Confuse
あたりはすっかり暗くなり、焚き火は一定の知能を持つ生物の存在を示すものとなった。遠くに狼の吠え声が聞こえる。
一希はとりあえず状況をまとめようとした。俺は死んで、転生した。さらにこの世界は所謂ファンタジーの世界で、魔法や魔物が実在するのだ。しかも勇者に転生した。しかし大怪我を負って倒れていたらしく女性に介抱してもらっている。彼は思わず言葉を漏らした。
「やべ、めっちゃ混乱してきた」
「気絶されるほどの大怪我をしたのだから仕方ありません。いらっしゃった付近に崖があったので、あそこから転落されたのでは?」
そういって女は遠くに見える高い崖を指差した。崖は月夜に照らされ怪しく輝いていた。彼女は相変わらず状況が飲めない一希を気遣った。
「気分が優れてきたなら近くの町で休まれたほうが良いのではないでしょうか。この辺は狼の魔物が沢山いますから」
狼の遥か遠くの遠吠えが聞こえる。
「ありがとう。でも、そういう問題だけじゃないんだ。」
「どういうことでしょうか?」
当然、彼女は一希の言うことに疑問を提唱した。彼の脳内では事実を話すか否かの派閥争いが起きていた。
「ええっと、俺は、勇者じゃないんです。戦い方もわからないし、貴方を助けた記憶もない」
争いは和解し、彼はかいつまんだ事実のみを話すことにした。彼女は狐につままれたような顔をしている。
「うーん、貴方の言うことは信じたいけど信じられないわ。私、貴方が勇者レホ様じゃないなんて。じゃあ、まって、私の名前も知らないってこと?」
「すみません、知らないです。レホっていう名前も」
「なるほど。私は行商のマーです。聞き覚えだけでも、ありませんか。イバショウの町の者です」
「すみません。町の名前もさっぱり」
「そうなの、わかったわ。まって、動かないで」
一希を助けた女、マーは一希の答えを聴いた。連続質問攻撃が終わると、とたんにマーの目が光を増した。彼女が魔法を使うときの特徴であった。荷物の山から巨大な木槌が飛び出した。どう見ても工作用には見えない。武器だ。
「えっ、俺はただ...」
勇者が狂った、と思われたのか。一希は突如向けられた殺意と木槌に困惑した。
「動かないで‼」
木槌が降り下ろされる。一希は固く目を閉じた。このような形とはいえせっかく新しい命を得たのに、もう死んでしまうのか...
しかし、一希は少しも痛みを感じなかった。彼が恐る恐る目を開くと、木槌は一希の頭の隣を浮いていた。そればかりか木槌の下、ちょうど彼の隣で狼が気絶している。
「驚かせちゃってごめんなさい」
マーは魔法で木槌を下ろすとに謝罪した。しかし、すぐにまた木槌を操りはじめ、彼に近寄り小声で彼に囁いた。
「この辺は沢山魔物がいるんです。今夜は狼の鳴き声が少ないので油断していました。すみません」
一希は呆然と倒れる狼を眺める。こちらは森の開けたところだった、木と茂みが作り出す闇の方へと目を向ければ沢山の瞳がこちらを覗きこんでいる。マーは彼にもう一度耳打ちした。
「突然こんなことを言って本当にごめんなさい。貴方の力を貸してください。剣は近くにありますから」
マーが木槌を構えると同時に狼の魔物の群れが躍り出た。一希は慌てて近くにあった剣を構えた。
マーの物を意のままに浮かし、動かす魔法をは見事なものだった。まるでピアノを引くように巨大な木槌を操り、次々に狼の魔物を殴っていく。魔物らは敵討ちにと次々も彼女へ向かうが、果たせずに負けていった。戦闘経験の無い一希は剣を構え、ただ怯えていた。
一匹の賢い魔物は一希に目をつけ襲いかかった。彼は必死で剣で守りの構えをした。守りの構えといっても二次元キャラクターが書かれたアニメや三次元の人間の演じる映画の見よう見まねだが。しかし、自然と身体が動いたのもまた不思議な事実であった。
闇夜に戦いのBGMの如く大きな金属音が響く。
本小説を読んでくださり誠にありがとうございます。
この小説は筆者の予定の関係から不定期投稿の予定ですが、週に一度以上の投稿を目標に努力していこうと思います。