇の花の色がはっきりと見えなくなっている。始めたころは月がもう少し低かったはずだ...彼は一旦手を止め額の汗を拭う。本格的に闇夜に染まる前に彼は室内へ撤退した。室内にはシンがおり、彼も練習をしているようだった。台本を確認し、テーブルに置いたところで彼は一希に気が付き、声をかけた。

「やぁ、お疲れ様です。調子はいかがですか?」

「やっぱり難しいねぇ。当たり前といえば当たり前だけどもさ。」

「ですよねぇ。」

 二人は苦笑いをした。シンはため息をついて再び台本を手に取る。テーブルには空のコップが乗っている。

「良かったら、私の演技見てくださいませんか?」

 一希は自分で良いなら、と答えた。アドバイスが上手にできるかわからないが、他人に見せるのではかなり違うし、練習になるだろう。そういう点ではどこの世界も大きく変わらないようだ。

「お願いします。何度やっても、うまく行かなくて...」

 そういって彼は演技を始めた。何回もやり直しをさせられた台詞だった。勇敢に敵に挑む、と言えば聞こえが良いが、実際のところ啖呵を切るシーンだ。おい、ワルモノどもめ、俺は変わったんだ!昔のような情けない人間じゃないんだ!といった調子である。一希はそもそもこの台詞自体が彼に合わない、と感じた。一希のなかで彼はもっと繊細で上品なイメージだったからだ。

ここまで読んでいただき誠にありがとうございました。

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