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Hope of Fantoccini  作者: 蒟蒻
His Setting Off
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Affection

 愛とは不思議なものである。親が子を慈しみ、子が親を慕うのも愛だろう。お互いが思う、思われるなら、友人、師弟、主従...あらゆる関係に様々な形をして横たわっているものである。ただ、この中でも恋心という形の輩は一層激烈な形で、生きとし生ける者たちの間を跋扈しているのである。故に、この種類の愛にしてやられたシンは、しばらくその心情の変化についていくので精いっぱいであった。彼が一旦事実を受け入れたと思ったときにはすでにステージに彼女の姿は無く、この後にも多くの美しい出会いがあったはずなのだが、彼の心にはいつも彼女の姿が焼き付いて他の感情が入ってくるのを阻害していた。

 内に激しい心を見せる静かなる若者の傍ら、一希は舞台の美しいパフォーマンに目を奪われていた。楽器、武術、舞い、料理、等々どれも一流のものである。しかし彼の気持ちを一番奪うことに成功していたのは魔法のパフォーマンである。この世界ではそこまで珍しいことでもないのだろうが、スタートラインの異なる彼にとって、いまだに激しい新鮮さを感じることも少なくなかった。広場の周りではマーとサラが猛烈な利益を上げ、祭りはもはやピークと言っても良いほどに熱を帯びている。

 これでまだ折り返し地点に到達すらしていないことを人々は忘れ、夜遅くまで明りを灯す。今日のプログラムの最後に表彰台に立った朝顔のかざりをつけた女性は、その妖艶な輝きを放つ長い灰色の髪を滑らかに空に舞わせながら踊るエキシビションを披露している。時折マジックか魔法か、何もないところから白い花びらを出し、客席に向かって投げる。客たちは風に花に弄ばれながら贈り物に触れようとする。その内一枚はあまりに風に激しくあおられ、町はずれでサラが一息ついて月を眺めていたところに邪魔をした。月はその通行人に一瞬だけ隠された。




 木々の間から、月が顔を出す。切り株の上でバイオリンを弾いていた騎士は月を眺め舌を打った。市から少し離れた場所にある森は木たちが激しく喧嘩している。熊に近い姿をした魔物、蝶々、森に住まう生き物のほとんどが眠るか、この曲を聞いていた。しかし、突然彼はその整った顔の上に激情を乗せ、一層激しくバイオリンを弾き鳴らす。風に青い髪が揺れば、切り株の根元で首を垂れていた黄色い朝顔が楽器の音に起こされたように顔を上げる。花は厳かに月に向かって顔を開く。蔓を伸ばして遠くから風に運ばれてきた白い花びらを掴むと、大きな顔の中心へ当てる。しばらくすると花びらはすっかり朝顔になじんでしまい、まるで瞼のようになった。

 やがて月が隠れると彼の走らせる戦慄と奏でる旋律は少しづつ落ち着いてくる。夜を我が物にする生き物を除いて殆どの生き物たちが瞳を閉じるとき、黄色い朝顔は穏やかに瞼を開いた。蔓で地面を押し、ゆっくりと立ち上がる。根を足のように器用に運びながら切り株の上に乗る。騎士はバイオリンを穏やかに引きながら話しかける。

「久しぶりだな。どうだ、本調子とは言えないか、まぁどちらでもいい、そのために俺が来たのだ。我々はまだ勝利を得ていない。我々は神の使いを復元させる必要がある。魔王様はお前をずいぶんと信用されているようだ。俺はあすこが戦地になる前にここを立つが...それまでは...色々と仕事を頼まれているのでな。」

 動く朝顔は返事の代わりに、根の足がガサガサと音を立てた。再び月が顔を出すとバイオリンの音は再び激しくなる。どこにでもあるような大きなの朝顔がもう一度月に顔を向けると、かの花の体が一回り大きくなる。月が隠れる。音は穏やかになり、朝顔の魔物は首を再び垂れる。




 一希の故郷では、月の覇権は科学に奪われた。この地でも魔法は猛威を振るうが、空の覇権を奪還する役はあくまでも太陽に委ねていた。熱狂は時に人々を錯乱させ恐怖を緩ませる効果があるが、人々はそれでも日差しの下に生きていた。ヒトという動物はほとんどの場合太陽のしもべだ。それゆえなのだろうか、夜更かしすると人は寝坊をする。

「二人とも!!遅刻するわよ!!」

 劇の主人公コンビは、マーという些か乱暴な救世主の声で目覚め、すっかり準備を済ませた彼女の激励を受けながら、身支度や朝食を済ませ、風を切るようにして宿を出た。


「す、すみません!!」

 二人はすっかり練習が始まっている一同に頭を下げた。指揮を執っていたレオ市長が彼らを出迎える。

「大丈夫!大丈夫!開始時間にはギリギリ間に合ってるんだし。毎年のことだからさ。伝統とはスケジュールがなかなか厳しいのをいつか改善すべきだと思っているし...」

 最後はほぼ独り言のようにつぶやき、安堵する二人の肩を優しく叩きながら、彼はウィンクして続けた。

「今日もみんなで君たちのサポートを全力でさせてもらうよ!その代わりといっちゃなんだけど、今日は昨日よりさらに、さらに、ハードだから頑張ろうね!」

ここまで読んでいただき誠にありがとうございました。

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